上 下
1 / 78

転生王女の決断

しおりを挟む
 「困ったわ」

 ガートランド王国の王女、セシリア・ガートランドは岐路に立たされていた。

 悪名高い隣の国のルーレシア王国の第一皇子、ハインリッヒ・ヴォン・ルーレシアンとの婚約が決まり、国を挙げての結婚式まであと10日というところで、初恋の黒髪の美形騎士、エリアス・レスターから彼女に対する愛の告白を聞いて、国のためにハインリッヒと結婚するか、国を捨てて愛するエリアスと国外に逃れるかの選択に迫られていた。

 いつもの「セシリア」としての性格なら国民と国の平和のためにハインリッヒ皇子との婚姻は王族の義務。「エリアスが好き」という私情を天秤にかけることはない。魔法やドラゴン、精霊や魔術師に溢れたこの世界とは「異質の魔法のない異世界、ニホン」の「ジョシコーセー」で、学校の帰りに車の事故にあってこの世界に転生したという記憶が数日前に突然蘇ってから彼女は「今までのセシリア」ではなくなっていた。

「心の声を聞くべき?それとも義務を全うすべき?」

 お日様の色の金の髪と鮮やかな空の青の目を持つガートランドの真珠と謳われるセシリアが16歳になった頃、各国の王族からたくさんの縁談の話があった。宰相とガートランドの王である父の決断で、周りの小国を侵略し、属国にし始めた隣国のルーレシア王国の第一王子、ハインリッヒの元に嫁ぐことになった。

 セシリアに執着しているハインリッヒとの政略結婚でガートランド王国の安泰を図ることができる。

「やはり王族としての務めを果たすべきかしら?」

 澄み渡るような空の青が曇る。

 ルーレシアの王族は、現王もその皇子も残虐なことで知られており、女、子供でさえ容赦せずに侵略された国々の王族は全て皆殺しにすることで知られていた。王族を皆殺しにした後は、自らの皇子をその国の王にして、勢力を拡大するというのが彼らのやり方だった。ハインリッヒの母は小国の皇女であったが、数年前に流行病で他界した。現王のまたいとこであるルーレシア1番の美姫と謳われる年若きリーディア姫がその後釜に座ったが、自分の娘と年の違わない姫を迎えるために現王が前王妃を毒殺したのではないかという噂がまことしやかに流れており、その噂は隣国のガートランドにも届いていた。

「婚姻の先には死相が出ておる」

 王家に仕える魔女ヘルガによって 第一皇子によりお腹に子供を宿したまま惨殺されるという幻視の言葉と前世の「セシリアは若死にする」という朧げな、今ではうっすらとしか覚えていない「乙女ゲーム」の記憶。ヒロインなのか悪役なのか自分の役柄がわからないが、そのゲームのキャラクターとそっくりの自分の名前を覚えていたこと、ヒロインを凌辱して調教するキャラクターにハインリッヒ皇子の名前があったことを覚えており、自身がそのような状況に置かれることに拒絶反応が出たこと、「愛する人と結婚したい」という気持ちに動かされて、エリアスと共にガートランドを離れることを決意した。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

短編まとめ

あるのーる
BL
大体10000字前後で完結する話のまとめです。こちらは比較的明るめな話をまとめています。 基本的には1タイトル(題名付き傾向~(完)の付いた話まで)で区切られていますが、同じ系統で別の話があったり続きがあったりもします。その為更新順と並び順が違う場合やあまりに話数が増えたら別作品にまとめなおす可能性があります。よろしくお願いします。

「霊感がある」

やなぎ怜
ホラー
「わたし霊感があるんだ」――中学時代についたささいな嘘がきっかけとなり、元同級生からオカルトな相談を受けたフリーターの主人公。霊感なんてないし、オカルトなんて信じてない。それでもどこかで見たお祓いの真似ごとをしたところ、元同級生の悩みを解決してしまう。以来、ぽつぽつとその手の相談ごとを持ち込まれるようになり、いつの間にやら霊能力者として知られるように。謝礼金に目がくらみ、霊能力者の真似ごとをし続けていた主人公だったが、ある依頼でひと目見て「ヤバイ」と感じる事態に直面し――。 ※性的表現あり。習作。荒唐無稽なエロ小説です。潮吹き、小スカ/失禁、淫語あり(その他の要素はタグをご覧ください)。なぜか丸く収まってハピエン(主人公視点)に着地します。 ※他投稿サイトにも掲載。

今ならもれなくもう一本ついてきます!!

丸井まー(旧:まー)
BL
ド淫乱淫魔のアーネは、男狩りが趣味である。ある日、魔王城の訓練場で美味しそうな男達を観察していると、警備隊隊長のリザードマン・ヴィッレに捕まった。訓練場から放り出されたアーネは、ヴィッレを喰おうと決意する。 リザードマン✕淫魔。 ※♡喘ぎ、イラマチオ、嘔吐、鼻から精液、男性妊娠、産卵、お漏らし、潮吹き、ヘミペニス、前立腺責め、結腸責め、フィスト、ピアッシング注意。 ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

いつも余裕そうな先輩をグズグズに啼かせてみたい

作者
BL
2個上の余裕たっぷりの裾野先輩をぐちゃぐちゃに犯したい山井という雄味たっぷり後輩くんの話です。所構わず喘ぎまくってます。 BLなので注意!! 初投稿なので拙いです

主人公受けな催眠もの【短編集】

霧乃ふー 
BL
 抹茶くず湯名義で書いたBL小説の短編をまとめたものです。  タイトルの通り、主人公受けで催眠ものを集めた短編集になっています。  催眠×近親ものが多めです。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

旦那様と楽しい子作り♡

山海 光
BL
人と妖が共に暮らす世界。 主人公、嫋(たお)は生贄のような形で妖と結婚することになった。 相手は妖たちを纏める立場であり、子を産むことが望まれる。 しかし嫋は男であり、子を産むことなどできない。 妖と親しくなる中でそれを明かしたところ、「一時的に女になる仙薬がある」と言われ、流れるままに彼との子供を作ってしまう。 (長編として投稿することにしました!「大鷲婚姻譚」とかそれっぽいタイトルで投稿します) ─── やおい!(やまなし、おちなし、いみなし) 注意⚠️ ♡喘ぎ、濁点喘ぎ 受け(男)がTSした体(女体)で行うセックス 孕ませ 軽度の淫語 子宮姦 塗れ場9.8割 試験的にpixiv、ムーンライトノベルズにも掲載してます。

処理中です...