踊るパーラメント

橘くらみ

文字の大きさ
上 下
13 / 24

告白

しおりを挟む
菊池は、過去の痛みを思い出すたびに、心の中で何かが崩れそうになるのを感じていた。横溝の優しい視線が彼を現実に引き戻す一方で、恭介との思い出が彼の心に重くのしかかっていた。菊池は自分が抱える葛藤を理解しながら、今、横溝のためにどうすべきかを考え続けていた。

「総理、実は…」と、菊池は言葉を切り出そうとしたが、口から出る言葉がなかなかまとまらなかった。横溝は、彼が何を言おうとしているのかを敏感に察知し、静かに彼を見つめ返していた。その瞬間、菊池は過去の自分を思い起こした。恭介に自分の感情を告げることができず、別れが訪れたあの日のことを。

「恭介、僕は本当に君を愛している。でも、君が去るのが怖い。僕は…」と、かつての自分が恭介に言いたかったことが、今になってこみ上げてきた。あの日、菊池は心の中の思いを言葉にすることができなかった。彼の心は、恐れと不安でいっぱいだった。

再び横溝の声が彼を現実に引き戻す。「菊池くん、どうしたのか、何か心配事があるのか?」その言葉は、菊池の心に温かい光をもたらしたが、同時に過去の恐怖を呼び起こした。彼は心の奥底で、横溝に自分の弱さを見せることに対して強い抵抗を感じた。

「総理、僕は…」と菊池は再び口を開いたが、言葉が続かない。自分の過去に縛られ、今の自分に向き合えないもどかしさが募っていく。過去の影から逃げられない自分に、苛立ちを覚えた。

そのとき、菊池はある決意を固めた。横溝のために、過去の自分を乗り越えなければならない。自分の気持ちを正直に伝えることで、横溝との絆を深めることができるのだと。彼は意を決し、目をしっかりと横溝に向けた。

「実は、僕には過去に抱えているトラウマがあります。それは、恭介という人との別れに起因しています。彼は僕にとって特別な存在で、彼を失った後は心の中に大きな傷を抱えていました」と、菊池は言った。その瞬間、彼の心が解放されていくのを感じた。

「恭介と過ごした日々は、幸せな瞬間もあったけれど、別れがその全てを台無しにしました。彼のことを思い出すと、どうしても自分に自信が持てなくなります。あなたを支えるために、過去の傷を乗り越えたいと思っていますが、時々その影に飲み込まれてしまうのです。」

横溝は静かに聞いていた。彼の目には驚きと理解の色が浮かんでいた。「菊池くん、君がそんな思いを抱えていたなんて…」と彼は優しく言った。
「でも、大丈夫だ。私は、いや私達は弱くはないんだ」
と彼は言う。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

幸せのカタチ

杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。 拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。

僕の宝物はみんなの所有物

まつも☆きらら
BL
生徒会の仲良し4人組は、いつも放課後生徒会室に集まっておやつを食べたりおしゃべりをしたり楽しい毎日を過ごしていた。そんなある日、生徒会をとっくに引退した匠が、「かわいい子がいた!」と言い出した。転入生らしいその子はとてもきれいな男の子で、4人組は同時に彼に一目ぼれしてしまったのだった。お互いライバルとなった4人。何とかその美少年を生徒会に入れることに成功したけれど、4人の恋は前途多難で・・・。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...