22 / 52
第一章 ライラ・マリー編
第22話 アタシにはやるべきことがある1(ライラ視点)
しおりを挟む
シオン・スクリムジョーを追いかけて自らの尊敬する冒険者へ謝罪をしてもらおうとしたライラは、結局、予期しないほど危険で濃密な冒険を経て帰還した。
元の場所、元のギルドへ。
ただし全てが元通りだったわけではない。
第一に、シオンへのライラの心情が大きく変化した。
遺品を漁り、金儲けしか考えていないと思っていたのに、実際一緒に数日過ごすと、彼はなんだかんだ人を想い、理屈ではなく心で人を救うことがあった。
金儲けばかり考えているのはそのままだけれど。
戻ってきてから数日経った今でも彼の姿は見かける。
声をかけようとすると鼻を鳴らしてお前は向こうにいけという合図を出す。
俺と関わるとろくなことにならないだろ、と。
第二に、グウェンの存在があった。
彼女からママと呼ばれて懐かれているのをギルドの人間に見られてしまったし、それに街へはルフに乗って戻って来てしまった。
当然、話を聞きたいという冒険者が後を絶たない。
それに紹介しろという冒険者まで出てくる始末。
閉口すると同時に、きっとグウェン――グーちゃんはこんな気持ちを毎日味わっているのだろうなと考えてしまう。
今度会ったら頭を撫でてあげよう。
きっとそのうちこの騒動も収まって、借金も返済できて、元の生活に戻ることができるだろう。
依頼をうけ、魔石を提出し、ランクを維持しつつ次のランクを目指す。
ただ、それは絶対元の生活とは大きく違ったものになっている。
ライラはそう予感していた。
シオンについて行くと決めたあの時に、シオンから言われた言葉が頭を巡る。
――嘘だって思っていた方が幸せなこともある。嘘が嘘であるうちに帰るんだ、ライラ。
――絶対に後悔するぞ。
後悔は、していない。
けれど、やらなきゃならないことはある。
◇◇◇
「ついてくんな。何度言ったら解んだ。お前はお前。俺は俺だ。これ以上俺に関われば、お前には損しかねえんだよ」
「いいえ、それでも、ついて行きます」
ライラは言って、ダンジョンへ向かうシオンの後ろを歩いていた。
街に戻ってから五日。
シオンはゴブリンの魔石を十個提出してDランクを維持したあとは、疲れからか休息を取ることにしたらしく、ここ数日はろくに仕事をしていないようだった。
一仕事終えての休息、なのかもしれない。
今日は久しぶりのダンジョン探索というわけである。
相変わらずギルドでは嫌われているようだが、陰口も地味な攻撃も気にすることはない。
シオンは溜息を吐くとライラをふりかえって、
「なんだ。まだ俺に文句があるってのか? 準荒れ地まで連れて行ったのにまだ満足しねえってのか」
「そうじゃありません。アタシは……アタシは確かめたいことがあるだけです。シオンさんについていけばそれが解るはずです」
シオンはライラをじっと見た。
彼の背負った袋の中で、瓶だろうか、ガラスのぶつかるカランという音がする。
「後悔したはずだ。それ以上を重ねんのか」
「アタシが知りたいのは真実だけです。正さなければならないものがあるのなら、正します」
「難儀な奴だなお前も」
そう言ってシオンは溜息をつくと、
「ちょうど良い。今日行くのはお前の尊敬する冒険者――パトリックだったか――が死んだあのダンジョンだ」
「アタシの考えが正しければ、尊敬していた、になりますけど」
「……そうか。行くぞ、と言いたいところだが、何する気だ、それ」
シオンはライラの背負っているものをみた。
おおきな布袋。
「良いじゃないですか。アタシが正しければこれが役に立つんです!」
「まあいいけどさ」
ライラはシオンの後を追った。
元の場所、元のギルドへ。
ただし全てが元通りだったわけではない。
第一に、シオンへのライラの心情が大きく変化した。
遺品を漁り、金儲けしか考えていないと思っていたのに、実際一緒に数日過ごすと、彼はなんだかんだ人を想い、理屈ではなく心で人を救うことがあった。
金儲けばかり考えているのはそのままだけれど。
戻ってきてから数日経った今でも彼の姿は見かける。
声をかけようとすると鼻を鳴らしてお前は向こうにいけという合図を出す。
俺と関わるとろくなことにならないだろ、と。
第二に、グウェンの存在があった。
彼女からママと呼ばれて懐かれているのをギルドの人間に見られてしまったし、それに街へはルフに乗って戻って来てしまった。
当然、話を聞きたいという冒険者が後を絶たない。
それに紹介しろという冒険者まで出てくる始末。
閉口すると同時に、きっとグウェン――グーちゃんはこんな気持ちを毎日味わっているのだろうなと考えてしまう。
今度会ったら頭を撫でてあげよう。
きっとそのうちこの騒動も収まって、借金も返済できて、元の生活に戻ることができるだろう。
依頼をうけ、魔石を提出し、ランクを維持しつつ次のランクを目指す。
ただ、それは絶対元の生活とは大きく違ったものになっている。
ライラはそう予感していた。
シオンについて行くと決めたあの時に、シオンから言われた言葉が頭を巡る。
――嘘だって思っていた方が幸せなこともある。嘘が嘘であるうちに帰るんだ、ライラ。
――絶対に後悔するぞ。
後悔は、していない。
けれど、やらなきゃならないことはある。
◇◇◇
「ついてくんな。何度言ったら解んだ。お前はお前。俺は俺だ。これ以上俺に関われば、お前には損しかねえんだよ」
「いいえ、それでも、ついて行きます」
ライラは言って、ダンジョンへ向かうシオンの後ろを歩いていた。
街に戻ってから五日。
シオンはゴブリンの魔石を十個提出してDランクを維持したあとは、疲れからか休息を取ることにしたらしく、ここ数日はろくに仕事をしていないようだった。
一仕事終えての休息、なのかもしれない。
今日は久しぶりのダンジョン探索というわけである。
相変わらずギルドでは嫌われているようだが、陰口も地味な攻撃も気にすることはない。
シオンは溜息を吐くとライラをふりかえって、
「なんだ。まだ俺に文句があるってのか? 準荒れ地まで連れて行ったのにまだ満足しねえってのか」
「そうじゃありません。アタシは……アタシは確かめたいことがあるだけです。シオンさんについていけばそれが解るはずです」
シオンはライラをじっと見た。
彼の背負った袋の中で、瓶だろうか、ガラスのぶつかるカランという音がする。
「後悔したはずだ。それ以上を重ねんのか」
「アタシが知りたいのは真実だけです。正さなければならないものがあるのなら、正します」
「難儀な奴だなお前も」
そう言ってシオンは溜息をつくと、
「ちょうど良い。今日行くのはお前の尊敬する冒険者――パトリックだったか――が死んだあのダンジョンだ」
「アタシの考えが正しければ、尊敬していた、になりますけど」
「……そうか。行くぞ、と言いたいところだが、何する気だ、それ」
シオンはライラの背負っているものをみた。
おおきな布袋。
「良いじゃないですか。アタシが正しければこれが役に立つんです!」
「まあいいけどさ」
ライラはシオンの後を追った。
1
お気に入りに追加
534
あなたにおすすめの小説
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~
LED
ファンタジー
平凡な女子高生・司藤(しどう)アイは、中世騎士ロマンス古典「狂えるオルランド」に登場する女騎士に憑依してしまった。
現実世界に帰るべく、意中の騎士とのゴールインを目指すのだが……!?
・古典の展開にツッコミ入れつつ、8世紀欧州世界の実態に迫る!
・時にコミカル、時にシリアス! 中世騎士の一騎打ち・戦争・怪物や魔女との息詰まるバトル!
・幼馴染の悪友とのジレジレ恋愛も描きます!
※末尾に★がある話は挿絵つきです。
※小説家になろう、カクヨムでも連載中です。
※2018/2/25 あらすじ・1~3話を改稿しました。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
婚約破棄をされて魔導図書館の運営からも外されたのに今さら私が協力すると思っているんですか?絶対に協力なんてしませんよ!
しまうま弁当
恋愛
ユーゲルス公爵家の跡取りベルタスとの婚約していたメルティだったが、婚約者のベルタスから突然の婚約破棄を突き付けられたのだった。しかもベルタスと一緒に現れた同級生のミーシャに正妻の座に加えて魔導司書の座まで奪われてしまう。罵声を浴びせられ罪まで擦り付けられたメルティは婚約破棄を受け入れ公爵家を去る事にしたのでした。メルティがいなくなって大喜びしていたベルタスとミーシャであったが魔導図書館の設立をしなければならなくなり、それに伴いどんどん歯車が狂っていく。ベルタスとミーシャはメルティがいなくなったツケをドンドン支払わなければならなくなるのでした。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる