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第三十三話 痕跡
しおりを挟む遠藤に見送りを固辞されたため、ユウとサクヤは部屋に二人きりになる。
「遠藤君ってマゾなのかしら?」
「そうなのかもな……俺なら発狂しそうなもんだけど」
イチャついているところを見せつけて欲しい。
普通の神経ならば苦痛以外何者でもない。少なくともユウにとってはそうだった。
隣あったままベッドに座る二人は、遠藤が帰ったあともそのままでいた。移動する理由もない。
肩に頭を擦り付けられると髪の匂いが鼻につく。
「ユウ、好きよ?」
「俺もだよ……」
自分の手の甲にのせられた、サクヤの手の冷たいぬくもり。
これは……まだ夕方だっていうのに。
顔を見なくてもわかる。
──さっきまでのいちゃついた空気のせいで、サクヤはむらついてしまっている。
サクヤは顔をユウの体に擦り付けるような動作をしていた。
猫の匂い付けみたいだなと、自分の精神から切り離されたような冷静な頭で考える。
サクヤは限界だった。
今日一日中我慢してきたからだ。
学校の授業中も頭の中はピンク一色だった。
前日の夜にしてもらったことを考えながら、体の疼きを我慢しつつ、すまし顔で黒板を眺めていたのである。
今日はどうしてもらおう。これからどうしてもらおう。
色々なプレイを妄想し、精神を高ぶらせていたのだ。
サクヤは毎日こんな感じだ。付き合う前もエロ妄想ばかりしていた。
一方、ユウは真面目に勉強に励んでいた。
進学校なので目立ちはしないが、学生という区分では基本的に優等生に分類される男、脳みその切り替えは得意な方だった。
自分よりも優秀なサクヤの隣に自信を持って並び立つために、努力を継続する。
サクヤはなまじ勉強に余裕が有る分、頭の中がエロ妄想でいっぱいになってしまうのだ。
毎日幸せだった。脳髄がとろける快楽を毎日与えてもらい、精神的にも充足がある。
悩みがあるとするなら、肉体や精神の充足は長続きしないということだ。
どれだけしてもすぐにしたくなってしまう。
授業中何度もニヤケそうになるのをこらえ、必死に我慢した。
放課後ユウがどんな顔で自分を襲ってくれるのか。
楽しみで楽しみで仕方ない。
出来ることならばユウの方から襲いかかって欲しいものだが、ユウは奥手というか、どちらかといえばサクヤを尊重した行動をしがちだ。
サクヤとしては少々強引にされたい時もある。自分を必死に求めてくれるということ自体が嬉しいものであるし、そういう妄想で自慰に励んでいたからだ。
付き合うようになる前は、毎日毎晩のようにユウの部屋で期待し続けていた。
本を読みながらちらちら様子を伺って、自分がパジャマの下に何もつけていないということがバレるのではないかと期待半分、恐怖半分の気持ちで過ごしていたのだ。
押し倒されて、組み敷かれて強引に服を引き剥がされ、ユウの性欲すべてを自分にぶつけられる。だが、その展開は付き合う前は訪れなかった。
良くも悪くも優しいのだ。手荒な真似をすることは無いに等しい。あるとするなら溜まりに溜まっているときや、サクヤがプレイ的に求める時くらいだ。
ユウが隣を見てみると、赤い顔のサクヤはぼーっとした様子で床の方を見ていた。
半開きになっている口元が気になる。
「……」
「……」
気まずくはない沈黙。
どちらかといえば甘ったるい、胃に重い空気だった。
その空気を切り裂いたのはユウの方からだ。
「キス、していいか?」
「うん……」
隣で擦りついている方とは違う方の肩を掴み、自分の方へ引き寄せた。
ピンク色の唇に目が行く。
眼鏡をかけたままのサクヤは、目をつぶったままユウを待っていた。
「んっ♡」
唇を寄せると、サクヤは喉を鳴らす。
舌は入れず、唇だけ。
震える肩を両手で掴んでいると、サクヤの方もユウの肩を掴む。
そのうちに舌を入れたくなり舌を伸ばすと、サクヤの方もそうしていたらしく、舌先が触れ合う。
目を開けるとサクヤも見ていて、キスしたまま少し笑ってしまう。
サクヤをベッドに押し倒し、今度は最初から舌を押し込んで、貪るように交わる。
両手をつなぎ、ベッドに押し付けるように、力強く。
遠藤のおかげだな。
俺、やっぱりサクヤが好きだ。
二人きりでなく、遠藤という部外者を混ぜた集まりの中、サクヤが自分を好きだと言ってくれた。
聞いたとき胸がざわついた。遠藤の前で表に出さないよう大変だった。
今まで何度も聞いたサクヤの好きという言葉。
第三者が居る状況で聞くと、実感を持って身内になるような気がした。
暖かく甘い唾液の味。
そのまま二人は数分の間ずっと舌を絡めあっていた。
心にあるのは充実感と、幸福な気持ち。
乱れた呼吸をお互いの顔に擦り付け合って、制服を着たまま全身を擦り付け合いながらまさぐり合う。
ぴったりとあった呼吸のリズムに、相性の良さを再確認した。
少し起き上がり、口から銀糸を伸ばしながら、とろけてしまった顔を見合わせる。
「俺もう我慢できない……」
「私も……」
体はすっかり準備を終わらせてしまっていた。
だがいくらなんでも時間が早すぎる。始めたとして、夕食時には呼ばれてしまうのだ。
ある程度のことでは怒られたりはしないものの、普段の生活に支障をきたすのであればストップが掛かる可能性は否めないのだ。
ユウからしても不健全なのはわかりきっているのである。
年若い男女が毎晩泊まり込んで性交三昧。若いといっても若すぎる。
この状況が許されているのは、今のところ大きな問題が起きていないからだ。
成績は頑張ってキープしているし、家の仕事なども極力頑張っている。
だからこんな内容で怒られるのは避けたい。
夕食前に行為に夢中になったせいで、お泊まりを禁止される。──元も子もない。
だからといって今のサクヤを放置するわけにはいかない。
また泣かせてしまうし、何より自分が我慢できそうになかった。
「サクヤ、サクヤの部屋行こう?」
「なんで……? 私は今すぐしたくてたまらないわ」
「最中に母さんの声聞きたくないし、邪魔されたくない」
「あ……」
サクヤの方もとろけた頭で理解した。
確かに邪魔されたくはない。
「じゃ、じゃあもう一回キスして……?」
「うん……」
口の周りをよだれまみれにしながら、二人は再び激しく口を合わせる。
唇を挟みあったり、歯や歯茎に舌をなぞってみたり、繰り返し口の中を味わいあう。
二人の頭の中は酒が回ったような陶酔状態に有り、もはや理性などというものは無縁の状態になりつつあった。
「か、母さんに言ってくるから、先に部屋に行っててくれるか?」
「一緒がいい……」
「大丈夫、すぐ行くから」
「うん……早く来てね?」
「もう限界だからすぐ行くよ」
二人は一階に降りる。ユウが先で、サクヤが後ろ。
サクヤはおぼつかない足取りで階段を下りていた。
ああ、やばい。今すぐ始めたい。
サクヤの上にのしかかりたい衝動をユウは必死でこらえていた。
だが、邪魔されたくはない。
思う存分二人だけの世界に入りたいのだ。現実に引き戻す声は必要ないのである。
「母さん? ちょっとサクヤの家行ってくる」
「ほどほどにしなさいよ? 夕飯できたら連絡はするから」
「え、ああ……なんかスムーズだね?」
「まぁ……とりあえず連絡はするからね。あんまり遅くまでいちゃダメよ」
リビングにいた母に声をかける。ドアの隙間から顔だけを出して。
勃起しっぱなしで、とてもじゃないがリビングには入れなかった。
思ったよりスムーズに許可が出てしまい、玄関で靴を履いていたサクヤと合流できた。
「早いわね?」
「うん……めちゃくちゃ物分りいい感じだった」
「諦められているのかしら……」
かもしれない。
二人はそうでないとはとても言えなかった。学校の成績を除けば品行方正とは程遠いのだ。
リビングの食卓テーブルの上で頬杖をつきながら、ソファで伸びに伸びている猫、ウニを眺めながらユウの母はため息をつく
強くは言いにくいのよね……。
ユウの母は二人について文句を言いにくかった。
なにせ自分にも同じ経験があるからだ。そんな人間の言葉にどれだけの説得力があるのだろう。
昔から長らく続いたユウの父のアプローチを受け入れたのは大学のとき。
ほどなくして同棲を始めた二人は、今のユウたちのように四六時中盛っていた時期があったのだ。
大学の講義をサボり、日中ずっと繋がったまま過ごし、多少の休憩を取ったあと、また朝まで繋がったまま。結局疲れて眠ってしまい、翌朝の講義までサボって、また始めて。
何か理由がない限りしない日はなかった。自分の感情の高鳴りや快感、愛情で頭がいっぱいになる感覚に夢中だったのだ。
そしてそのまま、サクヤの母とともに大学卒業に時期を合わせて、ユウを産んだ。
その時の気持ちはよく覚えている。
なのでユウとサクヤの気持ちはわかってしまうのである。特にサクヤの方を。
当時の自分たちであれば止められようとも続けていただろう。
親として放置していいのか。
現状だと避妊に気をつけろ、としか言えない。それにしても、自分は言い難いものがある。避妊を気遣うユウの父に対し、生での行為をしきりに求めたのは自分だからである。快楽に勝てなかったのだ。愛する男の精を体が欲しがってしまっていた。
サクヤが最悪妊娠してしまったとしても、金銭的なものを含めてバックアップは問題ない状態だ。両家族共通で孫は楽しみにしているのである。
そしてもう一つ、止めない理由があった。
夫婦生活が前より盛り上がっているのだ。
月に一度か二度の関係性だった今までとは違い、最低でも週に二、三度の頻度まで増えていた。
子供たちに影響されているのか、ユウの父は求める機会が明らかに多くなっているのだ。日課だった晩酌もユウ、サクヤの父両名が頻度や量を減らしている。いつもよりも飲んでいる量が少ない時は、夜するということ。そんなときは風呂上りにいつもより入念に肌のケアをしたりする。
柄にもなく緊張したりしていた。ユウの父以外との男性経験がなく、本当に満足させられているのか不安になった時期もあったのだ。
サクヤの家のほうも同じ状態になっていると聞いた。サクヤの母は昔から夫にベタ惚れなので、大層喜んでいる様子で報告してくる。
自分の肌の状態を見ると驚く。明らかに色艶がいいし、体そのものも前より元気だ。肌が水をはじくなど、もう何年も見ていなかったのに。
二人のおかげと言えなくもなかった。
四十前という年もあって少し恥ずかしい気持ちはあるのだが、内心では嬉しかったりもする。
情熱的にアプローチしてくれていたときを思い出してしまい、自分がまだ捨てたものでないと実感できていた。
今でもユウの父はプレゼントだったりはくれるのだが、やはり体も求めて欲しくなる時がある。
自分たちが恋のキューピッドのつもりだったのに、いつの間にか立ち位置が逆になっている。
子供から学ぶこともあるな、とユウの母は笑いそうになった。
久しぶりにやってきたサクヤの部屋は大きな変化はなし。
暖房が入っていないため、家全体が冷えている。サクヤの部屋も例外ではなかった。
変わったところがあるとすれば、きれいに整頓された机の上に、水族館で買ったガラスのペンギンと、机横のコルクボードに所狭しと貼られた写真の中に、旅行の時の写真が追加されているくらいだ。
ユウの部屋にも現在同じものがある。
部屋いっぱいのサクヤの匂い。感づかれない程度に、肺いっぱいに吸い込む。
「ユウ、はやくしましょう? これ以上は我慢できないの。今日だってずっと我慢していたのよ?」
「あ、ああ、俺も」
言いながら写真を勉強机を見ていたユウが振り向くと、サクヤは制服を着たまま下着を下ろしていた。
電気をつけようと思っていたのに、目が離せない。これから起きることに
水色の下着のクロッチ部分はシミが滲んでいて、床に落ちると少し重量のある音をたてる。
脱ぎ終わったあと、真っ赤な顔でサクヤは立ちすくんでいた。
完全にスイッチ入ってる。
何度も見た表情。目線はユウのほうを向いているのに、何処か遠くを見ているようにも見える、潤んだ瞳。
普段よりも細めている目と、相反するように少し開いた口に目が行く。
「ユウ、私今日はずっと我慢していたのよ……? 朝も起こすの我慢して、学校が終わったらいっぱい、いっぱいしてもらおうって。なのに遠藤君が来ちゃったからできなくて……もう限界なの。むらむらする。えっちしたい……♡」
サクヤはスカートをゆっくり持ち上げ、中身をユウに見せつける。
当然ノーパンだと思っていたユウは、内心期待していた。造形が好きなのだ。夢に見てしまうくらいは印象的だった。
「そ、それ……!」
ユウの目に入ったのは魅惑の三角系、──ではなく、四角形。
正確に言うならば平行四辺形。いわゆる菱形と呼ばれるものだ。
サクヤが履いていたのは、股間を丸出しにした、黒のレースの下着。
ぷっくりしている割れ目が完全に露出していて、下腹部も大半が出ている。
付いている布地は足の付け根にある逆さまの三角系が二つだけで、頼りない細い紐で腰からぶら下がっている。
「エロ下着よ……セクシーランジェリーなんて書いてあったわ。ど、どう……?」
「え、エロい……ノーパンよりなんかエロい……」
「語彙がなくなっているわよ。こういうのいっぱい持っているの。本当はもっと早く見せてあげたかったんだけれど、恥ずかしくて……」
「い、一応着てるわけだし、むしろいつもより恥ずかしくないんじゃないか?」
「ううん、恥ずかしいのよ。だってこれ、えっちしたいから着てるのよ……? ユウに興奮してもらいたくて、おまんこ弄ってほしくて着てるの。そう考えたらすごく恥ずかしいじゃない?」
「た、確かにそうかも。──近くで見てもいい?」
こくん、と頷いたのを見て、ユウは距離を詰める。
スカートが影になっていて、細かいところが見えないのだ。
サクヤの両方の太ももを両手で掴み、顔を近づける。
近づくとわかる、濃厚なメスの匂い。
膝の方までびっしょりと愛液が垂れていた。
「あっ、そんな近距離でおまんこ見ないでっ♡」
「無理だろ。これは見るしかないっていうか、見たくなる」
「はぁっ、は、恥ずかしい……♡ ユウ、私が発情してるのわかる……?♡」
「わかるよ。匂いすごいし、びちょびちょだ。ダメだ、俺のほうが我慢できなくなってきた」
視覚、嗅覚、聴覚、すべてがユウの性欲を煽る。
体は熱く、胸いっぱいにムラムラした気持ちがあった。
愛液で濡れてテカるせいで、柔らかそうな肉の形がよくわかる。
細身の体なのに、付いていて欲しいところにはしっかりと肉がついている。
サクヤの尻を両手で掴み、揉みながら顔を密着させる。顔で持ち上げるような状態だった。
大陰唇、小陰唇、膣口。全てをじっくり、ゆっくり舌と唇で味わう。クリトリスだけは触れない。焦らすのが好きだった。
「ふぁ♡ だめぇ、舐めっ、ああっ♡ 恥ずかしい、恥ずかしいっ!♡」
膝をがくがく震わせている不安定な体を支え、股ぐらに顔をねじ込み続ける。
匂いと味で頭の芯からとろけていく。
舌に触れるつるんとした感触、人体とは思えないくらい柔らかな肉に夢中だった。
「あっ、んっ♡ た、立ってられないっ! きもちぃ、ユウがおまんこ舐めってるっ!♡」
サクヤはユウの頭を押さえ、体重を支え、嬌声を上げた。
体の小刻みな振動を顔で受け止め、溢れる愛液を喉の奥に流し込む。
熱い、いやらしい味のする液体。舌に触れて胃に落ちて、広がって全身が熱くなる。
制服ズボンのファスナーが壊れてしまいそうなほど勃起していた。
「い、いいい、イくっ、だめだめっ、いひっ、イくっ!♡」
背伸びするように全身を伸ばし、顔に股間を擦り付けるようにして絶頂した。
顔に当たる柔らかな熱い肉の感触を堪能しながら、震える全身を押さえ、サクヤの絶頂の余韻が消えるまで呼吸は我慢した。
顎から首にかけてサクヤの愛液でびっしょりだ。制服のシャツまで濡れてしまっている。
暖かな液体からは発情しきったメスの匂いが漂い、オスとしての本能が刺激されていた。
「い、イッちゃった……♡ も、もう限界っ、すごい敏感になってるのっ!♡」
「俺ももうダメだ! は、破裂しそう」
股間から顔を離し、ズボンを脱ぐためにベルトを外す。
限界だった。ただでさえしたくてたまらなかったのに、このような痴態まで見せられてしまった。
サクヤが選んだ下着もたまらなく好きだ。自分に見せるためだけに選んでくれたもの。
自分がいないところで、自分のことを思ってくれているということ。それそのものがたまらなく嬉しい。
急いで服を脱ぎ、サクヤをベッドに押し倒す。
はち切れんばかりに膨らんで真上を向こうとしているチンポをサクヤは愛おしそうに見ていた。
サクヤの着ているブレザーを多少強引に引き剥がし、中のベストも雑にボタンを外す。
難関はシャツだ。ボタンの数が多い上に、小さい。その上ボタンの位置も男女では真逆。
いくら慣れていても、興奮状態で手が震えると上手く外せない。
「もしかして上もあれ?」
「そ、そう、上下セットの下着だから……」
白いシャツに透けている黒い下着が気になる。どうにも普通のブラジャーのようには見えない。
胸の大半が菱形に露出しているように見えるのだ。
上はユウ、下はサクヤがボタンを外した。
見た瞬間、露出していた乳首に吸い付く。
サクヤがつけていたのは、乳首と乳輪がぱっくり完全に露出したもの。
割れ目のように開いていて膨らんでしまった乳首が見えていた。
舌で転がし、唇で吸い付く。
ピンク色の突起は固く膨らんでいて、その下は丸く大きく柔らかな膨らみ。
両手で両方を揉みながら、片方に顔を押し付ける。指が沈んで、跳ね返ってくる肉の感触にチンポがガチガチになる。
少し強く吸うたびにサクヤは消え入りそうな声で喘いだ。
サクヤの中にあるのは自分を妊婦にしようとする男に対する母性本能。快楽と愛情が入り混じった幸福な気分。
「柔らかい……しかもエロすぎる」
「んっ、よ、喜んでくれてるならぁっ、よ、良かったぁっ!♡ もっと吸って、揉んでっ!♡ ユウのものだからっ!♡」
自分の胸に夢中で吸い付いている、ユウのむき出しになった背中の肩甲骨の形を手でなぞり、サクヤはうっとりした顔をする。本人すら知らないだろう形を自分だけが知っているという事実に興奮するのだった。強い優越感。自分だけが知るもの。ユウがどんなセックスを好んでいるか、どんな体位が好きか、自分だけが知っている。
お互いの体は部屋の温度とは違い、熱く、しっとりと汗ばんでしまっている。
「もっと早く、俺の方から告白すればよかった」
「んっ、な、なんでっ? わ、私もそっちが良かったけどっ……」
「い、今のおっきいおっぱいもいいけど、小さい頃のも触ってみたかったんだ……」
「もうっ、えっちなんだから……そんな時から触られてたら今よりもっと大きくなっちゃうわよ?」
胸に顔をうずめ、後悔する。
今の大きな胸も好きだ。でも、中学生くらいの時の膨らみ始めたものも触ってみたかった。
全部が欲しい。過去も未来も現在も、サクヤの全部が。
何もかもを独占したいのだ。
自分も独占されたい。今までにした自慰の数々にも後悔している。全てサクヤだけですればよかった。
遠藤という部外者の存在が、自分のサクヤへの思いの強さを実感させてくれた。
制服の前面だけをはだけさせてからは、ひたすらに胸を揉んで吸い付く。
手に触れるレースの感触はブラジャーのものよりもだいぶ柔らかく、下着としての頼りなさを思い知らされる。
こんなので一日過ごしてたのか……。
体育の授業なんかがないからできる格好だ。
パンツの方を二枚履きしていたのは興奮してしまったときや、万が一スカートの中が見えてしまった時のためだろう。
ユウに言うつもりはなかったが、サクヤは今日既に二回下着を替えている。
自分の想定よりも興奮してしまったのだ。
オスを誘惑するためだけの格好でうろついている──。
見て欲しいのは一人だけなのに。家に帰ってから着替えればよかったのでは。
逸る気持ちが先行しすぎて、何も考えずに付けて出てしまった。
途中何度もユウに見せつけようとしたものの、恥ずかしくて言えなかった。
「大きいのは好きだから……」
「こんなにたくましくなったのに、昔のまま、可愛いわ。実は結構甘えるの好きよね?」
「好きだ。──サクヤは弱いところを見せても離れていかないのわかってるから。多分、サクヤもそうだろ?」
「……うん。本当は良くないんでしょうけれど。でも、愛と依存は紙一重でしょう?」
「ああ。俺も相当依存してるしな。最近じゃあ隣にいてくれないと寝付きが悪いくらいだ。不安になる」
「そうね。私もすっきりして、べたべたしながら寝るのが好きよ。意識がなくなる時にユウの体温があると落ち着くわ。少し寒くてもユウがいてくれればあったかくて。そろそろ裸で寝ていれば風邪を引いちゃう季節だけれど。汗が乾いて冷えちゃうのよね」
「じゃあもっとベタベタしながら寝るか? 抱き合ったりとか」
「ユウが気づいていないだけで、私は結構抱きついているのよ? 寝付くまでほっぺたにちゅっちゅしたりしているわ」
「そうなのか……全然わからん」
寝ているユウの首筋を舐めたり、頬や唇にキスしたり。ツーショットの写真なども撮っている。事後の写真というものに憧れがあった。それらはサクヤの秘密の日記帳に添付され管理されている。自分用のパソコンがないのでアナログだ。印刷は家のプリンターで行われている。アナログこそ最強のセキュリティだと考えているのだ。
今日はこの下着のまましよう。
シワがあまり付かないように脱がせたあと、再びベッドに寝そべったサクヤを見て滾るものを覚えた。自分の服は全て脱いでいる。
ムダ毛の一本もない真っ白な体。
官能的な体つきなのに、くびれている腰、長い脚。
大事なところが全く隠れていない黒い下着が浮いているように見える。
興奮した顔で自分を見つめる視線に発情せざるを得ない。
い、今すぐ孕ませたい。中に出したい。
サクヤの排卵日は近い。今日、中に出してしまえば本当に妊娠してしまうかもしれない。ベッドのそばにあるコンドームを無視したい。
だがしかし、明日か明後日のどちらかに産婦人科でピルをもらってくるとサクヤには言われているのだ。つまり、もう少し我慢すれば中出しと毎日のセックスを許されるようになる。
──仕方ない。
コンドームに手を伸ばすと、サクヤは少しだけ残念そうな反応をする。
「仕方ないわ。本当は子宮いっぱいに精液欲しいけれど、我慢する。もう何日かの辛抱だもの」
「うん。それに、今そのまましたら朝まで止まらなさそう」
「そ、そう聞くと残念に思えるわ……──な、生だったら朝までえっちしてくれるの?」
「た、多分……」
「子宮が疼く……ユウの赤ちゃんミルク欲しいって。──考えてみれば、人間ってミルクで作ってミルクで育つのよね。私がミルク好きなのって当たり前のことなのかもしれないわ」
「──サクヤって頭いいんだか悪いんだかわからないよな」
「え? そんなに頭悪そうに見えた?」
「こういう時はわりと……」
日常生活では思わないが、イチャついている時のサクヤは偏差値が下がっているように思うのだ。真顔ですました顔をしていることが多い普段はともかく、イチャついていると顔まで緩んでいる。──そういうところが好きだったりするのだが。
「嫌い?」
「ううん。俺も似たようなもんだし。こういう時くらい難しいこと考えたくないもんな。好きとか、エロいとかそういうのだけでいい」
「私たちみたいなのは現実逃避も兼ねているのかもしれないわね。普段優等生ばっかりだから、こういう時にハメを外しちゃう、──ハメ過ぎちゃうのほうが正しいかしら?」
「優等生とは思えない口ぶりだ……」
「えっちはどう? 劣等生かしら?」
嘲るような口調と顔を見て、ユウはにやけてしまう。
「いや、優等生だろ。その体で中身までエロいって……全国レベルだと思うぞ」
「ユウは好き? ユウが好きならなんでもいいのよ」
「そりゃあ大好きだよ。顔も体も中身も全部大好きだ。正直今すぐ孕ませたいと思った。我慢するけど」
「な、中身っていうのはおまんこ……? それとも心の方?」
「心だよ! そっちは体に入ってる!」
「よかった……ユウに捨てられたら死んじゃうわ。──ユウが先に」
「こ、殺されちゃうのか……まぁそれほど怖くもない。そうはならないからな」
「本当に? 私、本当に殺すわよ。だって生きている意味が無くなっちゃうもの。ユウに見て欲しくて、褒めて欲しくて頑張ったの。見た目も勉強も、料理も手芸も何もかも。ユウが見てくれない、褒めてくれないのなら全部どうでもいい。ユウがいない人生なんて今更考えるのも嫌。面倒だし、想像もできないもの」
「俺だって。サクヤにフラれたら死んじゃいそう。俺はあんまり自信ないし、ちょっとは覚悟してたけど」
「大丈夫よ。私はユウを裏切ったりしないから。──ユウも裏切らないでね? 死がふたりを分かつまで。私たちが別れる時は死が待ってる。忘れないで?」
「俺も裏切ったりしないよ。どっちが先に死ぬかはわからないけど、その時まではずっと一緒だ。愛してるよ。本当に、誰よりも。普通なら俺たちの関係は重いんだろうけど、俺たちにはちょうどいいよ。タツノオトシゴとか、ペンギンと同じ。決めた相手と一生過ごすんだ。俺の全部あげるから、サクヤの全部くれないか?」
「──当たり前じゃない。何もかもあげる。これまでもこれからも全部よ。私なんかで釣り合うかはわからないけれど、あげる」
「俺のセリフだよ、それは。キスしていいか?」
「いつだって、どこだって。ユウがしたいのなら。──ううん、本当は私もすごくしたいだけ」
笑顔を向け合って、ベッドの上で体を重ね合ってキスをする。ユウの部屋のベッドと違い、サクヤのベッドはシングル。いつもより狭い分、密着度は高い。
最初は唇だけだったそれは、次第に舌を絡ませあうものに変化していく。
そのうちにお互いの体をまさぐり合い、熱い体を擦り付け合い始める。
寒い室内であっても布団はかぶらない。そんなことをしている時間がもったいなく感じられるからだ。
汗ばんだ体を擦り付け合っているだけで暖は取れてしまうというのもある。
口を離したふたりは真っ赤になった顔を見せ合いながら、もう一度唇を重ねる。
性欲とはまた違う感情。ふたりは本当にひとつになりたいと思っていた。だが、別々な個体であり、それができないことだとはよく知っている。だからこそできる限り歩み寄りたいと思うのだ。それが、それこそが性欲であることをふたりはよく知っていた。
全身を擦り付け合い、お互いの体の違いを確認しあう。
最も異なる性器の違い。サクヤにぽっかり空いた穴、ユウの突起。しっかりとかみ合うようにできている。本当であれば邪魔するモノなど何も介入させたくない。しかし、かろうじて存在する理性がそれを受け入れることを決める。もう何日かの辛抱だ。今日だけ、今日だけ我慢すれば。
枕元に置かれたコンドームに手を伸ばし、装着する。サクヤの顔を見ていると揺らいでしまいそうなので、プルプルと震える胸だけ見ていた。
手だけを添えて、顔を見ながら挿入を開始する。もう何度したのかわからない行動。
膣口に合わせ、キスをしながら、腰を前に進める。
にゅるにゅると、自分のチンポにすがりつくように動く膣壁の感触に口が開き、強烈な快感がユウを襲う。絡みつくひだの一枚一枚の感触が脳の中で処理できないほどだった。
事に至るまでは慣れていても、そのあとはまだまだ慣れていない。コンドームがあっても我慢できるような快感ではなかった。
ぐにぐにと奥の方へ侵入し、こつん、とした感触の奥までなんとかたどり着く。
到着したあとはピストンではなく、中をグリグリとするように動かしていた。
すっかり根元まで飲み込んでくれるようになったサクヤの膣。まるで自分の形を覚えてくれているような感覚に、ここまで優等生なのか、と関心し、上り詰める快感に身をよじらせる。
元から基準にするくらい好みだった体なのに、ますますたまらない体になっていた。
自分の、自分だけの女。思うとチンポはより大きく硬く膨らむ。
「はぁっ……おっきいぃ……♡ かちかち♡ ユウのおちんちん最高っ!♡ 私のおまんこのきもちぃとこぜんぶごりごりされてるっ♡ こ、こんなのすぐイッちゃうわっ♡」
「お、俺もきもちいいっ、な、中熱くて、とろとろだっ! な、なんでこんなにきもちいいんだ!?」
「だ、だってぇ、ユウのおちんちんきもちよくするための場所だからっ♡ 奥にいっぱいびゅうってしてもらうためにきもちよくなってもらわないとっ!♡ ああっ、きもちぃぃぃっ♡ もっとぐりぐりしてっ♡ おまんこにおちんぽのかたち教えてっ♡」
「潰れるっ、しめすぎっ……」
ぎゅうぎゅうと締め上げられ、強制的に性感を高められる。
しびれに近い感覚を覚えたあとに急激に射精欲がやってきてしまう。
まだまだ中を楽しみたいのに!
腰が勝手に動きを早めてしまった。
ぱちゅぱちゅと水音を立てながら、根元までしっかり打ち付けるように腰を振る。
大陰唇がチンポにへばりついてくるぷにぷにした感触を根元で感じた。
ああ、出るっ……。なんて情けない早漏だ。
ゴム付きなのに五分も我慢できない。サクヤの中が凶悪すぎるのかもしれないと思った。
「うぁぁっ、ごめ、ごめんっ!」
ぴたりと動きを止め、射精を開始してしまう。コンドームの精液だまりに勢いよく飛び出していく精液。
自分の中で脈動し、射精しているのをサクヤは幸福な気持ちで受け止める。
──中出しして欲しい。
コンドームがなければ、ユウの射精は水てっぽうのような勢いで子宮に向けて精液をぶつけてくるのだ。びゅるびゅると大量の精液を子宮に注ぎ込もうとするユウのチンポが大好きだった。
膣内でびくびく震え、熱い精液を吐き出す。コンドームの存在を知らず孕ませようとしているのだ。
膣奥で直接感じれば幸福感だけで絶頂してしまう。
大きく脈動するのを全身で感じながら、サクヤのほうも絶頂に至る。
背中にしがみついて腰の両足を回し、しがみつく。絶頂の際浮き上がる感覚があるため、少し不安だった。ユウにしがみついている間は安心していられる。
射精しながらでもユウはサクヤの膣内をぐりぐり刺激していた。
腰を回すようにしながら、膣壁を擦り上げる。
幼少期から見ていたサクヤの顔色と、細やかなところにまで目が行く元の人間性。
反応を見ながら気持ちいいところを探し当て、刺激を繰り返す。
端的に言えばユウはセックスが上手だった。早漏であることが弱点ではあるが、二回目以降はそれなりに持つし、それを補ってあまりある精力と性欲が強みだ。早漏もサクヤが相手だからというのもある。単純に名器と呼ばれる構造のほか、自分の形になってしまっているから我慢できるようなものではないのだ。
気持ちいい……。ユウにとって二番目に好きな射精。
一番は言うまでもなく中出し。生でするときのユウは興奮しすぎて別な生き物のようになる。二番目に好きなのがコンドーム越しの膣内射精。三番目が唾液たっぷりの口内でする射精、四番目がパイズリ。顔にかけるのも好きだが、キスしたりがやりにくくなるのでタイミングが数ない。風呂の中で抜いてもらうときだけ出来る特別なものだった。時間が経ってしまうと髪にへばりついてしまって取れなくなるのも問題だ。
「サクヤ、気持ちいいよ……」
自らにしがみついている男から、耳元に震える声が響く。
気持ちよくなってくれている。息を切らしながら、少々力を込めて肩にしがみつかれ言われるとゾクゾクしたものを感じる。
「うっ」
「ご、ごめんなさい、キュンとしちゃって」
体が無意識で反応し、締めつけを強くしてしまったのだ。
射精が止まっていないユウは最後の一滴まで強制的に搾り取られた。
ぬるる、とゆっくり引き抜くと、たんまり精液が入ったコンドームが出てくる。
相変わらずすごい量だ。気持ちいいわけだ、と納得した。
サクヤが手を差し出すので、複雑な気持ちになりながらコンドームを手渡す。
渡すとすぐさま舌を突き出しながら、コンドームを逆さまにして中身を口に流し込んでいた。
ユウの顔を見ながら、誘うように精液を舌に絡め、ゆっくりと音を立てて飲み込んだあと足を開いて見せつける。
おまんこからとろとろと愛液が流れ、とてつもなくいやらしい光景だった。
何も隠せていないエロ下着のせいもあって、チンポは射精したことを忘れたかのように固くなっていた。
顔の方まで上がり、精液まみれのチンポを綺麗に舐めとってもらう。終わったあとコンドームを付け、挿入し、必死で腰を打ち付ける。
生でしている時のように興奮していた。
「キ、キスマークつけていいか?」
「い、いいの? 学校で見つかったら……」
「いいんだ、サクヤは俺のなんだからっ!」
「いっ、──っ!♡ ……イくっ♡」
今までお互いにキスマークをつけないように気を使っていた。
首筋に吸い付いたりしたいのに、軽く唇を寄せるだけだったり、舐めるだけだったのだ。見えないところに関しては既にいくつかつけた経験はある。具体的に、サクヤの胸や背中、肩にはいくつかのキスマークをつけたことはあるし、ユウも見えないところにはたくさん付けられていた。
見えるところは学校で見つかればなにか言われるからつけてこなかった。ユウはともかく、サクヤは注目を集めるのでバレるリスクは高いのだ。
今日のユウはとにかくマーキングじみた行動をしたかった。本当なら中出しをして、妊娠もさせたい。最高のマーキングだからだ。しかし、それはできない。
自分の方もマーキングされたい。
サクヤはユウの体を舐めたりキスしたりすることが多いのだが、バレないようキスマークだけは付けなかった。
喜びで絶頂するサクヤの首筋に吸い付き、強く吸う。
口を離して見ると真っ赤に内出血しており、ユウは気遣うようにそれを舐めた。
次はサクヤが同じように首筋に吸い付く。
若干の傷みと、ゾクゾクするような快感。
びくんっ、とチンポが反応し、ユウは二度目の射精をした。
「ん、んんっ♡ ──ユウ、好きぃ♡ 全部ユウのモノにして♡」
「お、俺もサクヤのモノになりたい……」
「する、してるっ♡ ユウの精液も性欲も、何もかも私だけのものっ!♡ もっと、もっとキスマークつけるっ!♡ 誰が見たって私のものだってわかるように!」
「俺もだっ!」
そのままふたりはマーキングするようにお互いの体に痕跡を残す。
途中で携帯が鳴ったが、無視して続けた。
「あんたたち、明日は絆創膏とかして学校にいきなさいよ」
「え?」
「──首。後で鏡見てみなさい。真っ赤になってるじゃない」
夕飯をユウとサクヤ、ユウの母でで食べていた。するとユウの母は少し呆れたような声で言った。
無我夢中だったので、未だ確認はしていない。
風呂もまだのため、二人共汗だくのままだ。夕食のあと二人で入るつもりでいた。
サクヤは髪をまとめるため後ろでまとめていた。珍しい光景だ。ユウはしっかり記憶していた。
「このまま行きます。恥ずかしいけれど、見て欲しいから」
「サクヤちゃん、いいの? こんな頼りない男で。こんな男としたって思われるのよ?」
「母さん……」
「頼りなくないですよ? こう見えて逞しいですし、格好いいです。それに、私を一番わかってくれているのはユウだけですもの。私としてはもっと前から見せつけたかったんです。いい加減告白されるのも嫌ですし」
「ならいいんだけど……」
「俺は絶対サクヤと結婚するからな? ──その、お金とかは借りるかもしれないけど」
「わかったわかった。反対なんてしないわ。お金だって蓄えはあるから大丈夫。ああ見えてお父さんは稼ぎいいのよ? 馬鹿だけど頭いいんだから」
「褒めてるんだかそうじゃないんだか……」
「褒めてるのよ。お父さんもかっこいいんだから。なんやかんやいってもあの人以上なんていないのよ。私には」
「お、親のノロケは複雑だな……」
自分の母親のうっとりした顔。
仲がいいのは悪いことではないが、ちょっとだけ違和感が有る。
サクヤの家はあからさまに仲がいいが、自分の家は違うと思っていた。
「ですよね。私にとってもお父さんです。この先は本当にそうなるんですけれど。──私たちは高校を卒業したと同時に結婚するつもりです。いいでしょうか……?」
「いいわよ? 当たり前でしょう? 私たちはそれを望んでいたんだから。でも、考える時間はまだあるの。だからよく考えて?」
「いいえ。おばさんは私にとってもお母さんです。でも、それには従えません。私はユウ以外考えたこともないです。今も、昔も、これからも」
「あ、泣きそう……息子が愛されてると思うとどうにも……年を取ると涙もろくなっちゃうのよ」
「わ、私も……」
「え、え? 俺も泣いたほうがいい?」
「男は簡単に泣いちゃダメでしょ!?」
「そ、そうか、わかった」
どういう状況だ。
夕飯だというのに、女二人は泣いている。
「ユウ、稼ぎなさいよ? 絶対ひもじい思いをさせちゃだめ」
「させないよ。一応進学校だぜ? 必死こいて勉強するさ」
「私は別にいいのよ? 一生狭いアパートで二人暮らしでも全然いいわ。ユウがいてくれれば」
「俺が嫌だよ。何もかも我慢させたくないし。──子供も欲しいしな」
「ユウ……」
「サクヤ……」
「あ、それ以上は部屋でやってよ? 親としてさすがに目の前では見たくないわ」
「う、うん……」
ふたりが顔を見合わせて甘い空気になると、ユウの母は止める。
母親の前でもキスくらいは出来てしまいそうな空気だった。
急いで夕飯を食べ終えて、片付けをする。片付けは二人の仕事だ。
ユウの部屋に行ったふたりは、そのままベッドに潜り込んでセックスを始める。
相変わらず体に痕跡を残しあって、何度も何度も求めあった。
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