上 下
18 / 52
第一章 ライラ・マリー編

第18話 ヘイグ・スコデラリオと『呪物』

しおりを挟む
 ヘイグは視線をライラに移すと、
 

「そいつをママと呼んでるみたいだね。『ぎゃははは、ママだってよ!』。君、そんな奴だったっけ?」

「うるさい。ママはボクを救ってくれたんだ」

「……大枠は俺が救ったんだけどな」

 
 ぼそりと俺は言ったがグウェンは無視して、


「ヘイグ、その剣を捨てるんだ。それのせいでボクを置き去りにして、他の二人のことまで……」

「捨てない。『捨てる訳ねえだろ、アホか!』。でも、僕は君をおいていくつもりなんてなかったんだ。『お前は邪魔だったんだよ、グウェン!』。ううう……」


 ヘイグと『呪物』の言葉が食い違うと、彼はひどく苦しそうに呻いて、頭をかきむしった。
 
 ヘイグが反抗するのを押さえつけるように、『呪物』が苦しめているのだろうか。
 
 ヘイグはすぐに頭を掻くのを止めると何事もなかったかのように顔を上げて、


「やっぱり君を置いていくべきだったんだ。『そうだお前は邪魔だったんだ!』。置き去りにして正解だった」


 意見を変えた。
 確実に蝕まれている。


「そうやって他の二人も殺したのか」


 俺が尋ねると、ヘイグは首を横に振った。


「ううん違うよ。『あいつらは別の呪いにやられてどっか行っちまったぜ! ぎゃははは』。今頃ダンジョンの中をさまよってるんじゃない?」

「別の呪い?」


 なんだか話がややこしくなってきた気がする。
 まあいい。
 俺がしなければならないのは、この『呪物』の回収だけだ。
 
 俺は手を出して、


「とにかくその剣返せ。お前が持ってるとろくなことにならない」

「ダメだ! 『ボケが!』。僕はこれを使ってSランクになる。『そうだ!』。そのんだ。『こいつはSランクになるんだよ! 止めんなボケ!』」


 ヘイグを覆うどす黒いオーラが強くなる。

 青かった瞳まで黒く染まり、首と額に血管が浮き出て、何か無理矢理血流を送り込んで筋肉を動かしているように見える。

 腐ってもAランク冒険者。

 立ち上がった彼は剣を構える。
 その姿は、熟練者のそれだった。

 ヘイグはすぐに襲ってくることはせず、
 

「グウェンは治りきってなくてまだ戦えないんだろ? 『両腕両足折ってやったからなあ!』。移動させてくれ」

「へえ、律儀だな」


 俺が言うとヘイグは引きつるように笑って、


「『Sランク冒険者になるんだからな、正々堂々やるんだよ!』。そうだ、正々堂々だ」


 三人でグウェンを襲った奴の台詞とは思えなかったが、『呪物』を手にした瞬間と今とでは魂の乗っ取られ具合も違うのかもしれない。

 願いという契約じみた関係性だって変わっているはずだ。


「ライラ、グウェンを連れて下がってろ」


 俺は言って、ライラに近づく。
 ライラは箱を身体の前に持ってくると、グウェンを背負って、俺を見上げた。


「気をつけてください」

「なんとかする」


 グウェンも俺をみて、


「頼んだ」

「別に頼まれねえよ。俺は俺の金のために働いてんだ」

「それでも、頼んだ」


 俺は頷いた。

 ライラたちが離れたのを確認して、ヘイグに向き合う。


「『じゃあやろうぜやろうぜ! 正々堂々!』。僕は僕の力がどれくらい強化されたのか知りたいんだ。『木っ端微塵になっても知らないぜ!』」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不死王はスローライフを希望します

小狐丸
ファンタジー
 気がついたら、暗い森の中に居た男。  深夜会社から家に帰ったところまでは覚えているが、何故か自分の名前などのパーソナルな部分を覚えていない。  そこで俺は気がつく。 「俺って透けてないか?」  そう、男はゴーストになっていた。  最底辺のゴーストから成り上がる男の物語。  その最終目標は、世界征服でも英雄でもなく、ノンビリと畑を耕し自給自足するスローライフだった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  暇になったので、駄文ですが勢いで書いてしまいました。  設定等ユルユルでガバガバですが、暇つぶしと割り切って読んで頂ければと思います。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

最強美少女達に愛されている無能サポーター 〜周りの人から馬鹿にされ続けてもう嫌なのパーティメンバーの天才たちが離してくれない〜

妄想屋さん
ファンタジー
 最強の美少女パーティメンバーに囲まれた無能、アルフ。  彼は周囲の人の陰口に心を病み、パーティメンバー達に、 「このパーティを抜けたい」  と、申し出る。  しかし、アルフを溺愛し、心の拠り所にしていた彼女達はその申し出を聞いて泣き崩れていまう。  なんとかアルフと一緒にいたい少女達と、どうしてもパーティを抜けたい主人公の話。

異世界のサバゲーマー 〜転移したおっさんは国を救うために『ミリマート』で現代兵器を購入して無双します〜

フユリカス
ファンタジー
 アラサー独り身の坂本勇馬は、しがない会社員をしながらも、それなりに充実した日々を送っていた。  だが、趣味であるサバイバルゲーム――いわゆる『サバゲー』の最中に、穴へ落ちて異世界に飛ばされてしまう。  目を覚ました勇馬が慌てて愛用の電動ガンを確認すると……なんと『本物』に変わっているのだった!  呆然とする勇馬だったが、突然森の中に響き渡った悲鳴で我に返ると、銃を手に駆けだす。  そして、勇馬は本物化した89式小銃とM26手榴弾を使って獣をあっさりと倒し、女騎士を救うのだった。  すると――、 『ショップが開放されました!』  勇馬の目の前には、普段から利用している『ミリマート』というミリタリー系を扱うネットショップが突然現れたのだった。  だがその中身は、勇馬の知るものとは違う、本当の兵器を扱うショップなのだった――。 ※作者は軍事知識がかなり薄いため、間違っていたりおかしなところがある場合があります。できる限り修正いたしますが、温かい目で読んでいただけると助かります!

追放された最強剣士〜役立たずと追放された雑用係は最強の美少女達と一緒に再スタートします。奴隷としてならパーティに戻してやる?お断りです〜

妄想屋さん
ファンタジー
「出ていけ!お前はもうここにいる資格はない!」  有名パーティで奴隷のようにこき使われていた主人公(アーリス)は、ある日あらぬ誤解を受けてパーティを追放されてしまう。  寒空の中、途方に暮れていたアーリスだったかが、剣士育成学校に所属していた時の同級生であり、現在、騎士団で最強ランクの実力を持つ(エルミス)と再開する。  エルミスは自信を無くしてしまったアーリスをなんとか立ち直らせようと決闘を申し込み、わざと負けようとしていたのだが―― 「早くなってるし、威力も上がってるけど、その動きはもう、初めて君と剣を混じえた時に学習済みだ!」  アーリスはエルミスの予想を遥かに超える天才だった。 ✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿ 4月3日 1章、2章のタイトルを変更致しました。

神様に加護2人分貰いました

琳太
ファンタジー
ある日白い部屋で白い人に『勇者として召喚された』と言われたが、気づけば魔法陣から突き落とされ見知らぬ森の中にポツンと1人立っていた。ともかく『幼馴染』と合流しないと。 気付けばチートで異世界道中楽々かも?可愛いお供もゲットしたフブキの異世界の旅は続く…… この世界で初めて出会った人間?はケモ耳の少女いろいろあって仲間になり、ようやく幼馴染がいると思われる大陸へ船でやてきたところ…… 旧題【異世界召喚、神様に加護2人分貰いました】は改題され2018年3月書籍化、8巻まで発売中。 2019年7月吉祥寺笑先生によるコミカライズ連載開始、コミック1巻発売中です。 ご購入いただいた皆様のおかげで続刊が発売されます。

ゲームの中に転生したのに、森に捨てられてしまいました

竹桜
ファンタジー
 いつもと変わらない日常を過ごしていたが、通り魔に刺され、異世界に転生したのだ。  だが、転生したのはゲームの主人公ではなく、ゲームの舞台となる隣国の伯爵家の長男だった。  そのことを前向きに考えていたが、森に捨てられてしまったのだ。  これは異世界に転生した主人公が生きるために成長する物語だ。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

処理中です...