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第一章 House_management.exe

ナオミ

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 マーラとレイを無理やり返したあと、俺は少女と向かい合ってテーブルについた。顔の傷はすでにすっかり治っている。

「あの……性奴隷というのは?」
「そのままの意味です。もともとポーター商会のサミュエル様が主人でした。私は利き腕がうまく動かず、体中傷だらけなので廃棄される予定だったのですが、黒いローブの方にお買い上げいただき、ユキハル様が主人になると聞かされました。その後の記憶は曖昧です。気がついたらこの家のベッドに寝ていました」

 俺のためになるってのはそういうことか。くそ、カマエルめ。

「あの、申し訳ございません、ユキハル様。私のせいでお客様のご機嫌を損ねてしまいました。どんな罰でもうけます」

 少女は椅子から立ち上がり、地面に膝をついて頭を下げた。

「申し訳ありませんでした」
「いや、気にしてないから頭を上げてくれ」

 少女は頭を上げたが地面に膝をついたままだ。

「あの、すわっていいよ」
「はいユキハル様」

 まるでロボットみたいに言われたことを淡々とこなす彼女。

「性奴隷って言ってたけど、俺はそんな扱いをするつもりはない」
「やはりこの体ではお気に召しませんか? では剣の試し斬りにでもお使いください」
「違う違う。ちゃんと人間として扱うよ。これ大前提。いい?」
「わかりました」
「腹は空いてるか?」
「2日間何も食べていません」
「なんだよもう」

 俺はすぐに立ち上がって、商人からもらった食料を探索、冷蔵庫にしまっていた肉を使ってオムライスを作った。

「ほら、食べな」
「でも……」
「いいから。これ命令ね」

 そう言うと彼女の手の甲についている焼き印が光った。

「……わかりました」

 彼女はスプーンを左手で握りしめてフラフラと危なげにオムライスをすくい口に入れた。
 彼女の表情は基本的には変わらない、そう思っていた。
 かすかにまぶたが動いた。が、彼女はすぐにスプーンをおいてしまう。

「どうした? まずかった?」
「いえ、こんな美味しいものを食べたのは初めてです。でも私にはもったいないです」
「いいから全部食べな」
「…………はい」

 そういったあと小さく「ありがとうございます」彼女はそう言ってスプーンを握りしめた。

 ◇

 やることは山積みだ。
 まずは索敵装置を一つ外し、獣人たちの村に行く必要がある。索敵装置はマーカーの役割をしてくれる。新しく作りたかったがいまポイントは0だ。

 マーラたちに連れられてというか、しなだれかかられながら押され、「ここにゃ」と言われついた場所には何もなかった。

「なにもないですよ」
「私達にしかわからないように結界が張ってあるきゅ。これをつけるきゅ」

 緑色のネックレスを渡された。
 つけるとすぐに腕を引かれ、奇妙な感覚があってのち、村が現れた。
 獣人の村に索敵装置を設置。妻にしろ妻にしろ怪人共から逃げて帰宅した。

 次に家の周りの塀やらバリスタやらを解体する。解体するともとと同じポイントが手に入ることを知った。これは便利だ。

 さていよいよ本題だ。


 転居。


 俺の家をいきなり転居させるのは怖いので、索敵装置を置いた獣人の村に銭湯を転移させる。実験開始。銭湯を選択して転移を押し、マウスでドラッグして獣人の村においた。
 俺は窓の外を見た。銭湯はなくなっていた。索敵装置のカメラから獣人たちの村をみる。銭湯はちゃんと転移していた。

「よし」

 俺は自分の家を転移させた。
 ダンジョンの最奥に。

  ◇

 俺は完全に忘れていたんだが、ダンジョンのボスはイエロードラゴンにしていたのだった。イエロードラゴンはいきなり俺の家がボスの部屋に現れてびっくりしたらしい。そしてやつは非常に臆病な生物だった。

「え! 何! なんでここに家があるの?」

 イエロードラゴンはダンジョンのボスらしからぬ言動をして、部屋の隅へと引き下がった。
 俺が家から出るとドラゴンは安堵の息をついた。

「何だ、ご主人じゃないですか。びっくりさせないでくださいよ」
「そのご主人ってなんだ」
「ご主人はご主人ですよ。私達を作った存在じゃないですか」

 それで俺がダンジョンに来たときオークは俺に頭を下げたのか。

「まああの、これからここに住むからよろしく」
「え、マジすか。冒険者とか来たら攻撃飛んできますよ」

 そうだったここはダンジョンなんだった。

 俺は家をボス部屋の更に奥に配置し、扉をつけて行き来できるようにした。壁の中に家を作れるのだから素晴らしい。
 索敵装置をダンジョンの入口に配置してこれで配置した数は3つ。
 バリスタと塀はもういらないから解体したままにしたら全部で6000ポイント余った。

 これで最高級ポーションが作れるではないか。

 俺はPCを操作してポーションを作成。
 家事ができない性奴隷だった少女は壁際に立っていた。座ってていいのに。彼女にポーションを手渡そうとしはたと気づいた。

 名前……。
 俺は彼女をテーブルに着かせると尋ねた。

「君名前は?」
「ありません。生まれたときから奴隷でした」
「……そう」

 でもそのままでは呼びにくいのでなにかつけたほうがいいな。俺はしばらく考えて、

「じゃあ、ナオミにしようか。君の名前はこれからナオミだ」

 海外でも使わている名前だし、呼びやすいしいいだろう。

「ナオミ……私はナオミ」

 その瞬間、手の甲についていた字のような紋章が光り輝いて、消えた。
 ナオミはまた少しだけまぶたを動かした。

「こんなことって……」
「その紋章はなんだったんだ?」
「これは奴隷の証です。つけられるとつけた者しか外すことはできません。奴隷は商品なので、一度奴隷になれば一生奴隷です。なのに……」

 ナオミは混乱しているようだった。

「それになんだか体の中が熱いです。これは……魔力? 私に魔力があったなんて」

 彼女は自分の手の甲をじっと見ていた。
 ああ、忘れるところだった。

「これ、飲んでよ。ポーション」

 ナオミは首をふった。

「そんな高級なポーションをもらうわけには行きません」
「命令……はもう通じないか」
「通じませんね」
「でも飲んでほしい。きっと腕も動くようになる。あのさ、実を言うと俺、家事できないんだ。面倒くさくてね。だから、一つ一つ教えるから、家事をやってほしい」

 ナオミはその言葉を聞くと頭を三度振って快諾した。

「わかりました。仕事をいただきありがとうございます」

 俺はナオミの前に特級ポーションをおいた。
 ナオミは躊躇したが、最後にはそれを飲み干した。
 右腕が先程のが嘘のように真っ直ぐに伸びて動くようになる。体中の傷跡がまっさらに治る。
 ただ、頬の痣だけは残ってしまった。なぜだろう。

「すごい……こんなポーションは聞いたことがありません」

 ナオミは右腕を何度も動かして、自分の体をみて、それから、泣き出した。

 彼女の初めて見る感情だった。
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