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修学旅行の英雄譚 Ⅱ
File.2 三日目スタートです!
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三日目、今日が修学旅行の実質最終日。光崎とオリヴィエを除いた昨日と同じ面子(+黒澤)がホテルのエントランスに集合している。黒澤は初め驚いていたが、先輩二人に黙っておいて欲しいと頼まれると「えぇ、分かった」と、簡単な返事だけして少し離れたソファでくつろいでいる。本来なら拓翔も部外者だからここにいる必要は無いんだけど、あれだけ知ってしまったからだと、自分から先輩達に頼み込んだらしい。
昨日で大体のことは決まっているからこの時間に軽く最終確認をすると先輩に呼ばれた。光崎達は十数分後にここに到着するとのことだ。
「────と、いうことだから。話もまとまったし私達は先に出るわね。あなた達も……自分たちで動くのは構わないけれど修学旅行を楽しむことを第一に考えなさいね?」
そう言葉を残して二人はホテルから出ていった。
エントランスに残された二年生組はソファでくつろいでいた黒澤を呼んで今後の動きを確認する。
「行く場所に関しては特に変更は無いか。今日は昨日みたいにミラちゃんがいるわけじゃないし俺達だけで動けるかどうかがちょいと心配だけどな」
ローランがそれに同意するように言う。
「そうだね、僕がここに住んでたと言ってもそれも千ッング!?」
此奴が千年とか言い出しそうになり慌てて口を強引に塞ぐ。
「お前、黒澤がいるんだぞ?あんまりボロ出るようなこと言うなよ」
そう耳元で言うとハッとしたようにコクコクと首を縦に振る。心配になり黒澤のほうをチラッと見るが特に怪しんでいる様子は見られなかった。
「で、でも、かなり手探りになっちゃうけど自分達で調べてなんとかするしかないよ?ミラちゃんがいつ帰ってくるか分かんないんだし」
「はー、やっぱそうなるよなぁ。ったくなんでこういう時にあいつは消えるんだよ……ちょっとはこっちの都合ってもんをなぁ」
ソファにさっきよりも深く座りこんで天井を眺めながら昨日のあいつを思い出す。
……でも、そうは言ってもあいつのあんな顔見ちまうと、文句も言えないしなぁ。何をそんなに慌ててるんだか?
皆が頭を抱えている中で黒澤がスっと手を挙げてめんどくさそうに言う。
「べつに、ここの地理に詳しいのは彼女だけだって決まってるわけじゃないでしょ?昨日のあの二人組、彼らに頼めばいいじゃないの?……なによ……みんなしてそんな目でこっち見ないでよ」
黒澤の方を目を丸くてして見ていた全員が我に返ってテーブルの地図に視線を戻す。
その手があったか!これから一緒に行動するあの二人は教会側しかもフランス所属。ここに詳しいなんて当たり前じゃないか!
「あぁいや、悪い悪い。でもナイスアイデアだぜ黒澤!」
親指を立ててそう言うと、黒澤は鼻を鳴らして視線をテーブルに落とした。
「うわー、ハルお前もう黒澤に嫌われてやんの」
拓翔が指さしてからかってくる。
「うっせぇなべつにこいつに──」
「私的にはあんたなんかより際神の方がよっぽど好みよ。際神より明らかに馬鹿そうじゃない。冴えない男はタイプじゃないわね」
地図から視線を外さずに俺の言葉に重ねてサラッと拓翔をディスる。
「んな!?お前に好かれよう好かれまいがどうでもいいわ!こっちだってお前なんかよりも氷翠ちゃんの方が断然タイプだわ!」
言われた氷翠本人は笑顔を引きつらせながら目で俺に助けを求めてくる。
「うーん……私もどっちかと言うと新條君より悠斗君の方がいい……かな?き、気持ちは嬉しいんだけどね?」
頼みの綱だった氷翠にまで見放された可哀想な男は隅に移動して丸くなりそのまま拗ねてしまった。あれ?こいつってこんなに小さかったっけ?
「全く、あの馬鹿のせいで全然話が進まないじゃない。際神、今日もあの二人は会いに来るの?」
「おう、一応来るって約束はしてあるぞっていうか光崎にいたってはこのホテルに泊まってるからそろそろ来るはずなんだけど」
ホテルの入り口の自動ドアが開く音が聞こえて光崎が来たと思い、遅いと文句を言おうとしたが入り口のど真ん中に立っていたのは男性ではなくやかましそうな雰囲気を漂わせる少女だった。
「オリヴィエ!?」
予想外の人物の登場に驚き立ち上がる。
「おー!晶の言った通り禁龍君達がいるじゃない!あら?今回は他のメンバーも一緒なの?まぁそれは別に構わないけど!」
そう言って一直線にローランの方に向かって歩き、ソファの背に顎を乗っけてローランに話を持ちかける。
「ねぇねぇ、昨日言われた通りにミカエル様にングッ!」
「コラ!オリヴィエ!こんなところでそれを話すんじゃないよ!みんなごめんね、ちょっと席を外させてもらうよ」
「おう、ここで待ってるぞ」
ローランはオリヴィエの口を塞いでほぼ連行する形でホテルの外に出てった。
じっと待ってても仕方ないし俺達は話進めとくか。
「ねぇ際神、さっきの子って誰なの?ローラン君と随分仲良さそうだっけれど?昔からの知り合い的な?」
「あー、そうか、黒澤は初めてだったな。あいつは真希オリヴィエ、ローランがここに住んでた時の友人らしい。俺も詳しくは聞かされてなかったからそこまでしか分からん」
適当言ったけど捉えようによってはべつに間違いでもないだろ。黒澤には悪いけどここは少し嘘に付き合ってもらおう。
「そう、まぁまこれは全く関係ないのだけれど一ついいかしら?」
「どうした?」
「それにしては彼と彼女、日本語が達者よね。ここで住んでた期間は分からないけれど私達と同じレベルで話しているのって凄いと思わない?特に彼女、見た感じだとずっとここにいるっぽいしね。一体どこで勉強したのやら?」
──ッ……なんつー鋭いこと言うんだよ、多分こいつからしたら本当にどうでもいい話なんだろうけど……あぁ、心臓に悪い。
「まぁ、気にしないで。私のとんだ戯言なんてなんの信憑性もないから。それで、今日はどこに行くの?」
それから今日はモンサンミッシェルとそこから少し離れた聖剣の泉というところに向かうことを確認してあとはローランとオリヴィエと光崎の三人を待つだけになった。その時間に俺は拓翔を連れションと言う名目で呼び出し廊下のフロントから見えない場所に連れ込む。
「なんだよ急にこんなことろに連れ込んで、俺は男とイチャつく趣味はねぇぞ?」
「んなもん俺もあるか馬鹿。今日は黒澤も一緒だろ、だからお前にあいつの面倒見てもらいたいんだよ」
「は?なんで俺なんだよ、嫌だよめんどくせぇ。てかあいつには氷翠みたいに護衛が必要な事情を抱えてるわけでも誰かに狙われてるわけでもないだろ?」
こんにゃろ、ほんとに分かってないのかよ。
「やっぱ馬鹿かよ。今日行く場所考えてみろ?教会、つまりモンサンミッシェルはいいにしてももう一個はどうよ?」
「聖剣の泉とかいう場所だろ?俺もなんとなく予想はついてるけど多分ローランの野郎に関わるんだろ?」
そこまで理解してるのに重要なことに気づかない親友の馬鹿さ加減に肩を落とす。
「お前そこまで分かっててなんでそこからが分かんないんだよ……俺たちの事情に黒澤まで巻き込むわけにわいかないだろ?」
「あー、そういうことね。そういえばそうだな、分かったよ。俺が黒澤に感づかれないようにすればいいのね……ん?ちょっと待てそれなら俺はどうなるんだよ?」
おっと…そこに気づいたか……。
「お前はまぁ、自分から足突っ込んできた感あるし……一応申し訳ないなーとは思ってるけど、まぁ拓翔だし?」
「あぁ!お前それだけは言わんと思っとったのにいいやがって!俺だって……まぁ自分で首突っ込んだのは否定しないけど……それでも一般人だぞ!なんでお前じゃぁ……」
そこまで言って俺の考えてることに気がついたようで、しょうがないといった感じに後頭部を掻きながら、
「はいはい、そういうことね。そういうことならその役割請け負ってやりますよ。あーあー、俺の親友は人使いの荒いことでねぇ」
「そこは俺が今度飯奢るってのでなんとか手を打ってくれよ?」
両手を合わせて頼むと手をヒラヒラさせてそれを快諾してくれた。
「分かった分かった。なんでこんなめんどくさいことになったんだかね。さて、そろそろ戻らないとあいつらに二つの意味で疑われるし行くか」
「もう一回言うけど俺は本当にそんな趣味ないからな」
「どうだか」と冗談めかしに言われたのが聞こえたが無視して、廊下から抜けてみんなのいる場所に戻る。
「小にしては随分長かったじゃない。私は否定はしないけれど世間はまだそこまで寛大じゃないってことだけは覚えておいたほうがいいわよ?」
なんで俺の周りのやつらってそんなにもそれを推してくるんでしょうか?
「違ぇわ馬鹿、トイレが混んでたから遅くなっただけだよ」
自分達にはアリバイがあると主張したが氷翠が、
「えー、でも悠斗君の本命はマゼスト君じゃなかったの?」
と黒澤にとってのとんでもない爆弾発言をかましてきた!?
おおおおい!急に何言ってんだよこいつは!?
その瞬間に黒澤の目の色が変わり俺の胸ぐらを掴んで迫ってくる。
そして開口一言。
「その話もっと詳しく聞かせて」
「だから違うって!」
あぁもう!朝から疲れるなぁ!
***
「じゃぁキード自身の目的もあの教会の異端者二人と同じあの時代の再来ってことでいいんだね?」
「そう、まぁまだどうやってそれを再現するかは分かりきってないんだけどローラン何か分かる?」
あの二人が何故デュランダルを求めているのかはなんとなく分かる。あの剣は僕があの時代を生き残ることができた証であり、この世に存在する剣の中でもかなり上位に君臨する。彼等がデュランダルを完全に使いこなせるとは思えないけれど、それでも十分強力だ。
それでもデュランダル自体が再来の鍵になるとは思えない。そう考えると聖剣の役割は……。
「バベルの塔……」
僕がそう呟くとオリヴィエがハッと顔を向ける。
「そんなの無理だよ!あの塔は神の怒りを受けた呪われた場所。この世の災厄が封じられた場所なんだよ?キードはあいつの性格からして協力者の二人を見殺しにすることはまず無いんだよ。人間が近づくことが許されてない塔にどうやって?それを超える力を持ってるとは到底思えない」
「だからデュランダルだよ。あの剣ならその呪いに等しい神の怒りを跳ねのけることができる。ステイン・クリードが模造品だとしてもコールブランドを扱えるんだから可能性としては捨てられない」
アジ・ダハーカがアンラ・マンユはバベルの塔に幽閉されていたと言っていたから恐らくキード自身も何かを手に入れて、それを鍵としてあの神を解放したって線も捨てられないしね。
「そういえばミカエル様はキードをなんて?」
「ミカエル様が仰るにはキードは今バベルの塔に戻ってそこから動いていないらしいよ」
なるほど、僕の推測が正しければキードの目論見は僕達がザスターさんたちと戦う日より前から……つまりは一二週間前からは進んでいるってことか。
「あとね?あいつから観測される魔力が明らかにおかしいんだって。魔力には個人個人に一つだけの特性があるのにキード自身の魔力じゃない魔力が見られたらしいよ」
魔力の特性──魔法や魔術を従える人達が必ず持つ、固有の力。今はその存在は忘れられているけれど誰もか確かに持っている。姉さんの特性は『黄金』ファーブニルのオーラと混ざりあった結果生まれた力。新條君は『蒼電』氷翠さんは『氷結』ザスターさんは『魔』悠斗くんと結斗さんは……まだ覚醒していないのか分からないけれど僕の眼では分からない。ちなみに僕は魔力を行使することはできないけれど内に『相反』の力を持っている。
そんな感じに誰もが一つしか持てないはずなのにキードからは複数……。
「第三者から力を貰ったね」
「やっぱりその線が濃厚よね。二つ目の力に目覚めるなんて超越化でもあるまいし?」
「その力の正体は掴めるのかい?」
オリヴィエの左眼は僕と同じ魔眼だ。力の解析に秀でた眼らしく、これまで見られなかったものは無いらしい。
「見えたのは『殺』と『刹那』ね。前者はあいつの元々の力なんだけど後者が訳が分からない。こんな魔力見たことも聞いたこともないよ?」
「うーん……そう言うのは彼なら何か知ってるかもしれないけどどこにいるか分からないし、彼の神器のせいでどんな手段使っても居場所を掴むことはできないしなぁ」
「そうなると完全に私達の力であいつと異端者二人を倒さなきゃいけないってことになるけれど……」
オリヴィエが首を傾げる。
「何か問題でもあるのかい?」
「今の私達の中にあいつと対等に渡り合える人がいると思えないのよね。私なんてあいつの足元にも及ばないし、あの剣を抜いた晶か、デュランダル持ったローランがギリギリくらい。他の人達は、悪いけど足手まといになる。私達の勝利条件が全員の生還だからそれを考慮すると圧倒的不利」
基本的に適当でおっちょこちょいな彼女だけれど戦闘の分析に関しては的確、悔しいけどオリヴィエが言うならそうなんだろう。
でも僕はまだ勝てる可能性があると思ってる。
「思い出してくれ、僕らにはあの伝説の禁龍がいるんだよ?この世界に飛び込んでまだ一ヶ月も経っていない彼だけど二回の危機を自分で乗り切ったんだよ。完全に悠斗くんに頼り切るわけじゃないけどそれでもまだ希望がある」
そう言うと自分の青い左眼を見せながら言う。
「そうは言ってもねぇ、この眼で見たけれどあの魔力量と能力で本当にルビナウスと偽神アンラ・マンユを倒したとは到底思えないんだけど?」
「そう言うし、僕も初めはそう思っていたけれど……戦いの時の悠斗くんは別人の強さだよ」
二回の戦いを思い出しながら言うとオリヴィエがジト目でこっちを睨んでくる。
「えー、ローランがそこまで信用するってなんか気持ち悪い。まさか惚れたの?」
気持ち悪いって、ひどいなぁ。惚れているというよりも彼の戦いぶりとあの心に惹かれたんだよ。心──魂の在り方はその人の戦う力をも左右する。誰かを守るために努力する姿にあの頃の旧友を重ねてしまったんだよ。
「……ううん、そんなわけないだろ?彼は僕の友人なんだから信じるのは当たり前だろ?」
「ふーん、まぁローランがそう言うならそうなんでしょ?精神、魂を象徴する英雄なんだからね」
「その呼び方はやめてくれないかい?僕はそんなに強くはないよ。そろそろロビーに戻ろうか、みんなが待ってる」
ホテルの門に向かって歩きだそうとしていたオリヴィエの襟を掴んで引き戻す。
「うえっ」と苦しそうな声を出して涙目で訴える彼女を宥めてみんなが待ってる所に向かう。
「ねぇ、私達二人で行動した方が絶対安全だよ?晶にも連絡しとくし内緒にしとけばいいでしょ?」
そう訊くオリヴィエにソファで騒いでいる四人を見ながら、
「だって修学旅行は一生に一度しかないんだよ?しかもこんなに楽しい人生は千年の中で初めてだよ。だからどんな状況でも僕は彼等を守るし、彼等と一緒にいたいんだ。それに、僕が内緒事をすると友達に怒られるからね。手伝うって言ってくれたんだ、なんでも一人で抱えずに頼れる人に頼るのもありかなって思うよ」
「ふーん、まぁあなたがそう思うならよかった。守れるものは守りなさいよ?」
「分かってるよ」
昨日で大体のことは決まっているからこの時間に軽く最終確認をすると先輩に呼ばれた。光崎達は十数分後にここに到着するとのことだ。
「────と、いうことだから。話もまとまったし私達は先に出るわね。あなた達も……自分たちで動くのは構わないけれど修学旅行を楽しむことを第一に考えなさいね?」
そう言葉を残して二人はホテルから出ていった。
エントランスに残された二年生組はソファでくつろいでいた黒澤を呼んで今後の動きを確認する。
「行く場所に関しては特に変更は無いか。今日は昨日みたいにミラちゃんがいるわけじゃないし俺達だけで動けるかどうかがちょいと心配だけどな」
ローランがそれに同意するように言う。
「そうだね、僕がここに住んでたと言ってもそれも千ッング!?」
此奴が千年とか言い出しそうになり慌てて口を強引に塞ぐ。
「お前、黒澤がいるんだぞ?あんまりボロ出るようなこと言うなよ」
そう耳元で言うとハッとしたようにコクコクと首を縦に振る。心配になり黒澤のほうをチラッと見るが特に怪しんでいる様子は見られなかった。
「で、でも、かなり手探りになっちゃうけど自分達で調べてなんとかするしかないよ?ミラちゃんがいつ帰ってくるか分かんないんだし」
「はー、やっぱそうなるよなぁ。ったくなんでこういう時にあいつは消えるんだよ……ちょっとはこっちの都合ってもんをなぁ」
ソファにさっきよりも深く座りこんで天井を眺めながら昨日のあいつを思い出す。
……でも、そうは言ってもあいつのあんな顔見ちまうと、文句も言えないしなぁ。何をそんなに慌ててるんだか?
皆が頭を抱えている中で黒澤がスっと手を挙げてめんどくさそうに言う。
「べつに、ここの地理に詳しいのは彼女だけだって決まってるわけじゃないでしょ?昨日のあの二人組、彼らに頼めばいいじゃないの?……なによ……みんなしてそんな目でこっち見ないでよ」
黒澤の方を目を丸くてして見ていた全員が我に返ってテーブルの地図に視線を戻す。
その手があったか!これから一緒に行動するあの二人は教会側しかもフランス所属。ここに詳しいなんて当たり前じゃないか!
「あぁいや、悪い悪い。でもナイスアイデアだぜ黒澤!」
親指を立ててそう言うと、黒澤は鼻を鳴らして視線をテーブルに落とした。
「うわー、ハルお前もう黒澤に嫌われてやんの」
拓翔が指さしてからかってくる。
「うっせぇなべつにこいつに──」
「私的にはあんたなんかより際神の方がよっぽど好みよ。際神より明らかに馬鹿そうじゃない。冴えない男はタイプじゃないわね」
地図から視線を外さずに俺の言葉に重ねてサラッと拓翔をディスる。
「んな!?お前に好かれよう好かれまいがどうでもいいわ!こっちだってお前なんかよりも氷翠ちゃんの方が断然タイプだわ!」
言われた氷翠本人は笑顔を引きつらせながら目で俺に助けを求めてくる。
「うーん……私もどっちかと言うと新條君より悠斗君の方がいい……かな?き、気持ちは嬉しいんだけどね?」
頼みの綱だった氷翠にまで見放された可哀想な男は隅に移動して丸くなりそのまま拗ねてしまった。あれ?こいつってこんなに小さかったっけ?
「全く、あの馬鹿のせいで全然話が進まないじゃない。際神、今日もあの二人は会いに来るの?」
「おう、一応来るって約束はしてあるぞっていうか光崎にいたってはこのホテルに泊まってるからそろそろ来るはずなんだけど」
ホテルの入り口の自動ドアが開く音が聞こえて光崎が来たと思い、遅いと文句を言おうとしたが入り口のど真ん中に立っていたのは男性ではなくやかましそうな雰囲気を漂わせる少女だった。
「オリヴィエ!?」
予想外の人物の登場に驚き立ち上がる。
「おー!晶の言った通り禁龍君達がいるじゃない!あら?今回は他のメンバーも一緒なの?まぁそれは別に構わないけど!」
そう言って一直線にローランの方に向かって歩き、ソファの背に顎を乗っけてローランに話を持ちかける。
「ねぇねぇ、昨日言われた通りにミカエル様にングッ!」
「コラ!オリヴィエ!こんなところでそれを話すんじゃないよ!みんなごめんね、ちょっと席を外させてもらうよ」
「おう、ここで待ってるぞ」
ローランはオリヴィエの口を塞いでほぼ連行する形でホテルの外に出てった。
じっと待ってても仕方ないし俺達は話進めとくか。
「ねぇ際神、さっきの子って誰なの?ローラン君と随分仲良さそうだっけれど?昔からの知り合い的な?」
「あー、そうか、黒澤は初めてだったな。あいつは真希オリヴィエ、ローランがここに住んでた時の友人らしい。俺も詳しくは聞かされてなかったからそこまでしか分からん」
適当言ったけど捉えようによってはべつに間違いでもないだろ。黒澤には悪いけどここは少し嘘に付き合ってもらおう。
「そう、まぁまこれは全く関係ないのだけれど一ついいかしら?」
「どうした?」
「それにしては彼と彼女、日本語が達者よね。ここで住んでた期間は分からないけれど私達と同じレベルで話しているのって凄いと思わない?特に彼女、見た感じだとずっとここにいるっぽいしね。一体どこで勉強したのやら?」
──ッ……なんつー鋭いこと言うんだよ、多分こいつからしたら本当にどうでもいい話なんだろうけど……あぁ、心臓に悪い。
「まぁ、気にしないで。私のとんだ戯言なんてなんの信憑性もないから。それで、今日はどこに行くの?」
それから今日はモンサンミッシェルとそこから少し離れた聖剣の泉というところに向かうことを確認してあとはローランとオリヴィエと光崎の三人を待つだけになった。その時間に俺は拓翔を連れションと言う名目で呼び出し廊下のフロントから見えない場所に連れ込む。
「なんだよ急にこんなことろに連れ込んで、俺は男とイチャつく趣味はねぇぞ?」
「んなもん俺もあるか馬鹿。今日は黒澤も一緒だろ、だからお前にあいつの面倒見てもらいたいんだよ」
「は?なんで俺なんだよ、嫌だよめんどくせぇ。てかあいつには氷翠みたいに護衛が必要な事情を抱えてるわけでも誰かに狙われてるわけでもないだろ?」
こんにゃろ、ほんとに分かってないのかよ。
「やっぱ馬鹿かよ。今日行く場所考えてみろ?教会、つまりモンサンミッシェルはいいにしてももう一個はどうよ?」
「聖剣の泉とかいう場所だろ?俺もなんとなく予想はついてるけど多分ローランの野郎に関わるんだろ?」
そこまで理解してるのに重要なことに気づかない親友の馬鹿さ加減に肩を落とす。
「お前そこまで分かっててなんでそこからが分かんないんだよ……俺たちの事情に黒澤まで巻き込むわけにわいかないだろ?」
「あー、そういうことね。そういえばそうだな、分かったよ。俺が黒澤に感づかれないようにすればいいのね……ん?ちょっと待てそれなら俺はどうなるんだよ?」
おっと…そこに気づいたか……。
「お前はまぁ、自分から足突っ込んできた感あるし……一応申し訳ないなーとは思ってるけど、まぁ拓翔だし?」
「あぁ!お前それだけは言わんと思っとったのにいいやがって!俺だって……まぁ自分で首突っ込んだのは否定しないけど……それでも一般人だぞ!なんでお前じゃぁ……」
そこまで言って俺の考えてることに気がついたようで、しょうがないといった感じに後頭部を掻きながら、
「はいはい、そういうことね。そういうことならその役割請け負ってやりますよ。あーあー、俺の親友は人使いの荒いことでねぇ」
「そこは俺が今度飯奢るってのでなんとか手を打ってくれよ?」
両手を合わせて頼むと手をヒラヒラさせてそれを快諾してくれた。
「分かった分かった。なんでこんなめんどくさいことになったんだかね。さて、そろそろ戻らないとあいつらに二つの意味で疑われるし行くか」
「もう一回言うけど俺は本当にそんな趣味ないからな」
「どうだか」と冗談めかしに言われたのが聞こえたが無視して、廊下から抜けてみんなのいる場所に戻る。
「小にしては随分長かったじゃない。私は否定はしないけれど世間はまだそこまで寛大じゃないってことだけは覚えておいたほうがいいわよ?」
なんで俺の周りのやつらってそんなにもそれを推してくるんでしょうか?
「違ぇわ馬鹿、トイレが混んでたから遅くなっただけだよ」
自分達にはアリバイがあると主張したが氷翠が、
「えー、でも悠斗君の本命はマゼスト君じゃなかったの?」
と黒澤にとってのとんでもない爆弾発言をかましてきた!?
おおおおい!急に何言ってんだよこいつは!?
その瞬間に黒澤の目の色が変わり俺の胸ぐらを掴んで迫ってくる。
そして開口一言。
「その話もっと詳しく聞かせて」
「だから違うって!」
あぁもう!朝から疲れるなぁ!
***
「じゃぁキード自身の目的もあの教会の異端者二人と同じあの時代の再来ってことでいいんだね?」
「そう、まぁまだどうやってそれを再現するかは分かりきってないんだけどローラン何か分かる?」
あの二人が何故デュランダルを求めているのかはなんとなく分かる。あの剣は僕があの時代を生き残ることができた証であり、この世に存在する剣の中でもかなり上位に君臨する。彼等がデュランダルを完全に使いこなせるとは思えないけれど、それでも十分強力だ。
それでもデュランダル自体が再来の鍵になるとは思えない。そう考えると聖剣の役割は……。
「バベルの塔……」
僕がそう呟くとオリヴィエがハッと顔を向ける。
「そんなの無理だよ!あの塔は神の怒りを受けた呪われた場所。この世の災厄が封じられた場所なんだよ?キードはあいつの性格からして協力者の二人を見殺しにすることはまず無いんだよ。人間が近づくことが許されてない塔にどうやって?それを超える力を持ってるとは到底思えない」
「だからデュランダルだよ。あの剣ならその呪いに等しい神の怒りを跳ねのけることができる。ステイン・クリードが模造品だとしてもコールブランドを扱えるんだから可能性としては捨てられない」
アジ・ダハーカがアンラ・マンユはバベルの塔に幽閉されていたと言っていたから恐らくキード自身も何かを手に入れて、それを鍵としてあの神を解放したって線も捨てられないしね。
「そういえばミカエル様はキードをなんて?」
「ミカエル様が仰るにはキードは今バベルの塔に戻ってそこから動いていないらしいよ」
なるほど、僕の推測が正しければキードの目論見は僕達がザスターさんたちと戦う日より前から……つまりは一二週間前からは進んでいるってことか。
「あとね?あいつから観測される魔力が明らかにおかしいんだって。魔力には個人個人に一つだけの特性があるのにキード自身の魔力じゃない魔力が見られたらしいよ」
魔力の特性──魔法や魔術を従える人達が必ず持つ、固有の力。今はその存在は忘れられているけれど誰もか確かに持っている。姉さんの特性は『黄金』ファーブニルのオーラと混ざりあった結果生まれた力。新條君は『蒼電』氷翠さんは『氷結』ザスターさんは『魔』悠斗くんと結斗さんは……まだ覚醒していないのか分からないけれど僕の眼では分からない。ちなみに僕は魔力を行使することはできないけれど内に『相反』の力を持っている。
そんな感じに誰もが一つしか持てないはずなのにキードからは複数……。
「第三者から力を貰ったね」
「やっぱりその線が濃厚よね。二つ目の力に目覚めるなんて超越化でもあるまいし?」
「その力の正体は掴めるのかい?」
オリヴィエの左眼は僕と同じ魔眼だ。力の解析に秀でた眼らしく、これまで見られなかったものは無いらしい。
「見えたのは『殺』と『刹那』ね。前者はあいつの元々の力なんだけど後者が訳が分からない。こんな魔力見たことも聞いたこともないよ?」
「うーん……そう言うのは彼なら何か知ってるかもしれないけどどこにいるか分からないし、彼の神器のせいでどんな手段使っても居場所を掴むことはできないしなぁ」
「そうなると完全に私達の力であいつと異端者二人を倒さなきゃいけないってことになるけれど……」
オリヴィエが首を傾げる。
「何か問題でもあるのかい?」
「今の私達の中にあいつと対等に渡り合える人がいると思えないのよね。私なんてあいつの足元にも及ばないし、あの剣を抜いた晶か、デュランダル持ったローランがギリギリくらい。他の人達は、悪いけど足手まといになる。私達の勝利条件が全員の生還だからそれを考慮すると圧倒的不利」
基本的に適当でおっちょこちょいな彼女だけれど戦闘の分析に関しては的確、悔しいけどオリヴィエが言うならそうなんだろう。
でも僕はまだ勝てる可能性があると思ってる。
「思い出してくれ、僕らにはあの伝説の禁龍がいるんだよ?この世界に飛び込んでまだ一ヶ月も経っていない彼だけど二回の危機を自分で乗り切ったんだよ。完全に悠斗くんに頼り切るわけじゃないけどそれでもまだ希望がある」
そう言うと自分の青い左眼を見せながら言う。
「そうは言ってもねぇ、この眼で見たけれどあの魔力量と能力で本当にルビナウスと偽神アンラ・マンユを倒したとは到底思えないんだけど?」
「そう言うし、僕も初めはそう思っていたけれど……戦いの時の悠斗くんは別人の強さだよ」
二回の戦いを思い出しながら言うとオリヴィエがジト目でこっちを睨んでくる。
「えー、ローランがそこまで信用するってなんか気持ち悪い。まさか惚れたの?」
気持ち悪いって、ひどいなぁ。惚れているというよりも彼の戦いぶりとあの心に惹かれたんだよ。心──魂の在り方はその人の戦う力をも左右する。誰かを守るために努力する姿にあの頃の旧友を重ねてしまったんだよ。
「……ううん、そんなわけないだろ?彼は僕の友人なんだから信じるのは当たり前だろ?」
「ふーん、まぁローランがそう言うならそうなんでしょ?精神、魂を象徴する英雄なんだからね」
「その呼び方はやめてくれないかい?僕はそんなに強くはないよ。そろそろロビーに戻ろうか、みんなが待ってる」
ホテルの門に向かって歩きだそうとしていたオリヴィエの襟を掴んで引き戻す。
「うえっ」と苦しそうな声を出して涙目で訴える彼女を宥めてみんなが待ってる所に向かう。
「ねぇ、私達二人で行動した方が絶対安全だよ?晶にも連絡しとくし内緒にしとけばいいでしょ?」
そう訊くオリヴィエにソファで騒いでいる四人を見ながら、
「だって修学旅行は一生に一度しかないんだよ?しかもこんなに楽しい人生は千年の中で初めてだよ。だからどんな状況でも僕は彼等を守るし、彼等と一緒にいたいんだ。それに、僕が内緒事をすると友達に怒られるからね。手伝うって言ってくれたんだ、なんでも一人で抱えずに頼れる人に頼るのもありかなって思うよ」
「ふーん、まぁあなたがそう思うならよかった。守れるものは守りなさいよ?」
「分かってるよ」
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実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
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ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
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