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第一章 世界の理と選ばれし者
第十三話「暗躍」
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目が覚めたら俺はベッドの上に居た。
「……んん? ここはどこだ?」
と、お決まりのセリフを吐く俺。どこもなにも宿のベッドなのだが一度言ってみたかった。……それよりもなんか寒い。
「…………おい、なぜ俺は裸なんだ」
「だってお兄ちゃんお風呂でのぼせたみたいだし」
「……のぼせた? …………あ、なるほど」
ゼノアの方を見ると顔を逸らされた。どうやら俺はのぼせた事になっているらしい。確か俺はゼノアの胸に触れてそれで……
「というかよ、せめて布団くらい掛けてくれないか? ベッドの上に全裸は流石に恥ずかしいし寒いんだが」
「だって先輩がさ? このままで大丈夫っていうからさ?」
「珠希、そういう時は無視しろ。フィーレは頭が良くないんだ。察してやれ」
「そうなんだ! 分かったよお兄ちゃん!」
「聞こえてますよ、柊さん」
聞こえるように言ったからな? 全裸の男がベッドに寝転んでいる状態のなにが大丈夫なんだよ。まだ仰向けじゃなかっただけましか。……って誰が俺を運んだんだ。俺の息子見られただろこれ。
この部屋には一人ならまだしも女が二人も…………二人……あ。
「三人か……」
「何が?」
「いやな? 女が――」
「柊! 少し僕とお茶でもしに行こう!」
「痛い痛い! 耳を引っ張るな! もげる! わかった! 行くから服だけ着させてくれ!」
……ああ痛てぇ。魔物からまだ一ダメージも食らってないのに、初めてのダメージがまさかゼノアからだったなんて。俺は宿の外まで耳を引っ張られた。ちぎれたらどうすんだ。
***
「……で、なんだよ」
「ああその……僕については秘密にしてくれ」
「それはお前が女って事を言ってるのか?」
「……あ、ああ。そうだ」
まぁその事だよな。俺もまだあの感触が忘れられない。この手に柔らかい感触が……思い出しただけでやばい。
「……てかなんで男装なんてしてんだよお前。あと、全裸の俺をベッドまで運んだのはお前か?」
「事情があるんだ……今は話せないが。運んだのは僕だが、見てはいないから安心してくれ」
何が安心してくれだよ。うつ伏せで全裸放置はないだろ。どんな放置プレイだよ。そもそも見ないで運んだってどうやったんだよ。
にしても男装しなければならない盗賊職かー。スパイなのかなー。そうだと嫌だなー。
「にしても柔らかかった」
「な!」
「フィーレと同じくらいかもう少し控えめな感じではあるが」
「柊はフィーレと出来ているのか!?」
「何も無い……あいつらはそういう対象じゃない」
「なら良かった」
何も良くねーよ。ガキしかいねぇパーティーだぞ。俺はもっとこう……妖艶なお姉さんがタイプだからな。ガキに興味なんて無い。
「まぁアイツらに言いふらすつもりは無いけどよ。だが、裏切るとかそういうのだけは辞めてくれよな?」
「もちろんだ! そんな事は絶対にしない! ”神マキナ”に誓って断言する」
誰だよ神マキナって。知らねーよそんな神様。
「分かった。なら俺もこれ以上は言及しない。俺もお前のことは少なからず好意に思っているからな」
「な……それは僕の事を好きという事か?」
「ん? ああ、そうだ。俺はお前が好きだ」
良い奴そうだしな。特に嫌う理由なんてない。
「そ、そうか……僕も嫌いでは無い……いや、むしろ……その――」
「なぁそんな事より何か食べに行かないか? 俺昨日の夜から何も食べてないんだ」
誰かさんに殴られたからな。
「…………そんなこと?」
あれ? なんかゼノアの顔が険しくなった。俺なんか変なこと言ったか? もしかしたらゼノアは珠希やフィーレよりも扱いが難しいかもしれない。ゼノアに比べればアイツらは単純で分かりやすいもんだ。
「……はぁ。なら今度は僕がご馳走様しよう。いいところを知っているんだ」
「おお、それはありがたい。ぜひ頼む」
俺はギルドしか飲食できる所を知らないからな。
「ああ、任せてくれ。では二人を呼んでこよう」
ゼノアと俺は珠希とフィーレを呼びに部屋へと向かう。
……
…………
………………
「悪い、待たせたなお前ら」
「ちょっと今真剣だから黙っててお兄ちゃん」
「お、おう……って何してんだお前ら」
珠希とフィーレは二人向かい合い、真剣な顔でなにやらブツブツ言いながら頭を悩ませている。
「無駄ですよ、珠希ちゃん」
「まだ! まだ私は負けてないもん! ……私には秘密兵器があるんだからね!」
二人の間には木の板がある。俺はそれが何かを確かる為二人に近づく。
「…………ってこれチェスじゃん」
「あれ? 柊さんご存知ですか?」
「え? ああ……まぁな」
むしろこの世界にもチェスがあるのか。俺も昔はよく妹とチェスをしたもんだ。あいつは元気にしているだろうか。
「お兄ちゃん!」
「お、おう! なんだ?」
珠希が勢いよく俺の元に抱きついてきた。
「出番だよ! お兄ちゃん!」
「は? なんで俺が」
「フィーレをボッコボコにして! お願い! ……ダメ?」
珠希が目に涙を浮かべ、上目遣いで俺を見てきた。相当ボコボコにやられたようだなコイツ……だが、相手はフィーレだろ。負ける要素なんて無いだろ。
「……はぁ、分かった。俺に任せろ」
「えぇー! 柊さんと交代なんて聞いてません! 反則です!」
フィーレは反則だと騒いぐ。まぁ確かにチェスに選手交代みたいなルール無いよな。それより……
「……ってまさか秘密兵器って俺の事かよ」
「うん! そうだよ!」
珠希は満面の笑顔で頷いた。
「必殺! 他力本願!」
「全然かっこよくねーよ」
「……分かりました。柊さんが相手でも私、手加減しませんから。言っておきますが私、強いですよ?」
「ああ、そうかよ。お手柔らかに頼むよ」
――五分後。
「お願いします! 柊さん! もう一回! もう一回お願いします! 何でもしますから!」
「……よっわ」
あんなに自信満々で私は強いと言っていたフィーレだが、めちゃくちゃ弱かった。むしろ負けるのが難しいレベルだ。こんなのに負けた珠希はルールすら理解してなかったろ。
「……お前、ルールを理解していない珠希を相手に威張っていたのか」
「…………だって珠希ちゃんに私の凄さを知って欲しくて」
「ダサすぎるだろお前」
ルールを理解していない相手を負かして一体なにが嬉しいんだ。大人気ないとしか言いようがない。
「さっすがお兄ちゃんだね!」
「お前ももうちょっとこいつを理解出来るよう努力しろ。フィーレは基本頭が悪いし、ずる賢い。今後何かを言われたらまず疑え」
「分かった!」
「酷いです……柊さん」
「…………何してるんだ君達は」
ずっと無言で見守っていたゼノアがようやくここで口を開いた。
「君達はいつもこんな感じなのか?」
「……まぁな。大体こいつらだがな。俺は関与していない」
「そうなのか」
「うちのパーティーに幻滅したか?」
「……いいや、そんなことは無い。むしろ楽しそうで良いと思ったよ」
まぁ賑やかなのは否定しないけど、こいつらにはもう少し落ち着きを覚えて欲しいものだ。こいつらのせいで俺はずっと保護者気分だ。
「さぁゲームも終わった事だ。飯食いに行くぞお前ら」
「やったー! ご飯だー!」
「……最後にもう一回だけ……もう一回だけお願いします柊さん。後生ですからぁ」
フィーレは余程悔しかったのかまだそんなことを言っていた。
「…………分かった。一回だけだ。これで俺が勝ったら諦めろよ?」
「はい! お願いします! 今度こそ負けませんよ!」
***
俺達は宿から少し離れた店に来ていた。中は酒が大量に並べられている。所謂バーと言ったところか。
「俺はまだ酒は飲めないぞ」
「え? そうなのか? 柊はいくつなんだ?」
「十八になる」
「なんだ、立派な大人じゃないか。僕は十五だ」
この世界は十五が成人扱いなのか。これが異世界の常識というやつか。となると、俺はこの世界では酒が飲めるという訳か。
「ならゼノアのおすすめの一杯を頂こう」
「分かった、任せてくれ! マスター! いつものアレを!」
「あいよ」
ゼノアがそう言うと、マスターと呼ばれる髭を生やしたダンディーな男が酒を作りだす。
「まだ昼なのに酒か」
「良いじゃないか。こういうのは昼に飲むからいいんだよ」
「それは俺の故郷ではダメな大人がよく言うセリフだ」
「え? そうなのか? ……僕はダメな大人なのだろうか」
「知らん。俺の世界の常識はここでは通用しないだろう。だからまぁなんだ……大丈夫だろ」
俺はゼノスの心配をテキトーにあしらった。
「……そんな……私が……負けるなんて」
フィーレはまださっきの勝負を引きずっていた。
「お前、あんな実力じゃ俺でなくても負けるぞ」
「いいえ! 柊さんが強すぎるんです! 私は強いんです! なにせ私は家族とやった時負け無しだったんですから!」
それは多分、我が子可愛さでわざと負けていたんだろう。コイツの両親も苦労しただろうなぁ。
「どうぞ」
暫く待っていると、マスターが低い声でお酒を差し出してきた。バーのカウンター席ってなんか良いな。大人になったって感じがする。
「頂きます…………うん、美味いな」
「だろ? 僕は毎日これを飲んでいるんだ」
「毎日は流石に罪悪感があるが……だが、確かに美味い」
シュワシュワとした炭酸に、フルーティーな風味。ビールというより、サワーに近い。昔父さんに飲まされた事があるが、それと風味がにている。
「でね、これを一緒につまむんだ」
「……これ柿ピーか」
「カキピー? 違うよ。これは柿の種って言ってね……」
「だから柿ピーだろ」
「違うって! 柿の種って言うんだよ!」
「ああ、もう分かったよ」
これ以上言っても終わらなそうだ。
「……ねぇ、お兄ちゃん。私お腹空いた」
「私もです……」
あ、すっかり忘れていた。こいつら酒ダメだった。
「なぁゼノア、美味い店を教えてくれたのは助かるが、お腹を満たせるものは無いのか? こいつらはガキだからまだ酒を飲めないんだ。それに俺も柿ピーじゃ腹が膨らまない」
「だから柿の種だって! ……そうだね……じゃあ、マスター! いつものアレで!」
「あいよ」
こいつのいつものアレには一体いくつのレパートリーがあるんだ。それで分かるマスターも凄いが。暫くすると、マスターが何かをカウンターに置いた。
「へい、お待ち」
「これは何だ?」
「これはね、ピッツァだよ」
「ああ、ピザか」
「いや違う。これはピッツァだよ」
「…………もういい」
俺たちはピッツァを美味しく頂いた。
……
…………
………………
「……はい、言われた通りやつらを監視しています…………はい、問題ありません。アレン様」
俺達が腹を満たしていた頃、裏で暗躍する者達がいた。しかし、この時の俺達はまだ知る由もない。
「……んん? ここはどこだ?」
と、お決まりのセリフを吐く俺。どこもなにも宿のベッドなのだが一度言ってみたかった。……それよりもなんか寒い。
「…………おい、なぜ俺は裸なんだ」
「だってお兄ちゃんお風呂でのぼせたみたいだし」
「……のぼせた? …………あ、なるほど」
ゼノアの方を見ると顔を逸らされた。どうやら俺はのぼせた事になっているらしい。確か俺はゼノアの胸に触れてそれで……
「というかよ、せめて布団くらい掛けてくれないか? ベッドの上に全裸は流石に恥ずかしいし寒いんだが」
「だって先輩がさ? このままで大丈夫っていうからさ?」
「珠希、そういう時は無視しろ。フィーレは頭が良くないんだ。察してやれ」
「そうなんだ! 分かったよお兄ちゃん!」
「聞こえてますよ、柊さん」
聞こえるように言ったからな? 全裸の男がベッドに寝転んでいる状態のなにが大丈夫なんだよ。まだ仰向けじゃなかっただけましか。……って誰が俺を運んだんだ。俺の息子見られただろこれ。
この部屋には一人ならまだしも女が二人も…………二人……あ。
「三人か……」
「何が?」
「いやな? 女が――」
「柊! 少し僕とお茶でもしに行こう!」
「痛い痛い! 耳を引っ張るな! もげる! わかった! 行くから服だけ着させてくれ!」
……ああ痛てぇ。魔物からまだ一ダメージも食らってないのに、初めてのダメージがまさかゼノアからだったなんて。俺は宿の外まで耳を引っ張られた。ちぎれたらどうすんだ。
***
「……で、なんだよ」
「ああその……僕については秘密にしてくれ」
「それはお前が女って事を言ってるのか?」
「……あ、ああ。そうだ」
まぁその事だよな。俺もまだあの感触が忘れられない。この手に柔らかい感触が……思い出しただけでやばい。
「……てかなんで男装なんてしてんだよお前。あと、全裸の俺をベッドまで運んだのはお前か?」
「事情があるんだ……今は話せないが。運んだのは僕だが、見てはいないから安心してくれ」
何が安心してくれだよ。うつ伏せで全裸放置はないだろ。どんな放置プレイだよ。そもそも見ないで運んだってどうやったんだよ。
にしても男装しなければならない盗賊職かー。スパイなのかなー。そうだと嫌だなー。
「にしても柔らかかった」
「な!」
「フィーレと同じくらいかもう少し控えめな感じではあるが」
「柊はフィーレと出来ているのか!?」
「何も無い……あいつらはそういう対象じゃない」
「なら良かった」
何も良くねーよ。ガキしかいねぇパーティーだぞ。俺はもっとこう……妖艶なお姉さんがタイプだからな。ガキに興味なんて無い。
「まぁアイツらに言いふらすつもりは無いけどよ。だが、裏切るとかそういうのだけは辞めてくれよな?」
「もちろんだ! そんな事は絶対にしない! ”神マキナ”に誓って断言する」
誰だよ神マキナって。知らねーよそんな神様。
「分かった。なら俺もこれ以上は言及しない。俺もお前のことは少なからず好意に思っているからな」
「な……それは僕の事を好きという事か?」
「ん? ああ、そうだ。俺はお前が好きだ」
良い奴そうだしな。特に嫌う理由なんてない。
「そ、そうか……僕も嫌いでは無い……いや、むしろ……その――」
「なぁそんな事より何か食べに行かないか? 俺昨日の夜から何も食べてないんだ」
誰かさんに殴られたからな。
「…………そんなこと?」
あれ? なんかゼノアの顔が険しくなった。俺なんか変なこと言ったか? もしかしたらゼノアは珠希やフィーレよりも扱いが難しいかもしれない。ゼノアに比べればアイツらは単純で分かりやすいもんだ。
「……はぁ。なら今度は僕がご馳走様しよう。いいところを知っているんだ」
「おお、それはありがたい。ぜひ頼む」
俺はギルドしか飲食できる所を知らないからな。
「ああ、任せてくれ。では二人を呼んでこよう」
ゼノアと俺は珠希とフィーレを呼びに部屋へと向かう。
……
…………
………………
「悪い、待たせたなお前ら」
「ちょっと今真剣だから黙っててお兄ちゃん」
「お、おう……って何してんだお前ら」
珠希とフィーレは二人向かい合い、真剣な顔でなにやらブツブツ言いながら頭を悩ませている。
「無駄ですよ、珠希ちゃん」
「まだ! まだ私は負けてないもん! ……私には秘密兵器があるんだからね!」
二人の間には木の板がある。俺はそれが何かを確かる為二人に近づく。
「…………ってこれチェスじゃん」
「あれ? 柊さんご存知ですか?」
「え? ああ……まぁな」
むしろこの世界にもチェスがあるのか。俺も昔はよく妹とチェスをしたもんだ。あいつは元気にしているだろうか。
「お兄ちゃん!」
「お、おう! なんだ?」
珠希が勢いよく俺の元に抱きついてきた。
「出番だよ! お兄ちゃん!」
「は? なんで俺が」
「フィーレをボッコボコにして! お願い! ……ダメ?」
珠希が目に涙を浮かべ、上目遣いで俺を見てきた。相当ボコボコにやられたようだなコイツ……だが、相手はフィーレだろ。負ける要素なんて無いだろ。
「……はぁ、分かった。俺に任せろ」
「えぇー! 柊さんと交代なんて聞いてません! 反則です!」
フィーレは反則だと騒いぐ。まぁ確かにチェスに選手交代みたいなルール無いよな。それより……
「……ってまさか秘密兵器って俺の事かよ」
「うん! そうだよ!」
珠希は満面の笑顔で頷いた。
「必殺! 他力本願!」
「全然かっこよくねーよ」
「……分かりました。柊さんが相手でも私、手加減しませんから。言っておきますが私、強いですよ?」
「ああ、そうかよ。お手柔らかに頼むよ」
――五分後。
「お願いします! 柊さん! もう一回! もう一回お願いします! 何でもしますから!」
「……よっわ」
あんなに自信満々で私は強いと言っていたフィーレだが、めちゃくちゃ弱かった。むしろ負けるのが難しいレベルだ。こんなのに負けた珠希はルールすら理解してなかったろ。
「……お前、ルールを理解していない珠希を相手に威張っていたのか」
「…………だって珠希ちゃんに私の凄さを知って欲しくて」
「ダサすぎるだろお前」
ルールを理解していない相手を負かして一体なにが嬉しいんだ。大人気ないとしか言いようがない。
「さっすがお兄ちゃんだね!」
「お前ももうちょっとこいつを理解出来るよう努力しろ。フィーレは基本頭が悪いし、ずる賢い。今後何かを言われたらまず疑え」
「分かった!」
「酷いです……柊さん」
「…………何してるんだ君達は」
ずっと無言で見守っていたゼノアがようやくここで口を開いた。
「君達はいつもこんな感じなのか?」
「……まぁな。大体こいつらだがな。俺は関与していない」
「そうなのか」
「うちのパーティーに幻滅したか?」
「……いいや、そんなことは無い。むしろ楽しそうで良いと思ったよ」
まぁ賑やかなのは否定しないけど、こいつらにはもう少し落ち着きを覚えて欲しいものだ。こいつらのせいで俺はずっと保護者気分だ。
「さぁゲームも終わった事だ。飯食いに行くぞお前ら」
「やったー! ご飯だー!」
「……最後にもう一回だけ……もう一回だけお願いします柊さん。後生ですからぁ」
フィーレは余程悔しかったのかまだそんなことを言っていた。
「…………分かった。一回だけだ。これで俺が勝ったら諦めろよ?」
「はい! お願いします! 今度こそ負けませんよ!」
***
俺達は宿から少し離れた店に来ていた。中は酒が大量に並べられている。所謂バーと言ったところか。
「俺はまだ酒は飲めないぞ」
「え? そうなのか? 柊はいくつなんだ?」
「十八になる」
「なんだ、立派な大人じゃないか。僕は十五だ」
この世界は十五が成人扱いなのか。これが異世界の常識というやつか。となると、俺はこの世界では酒が飲めるという訳か。
「ならゼノアのおすすめの一杯を頂こう」
「分かった、任せてくれ! マスター! いつものアレを!」
「あいよ」
ゼノアがそう言うと、マスターと呼ばれる髭を生やしたダンディーな男が酒を作りだす。
「まだ昼なのに酒か」
「良いじゃないか。こういうのは昼に飲むからいいんだよ」
「それは俺の故郷ではダメな大人がよく言うセリフだ」
「え? そうなのか? ……僕はダメな大人なのだろうか」
「知らん。俺の世界の常識はここでは通用しないだろう。だからまぁなんだ……大丈夫だろ」
俺はゼノスの心配をテキトーにあしらった。
「……そんな……私が……負けるなんて」
フィーレはまださっきの勝負を引きずっていた。
「お前、あんな実力じゃ俺でなくても負けるぞ」
「いいえ! 柊さんが強すぎるんです! 私は強いんです! なにせ私は家族とやった時負け無しだったんですから!」
それは多分、我が子可愛さでわざと負けていたんだろう。コイツの両親も苦労しただろうなぁ。
「どうぞ」
暫く待っていると、マスターが低い声でお酒を差し出してきた。バーのカウンター席ってなんか良いな。大人になったって感じがする。
「頂きます…………うん、美味いな」
「だろ? 僕は毎日これを飲んでいるんだ」
「毎日は流石に罪悪感があるが……だが、確かに美味い」
シュワシュワとした炭酸に、フルーティーな風味。ビールというより、サワーに近い。昔父さんに飲まされた事があるが、それと風味がにている。
「でね、これを一緒につまむんだ」
「……これ柿ピーか」
「カキピー? 違うよ。これは柿の種って言ってね……」
「だから柿ピーだろ」
「違うって! 柿の種って言うんだよ!」
「ああ、もう分かったよ」
これ以上言っても終わらなそうだ。
「……ねぇ、お兄ちゃん。私お腹空いた」
「私もです……」
あ、すっかり忘れていた。こいつら酒ダメだった。
「なぁゼノア、美味い店を教えてくれたのは助かるが、お腹を満たせるものは無いのか? こいつらはガキだからまだ酒を飲めないんだ。それに俺も柿ピーじゃ腹が膨らまない」
「だから柿の種だって! ……そうだね……じゃあ、マスター! いつものアレで!」
「あいよ」
こいつのいつものアレには一体いくつのレパートリーがあるんだ。それで分かるマスターも凄いが。暫くすると、マスターが何かをカウンターに置いた。
「へい、お待ち」
「これは何だ?」
「これはね、ピッツァだよ」
「ああ、ピザか」
「いや違う。これはピッツァだよ」
「…………もういい」
俺たちはピッツァを美味しく頂いた。
……
…………
………………
「……はい、言われた通りやつらを監視しています…………はい、問題ありません。アレン様」
俺達が腹を満たしていた頃、裏で暗躍する者達がいた。しかし、この時の俺達はまだ知る由もない。
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