踊るパーラメント

接触

菊池りゅうじは冷え切ったオフィスの空気を感じながら、デスクの上に広げられた報告書を見つめていた。横溝総理が白石悠子に仕掛けた偽情報は、一時的に彼女の調査の目を逸らすことに成功していたが、それが永遠に続くとは限らない。彼の胸にはまだ何かが弾けるような緊張感が残っていた。

そんな時、ドアが軽くノックされた。振り向くと、白石悠子がすでにオフィスの扉の前に立っていた。彼女の瞳は冷ややかで、どこか鋭い光を宿していた。「菊池さん、お時間よろしいかしら？」と、低い声で尋ねた。

菊池は動揺を隠しながら「もちろんです、白石さん。どうぞ」と答えた。彼女が室内に足を踏み入れると、部屋の空気が一段と冷たく感じられた。

「最近、総理の周りで興味深い動きがあるようね」と白石は言いながら、視線を菊池の顔から逸らさない。その声には探りを入れる意図がありありと感じられた。「あなたはその中で何を見ているのかしら？」

「総理の動きは日々複雑です。私も全てを把握しているわけではありませんが」と菊池は冷静を装い答える。だが心の奥底では、白石がどこまで気づいているのかを必死に探っていた。

白石は小さく微笑み、机の端に手を置いた。「そう。ならば、もう少し話を聞かせてほしいわね、菊池さん。あなたなら何か知っているはずよ」

その瞬間、菊池の視線が横に動き、彼の指が僅かに震えた。しかしその動きを見逃さなかった白石の瞳には、次の策略を見透かしたような色が浮かんでいた。

横溝のために嘘をつき通すか、それとも白石の追及に屈するのか──菊池の頭の中で葛藤が渦巻く中、彼は静かに息を整えた。「お話をお聞きしましょう。ただ、私にどこまでお力になれるか…」

その言葉に白石はじっと彼を見つめたまま、一瞬の間を置いて微笑んだ。その表情は疑念を深めた者のものだった。