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第一章 世界の理と選ばれし者
第十二話「あるに越したことはない」
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ゼノアが仲間に加わった。しかし、俺は肝心な事を見落としていた。こいつの職業が何なのかを。俺はテーブルに座り、ゼノアを珠希とフィーレに紹介した。つまり、なにを言われてももう手遅れ。三人はお互いに自己紹介を終えた様だ。
「……これから宜しくな、ゼノア」
「ああ、こちらこそ宜しくお願いする」
「ところでゼノア、お前の職はなんだ」
「ああ、言っていなかったか。僕の職業は『盗賊』だ」
「…………そうか」
だと思ったよ。いや、盗賊だと思っていた訳では無い。ただヒーラーでは無いという事は薄々感ずいてはいた。声を掛けられた時はその綺麗な顔立ちといきなり声を掛けられて驚いたのもあって、つい加入を了承してしまった。特に断る理由も無いと思っていたが、何故俺は気付かなかったんだ。こんな格好しているやつがヒーラーな訳ないだろ……なに男に見惚れてんだ俺は。
「でも勘違いしないで欲しい。僕の職業は『盗賊』ではあるが、悪い事はしていないし、これからもするつもりも無い、もちろん君達にもね。僕はただ純粋に君達のパーティーに入りたかっただけなんだ」
「ああ、別に大丈夫だ」
俺の頭はフィーレ並かもしれない。……そもそもこいつも悪い! ヒーラー募集って書いてあったろ! なんで目通して無いんだよ!
「……悪いね。ヒーラーでは無くて」
「あ、ああ。いいさ」
心を読まれてしまった。そんなに分かりやすい顔をしていたのだろうか。
「にしてもなんで俺達のパーティーに入りたいと思ったんだ? 俺達を知っていると言っていたが、それなら尚更入りたいとは思わないだろ普通。自分で言うのもなんだが、俺達のパーティーはあまり良い評判は無いぞ」
杖で殴られるとか、目を合わせたら殴られるとか、目の前を通ったら何も言わず殴られるとか……
……って全部俺じゃねぇか。
「ああ、もちろん聞いているよ。だから入りたいと思ったのさ」
何故そうなる。だから入りたくない、だろう普通。
「僕は悪事を働く奴が大嫌いでね。君がチンピラに絡まれている現場を目撃したんだ。アイツは昔僕の胸に触れたんだ」
「……胸? 胸くらい良いだろ別に」
「あ、いや! ちが……コホンッ……ともかく、君に絡んだあのチンピラもまた良い評判は聞かないという事さ」
俺の悪評がこの街に広まったのも全部あの酔っ払い連中のせいだ。悪い評判を擦り付けられた様なものじゃねぇか。
「『盗賊』なのに悪事を嫌うのか」
「あははは! 笑えるだろう? ……実は僕、あまり言い育ち方はしていないからね」
「……そうなのか。なんか悪いことを聞いたな」
「謝らないでくれ。そもそもヒーラー募集なのに入りたいと言った僕が悪いんだ」
本当にその通りである。……まぁ言わないけど。なんか闇抱えてそうだし。……だが、
「丁度男手が欲しかった所だ。嬉しいよ。なんせ俺達のパーティーにはガキしか居ないからな」
「えっへん!」
「私はガキじゃありませんよ、柊さん!」
ガキ共が騒いでおる。
「……そうだったんだね。僕で良ければ力になるよ。男としてね……そう! 男としてだ!」
「お、おう? これからよろしく頼むよ」
なんで男を強調するんだ。あと、顔近い。めっちゃ近い。
「これで男女比はマシになったな。どうだ? フィーレ、これで満足か?」
「え? ……あ、ああ……はい」
「ん? 男女比で困っていたんじゃないのか? 男手が欲しかったんだろ? その点、こいつは顔立ちもいいし悔しいがイケメンだ。女なら普通喜ぶ所じゃないのか?」
「…………うん、なるほど。そういうことか」
なにがそういう事、なんだゼノアのやつ。全く分からん。暫く俺達がギルドのテーブル席に座り話し込んでいると、いつものギルドのお姉さんがこっちに向かって歩いてきた。
「あのー」
「なんですか? お姉さん」
「そちらは飲食をする席になりますので、何か頼んで頂かなければ困ります……」
あ、忘れていた。
「すみませんお姉さん。じゃあいつもの四人分下さい」
「かしこまりました」
「……いつものとは何だお兄ちゃん」
「俺がいつも食べているやつだ」
レンチンされたものだけど。
「僕も良いのか?」
「ああ、歓迎パーティーとでも思ってくれ。もちろん金は俺が払う」
「ありがとう柊」
まぁ元手は珠希の財宝の金だが。とはいえ、仲間のための資金だ。別に良いだろう。
「ヒーラーはまた明日にしよう。今日はもう遅いからな」
「はい」
「うん!」
「了解だ」
暫く待っていると、お姉さんが四人分のいつものやつを持ってきた。
「お待たせしました。こちらマンドラゴラゴンのソテー四人前になります」
「なにこれ! 美味しそー!」
「本当ですね!」
「……僕もこれは食べた事がないな」
三人は良い反応を見せる。まぁ、レンチンだけどなこれ。冷凍食品なんて言ってもこいつら分からないだろうし、あえて言う必要もないだろう。
「頂きます」
「頂きますだ!」
「僕も、頂きます」
「味は美味いから安心してくれ。頂きます」
俺達は食事を堪能した。
***
その後、俺達は宿へと戻る。部屋はもちろん相部屋だ。ゼノアだけあのラ○ホになんて可哀想だしな。今も使用中と書いてあるピンクの小さい看板がドアノブに掛かっている。
(……これは今もお姉さんが借りているのだろうか)
「……すまないな。相部屋になるがいいか? ここしか無くてな」
「ああ。何も問題は無い。むしろ感謝する。宿まで用意してもらって」
「気にするな。俺達はもう仲間だ。苦楽を共にするんだから当然だ」
「……優しいな柊は」
ゼノアは随分と遠慮がちというか、感謝ばかりだな。本当に辛い過去を持ってそうだ。なるべく優しく接してやろう。……あ、そうだ! 日本には昔から伝統的なものがあるじゃないか! それを試しみよう。
「ゼノア、この部屋は風呂もあるからな。良かったら俺が背中を流してやるぞ」
「……え? あ、いや大丈夫だ! 僕は後で一人で入るから!」
「なんだよ。そう遠慮するなって。俺の故郷では古くから『裸の付き合い』という言葉があるんだ。これをする事で仲がより深まる、というらしい」
俺も他人の背中を流すなんてやった事ないけど。だからちょっと他人の背中を流すのに興味がある。
「い、いや! 本当に大丈夫だ! 気持ちだけ受け取っておくよ!」
「何遠慮してんだよ。ほら来いって」
俺はゼノアの腕を引っ張り風呂へと向かう。
「俺ら先入るけどいいか?」
「うんいいよ~いってら~」
「……」
あれ……? フィーレから返事がない。まぁいいか。
「よし、行こうぜゼノア。久しぶりに同じ年代の男と話せて俺もちょっと浮かれてるんだ。だから悪いが付き合ってくれ」
「…………分かった。ただし背中は僕が流そう」
「え? いや遠慮するな。俺が流して――」
「ダメだ! 僕が流す! あ、悪い声を荒らげてしまった。でもほら、僕はまだこのパーティーの新参者だ。団長の背中を流すのは当然の流儀だ!」
「団長って……」
ビックリした。そんなに俺の背中を流したいのかこいつ。
「……分かったよ。なら頼むよゼノア」
「ああ! 任せてくれ! その……先に入ってて貰えるか? 僕の装備は脱ぐのに少し時間がかかるから」
「え、ああ分かった。なら……先に入ってる……な?」
俺は服を脱ぎ先に浴室に入った。
(にしてもあの装備そんなに脱ぐのに時間かかるのか。動きやすそうなのにそんなデメリット抱えてんのかあの装備)
俺はシャワーを浴び、シャワーチェアに座り待っていた。
「…………ゼノアのやつ遅くね」
もう五分くらい待っている。流石に寒いんだが。
(あの装備結構大変なんだな……)
そんなことを思っているとようやく声が聞こえた。
「待たせたね。では僭越ながら背中を流させてもらうよ」
「ああ、頼む――」
「振り返るな! ……あいや、振り返られると洗いにくいだろう」
「あ、ああそうだよな。悪い」
なんだ、そういう事か。てっきり怒らせてしまったのかと思った。ゼノアの扱いは珠希やフィーレとはまた違う難しさがあるな。十人十色……か。色んなやつが居るもんだ。
「で、では。流すぞ」
「ああ、いつでも」
ゼノアは俺の背中をタオルでゴシゴシと洗ってくれる。
「……なぁ、もう少し強くてもいいぞ?」
「え? これよりもか?」
「まさか今のが精一杯とか言わないだろ? だとしたら非力過ぎるぞ? まぁ確かにゼノアは小柄だが……もう少し筋肉でも付けたらどうだ? 盗賊なんだろ? 無いよりあるに越したことはないぞ」
「……分かった。善処するよ。……にしても柊は逆に魔法使いなのに筋肉が凄いな。僕はてっきり魔法使いは基本的に後衛で居るから筋肉なんてものとは縁遠いものと思っていたよ」
コイツ、察しが良いタイプか。
「今どきの魔法使いは筋トレぐらいする。さっき言ったが無いよりあるに越したことはないからな」
「凄いな柊は……僕も見習わなければ……」
と、俺達は筋肉の話に花を咲かせていた。……まぁ俺の場合、ステータスポイントを殆どSTRに割り振っているか筋トレなんてしていないが。この世界の住人には俺や珠希のようにレベルなんて存在しないだろうし、ゼノアも俺みたいにすぐに筋肉を付けるなんて難しいだろうな。
「……なぁゼノア」
「なんだい?」
「俺達のパーティーで本当に良かったのか? ……他にもいいパーティーがあったと思うんだが」
「……言っただろう。僕は君達がいいんだ」
「なんでそこまで」
「……君達のパーティーが楽しそうだったから……かな」
楽しそう? 本当にそう見えるのか? 悪評しかないぞ今のところ。入りたい要素なんて一つも無いだろ。少なくとも俺なら絶対入ろうとは思わない。
……もしかしたらゼノアは仲間というものに憧れていたのだろうか? そんなに苦労して育ってきたのかこいつは。孤独に生きて、家族や仲間の温かみに憧れていたとかそういう事なのか? だとしたら、そんなやつに背中を流させていいのか? ……否! ダメだ! ここはやはり俺が背中を流すべきだ!
「ゼノア! やっぱり俺が流してやる!」
俺は振り返り、そう言うと思わずゼノアの胸に手が当たってしまった。
「あ、すまん、痛かった……か……?」
ん……? んんんんんん?
「……すぅ……はぁ………その……なんだ……無いよりはあるに越したことはない……だろ?」
「うわあああああああああっ」
「――んがっ」
俺は顔面にゼノアのグーパンを喰らい意識を失った。
初めてのダメージだった――。
「……これから宜しくな、ゼノア」
「ああ、こちらこそ宜しくお願いする」
「ところでゼノア、お前の職はなんだ」
「ああ、言っていなかったか。僕の職業は『盗賊』だ」
「…………そうか」
だと思ったよ。いや、盗賊だと思っていた訳では無い。ただヒーラーでは無いという事は薄々感ずいてはいた。声を掛けられた時はその綺麗な顔立ちといきなり声を掛けられて驚いたのもあって、つい加入を了承してしまった。特に断る理由も無いと思っていたが、何故俺は気付かなかったんだ。こんな格好しているやつがヒーラーな訳ないだろ……なに男に見惚れてんだ俺は。
「でも勘違いしないで欲しい。僕の職業は『盗賊』ではあるが、悪い事はしていないし、これからもするつもりも無い、もちろん君達にもね。僕はただ純粋に君達のパーティーに入りたかっただけなんだ」
「ああ、別に大丈夫だ」
俺の頭はフィーレ並かもしれない。……そもそもこいつも悪い! ヒーラー募集って書いてあったろ! なんで目通して無いんだよ!
「……悪いね。ヒーラーでは無くて」
「あ、ああ。いいさ」
心を読まれてしまった。そんなに分かりやすい顔をしていたのだろうか。
「にしてもなんで俺達のパーティーに入りたいと思ったんだ? 俺達を知っていると言っていたが、それなら尚更入りたいとは思わないだろ普通。自分で言うのもなんだが、俺達のパーティーはあまり良い評判は無いぞ」
杖で殴られるとか、目を合わせたら殴られるとか、目の前を通ったら何も言わず殴られるとか……
……って全部俺じゃねぇか。
「ああ、もちろん聞いているよ。だから入りたいと思ったのさ」
何故そうなる。だから入りたくない、だろう普通。
「僕は悪事を働く奴が大嫌いでね。君がチンピラに絡まれている現場を目撃したんだ。アイツは昔僕の胸に触れたんだ」
「……胸? 胸くらい良いだろ別に」
「あ、いや! ちが……コホンッ……ともかく、君に絡んだあのチンピラもまた良い評判は聞かないという事さ」
俺の悪評がこの街に広まったのも全部あの酔っ払い連中のせいだ。悪い評判を擦り付けられた様なものじゃねぇか。
「『盗賊』なのに悪事を嫌うのか」
「あははは! 笑えるだろう? ……実は僕、あまり言い育ち方はしていないからね」
「……そうなのか。なんか悪いことを聞いたな」
「謝らないでくれ。そもそもヒーラー募集なのに入りたいと言った僕が悪いんだ」
本当にその通りである。……まぁ言わないけど。なんか闇抱えてそうだし。……だが、
「丁度男手が欲しかった所だ。嬉しいよ。なんせ俺達のパーティーにはガキしか居ないからな」
「えっへん!」
「私はガキじゃありませんよ、柊さん!」
ガキ共が騒いでおる。
「……そうだったんだね。僕で良ければ力になるよ。男としてね……そう! 男としてだ!」
「お、おう? これからよろしく頼むよ」
なんで男を強調するんだ。あと、顔近い。めっちゃ近い。
「これで男女比はマシになったな。どうだ? フィーレ、これで満足か?」
「え? ……あ、ああ……はい」
「ん? 男女比で困っていたんじゃないのか? 男手が欲しかったんだろ? その点、こいつは顔立ちもいいし悔しいがイケメンだ。女なら普通喜ぶ所じゃないのか?」
「…………うん、なるほど。そういうことか」
なにがそういう事、なんだゼノアのやつ。全く分からん。暫く俺達がギルドのテーブル席に座り話し込んでいると、いつものギルドのお姉さんがこっちに向かって歩いてきた。
「あのー」
「なんですか? お姉さん」
「そちらは飲食をする席になりますので、何か頼んで頂かなければ困ります……」
あ、忘れていた。
「すみませんお姉さん。じゃあいつもの四人分下さい」
「かしこまりました」
「……いつものとは何だお兄ちゃん」
「俺がいつも食べているやつだ」
レンチンされたものだけど。
「僕も良いのか?」
「ああ、歓迎パーティーとでも思ってくれ。もちろん金は俺が払う」
「ありがとう柊」
まぁ元手は珠希の財宝の金だが。とはいえ、仲間のための資金だ。別に良いだろう。
「ヒーラーはまた明日にしよう。今日はもう遅いからな」
「はい」
「うん!」
「了解だ」
暫く待っていると、お姉さんが四人分のいつものやつを持ってきた。
「お待たせしました。こちらマンドラゴラゴンのソテー四人前になります」
「なにこれ! 美味しそー!」
「本当ですね!」
「……僕もこれは食べた事がないな」
三人は良い反応を見せる。まぁ、レンチンだけどなこれ。冷凍食品なんて言ってもこいつら分からないだろうし、あえて言う必要もないだろう。
「頂きます」
「頂きますだ!」
「僕も、頂きます」
「味は美味いから安心してくれ。頂きます」
俺達は食事を堪能した。
***
その後、俺達は宿へと戻る。部屋はもちろん相部屋だ。ゼノアだけあのラ○ホになんて可哀想だしな。今も使用中と書いてあるピンクの小さい看板がドアノブに掛かっている。
(……これは今もお姉さんが借りているのだろうか)
「……すまないな。相部屋になるがいいか? ここしか無くてな」
「ああ。何も問題は無い。むしろ感謝する。宿まで用意してもらって」
「気にするな。俺達はもう仲間だ。苦楽を共にするんだから当然だ」
「……優しいな柊は」
ゼノアは随分と遠慮がちというか、感謝ばかりだな。本当に辛い過去を持ってそうだ。なるべく優しく接してやろう。……あ、そうだ! 日本には昔から伝統的なものがあるじゃないか! それを試しみよう。
「ゼノア、この部屋は風呂もあるからな。良かったら俺が背中を流してやるぞ」
「……え? あ、いや大丈夫だ! 僕は後で一人で入るから!」
「なんだよ。そう遠慮するなって。俺の故郷では古くから『裸の付き合い』という言葉があるんだ。これをする事で仲がより深まる、というらしい」
俺も他人の背中を流すなんてやった事ないけど。だからちょっと他人の背中を流すのに興味がある。
「い、いや! 本当に大丈夫だ! 気持ちだけ受け取っておくよ!」
「何遠慮してんだよ。ほら来いって」
俺はゼノアの腕を引っ張り風呂へと向かう。
「俺ら先入るけどいいか?」
「うんいいよ~いってら~」
「……」
あれ……? フィーレから返事がない。まぁいいか。
「よし、行こうぜゼノア。久しぶりに同じ年代の男と話せて俺もちょっと浮かれてるんだ。だから悪いが付き合ってくれ」
「…………分かった。ただし背中は僕が流そう」
「え? いや遠慮するな。俺が流して――」
「ダメだ! 僕が流す! あ、悪い声を荒らげてしまった。でもほら、僕はまだこのパーティーの新参者だ。団長の背中を流すのは当然の流儀だ!」
「団長って……」
ビックリした。そんなに俺の背中を流したいのかこいつ。
「……分かったよ。なら頼むよゼノア」
「ああ! 任せてくれ! その……先に入ってて貰えるか? 僕の装備は脱ぐのに少し時間がかかるから」
「え、ああ分かった。なら……先に入ってる……な?」
俺は服を脱ぎ先に浴室に入った。
(にしてもあの装備そんなに脱ぐのに時間かかるのか。動きやすそうなのにそんなデメリット抱えてんのかあの装備)
俺はシャワーを浴び、シャワーチェアに座り待っていた。
「…………ゼノアのやつ遅くね」
もう五分くらい待っている。流石に寒いんだが。
(あの装備結構大変なんだな……)
そんなことを思っているとようやく声が聞こえた。
「待たせたね。では僭越ながら背中を流させてもらうよ」
「ああ、頼む――」
「振り返るな! ……あいや、振り返られると洗いにくいだろう」
「あ、ああそうだよな。悪い」
なんだ、そういう事か。てっきり怒らせてしまったのかと思った。ゼノアの扱いは珠希やフィーレとはまた違う難しさがあるな。十人十色……か。色んなやつが居るもんだ。
「で、では。流すぞ」
「ああ、いつでも」
ゼノアは俺の背中をタオルでゴシゴシと洗ってくれる。
「……なぁ、もう少し強くてもいいぞ?」
「え? これよりもか?」
「まさか今のが精一杯とか言わないだろ? だとしたら非力過ぎるぞ? まぁ確かにゼノアは小柄だが……もう少し筋肉でも付けたらどうだ? 盗賊なんだろ? 無いよりあるに越したことはないぞ」
「……分かった。善処するよ。……にしても柊は逆に魔法使いなのに筋肉が凄いな。僕はてっきり魔法使いは基本的に後衛で居るから筋肉なんてものとは縁遠いものと思っていたよ」
コイツ、察しが良いタイプか。
「今どきの魔法使いは筋トレぐらいする。さっき言ったが無いよりあるに越したことはないからな」
「凄いな柊は……僕も見習わなければ……」
と、俺達は筋肉の話に花を咲かせていた。……まぁ俺の場合、ステータスポイントを殆どSTRに割り振っているか筋トレなんてしていないが。この世界の住人には俺や珠希のようにレベルなんて存在しないだろうし、ゼノアも俺みたいにすぐに筋肉を付けるなんて難しいだろうな。
「……なぁゼノア」
「なんだい?」
「俺達のパーティーで本当に良かったのか? ……他にもいいパーティーがあったと思うんだが」
「……言っただろう。僕は君達がいいんだ」
「なんでそこまで」
「……君達のパーティーが楽しそうだったから……かな」
楽しそう? 本当にそう見えるのか? 悪評しかないぞ今のところ。入りたい要素なんて一つも無いだろ。少なくとも俺なら絶対入ろうとは思わない。
……もしかしたらゼノアは仲間というものに憧れていたのだろうか? そんなに苦労して育ってきたのかこいつは。孤独に生きて、家族や仲間の温かみに憧れていたとかそういう事なのか? だとしたら、そんなやつに背中を流させていいのか? ……否! ダメだ! ここはやはり俺が背中を流すべきだ!
「ゼノア! やっぱり俺が流してやる!」
俺は振り返り、そう言うと思わずゼノアの胸に手が当たってしまった。
「あ、すまん、痛かった……か……?」
ん……? んんんんんん?
「……すぅ……はぁ………その……なんだ……無いよりはあるに越したことはない……だろ?」
「うわあああああああああっ」
「――んがっ」
俺は顔面にゼノアのグーパンを喰らい意識を失った。
初めてのダメージだった――。
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