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自由の対価
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数日後セフィールドに入国して、ヘルガに書簡を送った。
「ヘルガなら姫様の居場所がわかりますから、書簡が着き次第、連絡がくるでしょう」
「ええ。ありがとう。ヘルガなら私の波動がわかるから、鳥をここまで飛ばすことができるものね」
「ええ。もうしばらくの辛抱ですよ」
朝には男の子の体になり、夜になると本来の自分の体に戻る生活。隠れ蓑には最適だが、このこの状態が気に入っているわけではない。頭では近隣諸国の移動には都合がいいとわかっているが、気持ちの上で受け入れられない。
「セシル、次の休憩で食事を取りましょう」
「うん」
「次の国に入れば、暑くなります。十分に水分を取ってくださいね」
「……」
日が昇ってから暮れるまで、セシリアは水分をあまり取らないようにしている。体に良くないのはわかっているが、少年の体で用を足すのは抵抗があるから。
「セシル?」
気持ちを張っていないと泣きそうになる。
「大丈夫よ」
無理に笑って、エリアスに心配をかけないようにするセシリアを元気づけようと、町のマーケットや女の子の喜びそうな小物のお店に連れ出してもらったりして、数日を過ごす。ヘルガからの返事が来たのは、夕暮れ時のことだった。
コツン、と窓を突く音がして、エリアスが宿の部屋の窓を開けると、藍色の鳥。足には手紙の筒が取り付けられている。
肩に止まった鳥から、エリアスが手紙を取り出す。
「ヘルガからです」
「なんて書いてあるの?」
「姫様の症状は魔法薬とハーブティーと混ぜたために起こった現象だと書いてあります」
「確かに味をごまかすためにハーブティーを飲んだわ」
「それが原因ですね」
「で、私を元に戻す方法はあるの?」
「ええ。あるにはあるのですが…」
エリアスの言葉が詰まる。
「ここにはない特別な薬草が必要だそうです」
「それはどこにあるの?」
「ヘルガによると、ルーレシアのハインリッヒ皇子の庭園と妖精王の森にしかないそうです」
「ルーレシアに行くなんて無理!夜は元の姿に戻るのよ?もし見つかったら…」
「ええ。でも、妖精王の森はどこにあるかわからないそうです」
「だけど!もし捕まったら…」
「この大陸で1番の魔術師でもない限り、妖精王の波動を感知して森を見つけるなんてできません」
ハインリッヒとの婚姻から逃れるために、自分の死を演出してガートランドを脱出したのに、元の体に戻すために狼の巣窟に自ら飛び込んでいかなければならないなんて、運命は皮肉な演出をする。
「ルーレシア城の庭園へ私以外の人が取りに行っては駄目なの?」
「城に咲く月光花は真夜中に咲いて、1時間で萎むそうです。花が咲いている状態で本人がその花の蜜を飲まないといけないそうです。そしてその花は女性でないと触れた途端、枯れるそうです」
エリアスの言葉に返す言葉が見つからない。
「選択肢は、狼の魔窟に忍び込むか、どこにあるともわからない妖精王の森を探すしかないのね?」
「はい。すぐに戻りたいのならルーレシアでしょうね。妖精王の森を探すことができる大陸1番の魔術師のいる深淵の森はアインツ公国あるのですが、山を越えた国の外れにあるため、危険です。野党が出ることもあり、お勧めはできません。そして、ここから少なくとも数週間ほどかかります。それ以上かかるかもしれません。ルーレシアまでは、セフィールドに夜通しで馬を走らせれば、数日で行けます」
「どちらも危険なのね。エリアスはどう思うの?」
「私は、セシリア様をあの男の元に飛び込ませることは好みません。ですが、いつまでもこの状態というわけにはいかないでしょう?」
残忍なハインリッヒ皇子の元に自ら忍び込むなんて狂気の沙汰だ。もし、セシリアの姿のまま見つかったら、確実に殺される。
「どうされますか?」
「エリアスは深淵の森の魔術師の居場所を知っているの?」
「はい。昔、母が病を治すためにお世話になったことがあります」
「ヘルガみたいな人なのかしら?」
「彼、はあまり人を好みません。そして、少し変わっています」
「そうなの」
「私個人としてはあまり姫様に会わせなくない相手ではありますが、この際仕方ありません」
「いくら変わっている人でもハインリッヒ皇子より安全な相手でしょう?」
「それは、そうですが…」
では、そこに行きましょう」
「よろしいのですか?」
「この姿でルーレシアに戻る方が危険だわ。野党の方がハインリッヒ皇子より安全だわ。エリアスは私を守ってくれるでしょう?」
「はい。姫様に指一本触れされません」
「これが最善の選択だわ。すぐに元の姿に戻りたいけれど、死んでしまっては意味がないもの」
「了解致しました」
「今から、ここを出るのは無理よね?」
「はい。今夜はここで体を休めることにいたしましょう」
「わかったわ」
セシリアとエリアスは宿で簡単な食事を取って、早めに床についた。
「ヘルガなら姫様の居場所がわかりますから、書簡が着き次第、連絡がくるでしょう」
「ええ。ありがとう。ヘルガなら私の波動がわかるから、鳥をここまで飛ばすことができるものね」
「ええ。もうしばらくの辛抱ですよ」
朝には男の子の体になり、夜になると本来の自分の体に戻る生活。隠れ蓑には最適だが、このこの状態が気に入っているわけではない。頭では近隣諸国の移動には都合がいいとわかっているが、気持ちの上で受け入れられない。
「セシル、次の休憩で食事を取りましょう」
「うん」
「次の国に入れば、暑くなります。十分に水分を取ってくださいね」
「……」
日が昇ってから暮れるまで、セシリアは水分をあまり取らないようにしている。体に良くないのはわかっているが、少年の体で用を足すのは抵抗があるから。
「セシル?」
気持ちを張っていないと泣きそうになる。
「大丈夫よ」
無理に笑って、エリアスに心配をかけないようにするセシリアを元気づけようと、町のマーケットや女の子の喜びそうな小物のお店に連れ出してもらったりして、数日を過ごす。ヘルガからの返事が来たのは、夕暮れ時のことだった。
コツン、と窓を突く音がして、エリアスが宿の部屋の窓を開けると、藍色の鳥。足には手紙の筒が取り付けられている。
肩に止まった鳥から、エリアスが手紙を取り出す。
「ヘルガからです」
「なんて書いてあるの?」
「姫様の症状は魔法薬とハーブティーと混ぜたために起こった現象だと書いてあります」
「確かに味をごまかすためにハーブティーを飲んだわ」
「それが原因ですね」
「で、私を元に戻す方法はあるの?」
「ええ。あるにはあるのですが…」
エリアスの言葉が詰まる。
「ここにはない特別な薬草が必要だそうです」
「それはどこにあるの?」
「ヘルガによると、ルーレシアのハインリッヒ皇子の庭園と妖精王の森にしかないそうです」
「ルーレシアに行くなんて無理!夜は元の姿に戻るのよ?もし見つかったら…」
「ええ。でも、妖精王の森はどこにあるかわからないそうです」
「だけど!もし捕まったら…」
「この大陸で1番の魔術師でもない限り、妖精王の波動を感知して森を見つけるなんてできません」
ハインリッヒとの婚姻から逃れるために、自分の死を演出してガートランドを脱出したのに、元の体に戻すために狼の巣窟に自ら飛び込んでいかなければならないなんて、運命は皮肉な演出をする。
「ルーレシア城の庭園へ私以外の人が取りに行っては駄目なの?」
「城に咲く月光花は真夜中に咲いて、1時間で萎むそうです。花が咲いている状態で本人がその花の蜜を飲まないといけないそうです。そしてその花は女性でないと触れた途端、枯れるそうです」
エリアスの言葉に返す言葉が見つからない。
「選択肢は、狼の魔窟に忍び込むか、どこにあるともわからない妖精王の森を探すしかないのね?」
「はい。すぐに戻りたいのならルーレシアでしょうね。妖精王の森を探すことができる大陸1番の魔術師のいる深淵の森はアインツ公国あるのですが、山を越えた国の外れにあるため、危険です。野党が出ることもあり、お勧めはできません。そして、ここから少なくとも数週間ほどかかります。それ以上かかるかもしれません。ルーレシアまでは、セフィールドに夜通しで馬を走らせれば、数日で行けます」
「どちらも危険なのね。エリアスはどう思うの?」
「私は、セシリア様をあの男の元に飛び込ませることは好みません。ですが、いつまでもこの状態というわけにはいかないでしょう?」
残忍なハインリッヒ皇子の元に自ら忍び込むなんて狂気の沙汰だ。もし、セシリアの姿のまま見つかったら、確実に殺される。
「どうされますか?」
「エリアスは深淵の森の魔術師の居場所を知っているの?」
「はい。昔、母が病を治すためにお世話になったことがあります」
「ヘルガみたいな人なのかしら?」
「彼、はあまり人を好みません。そして、少し変わっています」
「そうなの」
「私個人としてはあまり姫様に会わせなくない相手ではありますが、この際仕方ありません」
「いくら変わっている人でもハインリッヒ皇子より安全な相手でしょう?」
「それは、そうですが…」
では、そこに行きましょう」
「よろしいのですか?」
「この姿でルーレシアに戻る方が危険だわ。野党の方がハインリッヒ皇子より安全だわ。エリアスは私を守ってくれるでしょう?」
「はい。姫様に指一本触れされません」
「これが最善の選択だわ。すぐに元の姿に戻りたいけれど、死んでしまっては意味がないもの」
「了解致しました」
「今から、ここを出るのは無理よね?」
「はい。今夜はここで体を休めることにいたしましょう」
「わかったわ」
セシリアとエリアスは宿で簡単な食事を取って、早めに床についた。
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