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第二章 魔女の森編

第33話 翼を広げたグリフォンをかたどった紋章

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 王に仕えている騎士と言えば王立騎士団所属のはずで、精鋭も精鋭、Sランク冒険者から引き抜いたり、偉業を成し遂げた騎士を捕まえてきたりと、多かれ少なかれ名のある奴らが集まる場所のはずだ。

 王都周辺はこいつらのせいでダンジョンが大方攻略されており、宝の類いが存在せず、俺からしたら忌むべき存在以上の何物でもない。

 俺の宝を返せ。

 そんな王立騎士の一人だったと、この骸骨野郎は言う。


「世も末だな」

「どうせ嘘ですよ」


 と言うのが、俺とライラの感想。


「嘘じゃない! 嘘じゃないよ、ライラたん!」

「ライラたんって言わないでください! 気持ち悪い!」

「証拠! ほら証拠見せてあげるから! 太ももにドラゴンと戦ったときの古傷が……」

「服を脱ごうとしないでください! いや! やだぁ!」


 ライラは俺の背に顔を埋めるようにして顔を隠した。

 公にはしていないけれどライラは聖女で、聖母で、そんな彼女に下腹部を露出して見せようとしているこの男は天罰を食らうべきなんだろう。


「じゃあこれだ! これで信じてくれるはず!」


 彼はマントを引き上げて肩にある鎧の一部を見せた。
 そこには翼を広げたグリフォンをかたどった紋章――王家の紋章が描かれている。
 何でそっちを先に見せねえんだ。


「盗んだのか。最悪だな」

「違う! 正式に授与されたんだ! 王立騎士団、元第四部隊長、エゼキエル・サイフリッド。それが私の名だ」


 胸を張って言うけれどやっぱり嘘くさい。

 とはいえ、キシリアの話だとこのダンジョンには何人もの冒険者ダイバーやら探索者シーカーやらが挑戦したにも関わらず戻って来られていないはず。

 マップを見る限りではこの骸骨野郎、かなり深い場所まで進んでいるようだし、森の中でも迷わず進むし、罠の位置やら魔物の注意までしっかりと書いている。

 ただ者ではないのだろう。

 本物なんだろうか。


「もしお前が本当に過去に王立騎士団の人間だったとして、どうして今そんな格好でここにいる?」

「それは……」


 先を進む骸骨野郎は口ごもり、そしてぶんぶんと首を横に振ると、


「うるさいうるさい! 話すつもりはない! ほら! そろそろ最終地点だぞ!」


 そう言ってずんずん進んだ。





 彼が最終地点と言ったのはどうやら第二階層の奥にあるエリアボスのことらしい。

 エリアボスがいるってことは、ここも人工的なダンジョンなんだろう。

 骸骨野郎はそこで立ち止まると振り返り、


「よし、ここまで連れてきた。満足しただろ。帰るぞ」

「何言ってんだお前」

「ここから先は危険なんだ。と言うかここまでだって本当は危険だったんだぞ! 私が魔物・魔動人形避けを使っているから襲われなかっただけで」


 魔動人形避けなんてものがあるらしい。

 どおりで入り口の魔動人形に嫌われていたわけだ。


「それに君たちDランクだろう。門を通ったあと、魔動人形が言っていたのを聞いていたんだ。本当にこの先に行きたいというのであれば、滑稽以外の何物でもない」

「そうか。まあいい。ここまでどうも。俺たちは先に進む」

「何を言ってるんだ! ライラたんだけでも置いていけ! 私が責任を持って手を取り足を取り、スリスリとなで回して、森の中を案内してあげよう」

「嫌だって言ってるでしょ!」


 ライラが骸骨野郎を睨む。


「アタシは働かなきゃいけないんです! 借金があるんです! シオンさんと一緒に進みます」

「なんだって! このイケメン野郎に借金があるって言うのか! 騙されたんだな! 私が肩代わりしてあげよう! いくらだ!」

「金貨五百枚です」

「他を当たってくれ」

「諦めるの早すぎです!」


 ライラたちが遊んでいる間に俺はエリアボスの部屋にある扉に触れる。

 ぼすっと音を立てて空いた扉はゆっくりと開き、光を溢れさせる。

 骸骨野郎は「ぐぐぐ」と唸って、


「本当に行くつもりなんだな」

「当たり前だろ」

「君たちの無謀に付き合うつもりはないからな!」

「わかってる。帰っていいぞ。案内どうも」

 
 俺はライラと共に扉の向こうに足を進める。

 骸骨野郎は後ろを振り向いてダンジョンの出口に向けて歩き出した。

 が、
 扉が閉まるまさにその直前バタバタと駆けてきて身体を滑り込ませるようにしてエリアボスの部屋に入ってきた。


「くうぅ! 何をやっているんだ私は! だが、私は、ライラたんを見殺しにするわけにはいかない! この身を賭して、全力で守り抜いてあげよう! さあ! このヒーローの登場に感涙し、私にすがりつくんだ、ライラたん!」


 骸骨野郎は拳を突き上げてそう言った。

 防御魔法に守られたライラの前で。


「いえ結構です。シオンさんに守ってもらうので」


 白い目をして、ライラは言った。

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