105 / 233
104:朱炎の舞~中編~
しおりを挟む会館の壇上には、セレスティアが角に立ち、挨拶を始めた。
「この度は急な事にもかかわらず、お集まりいただきありがとうございます。私は司会・進行を務めます、セレスティア・ローエングリンです。」
(ただ、お礼ってことで舞いを見せてもらうはずが、まさかこんな大事になるなんて・・・)
あの時_____
「うん!やっぱりイシュタルにも見せたいし、舞姫なんて見る機会も早々ないからね。どうせなら、大々的にイベントにしてしまおう!」
「ええっ?!」
と、ユージィンの鶴の一声で決まってしまった。
「あ、あの、まずは本人に、エメリーネさんに確認してからでないと・・・」
「はは、大丈夫だよ。言い方悪いけど、腕輪の恩人の頼みなんだよ?それに見る人が増えるだけでやることは変わらないんだし。」
セレスティアは(叔父様、鬼です。)と心の中で突っ込みを入れていた。
「で、でも、やっぱり。」
「ね、セレスティア?」
ユージィンは言うなり、セレスティアの両肩に手をかけ、説得しにかかっていた。
「ぶっちゃけ、竜騎士団は野郎ばっかりだ。それはわかってるよね?」
「はぁ、ま、まぁそうですね。でも今更のことじゃ・・・」
「そこでだ!!やはり団長としては皆の士気(モチベーション)が上がる何かをしてやりたいんだよ。」
「えーと、それはつまりエメリーネさんの舞いを見たら、皆の士気が上がるってことですかね?」
「ふふ、飲み込みの早い姪っ子で嬉しいよ。」
ユージィンは白々しい笑みをしていたが、結局、セレスティアとしては上官命令という事で、エメリーネの意思は関係なく急遽イベントになってしまったのが、真相であった。
本当にそんなことで、士気が上がるのかと思っていたが・・・
実際目の当たりにして、叔父ユージィンの言っていたことは、嘘ではなかったんだなとセレスティアは驚いた。この盛況振りをみれば、本当にモチベが上がっているように見えたからだ。(まぁ、恋愛5年しばりがあるから、たまには息抜きも必要なのかもしれないわね。)ここまで読んでいたとは、さすが団長だと思い、自分ももっと大局を見るように頑張らなければと心の中で拳を握っていたセレスティアであった。
「てか、さぁ?」
「何、ノアベルト?僕今微調整で忙しいんだけど?」
「だってよぉ!舞姫だぞ!どうせなら向かい合って見たいじゃねぇか!」
ノアベルトは愚痴っていた。セレスティアを初め、今期の新人が裏方の照明や音楽などを担当しているからだ。そう言うわけで、裏方のメンバーは舞台裏にいた。
「そぉ?僕は、ここはここで役得だと思っているけどね?」
テオは喋りながら目は照明の位置を確認していた。
「なんで、ハインツだけ無事だったんだ・・・」
「だって、人数的に4人で事足りたからでしょ?」
「だぁーーー!なんでお前はいつもそんなあっさりしてるんだ?!」
「煩いなぁ。だったらハインツと変わってもらえればよかったじゃん。」
「そ、それは、まぁそこまでするほどじゃないかなっと・・・」
ノアベルトは取り敢えず愚痴りたいだけで、そこまでは思っていなかったようだ。
「なら、男ならグチグチ言わないでやる!セレスティアを見てごらんよ。一人で司会やってんだから。」
ルッツに窘められ、ノアベルトもようやく落ち着いたようだ。
「わかったよ。」
「お前はまだいい方だ、俺は・・・」
ケヴィンは楽器を持っていた。音楽担当だからだが・・・
「!そうだった。ごめん。俺下らないことで愚痴ってた。」
ノアベルトは自分よりもケヴィンの方が大変なことを思い出し、素直に謝った。
「俺も、こんな人前でとはいっても、裏方だけど演奏する羽目になるとは思わなかったからな・・・」
「まぁ、あれだけの腕前だからな。人選としては妥当だと思うよ。」
ルッツは同情した眼差しを送りつつも、セレスティア人選は間違っていないと賛同していた。
「まぁ、家で昔からやらされていた事だったけど、それが性に合ってたものでな。」
実はケヴィンは素人とは思えないくらいの腕前を持つ、ヴァイオリンの奏者であった。
その事から、セレスティアから音楽担当を任命されてしまったのだ。ノアベルトとテオは照明、ルッツは幕引き担当である。ちなみに先にもあったように、ハインツは何も担当に当たらなかったので、他の竜騎士と同じように、会場にあたる広間で見物となった。だが、これはセレスティアなりの気遣いで、会場にいたほうがラーファイルとハンイツがお互い見えるだろうとの配慮からのモノなのだが、当然他の4名は知らない。
「そんだけ上手いのに、プロにはなりたいと思わなかったの?」
テオはケヴィンのヴァイオリンの腕前が素晴らしいことを知っていた。ケヴィンの飛竜ランカがヴァイオリンの音を気にいっていて、何度か竜の厩舎で引いていることを知っていたからだ。ちなみに言うと他の飛竜もケヴィンの引くヴァイオリンを気にいっている。
「いや、俺は趣味の範囲でしたいだけだからな。これで食べて行こうとは考えなかったな。それよりも竜騎士になりたかったから、まぁ、ここにいるわけだが・・・」
ケヴィンが珍しく、饒舌で語ったことに皆驚いたが、納得もしたのだ。
「そうだな。だから俺達竜騎士になったもんな。」
皆が揃ってニヤリと笑った瞬間、セレスティアの拡声器を使った声が聞こえてきた。
「それでは、お待たせしました。シェスティラン共和国より参られました、舞姫のエメリーネ・オルタさんの登場です。」
10
お気に入りに追加
208
あなたにおすすめの小説
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
婚約解消された私はお飾り王妃になりました。でも推しに癒されているので大丈夫です!
初瀬 叶
恋愛
王宮に呼ばれ、案内された部屋に入ると錚々たる顔ぶれに怯みそうになる。
そこには、国王陛下、側妃であるライラ妃、王太子殿下、私の父であるオーヴェル侯爵、そして、私の婚約者…いや、元婚約者であるジュネ公爵令息のセドリック・ジュネ様が私を待ち構えていた。
私の名前はクロエ。オーヴェル侯爵の長女としてこの世に生を受けた。現在20歳。
ちなみに私には前世の記憶がある。所謂、異世界転生というやつだ。
そんな私が婚約解消されました。で、なんでお飾りの王妃に?
でも、側で推しが私を癒してくれるそうです。なら大丈夫?!
※ 私の頭の中の異世界のお話です。史実に基づいたものではありません。
※設定もふんわり、ゆるゆるです。
※R15にしています。詳しい性描写はありませんが、匂わせる描写や直接的な単語を使用する予定です。
※2022.10.25 14話と16話と24話のクロエの名前、オーヴェルがオーウェンとなっておりましたので、訂正させて頂きました。読者の皆様に混乱を招いてしまったかと思います。申し訳ありません。
※2022.10.26 HOTランキング1位を獲得する事が出来ました。たくさんの方に読んでいただける事が、とても励みになっています。ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。
※2022.11.13 ジーク・ロイドの婚約者の名前をマイラからアリシエに変更させて頂きました。同じ名前が重複していた為です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる