上 下
4 / 18
みなげかがみ

みなげかがみ④

しおりを挟む
館に入ってすぐに感じた違和感がいくつかあった。
古い館にしては大きな天井を支える為の柱や壁が異様に少ない。
また、全体的に角が少なく曲線的な構造になっている。
言い換えると、身をを隠すような場所がほとんど無いと気付く。
かなり前に建てられたはずだが、監視カメラなどのセキリティが厳重で空き巣なら泣いて逃げ出したくなる空間である。
「屋敷の主人と、直接話されたことは?」
「ええ、生前から付き合いがありました。かなり猜疑心の強い方で、よほど信用のおける人間にしか心の内を明かさない方で、正直私の印象は何を考えているのか分からない人物というのが本音でした」
と初老の男が話す。
「なるほど」
「晩年、財団に相談があったのも奥様の事件があった為でして最初は鏡を、それからしばらくしてこの建物そのものを手放したいとおっしゃっていました」
「鏡については、何か聞いていましたか?」
「はい、手に入れられた経緯は不明ですがインドで購入されたいわくつきの鏡だとおっしゃっていました。物事の本質や真実を映し出す鏡らしいと」
「奥様が亡くなった時の状況は?」
「はい、それがよく分かっていないのです。鏡をご覧になった奥様は顔を真っ赤にされ、慌てて屋敷を出られた。その夜に近くの川で溺死されているのが見つかった」
「真っ青ではなく、真っ赤?」
「はい、奥様の世話係をしていた者の話では見知らぬ男と情事に耽っている自分の姿が映った。世話係が見ても普通の鏡だったが慌てて隠そうとされたと」
「見知らぬ男?」
「はい、奥様が密かに好意をよせていた男性かもしれませんし、単に象徴としてのパートナーの姿なのかもしれませんが」
「他の被害者も?」
対象者が自殺したと聞いたばかりだったが、巽は被害者という言葉を使った。
「また、別の者が見た際には自分が誰かに暴力をふるっている姿が映ったという者、多くは語りませんでしたが過去に犯した重大な罪が暴露されそうになったとの証言もありました」
「実際には、他の者には見えないが本人達にはそう感じられた」
「ええ、そして鏡だけにとどまらず窓や液晶などの映りこむものに伝播していく」
「集団幻覚ですかね。それなら鏡を布かなにかで覆い被せてしまえばいいんじゃないですか?」
「そうなんです。普通なら元凶の鏡を隠すことで事態は収拾するはずでした。ですが、屋敷の主人である真壁は周囲の人間に積極的に鏡を見せることで本性を明らかにしようとしたのです」
「奥様がなくなった原因かもしれないのにですか?」
「一方で、そのような鏡の存在を信じていなかったのもあります。奥様は、たんに浮気相手に会うために屋敷を出て事故にあったのだろうと」
「最初に証言した世話係がウソをついていると思った訳ですね」
「ええ。それならお前が鏡を覗きこんでみろと」
「それから謎の怪死が続きます。鏡を見た人間が次々に発狂していく姿を見ながら、自身もその鏡の魔力に飲み込まれていく」
「本人はなんと言っていたんですか?」
「自分の姿とそっくりの悪魔が鏡に映ったと言っていたようです」
鏡に自分の姿が映るのは当たり前だろうと思う。
「鏡の中の男の表情はまるで、この惨事を楽しむようにニタニタと不気味な笑みをうかべていたとおっしゃっていました」
死因も動機もバラバラだったが、共通するのはいわくつきの鏡と相対してしまった事だと初老の男は話した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三大ゾンビ 地上最大の決戦

島倉大大主
ホラー
某ブログ管理人との協議の上、618事件に関する記事の一部を 抜粋して掲載させていただきます。

機織姫

ワルシャワ
ホラー
栃木県日光市にある鬼怒沼にある伝説にこんな話がありました。そこで、とある美しい姫が現れてカタンコトンと音を鳴らす。声をかけるとその姫は一変し沼の中へ誘うという恐ろしい話。一人の少年もまた誘われそうになり、どうにか命からがら助かったというが。その話はもはや忘れ去られてしまうほど時を超えた現代で起きた怖いお話。はじまりはじまり

ゴーストバスター幽野怜Ⅱ〜霊王討伐編〜

蜂峰 文助
ホラー
※注意! この作品は、『ゴーストバスター幽野怜』の続編です!! 『ゴーストバスター幽野怜』⤵︎ ︎ https://www.alphapolis.co.jp/novel/376506010/134920398 上記URLもしくは、上記タグ『ゴーストバスター幽野怜シリーズ』をクリックし、順番通り読んでいただくことをオススメします。 ――以下、今作あらすじ―― 『ボクと美永さんの二人で――霊王を一体倒します』 ゴーストバスターである幽野怜は、命の恩人である美永姫美を蘇生した条件としてそれを提示した。 条件達成の為、動き始める怜達だったが…… ゴーストバスター『六強』内の、蘇生に反発する二名がその条件達成を拒もうとする。 彼らの目的は――美永姫美の処分。 そして……遂に、『王』が動き出す―― 次の敵は『十丿霊王』の一体だ。 恩人の命を賭けた――『霊王』との闘いが始まる! 果たして……美永姫美の運命は? 『霊王討伐編』――開幕!

ナオキと十の心霊部屋

木岡(もくおか)
ホラー
日本のどこかに十の幽霊が住む洋館があった……。 山中にあるその洋館には誰も立ち入ることはなく存在を知る者すらもほとんどいなかったが、大企業の代表で億万長者の男が洋館の存在を知った。 男は洋館を買い取り、娯楽目的で洋館内にいる幽霊の調査に対し100億円の謝礼を払うと宣言して挑戦者を募る……。 仕事をやめて生きる上での目標もない平凡な青年のナオキが100億円の魅力に踊らされて挑戦者に応募して……。

【死に文字】42文字の怖い話 【ゆる怖】

灰色猫
ホラー
https://www.alphapolis.co.jp/novel/952325966/414749892 【意味怖】意味が解ると怖い話 ↑本編はこちらになります↑ 今回は短い怖い話をさらに短くまとめ42文字の怖い話を作ってみました。 本編で続けている意味が解ると怖い話のネタとして いつも言葉遊びを考えておりますが、せっかく思いついたものを 何もせずに捨ててしまうのももったいないので、備忘録として 形を整えて残していきたいと思います。 カクヨム様 ノベルアップ+様 アルファポリス様 に掲載させていただいております。 小説家になろう様は文字が少なすぎて投稿できませんでした(涙)

短な恐怖(怖い話 短編集)

邪神 白猫
ホラー
怪談・怖い話・不思議な話のオムニバス。 ゾクッと怖い話から、ちょっぴり切ない話まで。 なかには意味怖的なお話も。 ※追加次第更新中※ YouTubeにて、怪談・怖い話の朗読公開中📕 https://youtube.com/@yuachanRio

怪物どもが蠢く島

湖城マコト
ホラー
大学生の綿上黎一は謎の組織に拉致され、絶海の孤島でのデスゲームに参加させられる。 クリア条件は至ってシンプル。この島で二十四時間生き残ることのみ。しかしこの島には、組織が放った大量のゾンビが蠢いていた。 黎一ら十七名の参加者は果たして、このデスゲームをクリアすることが出来るのか? 次第に明らかになっていく参加者達の秘密。この島で蠢く怪物は、決してゾンビだけではない。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...