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エリアスの気持ち

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馬を飛ばして、チリアの町に着いてから数日が経った。

チリアの町の人々に聞き込みをしてみると、深淵の森の魔術師が最近町に訪れたのだという。宿を探し出して、話を聞いてみると、フィニアンに同行している娘がいるという。

その娘はセシリア様ではなく、私が深淵の森で見たあの黒髪の娘だということがわかった。

そこで、引き返そうかと思ったが、あのルーレシアの皇太子が自らここにくるならセシリアがいるはずだ。

なので、しばらく深淵の森の魔術師と娘を観察することにした。

娘は、セシリア様よりも背が低く、太り気味で、そばかすだらけの少女だった。

顔立ちは決して可愛いとはいえなかったが、仕草や表情がセシリア様を思わせた。

だから、私には可愛らしく見えた。

子供の頃からセシリア様は小動物を思わせる「きゅるるん」という上目遣いをしたり、

バラの蕾がほころんだような微笑みを浮かべたりする

そして、少し焦った時には、無意識に手元をパタパタさせたりするのだ。

ガートランドの宝石と謳われた我が姫は美しい少女だったが、私が彼女に惹かれたのはその姿だけではなく、

中身の可愛らしさと周りの者に対する優しさだった。

仕草が似ているだけでなく、娘の身のこなしなどは市井の娘には見えないところも、

「セシリア様」かどうか確かめようとすることにした理由の1つだった。

それと、ルーレシアの皇太子の「影」に娘がセシリア様だった場合、

気づかれないように直接的な接触は避けたほうがいいと思ったからだ。

私が近づくことで、危険な目に遭わせるわけにはいかない。

「セシリア様だとわかった時点」で彼女の目の前に現れればいい。

今日も娘はチリアの町に出ていた。

「らっしゃい!お嬢ちゃん、今日は何にする?」

「今日のオススメは何かしら?」

娘は午後の日差しの中、色どりどりの氷菓子を見つめる。

「うーん、今日は暑いからねえ、マンゴウなんかはどうだい?」甘いよ!」

「うーん、マンゴウより太らないお菓子はあるかしら?」

「なら、リモンだね!砂糖が少ないし、サッパリだよ!」

「それをいただくわ!」

娘はリモンの氷菓子を1つと買うため、銅貨を1つ出して支払った。

「まいどあり!」

「ありがとう」

彼女の方を見つめていた男の子と目が合った。

7歳ぐらいの平民の子供だが、景気の良いチリアでは珍しいほど、かなり粗末な服装をしている。

痩せっぽちで暗い目をしていた。

「これ、あげる!」

娘は子供にリモンの氷菓子を手渡すと、子供は礼もいわずに氷菓子を受け取って走り去って行った。

「おじさん、もう1ついただけるかしら?」

「お嬢ちゃん、優しいねえ。ちょっと多めに盛っとくよ!」

「ありがとう!でも、太っちゃ嫌だから、さっきと同じにお願いできるかしら?」

「あいよ!」

娘は氷菓子を受け取ると、街の中にあるベンチに座ってスプーンですくいながら、食べ始める。

チリアは景気が良いため、街の中のいたるところに花壇や腰掛けるベンチがあるのだ。

氷菓子を幸せな面持ちで食べ始める娘を見て暖かい気分になった。

その食べる姿がセシリア様と重なった。彼女は菓子を食べる時に本当に幸せな顔をするのだ。

私が、セシリア様の騎士として護衛に付き始めた頃、セシリア様はまだ10歳で、甘いお菓子が大好きなお転婆な姫様だった。今では想像もつかないけれど、ダンスが大の苦手で泣きべそをかいては城の庭で泣いていた。そして私はいつも懐に菓子を忍ばせておいて、彼女の涙を笑顔に変えるために菓子を与えたのを覚えている。

菓子を愛でる表情はあの時から変わってはいない。

小さな姫君を一人の女性として、見るようになったのはいつ頃からだっただろうか?

セシリアはガートランドの姫として気高く美しい心を持っていた。上に立つ者として、領民のために尽くそうと必死に努力をして、苦手なことも困難なことも諦めずに立ち向かっていく姿に惹かれた。彼女をみていると、自分も触発されてさらに高めようと、彼女を守れる男になろうと思える。美しさだけならばここまで惹かれてはいない。

あなたは変わらないな。

黒髪の少女はあの頃と同じ表情で嬉しそうに甘い菓子を食べている。

やはり、あの少女はセシリア様だ。

姿は全然違うけれど、長年彼女を見つめてきた私にはそれがわかった。

セシリア様、ご無事でよかった。

思わず彼女に声をかけそうになったけれど、私と同じように彼女を伺う「影」の姿を見つけて、愛しい姫をこの手に抱く事を踏み止まった。



























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