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エリアス作戦開始!
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「これで、足りるでしょうか?」
金貨が入った小袋をルーレシアでは極めて平均的な容姿の茶目、茶髪の少女、ベッキーに手渡す。
「なんせ、命がけの仕事だからねぇ」
「ええ。ですが、これだけあれば、充分でしょう?」
確かに情報提供だけなのに破格の額だ。
「で、何をすればいいんだい?」
「金髪で青い目の少女が城内に閉じ込められているかどうか、探ってきて欲しいんです」
「臨時の名炊きに呼ばれただけだから、たいした情報は集められないと思うけど?」
「あなたのポジションが一番重要なんですよ。どこにいたって食事は必要でしょう?宮廷に出す食事と違うもの、運ばれる場所が違うものがあれば、教えてください」
「よくわかんないや、どういうこと?」
「例えば、王太子の名前で余分に作られる食事とか、そういうのがあれば目を光らせて、できればその食事を運ぶ役目の者が誰か突き止めてもらえばよい」
「わかった。それぐらいならできる。週末は休みだから、その時にまとめて報告でいい?」
「ええ。あと、できれは城の間取りや城によく出入りする商人や行商の名前がわかれば、余分のお金も出しますよ」
「わかった。どこまでできるかわからないけれど、やってみる」
「ありがとうございます」
ルーレシアでは極めてありきたりな、凡庸な容姿の娘がニッカリ笑う。印象に残ることのない容姿は、本人が意図していないにも関わらず、諜報活動にぴったりだ。臨時採用ということは、本人に降りかかる危険性も低い。
エリアスは、目の前で、肉とスープを平らげる娘を見て微笑んだ。
セシリア様が城内にいるという証拠さえ、掴めばあとは商人のふりをして城に入り込めば良い。
相変わらず、ハインリッヒが出歩いている噂は聞かない。
あれだけ好色な男が花街に顔を出さないなんでありえない。
「これ、家族の分も持って帰っていいかな?」
「ええ。4人前持ち帰り分のオーダーお願いできますか?」
町人で賑わう庶民の台所ともいえる「マーサの庭」のふくよかな女将に声をかける。
「あいよ!父ちゃん!テイクアウト4丁!」
「おうさ!」
大将は台所での調理担当、カウンター式なので、客と会話できるのだが、口よりも手を動かす方が得意な男だ。
「これだけあればも母さんも良くなる。それにしても兄さん、お金持ちだねえ。貴族かなんかなの?」
「残念ながら、私は、主人の言い付けで、探しているだけです」
「へえ。じゃあ、あんたのご主人様が貴族なんだ?ならその人も貴族のお姫様?」
エリアスは曖昧に微笑みを浮かべた。
嘘はついていない。
セシリア姫ならエリアスに自分を探して救い出せというだろう。
「それなら余計怖いよねえ。(あの方の)噂は色々あたいらのところでも聞いてるから。酷い事とか好きらしいし、やばいよ、すごい」
「ええ。だから一刻も早く様子を知りたいんです」
「わかった!あたいに任しといて!」
ベッキーはソバカスだらけの顔をくしゃくしゃにして笑った。
◇ ◇ ◇
それから数日してベッキーから連絡があった。
マーサの庭で落ち合って、いつものようにベッキーの食べたいものをオーダーすると、茶色の瞳をキラキラさせて、興奮気味に茶色の髪の少女が口を開いた。
「やっぱり、お兄さんいったとおりだったよ!」
詳しく話を聞いてみると、やはり王太子の夜食や間食という名目で、宮廷の料理とは余分に食事が作られていた。それは宮廷料理よりはるかな質素なもので、スープやパン、サラダに加えて、手でつまめるものが中心。そして、その習慣がここ最近になって始まったものだということだった。
「でね、あたいがなんとその手伝いの担当なんだよ!宮廷料理を作るのが手いっぱいらしくてさ、でも夜食や間食は庶民の娘でも作れそうなメニューだからさ、人手が足りなくて、それで雇われたみたい」
「ええ。で、それを給仕するのは誰なんですか?」
「それがね、あの方自ら取りにくるんだって。変でしょう?」
「ええ。確かに変ですね」
「でね、昨日のことなんだけど、いつもとは違う時間に来たの!その時に私が応対したんだけどさ、すごい怖かった。で、食事を渡したんだけど、その時に甘い香りがしたんだよね」
「甘い香り、ですか?」
「うん。香油の。お花の香り」
香油は貴族の男性もつけるが花の香りは明らかに女性のものだ。
「それは決定的ですね。で、どこに運ばれるんでしょうね?」
「それは、わかんないけど、普段、給仕の人たちが行くのとは全く反対の方向だったから、王宮じゃない。それにあの量なら女の子がいても十分賄える量だよ」
「そうですか。で、城に出入りしてる行商とか商人の名前はわかりましたか?」
「宮廷の料理関係の仕入れは、ダースト商会を使ってるって聞いたけど、他はわかんない。城に入ったら、調理場に直行で、その外に行くことはないからさ」
それなら城の間取りは難しそうだ。
「そうですか。また何か変わったことがあったら、教えてください」
エリアスはそういうと、金貨を1枚手渡した。
「まいど!」
少女がニッカリと笑って臨時報酬を受け取った。
やはり、セシリアはハインリッヒの城に密かに幽閉されているのだ。公に食事を造らせていないところをみると、彼女の存在は王太子にしか知られていない、と考えるべきだろう。なら、城内の部屋に軟禁されていたり、地下牢などに監禁されている確率はほとんどない。
王宮外の離宮のようなところにいるのだろうか?
だとすれば、城に侵入してから、兵士か何かとすり替わって救出するしかないですね。
ガートランドに及ばず大陸でも指折りの騎士といわれるエリアスにとってはそんなに難しいことではない。
作戦自体はいたってシンプルだ。
セシリアと気付かれることなく、連れ出す方法が必要なのだが。
セシリア様、今すぐ、お助けしますからね。
エリアスは、自分の食事も適当に切り上げると、ダースト商会に向かった。
金貨が入った小袋をルーレシアでは極めて平均的な容姿の茶目、茶髪の少女、ベッキーに手渡す。
「なんせ、命がけの仕事だからねぇ」
「ええ。ですが、これだけあれば、充分でしょう?」
確かに情報提供だけなのに破格の額だ。
「で、何をすればいいんだい?」
「金髪で青い目の少女が城内に閉じ込められているかどうか、探ってきて欲しいんです」
「臨時の名炊きに呼ばれただけだから、たいした情報は集められないと思うけど?」
「あなたのポジションが一番重要なんですよ。どこにいたって食事は必要でしょう?宮廷に出す食事と違うもの、運ばれる場所が違うものがあれば、教えてください」
「よくわかんないや、どういうこと?」
「例えば、王太子の名前で余分に作られる食事とか、そういうのがあれば目を光らせて、できればその食事を運ぶ役目の者が誰か突き止めてもらえばよい」
「わかった。それぐらいならできる。週末は休みだから、その時にまとめて報告でいい?」
「ええ。あと、できれは城の間取りや城によく出入りする商人や行商の名前がわかれば、余分のお金も出しますよ」
「わかった。どこまでできるかわからないけれど、やってみる」
「ありがとうございます」
ルーレシアでは極めてありきたりな、凡庸な容姿の娘がニッカリ笑う。印象に残ることのない容姿は、本人が意図していないにも関わらず、諜報活動にぴったりだ。臨時採用ということは、本人に降りかかる危険性も低い。
エリアスは、目の前で、肉とスープを平らげる娘を見て微笑んだ。
セシリア様が城内にいるという証拠さえ、掴めばあとは商人のふりをして城に入り込めば良い。
相変わらず、ハインリッヒが出歩いている噂は聞かない。
あれだけ好色な男が花街に顔を出さないなんでありえない。
「これ、家族の分も持って帰っていいかな?」
「ええ。4人前持ち帰り分のオーダーお願いできますか?」
町人で賑わう庶民の台所ともいえる「マーサの庭」のふくよかな女将に声をかける。
「あいよ!父ちゃん!テイクアウト4丁!」
「おうさ!」
大将は台所での調理担当、カウンター式なので、客と会話できるのだが、口よりも手を動かす方が得意な男だ。
「これだけあればも母さんも良くなる。それにしても兄さん、お金持ちだねえ。貴族かなんかなの?」
「残念ながら、私は、主人の言い付けで、探しているだけです」
「へえ。じゃあ、あんたのご主人様が貴族なんだ?ならその人も貴族のお姫様?」
エリアスは曖昧に微笑みを浮かべた。
嘘はついていない。
セシリア姫ならエリアスに自分を探して救い出せというだろう。
「それなら余計怖いよねえ。(あの方の)噂は色々あたいらのところでも聞いてるから。酷い事とか好きらしいし、やばいよ、すごい」
「ええ。だから一刻も早く様子を知りたいんです」
「わかった!あたいに任しといて!」
ベッキーはソバカスだらけの顔をくしゃくしゃにして笑った。
◇ ◇ ◇
それから数日してベッキーから連絡があった。
マーサの庭で落ち合って、いつものようにベッキーの食べたいものをオーダーすると、茶色の瞳をキラキラさせて、興奮気味に茶色の髪の少女が口を開いた。
「やっぱり、お兄さんいったとおりだったよ!」
詳しく話を聞いてみると、やはり王太子の夜食や間食という名目で、宮廷の料理とは余分に食事が作られていた。それは宮廷料理よりはるかな質素なもので、スープやパン、サラダに加えて、手でつまめるものが中心。そして、その習慣がここ最近になって始まったものだということだった。
「でね、あたいがなんとその手伝いの担当なんだよ!宮廷料理を作るのが手いっぱいらしくてさ、でも夜食や間食は庶民の娘でも作れそうなメニューだからさ、人手が足りなくて、それで雇われたみたい」
「ええ。で、それを給仕するのは誰なんですか?」
「それがね、あの方自ら取りにくるんだって。変でしょう?」
「ええ。確かに変ですね」
「でね、昨日のことなんだけど、いつもとは違う時間に来たの!その時に私が応対したんだけどさ、すごい怖かった。で、食事を渡したんだけど、その時に甘い香りがしたんだよね」
「甘い香り、ですか?」
「うん。香油の。お花の香り」
香油は貴族の男性もつけるが花の香りは明らかに女性のものだ。
「それは決定的ですね。で、どこに運ばれるんでしょうね?」
「それは、わかんないけど、普段、給仕の人たちが行くのとは全く反対の方向だったから、王宮じゃない。それにあの量なら女の子がいても十分賄える量だよ」
「そうですか。で、城に出入りしてる行商とか商人の名前はわかりましたか?」
「宮廷の料理関係の仕入れは、ダースト商会を使ってるって聞いたけど、他はわかんない。城に入ったら、調理場に直行で、その外に行くことはないからさ」
それなら城の間取りは難しそうだ。
「そうですか。また何か変わったことがあったら、教えてください」
エリアスはそういうと、金貨を1枚手渡した。
「まいど!」
少女がニッカリと笑って臨時報酬を受け取った。
やはり、セシリアはハインリッヒの城に密かに幽閉されているのだ。公に食事を造らせていないところをみると、彼女の存在は王太子にしか知られていない、と考えるべきだろう。なら、城内の部屋に軟禁されていたり、地下牢などに監禁されている確率はほとんどない。
王宮外の離宮のようなところにいるのだろうか?
だとすれば、城に侵入してから、兵士か何かとすり替わって救出するしかないですね。
ガートランドに及ばず大陸でも指折りの騎士といわれるエリアスにとってはそんなに難しいことではない。
作戦自体はいたってシンプルだ。
セシリアと気付かれることなく、連れ出す方法が必要なのだが。
セシリア様、今すぐ、お助けしますからね。
エリアスは、自分の食事も適当に切り上げると、ダースト商会に向かった。
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