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柔らかな朝

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3日3晩、食事と仮眠を惜しんで、セシリアがありったけの愛を送り込んだおかげで、エリアスは峠を越えて、枯渇していた生命エネルギーがその体に戻り、顔色も睡眠をとっているのを変わりない様子になった頃、アルザス家のカールや侍女たちが運んでくれる手でつまめるサンドイッチとエリアスのベットで手を握りながら眠りに落ちる仮眠状態から解放されたセシリアは、検診に来ていた医者に太鼓判を押された。

「何をされたのかわかりませんが、脈も心音も正常です。峠は越しました。いつ目覚められるかはわかりませんが、もう大丈夫です」

「ありがとうございます」

カールと共に頭を下げたセシリアはアルザス家の若奥様といった風情が既に出ていた。念のために来て貰った魔術師も同じことをいっていたので、公爵家の全員が安堵し、この奇跡を起こしたセシリアに栄養のあるものを食べさせようと、この日の朝食は豪華なものとなった。

焼きたてのパン。

野菜をふんだんに使ったスープ。

サラダ。

魔獣のボアのベーコン。

アルザス量で取れる新鮮なフルーツ。

蜂蜜がふんだんにかかったホットケーキ。

しぼりたてのオレンジジュース。

前の世界の「ニホン」の記憶が残っていれば、大したことのないメニューだが、異世界の食事は小麦も肉も貴重品であるので、貴族といえども朝食は質素で、パンとスープとサラダがメインで領地で生産されるものが加算されるぐらいだ。王族になれば各領地からの特産物が税金の一部として納められるので、例外になるが。

「まあ、美味しそう!」

「セシリア様、沢山お食べください。エリアス様がお目覚めになられた時、元気な顔を見せてあげてくださいませ」

エリアスの部屋付きの侍女、茶色の髪のディーナは男爵家の3女でここに奉公に出されていた。

「ええ、そうするわ。ディーナ、ありがとう」

給仕の者たちがセシリアの皿に料理を乗せていく。

ガートランドを出てから、長い旅をして来たので、美味しい料理をお腹がはちきれそうなぐらい食べたのは久しぶりだ。

「アルザスの領地は自然に恵まれているので、たくさんの農産物が取れるのです」

カールが皿を見つめているセシリアにいう。

「まあ、そうなの?」

「ええ。エリアス様が元気になられたら、領地巡りに連れていってくださることでしょう。アルザスはいいところですよ」

「楽しみだわ」

美味しい食事でエネルギーを取り戻したセシリアはエリアスの寝室も戻った。

窓から漏れる光に包まれて、エリアスの漆黒の髪がキラキラと光っている。

青白かった顔も元どおりの白磁の色合いに戻り、今にも目を覚ましそうなぐらい顔色がいい。

「エリアス、おはよう。愛してるわ」

セシリアはチリアで夜を過ごしてから、毎朝習慣になったおはようのキスを送る。

「セ…シリア…」

えっ?

愛しい人の声が聞こえた。

気のせいかと思っていたが、頬に当たる彼の温かい指先の感触とセシリアを見つめる菫の瞳が現実だと告げている。

「良かった、あなたを守ることが、てきた」

「エリアス!」

エリアスは涙ぐむセシリアを見て、微笑みを浮かべる。

「私の姫はあいかわらず泣き虫さんだね」

「エリアス…だって…」

レディーなのにはしたないといわれようが構わなかった。

彼女の騎士の胸に飛び込んだ。

小さい子供をよしよしするように泣きじゃくるセシリアの頭を撫でる。

「もう大丈夫ですよ。何も怖くない」

「エリアス、エリアス~」

エリアスがいたからハインリッヒのことも我慢できた。セシリアにとって1番怖いことは愛しい騎士を失うこと、それ以外には何もなかった。王女から平民の身分になっても、エリアスと一緒なら怖くなかった。エリアスがいれば何もいらなかった。

エリアスは私の光、希望なの。

愛しい騎士は自身が死の境を彷徨っていたことも知らずにセシリアの心配をしている。

「ハインリッヒはもういません。安心して?」

エリアス、愛してるわ。

エリアスは彼女を安心させるように神にキスを落としていく。

「セシリア、もう大丈夫ですよ」

セシリアは彼女の安息地である愛しい人に抱きしめられながら、やっと平和が戻って来たことを実感した。
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