上 下
15 / 18
さがしみち

さがしみち⑤

しおりを挟む
日本の伝承や都市伝説について研究している怪しげな友人の巽くらげと、彼から紹介されたスヴィンと名乗る女性が最寄りの駅に降りつのを貴方は待っていた。
不思議な白昼夢に襲われるタイミングは今まで、帰宅の途中であった。
そういえば、それ以外の時間に囚われたことは一度もなかった。
改札から出てきたのは、小柄で華奢な女性であった。
スヴィンという名前から、勝手に西洋の方だと思い込んでいた印象が間違いであったことに気づく。
「はじめて、スヴィン村上と申します」
と流暢な日本語で話す。
顔立ちから同じアジア系の人種であることは想像できた。
巽の方が頭一つ分背が高く、父娘に見えなくもないがスヴィンの顔は幼さの中に芯の強さが感じられる目をしていた。
「久しぶり……といっても一ヶ月ぶりくらいか。彼女が探しものが得意な霊能力者だよ」
と紹介をする。
「巽、ノー。霊能力者ではありません。でも、探しものは本当に得意です。今日も迷わずこの駅までこれましたね」
と巽に笑いかける。
本当に親しい間柄なのだろう。
「大体の事情は話してあるけれど昨日はこの駅で白昼夢を見たんだね」
と言われ貴方はうなずく。
「ふむ、特に気になるものはありませんね」
とスヴィンは辺りを見渡しながら言った。
「もう少し詳しい話を聞かせて欲しい。あそこの喫茶店で話そう」
近所に住んではいるものの、入りにくい地元の喫茶店を巽は指定した。
中は意外と広く、カウンター以外にテーブル席が3つあり一番奥の席に案内された。
週末だというのに、他には客はいない。
「場所じゃなく、場面なのかもしれませんね。帰宅途中というシチュエーションが大事なのかもしれない」
とスヴィンが言う。
巽は何かメモをとっていた。
「そして、そこは実在していない。貴方の想像の中にしかない集落だと思います」
「いろいろ調べても見つからなかった訳だ」
「人間が懐かしいと感じる時には、それは実際の過去の出来事と必ずしも結びついている訳ではないのです。テレビや本などから得た日本人的、文化的な郷里のイメージがたんに共有されてきただけなのです」
スヴィンの日本語のは淀みが一切ない。
「今回の白昼夢は、いわば人間の帰りたいという深い根元が見せた幻想、理想郷を反映しているに過ぎません」
「帰りたいねぇ。私はあまり感じたことはないが」
巽がそう話す。
貴方も、帰るべき家はこの街にあると感じていたし田舎に両親や家族が住んでいる訳ではなかった。
「そう。それぞれが考える望郷の思念の集合体を貴方は見せられているのだと思います」
いったいなぜ、誰が何のためにそんなものを見せているのだろうか。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三大ゾンビ 地上最大の決戦

島倉大大主
ホラー
某ブログ管理人との協議の上、618事件に関する記事の一部を 抜粋して掲載させていただきます。

機織姫

ワルシャワ
ホラー
栃木県日光市にある鬼怒沼にある伝説にこんな話がありました。そこで、とある美しい姫が現れてカタンコトンと音を鳴らす。声をかけるとその姫は一変し沼の中へ誘うという恐ろしい話。一人の少年もまた誘われそうになり、どうにか命からがら助かったというが。その話はもはや忘れ去られてしまうほど時を超えた現代で起きた怖いお話。はじまりはじまり

ゴーストバスター幽野怜Ⅱ〜霊王討伐編〜

蜂峰 文助
ホラー
※注意! この作品は、『ゴーストバスター幽野怜』の続編です!! 『ゴーストバスター幽野怜』⤵︎ ︎ https://www.alphapolis.co.jp/novel/376506010/134920398 上記URLもしくは、上記タグ『ゴーストバスター幽野怜シリーズ』をクリックし、順番通り読んでいただくことをオススメします。 ――以下、今作あらすじ―― 『ボクと美永さんの二人で――霊王を一体倒します』 ゴーストバスターである幽野怜は、命の恩人である美永姫美を蘇生した条件としてそれを提示した。 条件達成の為、動き始める怜達だったが…… ゴーストバスター『六強』内の、蘇生に反発する二名がその条件達成を拒もうとする。 彼らの目的は――美永姫美の処分。 そして……遂に、『王』が動き出す―― 次の敵は『十丿霊王』の一体だ。 恩人の命を賭けた――『霊王』との闘いが始まる! 果たして……美永姫美の運命は? 『霊王討伐編』――開幕!

怪談短歌

牧田紗矢乃
ホラー
短歌のリズムで怖い話を書いてみました。 タイトルの通り一部ホラー的な要素を含みますので苦手な方はご注意ください。 ヤンデレ系(?)も多いです。 全話解説付き。 他のサイトでも公開しています。

【死に文字】42文字の怖い話 【ゆる怖】

灰色猫
ホラー
https://www.alphapolis.co.jp/novel/952325966/414749892 【意味怖】意味が解ると怖い話 ↑本編はこちらになります↑ 今回は短い怖い話をさらに短くまとめ42文字の怖い話を作ってみました。 本編で続けている意味が解ると怖い話のネタとして いつも言葉遊びを考えておりますが、せっかく思いついたものを 何もせずに捨ててしまうのももったいないので、備忘録として 形を整えて残していきたいと思います。 カクヨム様 ノベルアップ+様 アルファポリス様 に掲載させていただいております。 小説家になろう様は文字が少なすぎて投稿できませんでした(涙)

短な恐怖(怖い話 短編集)

邪神 白猫
ホラー
怪談・怖い話・不思議な話のオムニバス。 ゾクッと怖い話から、ちょっぴり切ない話まで。 なかには意味怖的なお話も。 ※追加次第更新中※ YouTubeにて、怪談・怖い話の朗読公開中📕 https://youtube.com/@yuachanRio

ナオキと十の心霊部屋

木岡(もくおか)
ホラー
日本のどこかに十の幽霊が住む洋館があった……。 山中にあるその洋館には誰も立ち入ることはなく存在を知る者すらもほとんどいなかったが、大企業の代表で億万長者の男が洋館の存在を知った。 男は洋館を買い取り、娯楽目的で洋館内にいる幽霊の調査に対し100億円の謝礼を払うと宣言して挑戦者を募る……。 仕事をやめて生きる上での目標もない平凡な青年のナオキが100億円の魅力に踊らされて挑戦者に応募して……。

怪物どもが蠢く島

湖城マコト
ホラー
大学生の綿上黎一は謎の組織に拉致され、絶海の孤島でのデスゲームに参加させられる。 クリア条件は至ってシンプル。この島で二十四時間生き残ることのみ。しかしこの島には、組織が放った大量のゾンビが蠢いていた。 黎一ら十七名の参加者は果たして、このデスゲームをクリアすることが出来るのか? 次第に明らかになっていく参加者達の秘密。この島で蠢く怪物は、決してゾンビだけではない。

処理中です...