踊るパーラメント

本音と建前

横溝はコーヒーに手を伸ばし、一口含んだ。その苦みが、まるで彼らの関係を象徴しているかのようだった。

「お前の意見に納得できない時もある。でも、それがなければ、俺はきっとここまで来れなかった。お前がいなかったら…」

言葉を途切れさせた横溝に、湯浅は優しく微笑みかけた。「俺もだ。お前がいるから、踏ん張れているんだ。国民の前ではお互いに罵り合う役割を演じるが、その度に、ふと笑えてくる。こんな形でお前と競い合うなんて、想像もしていなかったからな」

湯浅の瞳が鋭く光る。表向きは冷徹な党首として知られる彼も、この場所にいるときだけは鎧を脱ぎ捨て、本来の姿に戻る。

「つくね、この前提出した経済政策の件、本気で考え直すつもりはないのか？」

「またその話か？あれは、俺が総理として国全体を考えて決めたことだ。党首であるお前が反対するのはわかるが、あれが必要なんだ」

二人の間に緊張が走る。しかし、このような議論も二人の関係を支えてきた部分だった。意見をぶつけ合い、時に感情を隠さず、互いに刺激し合ってきたからこそ、彼らは共に成長してきたのだ。

湯浅はしばらく考え込んだ後、ふっと息をついた。「俺も、わかってるさ。だけど、あれが実行されれば、俺たちの立場はますます険しくなる。俺たちが関係を持っていることが万が一にも公になるようなことがあれば…」

その言葉が終わる前に、横溝は静かに湯浅の手を握った。「心配するな、たくみ。俺たちの秘密は、墓まで持っていく覚悟だ」

その手の温かさが、二人にとって唯一の安らぎだった。だが、運命が彼らをどう導いていくのかは、誰にもわからない。