転生して来た勇者なのにそんな扱いですか？〜魔王がいないのでとりあえず王様ぶっ飛ばします！〜

第16話 フミヤ・マチーノ

シエロはヨヨの口から出た名前に驚く。

冒険者フミヤ、これは偶然だろうか？
自分が倒さなくてはならない魔王の名前もフミヤと言うのだ。

しかし倒さなくてはならないのは魔王フミヤ・マチーノ。決して冒険者なんかでは……

「フミヤもな、お前と同じで転生してすぐにここに来たらしいんだ。えっとフミヤ・マチ、マーチ、マ……、フルネームは忘れてしまったぞ」

「フミヤ・マチーーーーノだーーーー！！」

たまたま同じ名前の人がいただけ、魔王なんてこと無い無いと思ってたら、転生冒険者と魔王……同一人物じゃん！？

「なんじゃ急に！。確かにそうだ、あいつフミヤ・マチーノって名前だったな。……でもなんでシエロがそれを知ってるんだ？」

「えっと……実は………」

シエロはヨヨに魔王フミヤ・マチーノについて知っていることを話した。

「……え？。あいつ今魔王やってるの？」

「同一人物なら」

「………やりそうだな、あいつ」

ヨヨは俺の話を聞いて納得した様子。
冒険者フミヤ・マチーノについてしか知らないヨヨはその3、40年前に転生してきた彼について話をし始めた。

『冒険者フミヤ・マチーノ』。
なんとフミヤは俺と同じで転生者だったのだ。
ヘカトス王国で行われた召喚術によってウレールに呼び出されたフミヤは、Lvを上げるためにラック村に訪れたことがあると言うのだ。
フミヤは当時30歳で今の魔王が同一人物なら魔王フミヤ・マチーノは6、70歳ということになる。

「フミヤって人はアリスから呼び出されたんですかね？」

「いや、レームとかいう女神だったと思うぞ。あいつはスラ洞窟で『レームシバく』をずっと連呼しておったしな」

「なんか、俺と似たような人ですね、フミヤって人」

転生させた女神は違う名前だったが、多分フミヤは俺と同じで女神に苦労させられてたのだろう。
俺もアリスシバくは言ってたからな。
女神は16人いるってアリスから聞いてたけど、どいつもダメな女神なのかもしれない。

「フミヤは勇者として召喚されたんですか？」

俺はヨヨに聞く。俺と同じ転生者なら魔王を倒す目的で召喚されたのだろうと思っていた。
だがヨヨから返ってきた返事は

「いや、あいつは文化人として呼び出されたとか言っておったぞ。なんでもヘカトス王国を発展させるために何か特殊な文化を取り入れたいとかで異世界人の知恵が欲しいとか何とか」

俺の予想に反した答えを言う。

文化人って芸術とかに特化した人のことを言うんだっけか？。
フミヤは何かと戦うためでは無く、国の特産物になりそうな物を作って欲しいがためだけに呼び出されたのだろう。
それは勝手な召喚をされたことだな。

シエロはフミヤの話を気の毒に思ってしまった。
女神であるレームをシバくと言っていたのもなんとなく分かる気もする。

しかし文化人枠で呼ばれたフミヤが魔王になるというのがどうしても繋がらないシエロ。
あいつならやりかねないと言い出したヨヨにそこの所を詳しく聞いてみる事にした。

「文化人フミヤって言うなら魔王とは関係ないですかね」

「いや、そうとも限らんぞ。あいつLv上げたらいつか王様ぶっ飛ばすって豪語してたからな」

「へ、へ～、そんなことを」

「よっぽどヘカトスの王が嫌いだったんだろう。王も女神も神様もぶっ飛ばすと言いながらスライムと戦っておったぞ」

「……ちょっと分かるかもそれ」

ヨヨの話を聞いてますますフミヤに対して親近感が湧く。
もしかしたらフミヤもヘカトスという国でひどい扱いをされていたのかもしれない。
俺もLv1って教えた時のリュード達の蔑むような態度には腹が立ったからな。
フミヤ・マチーノ、同情するよ。

「でも魔王になるってよっぽどですよ」

「だな。でもあいつのスキルとかアーツって文化人というよりはバリバリの戦闘タイプだったんだよ」

「文化人が戦闘タイプか。やっぱウレールのスキルとかアーツって適当過ぎませんか？」

俺はフミヤにちょっとだけ嫉妬した。
勇者という役職を与えられた俺はその戦闘タイプのスキルやアーツが必要なのだ。
でも出てきたのは肩やら胃やらビルやら。
攻撃できるのも酸だけ。
文化人ならビルとかがピッタリだろと思ってしまう。

「フミヤのスキルは『破壊と再生』。芸術にはもってこいだとか言ってだが、アーツがえぐいぐらいの物だったんだよ」

ヨヨは当時のフミヤが習得していたスキルとアーツを語ってくれた。

「…………」

「……であともう1つのスキルが……」

「…………」

「……っていうのが当時のフミヤのステータスだったかな」

「………こいつ、可哀想でも何でも無いですよ。恵まれ過ぎてはしませんか？」

説明を聞き終えたシエロ。
ヨヨの言う当時のフミヤ・マチーノのステータスは喉から手が出るほど欲しいキャラクターであった。
話をまとめたステータスがこんなカンジ。



名前：フミヤ・マチーノ（30歳）
役職：文化人
Lv：32
体力：2038
MP：662
攻撃力：354
防御力：283
すばやさ：164
光属性：152
闇属性：245
スキルポイント：0
スキル：破壊と再生Lv4/神殺しLv2
アーツ：断罪の剣lv18/自己再生Lv22/創造Lv10/成長促進Lv8/天照の光Lv5/深淵Lv3



…………

「こいつが勇者やれよーーーーー！！！」

シエロの叫びは狭い洞窟で何度も反響。
スライムに襲われる可能性など考えず、ただただ思った事を大声で叫ぶのであった。

同情？、は？、いらねーよこいつにそんなもん！、ステータスヤバすぎ。
ちゃんと転生恩恵のLv31からスタートしてるだろこいつ！！！。
何でその数値でスラ洞窟来てんの？。
弱いものいじめだよ、それ（あ、でもLv1上がってる）。
スキルもアーツも名前かっちょえ～～～。
断罪、天照、深淵。なにそれ？、説明無くても強いよね絶対。
こいつ役職文化人じゃねーから。勇者、バーサーカー、支配者とか。魔王、全然あるレベルのやつだわ。
俺もしかして（魔王だったら）こいつと戦うハメになるかもしれないの？
……無理。はい、無理～～～。

自分とフミヤとの差に愕然としたシエロは頭の中で無理無理無理とずっと叫んでいた。

「ヨヨ様～。俺頑張ったら勝てますか？」

「…………」

ヨヨはフミヤとシエロを頭の中で天秤に乗せてみる。
だが天秤は秒速でフミヤの方に傾き、シエロは遥か彼方へ飛んでいってしまう。

「もっかい死んで転生した方が」

「冗談でもやめてください」

第3の人生をおススメしてくるヨヨであった。