22 / 57
氷の姫と悪魔の中間試験
Period.6 親愛なる自分へ
しおりを挟む
「お前を消した───お前達を───お前達を───何故───何故───何故───また私に───歯向かう?」
アンリ・マンユは黒いオーラを滲ませてこちらを睨む。さっきまでとは違い、明らかな怒りを感じさせる。
「思いもよらない人の登場で怒り心頭かな?過去の自分に出逢えたんだからもっと感動してもいいと思うんだけどなぁ」
アンラマユも灰色のオーラを滲ませて対峙する。
「私───は───お前が───私が嫌い───憎い───憎い───お前らが───殺す───だから戻す───」
「知っているさ、だってそれは僕が忘れてしまった感情だから……僕の生涯のほとんどを占めておきながら最初に失った感情……ここに大きな穴が空いた様な気分だ」
自分の胸を指差して語りかける。
「お前が───憎んだ───だから出てきた───なのに何故?───否定する」
「君が離れてくれたおかげで気付いたんだよ。怒りや憎しみだけじゃ何も出来ないってね」
「それでも私は───私は誰かを憎み殺すことしか出来ない!お前のせいで!」
アンリ・マンユの目に生気が戻る。
それを見たアンラマユは嬉しそうに笑っていた。
「ようやく本来の僕に戻ってくれたね?さぁ、ここからが勝負だ……神になりきれなかった者同士存分にやり合おう」
「うるさい!私は神!罪、悪意を一身に受けた神!」
怒りで増大した黒いオーラと共にこちらに向かってくるアンリ・マンユ、しかしそれはもう一人の自分によって止められる。
「違う、僕は人間だ、罪、悪意を一身に受けた人間なんだ」
アンラマユが空間を震わせてその衝撃でアンリ・マンユを吹き飛ばす。
「悠斗!」
「おう!任せろ!」
吹き飛ばされているアンリ・マンユを追撃する。左右の剣で十字にその体を切り裂く。また戻ってしまうともう一度攻撃を仕掛け用とするが、アンリ・マンユの体が修復されることは無かった。
「戻れ!戻ってよ!」
何度も力を行使するが、アンリ・マンユの体が直る──戻ることは無かった。
「な……んで?私は神なのに!あいつらに復讐するために神になったのに!」
「『回帰』が使えないのかい?それは当然だ、君はたった今人間に戻ったからね」
アンリ・マンユは訳が分からないと自分の分身を睨む。
「どういう……ことだ……!」
「アンリ・マンユであり続けるために必要だったのは君自身が『無』であり続けること、そして自分の罪、悪意も受け入れることだったんだよ。でも君はそれを今否定した……神格を失った君に残されたのは憎しみだけを持った『人間』であることだけさ」
「嘘だ!私はあいつらの罪も自分の罪も全てをこの身に受け入れたんだ!」
アンラマユは語気を強めて、その望みを否定する。
「いいや、君は受け入れてなんかいない、その証拠にこの僕がいる」
アンリ・マンユは頭を抱えて必死にその事実を否定する。
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!私は……私は……自分の悪意を……認めて……受け入れている!」
神格を持っていた時と同じオーラが迸る。アンリ・マンユの目から生気が失われ、最初に出会った頃と同じ『無』を感じさせるようになった。しかし、その中に僅かながら『怒り』も感じる。
「私は───神───戻す───廻す神」
これは予想外らしく、アンラマユが厳しい表情をして声を絞り出す。
「世界の真理を捻じ曲げて無理矢理神格を取り戻した!?そこまで僕の恨みは深く、複雑なものだってことか……!」
俺はその場から飛び出して、アンリ・マンユに斬り掛かる。二本の剣が燃やし、凍らして斬るが、『回帰』の力を取り戻したアンリ・マンユには一切効かない。
「悠斗!そこから逃げて!」
その声を聞いてその場から離脱する。その瞬間に俺がいた場所が消えて、戻った。
危ねぇ、今のに当たってたらどうなってた……?
『気をつけろ相棒、相手は半分だけとはいえ神だ、やつを消すならその根底から消し去らねばならぬ』
一瞬アンラマユのことが頭をよぎるが、その考えを振り払う。アンラマユを殺すなんてありえない、守ると約束した相手を殺せるかよ!
「アンラマユ!俺はどうしたらいい!どうすればやつを倒せる!?」
「僕がやつを抑えてやつを形成している『核』を引きずり出す!だからそれを叩いてくれ!」
「了解!」
アンリ・マンユとアンラマユがぶつかり合う。その衝撃だけで家が吹き飛び、クレーターを作る。『回帰』の力を使ったとしてもそれをアンラマユが相殺して、さらに攻撃を加えていく、黒と灰色のオーラが目まぐるしく行き交う。そこに俺が入り込めるはずもなく、その場で神と神の戦いを一瞬たりとも見逃さないようにじっと見ていた。
「タァァァァァァアアア!」
アンラマユが相手の頭を切り落とす。ボトリと地面に転げ落ちるが、すぐに消えて元あった場所に戻ってしまう。
「これももうジリ貧だな」
そう言って自分のオーラで作った剣を投げ捨てる。
「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す───」
アンリ・マンユもアンラマユを奪い、消しにかかる。その顔は、ほんとに神格をもう一度得て、『無』なったのかと疑いたくなるほど……怒りに満ちていた。
なんでこいつはこんなにも自分を恨んでいる?なんで一番許されるべきの自分を一番許さない?アンリ・マンユが憎しみを向けているのは自分を苦しめた大人達なんじゃないのか?
「殺───カハッ───」
アンラマユの攻撃がアンリ・マンユを捕らえた。
「君が僕を嫌いでも僕は君が大好きだ、でもそれは自分だからじゃない、僕からすれば君がとても美しいからさ」
相手を消し去る為ではなく捕縛するための攻撃、アンラマユがアンリ・マンユの体に手をかざす。するとそこから白い光玉が出てきた。
『相棒!あれがアンリ・マンユの「核」だ!全力で叩け!』
「悠斗!今だ!」
二人の声で思考が現実に引き戻される。
そうだ!早くあいつを倒さねぇと!
右手に持った剣を燃え上がらせる。確実に敵を滅ぼせるように。確実にあいつが消えるように。
「これで……終わりだァァァァァァアアアア!」
その場で苦しむアンリ・マンユから出ている光玉を砕き、完全に消滅させる。『核』を砕かれたアンリ・マンユは徐々にこの世から姿を消していく。
『アンリ・マンユ、お前が俺を見放す様に俺にとってお前に価値は無い』
『核』を砕かれ、神格を失いもう一度人間に戻ったアンリ・マンユは、アジ・ダハーカのその一言を聞いて涙を流す。
「アンリ・マンユ、俺は君を見放さない。これからも忘れない。」
『…………相棒』
「いいだろ別に、これから消えてくんだから少しでも楽にしてあげようぜ?」
『…………』
そうして、『輪廻の偽神』アンリ・マンユは消えてった。
俺達の勝利を先輩に伝える。
「先輩、悠斗です。アンリ・マンユに勝ちました」
『そう、お疲れ様。ザスター、リタイヤを宣言してもらえる?』
近くにザスターがいるのか、意識が戻ってよかった。
『あぁ、降参……俺の負けだ』
ザスターが負けを認めたところで試合終了のアナウンスが鳴る。
『ゲームセット。勝者、リーナ・グランシェール。これから順番に転移が始まります。転移後、治療が必要な人は救護班までどうぞ』
終わった……か……。
その場で仰向けに倒れる、手が痺れて力が入らない。人生で初めての試合がこんな大変だなんて思ってもなかった。
「お疲れ悠斗、ありがとね?僕のためにこんな無茶してくれて」
「そんなこと言うなよ、これが終わったらどっか飯にでも行くか?なぁ……て、おい……なんだよそれ?」
アンラマユの方を見ると半分消えかけていた。
「仕方ないよ、僕と彼女は二人で一人、彼女の神格は僕の神格でもあるんだからね?彼女がいなくなれば僕が消えるのも当然だよ」
「そんなのってありかよ……だってお前はこれから自由になるはずだろ?」
「だから今から自由になるんだよ。ようやく僕は消えることができるんだよ?」
「俺が言いたいのはそうじゃなくて……そんな人生でいいのかよ……そんな、なんの楽しみも無い人生で」
アンラマユが死ぬことを知って涙が溢れてくる。
「泣かないでよ悠斗、僕は人間だ、本来は死んで当たり前なんだよ。それに僕には一つだけ嬉しいことがあったよ?……ふぅ、僕は少し長く生き過ぎてしまったみたいだ、疲れたしそろそろ寝るよ。じゃぁまたね」
涙を拭いて立ち上がり、アンラマユに別れの握手を求める。だが、アンラマユはその手を取ろうとはしなかった。
「今その手を取ってしまったら、僕は戻れなくなってしまう。悲しいけど、僕はその手を握れない……」
「……そうかよ。じゃぁな、アンラマユ……『終曲の隻神』アンラマユ」
アンラマユは消える寸前に大粒の涙を零した。
「ありがとね……ありがとね悠斗。それにアジ・ダハーカ、君にはすまないことをした」
「いちいち泣くなよ」
『気にせずとっとと寝るがいい、俺は俺だ』
そうしてアンリ・マンユとアンラマユは消えた。
足元に転移用魔法陣が現れる。帰ったらとりあえず治療を受けて寝よう。
「お疲れ、悠斗君、ごめんね?間に合わなくて」
「うおぁ!?どっから出てきた!?」
後ろに氷翠が立っていた。
「悠斗君のこと心配になって走ってたけど、決着に間に合わなかったんだよ」
危ない事考えるなぁこいつは……
「それとあの、ちゃんと面と向かってお礼言えてなかったから……ありがとね、私のこと助けてくれて、今こうやっていろんな人と話したりとかこういう冒険が出来てるのは悠斗君のおかげだよ」
「なんでぇ今更……お?そろそろ転移だ」
目の前が青く光、先輩の家に戻った俺は治療を受けてさっさと寝ることにした。
あー!疲れた!
アンリ・マンユは黒いオーラを滲ませてこちらを睨む。さっきまでとは違い、明らかな怒りを感じさせる。
「思いもよらない人の登場で怒り心頭かな?過去の自分に出逢えたんだからもっと感動してもいいと思うんだけどなぁ」
アンラマユも灰色のオーラを滲ませて対峙する。
「私───は───お前が───私が嫌い───憎い───憎い───お前らが───殺す───だから戻す───」
「知っているさ、だってそれは僕が忘れてしまった感情だから……僕の生涯のほとんどを占めておきながら最初に失った感情……ここに大きな穴が空いた様な気分だ」
自分の胸を指差して語りかける。
「お前が───憎んだ───だから出てきた───なのに何故?───否定する」
「君が離れてくれたおかげで気付いたんだよ。怒りや憎しみだけじゃ何も出来ないってね」
「それでも私は───私は誰かを憎み殺すことしか出来ない!お前のせいで!」
アンリ・マンユの目に生気が戻る。
それを見たアンラマユは嬉しそうに笑っていた。
「ようやく本来の僕に戻ってくれたね?さぁ、ここからが勝負だ……神になりきれなかった者同士存分にやり合おう」
「うるさい!私は神!罪、悪意を一身に受けた神!」
怒りで増大した黒いオーラと共にこちらに向かってくるアンリ・マンユ、しかしそれはもう一人の自分によって止められる。
「違う、僕は人間だ、罪、悪意を一身に受けた人間なんだ」
アンラマユが空間を震わせてその衝撃でアンリ・マンユを吹き飛ばす。
「悠斗!」
「おう!任せろ!」
吹き飛ばされているアンリ・マンユを追撃する。左右の剣で十字にその体を切り裂く。また戻ってしまうともう一度攻撃を仕掛け用とするが、アンリ・マンユの体が修復されることは無かった。
「戻れ!戻ってよ!」
何度も力を行使するが、アンリ・マンユの体が直る──戻ることは無かった。
「な……んで?私は神なのに!あいつらに復讐するために神になったのに!」
「『回帰』が使えないのかい?それは当然だ、君はたった今人間に戻ったからね」
アンリ・マンユは訳が分からないと自分の分身を睨む。
「どういう……ことだ……!」
「アンリ・マンユであり続けるために必要だったのは君自身が『無』であり続けること、そして自分の罪、悪意も受け入れることだったんだよ。でも君はそれを今否定した……神格を失った君に残されたのは憎しみだけを持った『人間』であることだけさ」
「嘘だ!私はあいつらの罪も自分の罪も全てをこの身に受け入れたんだ!」
アンラマユは語気を強めて、その望みを否定する。
「いいや、君は受け入れてなんかいない、その証拠にこの僕がいる」
アンリ・マンユは頭を抱えて必死にその事実を否定する。
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!私は……私は……自分の悪意を……認めて……受け入れている!」
神格を持っていた時と同じオーラが迸る。アンリ・マンユの目から生気が失われ、最初に出会った頃と同じ『無』を感じさせるようになった。しかし、その中に僅かながら『怒り』も感じる。
「私は───神───戻す───廻す神」
これは予想外らしく、アンラマユが厳しい表情をして声を絞り出す。
「世界の真理を捻じ曲げて無理矢理神格を取り戻した!?そこまで僕の恨みは深く、複雑なものだってことか……!」
俺はその場から飛び出して、アンリ・マンユに斬り掛かる。二本の剣が燃やし、凍らして斬るが、『回帰』の力を取り戻したアンリ・マンユには一切効かない。
「悠斗!そこから逃げて!」
その声を聞いてその場から離脱する。その瞬間に俺がいた場所が消えて、戻った。
危ねぇ、今のに当たってたらどうなってた……?
『気をつけろ相棒、相手は半分だけとはいえ神だ、やつを消すならその根底から消し去らねばならぬ』
一瞬アンラマユのことが頭をよぎるが、その考えを振り払う。アンラマユを殺すなんてありえない、守ると約束した相手を殺せるかよ!
「アンラマユ!俺はどうしたらいい!どうすればやつを倒せる!?」
「僕がやつを抑えてやつを形成している『核』を引きずり出す!だからそれを叩いてくれ!」
「了解!」
アンリ・マンユとアンラマユがぶつかり合う。その衝撃だけで家が吹き飛び、クレーターを作る。『回帰』の力を使ったとしてもそれをアンラマユが相殺して、さらに攻撃を加えていく、黒と灰色のオーラが目まぐるしく行き交う。そこに俺が入り込めるはずもなく、その場で神と神の戦いを一瞬たりとも見逃さないようにじっと見ていた。
「タァァァァァァアアア!」
アンラマユが相手の頭を切り落とす。ボトリと地面に転げ落ちるが、すぐに消えて元あった場所に戻ってしまう。
「これももうジリ貧だな」
そう言って自分のオーラで作った剣を投げ捨てる。
「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す───」
アンリ・マンユもアンラマユを奪い、消しにかかる。その顔は、ほんとに神格をもう一度得て、『無』なったのかと疑いたくなるほど……怒りに満ちていた。
なんでこいつはこんなにも自分を恨んでいる?なんで一番許されるべきの自分を一番許さない?アンリ・マンユが憎しみを向けているのは自分を苦しめた大人達なんじゃないのか?
「殺───カハッ───」
アンラマユの攻撃がアンリ・マンユを捕らえた。
「君が僕を嫌いでも僕は君が大好きだ、でもそれは自分だからじゃない、僕からすれば君がとても美しいからさ」
相手を消し去る為ではなく捕縛するための攻撃、アンラマユがアンリ・マンユの体に手をかざす。するとそこから白い光玉が出てきた。
『相棒!あれがアンリ・マンユの「核」だ!全力で叩け!』
「悠斗!今だ!」
二人の声で思考が現実に引き戻される。
そうだ!早くあいつを倒さねぇと!
右手に持った剣を燃え上がらせる。確実に敵を滅ぼせるように。確実にあいつが消えるように。
「これで……終わりだァァァァァァアアアア!」
その場で苦しむアンリ・マンユから出ている光玉を砕き、完全に消滅させる。『核』を砕かれたアンリ・マンユは徐々にこの世から姿を消していく。
『アンリ・マンユ、お前が俺を見放す様に俺にとってお前に価値は無い』
『核』を砕かれ、神格を失いもう一度人間に戻ったアンリ・マンユは、アジ・ダハーカのその一言を聞いて涙を流す。
「アンリ・マンユ、俺は君を見放さない。これからも忘れない。」
『…………相棒』
「いいだろ別に、これから消えてくんだから少しでも楽にしてあげようぜ?」
『…………』
そうして、『輪廻の偽神』アンリ・マンユは消えてった。
俺達の勝利を先輩に伝える。
「先輩、悠斗です。アンリ・マンユに勝ちました」
『そう、お疲れ様。ザスター、リタイヤを宣言してもらえる?』
近くにザスターがいるのか、意識が戻ってよかった。
『あぁ、降参……俺の負けだ』
ザスターが負けを認めたところで試合終了のアナウンスが鳴る。
『ゲームセット。勝者、リーナ・グランシェール。これから順番に転移が始まります。転移後、治療が必要な人は救護班までどうぞ』
終わった……か……。
その場で仰向けに倒れる、手が痺れて力が入らない。人生で初めての試合がこんな大変だなんて思ってもなかった。
「お疲れ悠斗、ありがとね?僕のためにこんな無茶してくれて」
「そんなこと言うなよ、これが終わったらどっか飯にでも行くか?なぁ……て、おい……なんだよそれ?」
アンラマユの方を見ると半分消えかけていた。
「仕方ないよ、僕と彼女は二人で一人、彼女の神格は僕の神格でもあるんだからね?彼女がいなくなれば僕が消えるのも当然だよ」
「そんなのってありかよ……だってお前はこれから自由になるはずだろ?」
「だから今から自由になるんだよ。ようやく僕は消えることができるんだよ?」
「俺が言いたいのはそうじゃなくて……そんな人生でいいのかよ……そんな、なんの楽しみも無い人生で」
アンラマユが死ぬことを知って涙が溢れてくる。
「泣かないでよ悠斗、僕は人間だ、本来は死んで当たり前なんだよ。それに僕には一つだけ嬉しいことがあったよ?……ふぅ、僕は少し長く生き過ぎてしまったみたいだ、疲れたしそろそろ寝るよ。じゃぁまたね」
涙を拭いて立ち上がり、アンラマユに別れの握手を求める。だが、アンラマユはその手を取ろうとはしなかった。
「今その手を取ってしまったら、僕は戻れなくなってしまう。悲しいけど、僕はその手を握れない……」
「……そうかよ。じゃぁな、アンラマユ……『終曲の隻神』アンラマユ」
アンラマユは消える寸前に大粒の涙を零した。
「ありがとね……ありがとね悠斗。それにアジ・ダハーカ、君にはすまないことをした」
「いちいち泣くなよ」
『気にせずとっとと寝るがいい、俺は俺だ』
そうしてアンリ・マンユとアンラマユは消えた。
足元に転移用魔法陣が現れる。帰ったらとりあえず治療を受けて寝よう。
「お疲れ、悠斗君、ごめんね?間に合わなくて」
「うおぁ!?どっから出てきた!?」
後ろに氷翠が立っていた。
「悠斗君のこと心配になって走ってたけど、決着に間に合わなかったんだよ」
危ない事考えるなぁこいつは……
「それとあの、ちゃんと面と向かってお礼言えてなかったから……ありがとね、私のこと助けてくれて、今こうやっていろんな人と話したりとかこういう冒険が出来てるのは悠斗君のおかげだよ」
「なんでぇ今更……お?そろそろ転移だ」
目の前が青く光、先輩の家に戻った俺は治療を受けてさっさと寝ることにした。
あー!疲れた!
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
私の物を奪っていく妹がダメになる話
七辻ゆゆ
ファンタジー
私は将来の公爵夫人として厳しく躾けられ、妹はひたすら甘やかされて育った。
立派な公爵夫人になるために、妹には優しくして、なんでも譲ってあげなさい。その結果、私は着るものがないし、妹はそのヤバさがクラスに知れ渡っている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる