怪奇ファイル～禍福倚伏編～

みなげかがみ

みなげかがみ③

凄惨な事件があったという事をさしおいても、どことなく陰鬱とした印象をうけるのは、すべてのカーテンが閉じられており、昼間だというのに室内が暗い。
また、窓を開けないためかかび臭い空気が滞留しておりお世辞にも管理が行き届いているとは思えなかった。
そういう視点でみると、窓だけでなく硝子や光沢のある金属の調度品の類いも見当たらない。
「部屋の中の鏡はすべて取り外させて頂きました。一部の陶器類をのぞけば、ほとんど顔が映りこむ家具はありません」
と捕捉がある。
貴方は、顔が映りこむという表現に違和感を覚えるかもしれない。
「実際、何人の方が【みなげかがみ】の犠牲になったのですか？」
と巽が尋ねる。
「正確には解りませんが8人と把握しております」
8人も殺されたのであれば、犯罪史上でも類をみない大量殺人ではないか。
それならば、もっとニュースや話題になっていてもおかしくはない。
「最初は奥様で、次が世話係の方が亡くなられて、立て続けの不幸があり最後には屋敷の主人も自殺致しました」
自殺ならば、たしかに大きく報道されないこともあるかもしれない。だが、8人全員が自殺ということは無理心中という事なのか。
犠牲になったということは、その【鏡】が原因なのだろうか。
「やっと興味をもってくださったのですね」
と巽が表情を崩す。
鏡が人を自殺においこむ。
しかも、一度に８人もの人間が。
「事件性については完全に否定されているんですよね」
「はい、動機は不明ですが他殺の可能性はないと言われています。目撃者の証言では、急に訳の分からない事を呟きはじめ、鏡を見るたびに状況が悪化して最後には自殺を試みるという流れだったみたいです」
「試みるということは、思いとどまった方もいるんですか？」
「ええ、しばらく隔離して鏡や窓のない部屋で過ごすうちに回復し、自殺の衝動もおさまります」
ここまで明確な証言があるということは、鏡に原因があることは疑いようがないのだろう。
「生き残った方はなんと？」
「その鏡を覗きこむと、自身の内面や隠している衝動や欲望が映し出され、さらに他の鏡にも広がっていくような感覚に陥るそうです。自分の見られたくない剥き出しのままの感情がさらけ出される恐怖にかられて衝動的に自殺しようとすると話していました」
「なるほど、見られたくない本性を隠すために死を選ぶと」
「はい、実際には鏡にそのようなものが映りこむといった現象はありません。集団催眠のようなものかもしれません」
「まさに、魔鏡ですね」
そんなオカルトめいた事が起こりえるのだろうか。
貴方はその鏡そのものへの興味よりも事件に対する興味が生まれた。