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修学旅行の英雄譚 Ⅰ
許せない敵 許されない敵 久瀬side
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『来てくれ!久瀬───!』
そう誰かに呼ばれた気がして跳ねるように起きる。周りを見てみても先程とは何も変わらない。
まさか、際神達が敵と接触した?考えたくはないがその可能性は十二分にある。俺が渡した衛星には他者の思考をダイレクトに伝える能力がある。となるとあいつらが何らかの危機に晒されているのかもしれない。
「どうした?何かあったのか?」
光崎に訊かれ先程考えたことをそのまま伝える。
一考した後に俺たちに指示を出す。
「───なるほど。それなら俺達も向かおう」
「いいのか?俺達がここを離れてすぐに敵が襲ってくるかもしれないんだってお前が言ってたのに?」
「考えが変わった。もし俺の推測が正しければあいつらは戦闘中……しかもかなり危ない状況に置かれている。死なれては困るからな」
それでも一般の生徒のことを考えると自分たちがここから離れてしまうのは心配になる。それが顔に出たらしく光崎がまた説明を加える。
「そんな顔をするな。俺達の敵は三人だけだ、ステイン、ヨイワース、そしてキード」
知らない名前が出てきて戸惑ってしまう。それを見た光崎が説明を加える。
「キード・スレイ……幽閉されていた上位魔術師の一人、『殺し』ということに長けた危険な存在だ」
『殺し』に長けると聞いて身震いする。冗談ではなく本当に命のやり取りが始まるとわかりやすく伝わった。
「俺達の勝利条件は全員が生き残ってあの三人を討伐、もしくは捕縛すること。向こうの勝利条件は俺達を殺して、あの時代を再現させることだ。だから敵の行動が分かりきっている今、あいつらを助けに行くのが最適解なんだよ」
そう言われて自分の頭でも納得しているけれどもどうも引っかかってしまう。万が一…最悪そういうことが起こらないわけではないからだ。自分が身を呈して守るべきはこのホテルで眠りについている生徒達、先に行ったあいつらだって俺が守らないといけないんだよ……。
「俺も……あ……」
どうしても『行く』と言いきれない。どうにかして彼等を守算段を整えないと。
そうその場で足踏みしている時、俺のよく知る声が遠くから聞こえてくる。
「久瀬ー、うちの戦闘員は行けよー?」
「そうだよミッキー、他の生徒会の子にも話通しておくからさ。会長もオッケーしてくれたよ?」
名前を呼ばれてそっちを向くとそこにはよく知る人物が二人いた。
「草戎!?水戸部!?なんでここにいる!?俺お前たちになんも教えてなかったはずだぞ!?」
生徒会二年生役員、草戎花に水戸部夏希。二人で顔を見合わせてクスリと笑い、草戎が制服のポケットから見覚えのある球体を取り出した。
「俺の衛星!なんで持ってる?」
草戎が俺の制服の裏ポケットにしまいながら言う。
「こういうところの詰めの甘さは去年から変わらないねぇ、さっき私等の部屋に飛び込んできたんだよ。最初は何か分からんかったけどね?」
水戸部がそれに続く。
「そーそー、そしたらミッキーの変な球じゃんってなったのよ」
「それできになって外に出てみたらほれみたことかと」
草戎ガ携帯を取り出して画面を俺にむける。座面を見ると生徒会長出ある七宮藤舞センパイに繋がっていた。
「かかかか、会長!?」
緊張でつい声が上ずってしまった。当たり前だ、本来の俺にの目的は氷翠さんの護衛とあの二週間での特訓。いずれくる試合に向けての調整と偵察という仕事を放ったらかしてしかもこんな事件に関わってるなんて知られてみろ!どう怒られるかわかったもんじゃ……!
携帯から怒り気味の会長の声がする。
『ミキ、あなた自分が何やっているのか分かっているんですか?』
「ええ!それはもちろんです!」
『この件に関しては際神君や氷翠さんはともかく、あなたが首を突っ込む必要は無かった。しかもそこにいる教会のエージェント達に任せればよかったものを、それなのになぜこんなことをしたのです?……まぁ過ぎてしまったことをとやかく言うのはあなたが帰ってきてからにします』
「『咎めません』を期待しました……」
『甘すぎます。だから今は彼らを助けに行きなさい、このホテルの守護は彼女等に任せてもよいでしょう』
「会長がそう仰るなら」
「話を聞く限り、あなたが久瀬の主人と見受けるが?」
話が一段落付いたところで光崎が話を切り出す。
『主人というよりは先輩ですけれど……まぁ今はそれをどうこういうのはいいでしょう』
「そうか……」
すると携帯の画面に向かって頭を下げた。
「どうかこいつを責めないでやって欲しい。俺達がこいつと、ほかの三人を巻き込んだんだ、その怒りを俺に向けてくれ」
携帯はビデオモードになっていないので光崎が頭を下げていることなんか分かるはずもないし、この態度が本物かどうか分かるはずもないのに。
『頭を上げてください。あなたが責任をもってくれるということは十分に伝わりました。それだけの誠意があればこちらも心配することは無いでしょう。花、夏希』
「「はい」」
『護衛は任せましたよ?私とリーナも準備でき次第そちらに向かいます』
「「了解」」
『ミキ』
「はい!」
『あなたの本来の仕事は訓練と偵察でした。しかし今そんな悠長なことは言ってられません。あの二人のもとへ向かいなさい。特例です、力の使用を許可します』
「了解です!」
通話が切れ、草戎と水戸部はエントランスへと走って行った。
「本当なら俺も向かいたいところだがあの二人では心配だ。お前一人で行けるか?」
『彗星銃』の銃口を山に見える光に向けて弾丸を撃ち出す。
「軌跡!」
銃弾が真っ直ぐと狙いへと飛んでいく。それと同時に尾を引くように一本の線が生まれる。
「それじゃぁ俺は行くからな!ここは任せたぞ!」
光崎が頷いたのを確認して宙に引いた『軌跡』に足をかけて走り出す。
十分かそこら走ったところで紅い炎に包まれた青年と、蒼い電気を身に纏う青年、そして両手に剣を構えた青年が二人の男と対峙しているのが見える。あれがおそらく際神が言っていたステインとかいう男だろう。もう片方は……聞いたことも見たことも無いが両手に構える拳銃からとんでもないプレッシャーを感じる。この感じは俺の持っている銃と同列のもの?……いや、今はそんなことはどうでもいい。
弧を描くように引かれた線も下りへと突入したので走るのをやめて滑るように降っていく。銃を構え、狙いがズレないように姿勢を整え、荒い呼吸を整える。
一発、二発、そして三発。
一発目は確かに男の左手の拳銃を弾いた。しかし二発目三発目はその隣にいるステインに弾かれてしまった。
際神、新條、ローランと拳銃を弾かれた男が何が起こったのか理解できずに周りを見回している中、ステインだけが俺を捉えてその場から奇声を発しながら飛び出してきた。
「ァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアア!」
自分の頭に振り下ろされる剣を両手に持った武器で防ぐ。
なんて跳躍力してやがる!普通の人間じゃあそこから飛んでここまで来るなんて不可能だろ!?
「おんやぁ?新しいお客さんですかぁ?」
「くっ……さてね……出迎えにしては穏やかじゃないな……!」
さらに力を込めて押し込んでくる。
「お客様を派手にお出迎えするのがうちのモットーですから?これくらいの余興、どうてことないですなぁ!」
ぐっ……力が……純粋な筋力じゃ勝ち目なんて無い。でも一応俺だってやるだけ考えてきたんだぜ?
そろそろ『軌跡』の効力が切れるがそれを悟られないようにギリギリまで我慢する。こいつは普通じゃない、こんな高い場所にいるのに恐怖心が存在せず戦闘に狂喜を見出している。人に簡単に剣を振るえるような奴とまともに殺りやっても押されるのはこっちだ。それならその恐怖心を炙り出してやる!
『軌跡』が薄まり少しづつ存在を消し始める。そして消える寸前のところで銃口を空に向けて発射。
それを見たステインはガッカリしたような顔をする。
「はぁ……諦めちまったんですかえ?」
まだだ……よく見極めろ、でも悟られるな……。
「仕方ないっすねぇ?俺っちが止めさしましょ?」
五……四……。
「空ばかり見て話すら聞いちゃいねぇよ」
三……二……一……。
ステインがもう一度構え直して剣を引く。そして邪悪な笑みを浮かべて再度振り下ろす。
「ほなさいな───」
ここだ!
「解除!」
足場が無くなり俺を支えていたものが消えて二人揃って落ちる。
「ありり?」
姿勢を崩したステインの剣は俺のすぐ横を通る。
「このまま落ちてもらうぞ」
落下して地面にたたきつけられれば必ず死ぬ高さ、生身の人間でこれに耐えられるやつなんてまずいないはず。
「しかーしぃ?このままじゃお前さんまでおっ死んじゃいますがぁ?額に汗をかいて余裕ありゃしませんよぉ?」
「そりゃそうだ、俺だってこの高さから落ちれば死ぬんだからな?それが怖くない人間はいねぇよ。それともなんだ?お前は死ぬのが怖くないってか?」
そう言うがステインはニタっと笑い余裕の表情を見せてくる。
「あっしは怖いものなんかありゃしませんからねぇ、こんなにもワンダフォーな死に方できりゃそれはそれで超ハッピー!て感じ?」
それを聞いて俺は安心した。そういうことならこいつは俺のことしか見えていない。恐怖心の無いやつが周りを警戒するわけがなかった。
「そうか、それなら一人で勝手に落ちてくれ。軌跡!」
重力に従って落下していた体が減速して今度は空へと向かう。その先には先程撃った弾丸で作られた『軌跡』がある。体を無理やりひねりその上に立つ。
『重力の軌跡』発動した瞬間に自分の体を引かれた線に引き寄せる。引き寄せるだけでそのままにしていれば体のどこかをぶつけることもあるのでこうやって調整して着地する必要はあるが……瞬間瞬間の反応は難しいけれど事前に分かってさえいれば十分使える。
「ふぅ、それでも本当に死ぬかと思った……さてと、どこかの木とかに引っかかってないかなー?」
地面を真っ直ぐ見下ろしてステインを探す。
「あれ?どこいった?この辺りに落ちてってはずなんだけどな……?」
『軌跡』の上を歩いて地面にさらに近づいて探してみるもステインはおろか、人が落ちた痕跡さえも見当たらない。
「久瀬!」
際神呼ばれて何かとそっちを見ると、視界の隅で何かの影が近づいてくるのに気づいた。
咄嗟に向くと怪しく輝く刀身が俺の首を貫こうとしている!
『軌跡』を解除して回避を試みるも完全にかわすことは叶わず、右の肩口を大きく切られてしまう。
「なん……で、落ちた……はずじゃ」
よくよく考えればおかしいことだらけだった。普通の人間があの距離を飛べるわけがないし、あんな不安定な足場で、しかも俺しか立てないはずなのにあいつはずっと俺に張り付いていた。クソッ!なんで気がつかなかったんだ……!こいつは、飛べる!
でも飛ぶためには何か特別な力が作用しないといけないはずだ。手元の剣からオーラが溢れているからそれが原動力になっているのか?
「軌跡……!」
右手に持った剣で宙を切り『軌跡』を出現させて、それに掴まる。右肩に自重がかかり傷が広がり血が吹き出す。肩の痛みに我慢できず、際神の足ものに照準を合わせて発砲。握る『軌跡』を解除して足元にできた『軌跡』に乗り移り建物に滑り込む。
「よぉ、助けに来たぜ?」
床に転がって三人を見上げるように姿勢でそう言うと、際神達はなんとも言えない表情をしていた。
「いやいやいや、そんなに締まらない登場初めて見たんですけど?しかもこの状況どう考えてもお前が助けられる側だろ」
「それもそうか、なら助けてもらうとするか?」
冗談でそう言うと肩を落として気落ちした様子で、
「冗談言う余裕あるか馬鹿。自分で立ちやがれ」
と言って俺の背中を叩く。その衝撃が肩にまで伝わり激痛で飛び上がる。
「痛ってぇ!何すんだよ!こっちは怪我人だぞ!?少しはいたわれよ!」
「そんな冗談言える怪我人がいてたまるか!怪我人だって言うならもっと怪我人っぽい態度を取れよ!」
そう際神に噛みついているとローランが俺達の間に入ってくる。
「まぁまぁ二人とも落ち着いてよ。とりあえずはこっちの戦力が増えたことを喜ぶべきだよ?久瀬君もステインと殺り合って分かったと思うけど今の僕達じゃこの人数で相手して手一杯なんだ。その傷のこともあるけれど手伝って欲しい」
そうお願いされるとこっちとしても断れないな。
再度幻具を出現させて三人の前に立って言う。
「もともとそのつもりで来ましたからね。やってやるよ」
三人もそれぞれの力を発揮して構える。
「それじゃぁ、俺と久瀬があのおっさんで。ハルとローランがステインとって感じでいいかな?」
「「「賛成」」」
采配が決まったところで際神と新條が息を深く吸う。そして建物いっぱいに響くような声で叫ぶ!
「深蝕蠢!」
「轟々の蒼霹靂!」
そう誰かに呼ばれた気がして跳ねるように起きる。周りを見てみても先程とは何も変わらない。
まさか、際神達が敵と接触した?考えたくはないがその可能性は十二分にある。俺が渡した衛星には他者の思考をダイレクトに伝える能力がある。となるとあいつらが何らかの危機に晒されているのかもしれない。
「どうした?何かあったのか?」
光崎に訊かれ先程考えたことをそのまま伝える。
一考した後に俺たちに指示を出す。
「───なるほど。それなら俺達も向かおう」
「いいのか?俺達がここを離れてすぐに敵が襲ってくるかもしれないんだってお前が言ってたのに?」
「考えが変わった。もし俺の推測が正しければあいつらは戦闘中……しかもかなり危ない状況に置かれている。死なれては困るからな」
それでも一般の生徒のことを考えると自分たちがここから離れてしまうのは心配になる。それが顔に出たらしく光崎がまた説明を加える。
「そんな顔をするな。俺達の敵は三人だけだ、ステイン、ヨイワース、そしてキード」
知らない名前が出てきて戸惑ってしまう。それを見た光崎が説明を加える。
「キード・スレイ……幽閉されていた上位魔術師の一人、『殺し』ということに長けた危険な存在だ」
『殺し』に長けると聞いて身震いする。冗談ではなく本当に命のやり取りが始まるとわかりやすく伝わった。
「俺達の勝利条件は全員が生き残ってあの三人を討伐、もしくは捕縛すること。向こうの勝利条件は俺達を殺して、あの時代を再現させることだ。だから敵の行動が分かりきっている今、あいつらを助けに行くのが最適解なんだよ」
そう言われて自分の頭でも納得しているけれどもどうも引っかかってしまう。万が一…最悪そういうことが起こらないわけではないからだ。自分が身を呈して守るべきはこのホテルで眠りについている生徒達、先に行ったあいつらだって俺が守らないといけないんだよ……。
「俺も……あ……」
どうしても『行く』と言いきれない。どうにかして彼等を守算段を整えないと。
そうその場で足踏みしている時、俺のよく知る声が遠くから聞こえてくる。
「久瀬ー、うちの戦闘員は行けよー?」
「そうだよミッキー、他の生徒会の子にも話通しておくからさ。会長もオッケーしてくれたよ?」
名前を呼ばれてそっちを向くとそこにはよく知る人物が二人いた。
「草戎!?水戸部!?なんでここにいる!?俺お前たちになんも教えてなかったはずだぞ!?」
生徒会二年生役員、草戎花に水戸部夏希。二人で顔を見合わせてクスリと笑い、草戎が制服のポケットから見覚えのある球体を取り出した。
「俺の衛星!なんで持ってる?」
草戎が俺の制服の裏ポケットにしまいながら言う。
「こういうところの詰めの甘さは去年から変わらないねぇ、さっき私等の部屋に飛び込んできたんだよ。最初は何か分からんかったけどね?」
水戸部がそれに続く。
「そーそー、そしたらミッキーの変な球じゃんってなったのよ」
「それできになって外に出てみたらほれみたことかと」
草戎ガ携帯を取り出して画面を俺にむける。座面を見ると生徒会長出ある七宮藤舞センパイに繋がっていた。
「かかかか、会長!?」
緊張でつい声が上ずってしまった。当たり前だ、本来の俺にの目的は氷翠さんの護衛とあの二週間での特訓。いずれくる試合に向けての調整と偵察という仕事を放ったらかしてしかもこんな事件に関わってるなんて知られてみろ!どう怒られるかわかったもんじゃ……!
携帯から怒り気味の会長の声がする。
『ミキ、あなた自分が何やっているのか分かっているんですか?』
「ええ!それはもちろんです!」
『この件に関しては際神君や氷翠さんはともかく、あなたが首を突っ込む必要は無かった。しかもそこにいる教会のエージェント達に任せればよかったものを、それなのになぜこんなことをしたのです?……まぁ過ぎてしまったことをとやかく言うのはあなたが帰ってきてからにします』
「『咎めません』を期待しました……」
『甘すぎます。だから今は彼らを助けに行きなさい、このホテルの守護は彼女等に任せてもよいでしょう』
「会長がそう仰るなら」
「話を聞く限り、あなたが久瀬の主人と見受けるが?」
話が一段落付いたところで光崎が話を切り出す。
『主人というよりは先輩ですけれど……まぁ今はそれをどうこういうのはいいでしょう』
「そうか……」
すると携帯の画面に向かって頭を下げた。
「どうかこいつを責めないでやって欲しい。俺達がこいつと、ほかの三人を巻き込んだんだ、その怒りを俺に向けてくれ」
携帯はビデオモードになっていないので光崎が頭を下げていることなんか分かるはずもないし、この態度が本物かどうか分かるはずもないのに。
『頭を上げてください。あなたが責任をもってくれるということは十分に伝わりました。それだけの誠意があればこちらも心配することは無いでしょう。花、夏希』
「「はい」」
『護衛は任せましたよ?私とリーナも準備でき次第そちらに向かいます』
「「了解」」
『ミキ』
「はい!」
『あなたの本来の仕事は訓練と偵察でした。しかし今そんな悠長なことは言ってられません。あの二人のもとへ向かいなさい。特例です、力の使用を許可します』
「了解です!」
通話が切れ、草戎と水戸部はエントランスへと走って行った。
「本当なら俺も向かいたいところだがあの二人では心配だ。お前一人で行けるか?」
『彗星銃』の銃口を山に見える光に向けて弾丸を撃ち出す。
「軌跡!」
銃弾が真っ直ぐと狙いへと飛んでいく。それと同時に尾を引くように一本の線が生まれる。
「それじゃぁ俺は行くからな!ここは任せたぞ!」
光崎が頷いたのを確認して宙に引いた『軌跡』に足をかけて走り出す。
十分かそこら走ったところで紅い炎に包まれた青年と、蒼い電気を身に纏う青年、そして両手に剣を構えた青年が二人の男と対峙しているのが見える。あれがおそらく際神が言っていたステインとかいう男だろう。もう片方は……聞いたことも見たことも無いが両手に構える拳銃からとんでもないプレッシャーを感じる。この感じは俺の持っている銃と同列のもの?……いや、今はそんなことはどうでもいい。
弧を描くように引かれた線も下りへと突入したので走るのをやめて滑るように降っていく。銃を構え、狙いがズレないように姿勢を整え、荒い呼吸を整える。
一発、二発、そして三発。
一発目は確かに男の左手の拳銃を弾いた。しかし二発目三発目はその隣にいるステインに弾かれてしまった。
際神、新條、ローランと拳銃を弾かれた男が何が起こったのか理解できずに周りを見回している中、ステインだけが俺を捉えてその場から奇声を発しながら飛び出してきた。
「ァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアア!」
自分の頭に振り下ろされる剣を両手に持った武器で防ぐ。
なんて跳躍力してやがる!普通の人間じゃあそこから飛んでここまで来るなんて不可能だろ!?
「おんやぁ?新しいお客さんですかぁ?」
「くっ……さてね……出迎えにしては穏やかじゃないな……!」
さらに力を込めて押し込んでくる。
「お客様を派手にお出迎えするのがうちのモットーですから?これくらいの余興、どうてことないですなぁ!」
ぐっ……力が……純粋な筋力じゃ勝ち目なんて無い。でも一応俺だってやるだけ考えてきたんだぜ?
そろそろ『軌跡』の効力が切れるがそれを悟られないようにギリギリまで我慢する。こいつは普通じゃない、こんな高い場所にいるのに恐怖心が存在せず戦闘に狂喜を見出している。人に簡単に剣を振るえるような奴とまともに殺りやっても押されるのはこっちだ。それならその恐怖心を炙り出してやる!
『軌跡』が薄まり少しづつ存在を消し始める。そして消える寸前のところで銃口を空に向けて発射。
それを見たステインはガッカリしたような顔をする。
「はぁ……諦めちまったんですかえ?」
まだだ……よく見極めろ、でも悟られるな……。
「仕方ないっすねぇ?俺っちが止めさしましょ?」
五……四……。
「空ばかり見て話すら聞いちゃいねぇよ」
三……二……一……。
ステインがもう一度構え直して剣を引く。そして邪悪な笑みを浮かべて再度振り下ろす。
「ほなさいな───」
ここだ!
「解除!」
足場が無くなり俺を支えていたものが消えて二人揃って落ちる。
「ありり?」
姿勢を崩したステインの剣は俺のすぐ横を通る。
「このまま落ちてもらうぞ」
落下して地面にたたきつけられれば必ず死ぬ高さ、生身の人間でこれに耐えられるやつなんてまずいないはず。
「しかーしぃ?このままじゃお前さんまでおっ死んじゃいますがぁ?額に汗をかいて余裕ありゃしませんよぉ?」
「そりゃそうだ、俺だってこの高さから落ちれば死ぬんだからな?それが怖くない人間はいねぇよ。それともなんだ?お前は死ぬのが怖くないってか?」
そう言うがステインはニタっと笑い余裕の表情を見せてくる。
「あっしは怖いものなんかありゃしませんからねぇ、こんなにもワンダフォーな死に方できりゃそれはそれで超ハッピー!て感じ?」
それを聞いて俺は安心した。そういうことならこいつは俺のことしか見えていない。恐怖心の無いやつが周りを警戒するわけがなかった。
「そうか、それなら一人で勝手に落ちてくれ。軌跡!」
重力に従って落下していた体が減速して今度は空へと向かう。その先には先程撃った弾丸で作られた『軌跡』がある。体を無理やりひねりその上に立つ。
『重力の軌跡』発動した瞬間に自分の体を引かれた線に引き寄せる。引き寄せるだけでそのままにしていれば体のどこかをぶつけることもあるのでこうやって調整して着地する必要はあるが……瞬間瞬間の反応は難しいけれど事前に分かってさえいれば十分使える。
「ふぅ、それでも本当に死ぬかと思った……さてと、どこかの木とかに引っかかってないかなー?」
地面を真っ直ぐ見下ろしてステインを探す。
「あれ?どこいった?この辺りに落ちてってはずなんだけどな……?」
『軌跡』の上を歩いて地面にさらに近づいて探してみるもステインはおろか、人が落ちた痕跡さえも見当たらない。
「久瀬!」
際神呼ばれて何かとそっちを見ると、視界の隅で何かの影が近づいてくるのに気づいた。
咄嗟に向くと怪しく輝く刀身が俺の首を貫こうとしている!
『軌跡』を解除して回避を試みるも完全にかわすことは叶わず、右の肩口を大きく切られてしまう。
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よくよく考えればおかしいことだらけだった。普通の人間があの距離を飛べるわけがないし、あんな不安定な足場で、しかも俺しか立てないはずなのにあいつはずっと俺に張り付いていた。クソッ!なんで気がつかなかったんだ……!こいつは、飛べる!
でも飛ぶためには何か特別な力が作用しないといけないはずだ。手元の剣からオーラが溢れているからそれが原動力になっているのか?
「軌跡……!」
右手に持った剣で宙を切り『軌跡』を出現させて、それに掴まる。右肩に自重がかかり傷が広がり血が吹き出す。肩の痛みに我慢できず、際神の足ものに照準を合わせて発砲。握る『軌跡』を解除して足元にできた『軌跡』に乗り移り建物に滑り込む。
「よぉ、助けに来たぜ?」
床に転がって三人を見上げるように姿勢でそう言うと、際神達はなんとも言えない表情をしていた。
「いやいやいや、そんなに締まらない登場初めて見たんですけど?しかもこの状況どう考えてもお前が助けられる側だろ」
「それもそうか、なら助けてもらうとするか?」
冗談でそう言うと肩を落として気落ちした様子で、
「冗談言う余裕あるか馬鹿。自分で立ちやがれ」
と言って俺の背中を叩く。その衝撃が肩にまで伝わり激痛で飛び上がる。
「痛ってぇ!何すんだよ!こっちは怪我人だぞ!?少しはいたわれよ!」
「そんな冗談言える怪我人がいてたまるか!怪我人だって言うならもっと怪我人っぽい態度を取れよ!」
そう際神に噛みついているとローランが俺達の間に入ってくる。
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そうお願いされるとこっちとしても断れないな。
再度幻具を出現させて三人の前に立って言う。
「もともとそのつもりで来ましたからね。やってやるよ」
三人もそれぞれの力を発揮して構える。
「それじゃぁ、俺と久瀬があのおっさんで。ハルとローランがステインとって感じでいいかな?」
「「「賛成」」」
采配が決まったところで際神と新條が息を深く吸う。そして建物いっぱいに響くような声で叫ぶ!
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