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修学旅行の英雄譚 Ⅰ
長い長い夜
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建物の中と外から互いを見上げ、見下ろす。ステインがゆっくりと下降して建物の中に入ってくる。
「おたくら諦め悪すぎやしませんかねぇ?いい加減解りましょうよ、ねぇ?」
右手に持った剣をだらりと下げ、全く戦意を感じさせない立ち振る舞いをする。
「俺はね?別にこのフランスがどうなろうがどうでもいいの。誰かを殺して、殺して、殺し続けられればなんでもいいんすよね。まぁただヨイワース様が協力してくれたらその願望を満たしてやるーとか言ってきたもんでさ、それなら今は我慢しましょって感じ?」
「そのためにルビナウスにも協力したってのか!?」
「イェス!俺っちが直々に手を下してやろうとか思ってましたから?それが叶わなかったのが心残りっすけどあの時のあのアマの顔は最高ってしたよ!……そうだぁ、今からホテルに向かえばあのクソアマいますかぁ?」
ふざけているとしか思えない、たかがこいつの狂った願望を満たすためだけに氷翠は殺されたってのか?
「俺がどれだけ殺しを楽しんでるか、どれだけあの時代に憧れたかあんたらには分からんでしょうがね?そんな俺っちが憧れたあの戦乱の時代が再来するなんて聞いたらさぁ、協力しないわけにゃいかんでしょ!」
興奮が最高潮にまで達したその目は焦点が定まっていない。
「……ふざけるな」
ふざけるなよ……?
「……ふざけるな……!」
隣で一言も言葉を発しなかったローランが体中からオーラを溢れさせて拳を力強く握っている。
「へぇ……?どしたんすかぁ?激おこですかぁ?」
怒りを向けられて、警戒を増すどころか逆に嬉しそうに身を捩らせる。
「あの時代を……お前達はあの時代をなんだと思ってるんだ……どれだけの血が流れたと思っているんだ……」
「そんなん自分が知るわけないじゃねっすかー。だ・か・ら……憧れてんすよねぇ。自分があの時代にいたらどれだけ楽しかったか……自分があの時代にいたらどれだけ殺せたのか……考えるだけで達しそうっすよ!」
ゆっくりと半身になり右脚を後ろに下げて右手に持った剣を足に沿って、左手に持った剣を肩に担ぐような構えをとる。
「ここだ、ここからだ、今倒すべき相手は目の前にいる、今彼をここで殺すことで復讐を始めることにしよう。だめだ落ち着け、だめだだめだだめだだめだ……」
何かを呟いているが声が小さすぎて何も聞こえない。
「悠斗君」
「お、おう」
その声はいつもよりも冷たく、ついたじろいでしまう。
「そのドラゴンを僕の剣に纏わせてくれないかな?できれば二本ともがいい」
感じられるプレッシャーに逆らえず指示された通りに『深蝕蠢』を二本の剣に纏わせるてそのうちの一本を床に突刺す。するとここら一帯にローラン特有の亜空間が出現する。
「闇宴の華景色」
闇に染った亜空間がローランを中心に前方へと扇状に広がっていき闇を纏った剣が花が咲く様に無尽蔵に飛び出す。
「おわっと!うひゃあ!」
足元から、前方から自分に向かってくる刃を驚き戸惑いながらも捌いている。
「チィ!しゃらくせぇですよ!」
そう文句を漏らしながらも波のように次々と迫ってくる闇の刃を雑だが確実に破壊している、無作為に迫り来る攻撃を全て防ぎ切るステインの技量の高さに驚愕する。
あいつの様子を自身の攻撃の影で静観していたローランがもう一本の剣を携えて切りかかろうと右腕と脚に力を込める。
「六道五輪──三・狂顎」
───久瀬&新條vs神父ヨイワース
いやーノリでここまで来てみたけどかなりきついなぁ。まさかこんなにブルっちまうなんてな……はは、やべぇ、ほんとに死ぬかもしんねぇよ。さっきも攻撃が全く通らなかったし、あの変な拳銃は明らかに危険そんな雰囲気出してるし……どうしたもんか?
しっかしあのおっさん構えるだけ構えて全く撃ってこない、銃持ってるくせになんで俺らとにらめっこしてんだよ。
おっさんが左手に持った拳銃を下ろして服の中にしまう。
「私はお前達に用はない、そこを退きあの者達に会わせろ」
俺はわざとらしく馬鹿にするように笑い煽る。
「は?嫌に決まってんじゃん、何言ってんのあんた?てゆうか退かしたいならその銃で俺達をさっさと撃ち殺せば?それもできないで俺達に強制を強いてるってんなら笑いもんだぜあんた?」
この挑発に乗ってくれるとなぁ、簡単だけど……まぁそう上手くいかないわな。
俺の挑発を気にせず懐に収めた拳銃を再度取り出し銃口を向けてくる。
「ふん、ただのガキがいい気になりおって。先程私に撃てるかと聞いてきたな?なら逆に問おう。私にひとつも傷を負わせることのできない貴様がどう足掻く?よいか?私が成そうとしているのは───」
一人で盛り上がりおかしな演説を始めたのでその隙に相手に聞こえないように久瀬に指示する。
「おい、俺があいつの気を引くからどこでもいい、あいつに一発食らわせてやれ」
「お前の雷撃が通じない相手に俺なんかの攻撃が効くのかよ?さっきあいつもそう言ってたじゃねぇか」
「思い出してみろよ。お前がステインとあの空で殺り合う前、お前はあいつの拳銃を弾いただろ?」
そう言うと久瀬は「そうか!」と気づき頷く。
「────というわけだ。頼むぜ?多分あいつに仕掛けられるのは一回のみだ。あいつに危機が及べば必ずあのステインの野郎がこっちに手ぇ出してくるからよ」
久瀬から離れて静かに雷撃を備える。こいつに俺の攻撃が通らないのなんて分かりきっていて相手からすれば無駄な足掻きだけど、今回の俺の役割はそうじゃない。
「───またあの御方の崇高な目的のためにも、私は私の成すべきことを成さねばならぬのだ。貴様らのようなガキに邪魔された程度で止められるものじゃない」
「分かった分かった、だったらあんたらのその崇高な目的やらは俺達が止めてやるよ」
俺が戦闘態勢に入っているのを見て哀れむような目を向けてくれる。その顔を向けてくる奴大っ嫌いなんだよ。
「私に魔力を通した攻撃は通用しない。この『魔力霧散器』がある限りはお前に勝ち目など無い」
「やってみなきゃわかんないだろっ……!」
言うが早く雷撃を撃ち込む、分かっていたがやはりそれらは敵の寸前で全て無力化されてしまう。これはハルに相手させなくて正解だったなと自分の采配に得意になるが、雑念を振り払って自分の役割に集中する。
「やっぱ通らねぇか、攻撃が通じない相手とか冗談だけにして欲しかったね」
「だから無駄だと言ったろうに、先にこれが撃てるかと言ったな?」
取り出した拳銃を俺に向けて照準を合わせて撃鉄を起こし躊躇いなく引き金を引く。ガキンッ!という撃鉄が火薬を叩く音が鳴り赤く光るがそれよりも前に合わされた照準から咄嗟に逃げる。
「──ッ!」
しかし同時に衝撃と激痛が横腹から伝わり全身に回る。
痛っえ、なんだよこれ……体に……力が……しかもなんだこれ?体から煙が出てる?
「不思議か、異端者の仲間よ?体が思うように動かないのだろう?ステインから聞いた話ルビナウスのやつは銀の武具を使用したらしいが……やはりこちらの方が確実だな!」
「ガハッ!」
倒れる体を力いっぱい蹴飛ばされて久瀬の足元まで転がる。
「よお久瀬、悪いけど俺今ほんとに力入んねぇんだわ。あとは手はず通りに頼むぜ?」
「任せろ、お前は俺の後ろで休んでな」
今度は久瀬とヨイワースが対峙する。久瀬を一瞥するとため息をしやがった。これには久瀬も業腹らしくこめかみをひくつかせている。
「なんだぁおっさん?俺じゃ不満かよ」
首を横に振りやれやれといった様子で銃を構える。
「見るだけで分かる、貴様は先程の童よりも遥かに弱い……自分の力量を測れない者ほど弱く矮小な存在なのだぞ?」
「あぁ!?」
あーあー、久瀬が完全にプッツンしたよ。こりゃ作戦は失敗……いや、ある意味で成功かな?
ヨイワースを指差して宣言する。
「おいおっさん!そのおかしな装置とそのクソほど似合わねぇ眼鏡絶対かち割ってやるからな!」
作戦通りの銃ではなく長剣を左手に握った久瀬は勢いよくその場から飛び出し相手に切りかかる。「馬鹿、作戦が違うだろ!」そう思ったが結果は意外なものだった。
おそらくその事しか考えてなかったのだろう、本当に眼鏡を叩き落とすためだけに左肩からの上段切りを相手の顔に向けて放った久瀬の剣をヨイワースは魔力を練って作られたものだと判断したのかあの装置を取り出し自身の前にかざす。しかしその予想は外れ、その剣は消滅することはなくそのまま『魔力霧散器』を砕いてしまう。
驚きの表情を隠せていないヨイワースに眼鏡を割れなかった久瀬が切りおろした刃を右半身から切り上げる。動揺して反応が遅れて自身には当たらなかったが宣言通り眼鏡を割られる。
怒りが身体能力を補正しているとはいえここまで動けたのか……いや、多分変なところで根性出てきただけか。
「ほれみたことか!眼鏡とそれぶっ壊してやったぜ!」
うーん、やっぱりなんか違う気がするんだよなぁ……ま、まぁ、これでこっちと向こうの戦力差はぐんと縮まったはずだ。こっちの最大火力要員はおそらく俺とハル、それがあの装置のせいで完封されちまうのはまずい。
「ぐうぅぅぅ、貴様ら……この私に傷をつけるだけでなく膝を着かせるだと……!」
俺を撃った拳銃を素早く構えて撃とうとするがそれよりも早く久瀬がその銃目掛けて発砲する。偶然か狙ってか分からないが久瀬の放つ銃弾がマズルに侵入して内側から暴発させた。手元で起こった小爆発によってよの手が砕けてグチャグチャになる。
「貴様ら……本当に許さんぞ……!貴様ら二人は必ず私が直に殺す。楽に死ねると思うなよ……!」
ギャギャギャギャン!と、突然金属が擦れる音を無数に響かせながら、黒い剣が俺たちの周りを囲みヨイワース向かって広がっていく。そしてそれに追従して行くように黒いドラゴンと呼べるような何かがものすごいスピードで突進して行く。
「おちょ、わっと!しっつこいなぁガキ共!なんでさっさとやられねぇんだよ!」
ステインがそれから逃げて、ヨイワースの盾になるように俺と久瀬の前に立つ。後ろを見ると剣を床に突き立てたローランと左腕を闇に染めたハルの姿が見えた。
「待てステイン!お前逃げんじゃねぇよ!」
ハルとローランが同時にその場から飛び出しハルが二体目のドラゴンを、ローランはその手に持つ剣でステインに攻撃する。
「くっそぉ、ほんとに全く防いでくれるじゃねぇかよ!」
「まさか二人がかりでこれだけやってもダメなんてね……正直驚いているよ」
額に汗を流す二人とは対照にまだどこか余力を見せるステイン、攻撃を防ぎつつも隙や余裕があれば逆に攻撃を加えるほどだ。
「それはこの聖剣『予言の聖剣』の能力ですからね!あんた達の攻撃は全て見切らせて頂きまっす!」
プレディクション、予言ってことか。おおよそ相手と自分の少し先を見る能力って感じだな。そりゃあ当たんねぇわ、てか反則もいいとこだ。
「ステイン、今は引くぞ」
「えー、まだ誰もぶっ殺してないっすよ?ここで引いちまうのは勿体ないでしょうに」
ステインは撤退の指示に対して不満そうにしている。
「よい、今夜はそれ以上に収穫があった。それを無駄にすることはできん」
ステインはため息をついてから懐に手を入れて小さな玉を取り出す。それを見たローランが慌てて走り出した。
「いけない!あれは──」
「ほなさいなら!」
それを地面に叩きつけるとそれを中心に白い光が広がり視界を奪う。視力が回復した時には二人の姿は見えなかった。
「……とりあえずホテルに戻ろう。明日からの動きを考えるのはそれからだ」
ローランがそう言い、俺達四人は揃ってホテルに向かった。
勝利とも敗北とも言えない不完全な戦いなのになぜ、俺達の方がこんなにも敗北感を味わっているんだよ……。
「おたくら諦め悪すぎやしませんかねぇ?いい加減解りましょうよ、ねぇ?」
右手に持った剣をだらりと下げ、全く戦意を感じさせない立ち振る舞いをする。
「俺はね?別にこのフランスがどうなろうがどうでもいいの。誰かを殺して、殺して、殺し続けられればなんでもいいんすよね。まぁただヨイワース様が協力してくれたらその願望を満たしてやるーとか言ってきたもんでさ、それなら今は我慢しましょって感じ?」
「そのためにルビナウスにも協力したってのか!?」
「イェス!俺っちが直々に手を下してやろうとか思ってましたから?それが叶わなかったのが心残りっすけどあの時のあのアマの顔は最高ってしたよ!……そうだぁ、今からホテルに向かえばあのクソアマいますかぁ?」
ふざけているとしか思えない、たかがこいつの狂った願望を満たすためだけに氷翠は殺されたってのか?
「俺がどれだけ殺しを楽しんでるか、どれだけあの時代に憧れたかあんたらには分からんでしょうがね?そんな俺っちが憧れたあの戦乱の時代が再来するなんて聞いたらさぁ、協力しないわけにゃいかんでしょ!」
興奮が最高潮にまで達したその目は焦点が定まっていない。
「……ふざけるな」
ふざけるなよ……?
「……ふざけるな……!」
隣で一言も言葉を発しなかったローランが体中からオーラを溢れさせて拳を力強く握っている。
「へぇ……?どしたんすかぁ?激おこですかぁ?」
怒りを向けられて、警戒を増すどころか逆に嬉しそうに身を捩らせる。
「あの時代を……お前達はあの時代をなんだと思ってるんだ……どれだけの血が流れたと思っているんだ……」
「そんなん自分が知るわけないじゃねっすかー。だ・か・ら……憧れてんすよねぇ。自分があの時代にいたらどれだけ楽しかったか……自分があの時代にいたらどれだけ殺せたのか……考えるだけで達しそうっすよ!」
ゆっくりと半身になり右脚を後ろに下げて右手に持った剣を足に沿って、左手に持った剣を肩に担ぐような構えをとる。
「ここだ、ここからだ、今倒すべき相手は目の前にいる、今彼をここで殺すことで復讐を始めることにしよう。だめだ落ち着け、だめだだめだだめだだめだ……」
何かを呟いているが声が小さすぎて何も聞こえない。
「悠斗君」
「お、おう」
その声はいつもよりも冷たく、ついたじろいでしまう。
「そのドラゴンを僕の剣に纏わせてくれないかな?できれば二本ともがいい」
感じられるプレッシャーに逆らえず指示された通りに『深蝕蠢』を二本の剣に纏わせるてそのうちの一本を床に突刺す。するとここら一帯にローラン特有の亜空間が出現する。
「闇宴の華景色」
闇に染った亜空間がローランを中心に前方へと扇状に広がっていき闇を纏った剣が花が咲く様に無尽蔵に飛び出す。
「おわっと!うひゃあ!」
足元から、前方から自分に向かってくる刃を驚き戸惑いながらも捌いている。
「チィ!しゃらくせぇですよ!」
そう文句を漏らしながらも波のように次々と迫ってくる闇の刃を雑だが確実に破壊している、無作為に迫り来る攻撃を全て防ぎ切るステインの技量の高さに驚愕する。
あいつの様子を自身の攻撃の影で静観していたローランがもう一本の剣を携えて切りかかろうと右腕と脚に力を込める。
「六道五輪──三・狂顎」
───久瀬&新條vs神父ヨイワース
いやーノリでここまで来てみたけどかなりきついなぁ。まさかこんなにブルっちまうなんてな……はは、やべぇ、ほんとに死ぬかもしんねぇよ。さっきも攻撃が全く通らなかったし、あの変な拳銃は明らかに危険そんな雰囲気出してるし……どうしたもんか?
しっかしあのおっさん構えるだけ構えて全く撃ってこない、銃持ってるくせになんで俺らとにらめっこしてんだよ。
おっさんが左手に持った拳銃を下ろして服の中にしまう。
「私はお前達に用はない、そこを退きあの者達に会わせろ」
俺はわざとらしく馬鹿にするように笑い煽る。
「は?嫌に決まってんじゃん、何言ってんのあんた?てゆうか退かしたいならその銃で俺達をさっさと撃ち殺せば?それもできないで俺達に強制を強いてるってんなら笑いもんだぜあんた?」
この挑発に乗ってくれるとなぁ、簡単だけど……まぁそう上手くいかないわな。
俺の挑発を気にせず懐に収めた拳銃を再度取り出し銃口を向けてくる。
「ふん、ただのガキがいい気になりおって。先程私に撃てるかと聞いてきたな?なら逆に問おう。私にひとつも傷を負わせることのできない貴様がどう足掻く?よいか?私が成そうとしているのは───」
一人で盛り上がりおかしな演説を始めたのでその隙に相手に聞こえないように久瀬に指示する。
「おい、俺があいつの気を引くからどこでもいい、あいつに一発食らわせてやれ」
「お前の雷撃が通じない相手に俺なんかの攻撃が効くのかよ?さっきあいつもそう言ってたじゃねぇか」
「思い出してみろよ。お前がステインとあの空で殺り合う前、お前はあいつの拳銃を弾いただろ?」
そう言うと久瀬は「そうか!」と気づき頷く。
「────というわけだ。頼むぜ?多分あいつに仕掛けられるのは一回のみだ。あいつに危機が及べば必ずあのステインの野郎がこっちに手ぇ出してくるからよ」
久瀬から離れて静かに雷撃を備える。こいつに俺の攻撃が通らないのなんて分かりきっていて相手からすれば無駄な足掻きだけど、今回の俺の役割はそうじゃない。
「───またあの御方の崇高な目的のためにも、私は私の成すべきことを成さねばならぬのだ。貴様らのようなガキに邪魔された程度で止められるものじゃない」
「分かった分かった、だったらあんたらのその崇高な目的やらは俺達が止めてやるよ」
俺が戦闘態勢に入っているのを見て哀れむような目を向けてくれる。その顔を向けてくる奴大っ嫌いなんだよ。
「私に魔力を通した攻撃は通用しない。この『魔力霧散器』がある限りはお前に勝ち目など無い」
「やってみなきゃわかんないだろっ……!」
言うが早く雷撃を撃ち込む、分かっていたがやはりそれらは敵の寸前で全て無力化されてしまう。これはハルに相手させなくて正解だったなと自分の采配に得意になるが、雑念を振り払って自分の役割に集中する。
「やっぱ通らねぇか、攻撃が通じない相手とか冗談だけにして欲しかったね」
「だから無駄だと言ったろうに、先にこれが撃てるかと言ったな?」
取り出した拳銃を俺に向けて照準を合わせて撃鉄を起こし躊躇いなく引き金を引く。ガキンッ!という撃鉄が火薬を叩く音が鳴り赤く光るがそれよりも前に合わされた照準から咄嗟に逃げる。
「──ッ!」
しかし同時に衝撃と激痛が横腹から伝わり全身に回る。
痛っえ、なんだよこれ……体に……力が……しかもなんだこれ?体から煙が出てる?
「不思議か、異端者の仲間よ?体が思うように動かないのだろう?ステインから聞いた話ルビナウスのやつは銀の武具を使用したらしいが……やはりこちらの方が確実だな!」
「ガハッ!」
倒れる体を力いっぱい蹴飛ばされて久瀬の足元まで転がる。
「よお久瀬、悪いけど俺今ほんとに力入んねぇんだわ。あとは手はず通りに頼むぜ?」
「任せろ、お前は俺の後ろで休んでな」
今度は久瀬とヨイワースが対峙する。久瀬を一瞥するとため息をしやがった。これには久瀬も業腹らしくこめかみをひくつかせている。
「なんだぁおっさん?俺じゃ不満かよ」
首を横に振りやれやれといった様子で銃を構える。
「見るだけで分かる、貴様は先程の童よりも遥かに弱い……自分の力量を測れない者ほど弱く矮小な存在なのだぞ?」
「あぁ!?」
あーあー、久瀬が完全にプッツンしたよ。こりゃ作戦は失敗……いや、ある意味で成功かな?
ヨイワースを指差して宣言する。
「おいおっさん!そのおかしな装置とそのクソほど似合わねぇ眼鏡絶対かち割ってやるからな!」
作戦通りの銃ではなく長剣を左手に握った久瀬は勢いよくその場から飛び出し相手に切りかかる。「馬鹿、作戦が違うだろ!」そう思ったが結果は意外なものだった。
おそらくその事しか考えてなかったのだろう、本当に眼鏡を叩き落とすためだけに左肩からの上段切りを相手の顔に向けて放った久瀬の剣をヨイワースは魔力を練って作られたものだと判断したのかあの装置を取り出し自身の前にかざす。しかしその予想は外れ、その剣は消滅することはなくそのまま『魔力霧散器』を砕いてしまう。
驚きの表情を隠せていないヨイワースに眼鏡を割れなかった久瀬が切りおろした刃を右半身から切り上げる。動揺して反応が遅れて自身には当たらなかったが宣言通り眼鏡を割られる。
怒りが身体能力を補正しているとはいえここまで動けたのか……いや、多分変なところで根性出てきただけか。
「ほれみたことか!眼鏡とそれぶっ壊してやったぜ!」
うーん、やっぱりなんか違う気がするんだよなぁ……ま、まぁ、これでこっちと向こうの戦力差はぐんと縮まったはずだ。こっちの最大火力要員はおそらく俺とハル、それがあの装置のせいで完封されちまうのはまずい。
「ぐうぅぅぅ、貴様ら……この私に傷をつけるだけでなく膝を着かせるだと……!」
俺を撃った拳銃を素早く構えて撃とうとするがそれよりも早く久瀬がその銃目掛けて発砲する。偶然か狙ってか分からないが久瀬の放つ銃弾がマズルに侵入して内側から暴発させた。手元で起こった小爆発によってよの手が砕けてグチャグチャになる。
「貴様ら……本当に許さんぞ……!貴様ら二人は必ず私が直に殺す。楽に死ねると思うなよ……!」
ギャギャギャギャン!と、突然金属が擦れる音を無数に響かせながら、黒い剣が俺たちの周りを囲みヨイワース向かって広がっていく。そしてそれに追従して行くように黒いドラゴンと呼べるような何かがものすごいスピードで突進して行く。
「おちょ、わっと!しっつこいなぁガキ共!なんでさっさとやられねぇんだよ!」
ステインがそれから逃げて、ヨイワースの盾になるように俺と久瀬の前に立つ。後ろを見ると剣を床に突き立てたローランと左腕を闇に染めたハルの姿が見えた。
「待てステイン!お前逃げんじゃねぇよ!」
ハルとローランが同時にその場から飛び出しハルが二体目のドラゴンを、ローランはその手に持つ剣でステインに攻撃する。
「くっそぉ、ほんとに全く防いでくれるじゃねぇかよ!」
「まさか二人がかりでこれだけやってもダメなんてね……正直驚いているよ」
額に汗を流す二人とは対照にまだどこか余力を見せるステイン、攻撃を防ぎつつも隙や余裕があれば逆に攻撃を加えるほどだ。
「それはこの聖剣『予言の聖剣』の能力ですからね!あんた達の攻撃は全て見切らせて頂きまっす!」
プレディクション、予言ってことか。おおよそ相手と自分の少し先を見る能力って感じだな。そりゃあ当たんねぇわ、てか反則もいいとこだ。
「ステイン、今は引くぞ」
「えー、まだ誰もぶっ殺してないっすよ?ここで引いちまうのは勿体ないでしょうに」
ステインは撤退の指示に対して不満そうにしている。
「よい、今夜はそれ以上に収穫があった。それを無駄にすることはできん」
ステインはため息をついてから懐に手を入れて小さな玉を取り出す。それを見たローランが慌てて走り出した。
「いけない!あれは──」
「ほなさいなら!」
それを地面に叩きつけるとそれを中心に白い光が広がり視界を奪う。視力が回復した時には二人の姿は見えなかった。
「……とりあえずホテルに戻ろう。明日からの動きを考えるのはそれからだ」
ローランがそう言い、俺達四人は揃ってホテルに向かった。
勝利とも敗北とも言えない不完全な戦いなのになぜ、俺達の方がこんなにも敗北感を味わっているんだよ……。
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