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第二十九話 湯けむり温泉旅館 前編

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「! ユウ、部屋に露天風呂があるわよ!?」

 ホテルについて部屋に入るなりサクヤが軽く驚いていた。
 俺は当然知っていたので驚きはしない。
 予約を母さんにしてもらった時、頭を下げて部屋に露天風呂があるところに変更してもらったのだ。
 本当に珍しくサクヤが変なテンションだ。ここまで喜んでくれるならサプライズしがいがあるというもの。

 部屋の中は和風だ。
 中央に低いテーブルがあって、向かい合うように座椅子が四脚。
 部屋の奥は露天風呂につながっていて、この部屋専用のものだ。
 本来は小部屋のようなところがあった場所だが、そこのスペースが露天風呂に持っていかれている。
 あの椅子があってテーブルがあるだけの温泉地特有の空間は嫌いではないのだが露天風呂の方がいい。

「すごいすごいっ! 部屋にお風呂って、ナニコレ!?」

「……片言っぽくなってるぞ」

「選んだ時こんな部屋じゃなかったわよね!?」

「大金を持っていくのが不安だったから母さんにネットから予約してもらったんだ。母さんにお金渡して。その時にこの部屋にした。ほら、サクヤ生理で入れないかもって言ってたろ? よくわからなかったんだけど、部屋のなら大丈夫かもしれないと思って」

「お湯にという意味だから実はどちらでも同じなんだけれど……嬉しい。気を遣ってくれたのね、ユウ」

「あ、そうなんだ……」

 生理と言うものは知っているが、実態は謎だ。血が出るくらいの認識しかない。今回の件に関しても完全に認識不足だった。
 母さんにしろ表立って言うことはないので、俺にはイマイチ知識がない。サクヤもその辺に関しては隠している。

 ──結果として喜んでくれているので、結果オーライと言うことにしておく。

「見てみて、露天風呂なのにシャワーがついてるわ」

 露天風呂はヒノキというのか、木製の枠で出来たもの。お湯は出っぱなしで特有のにおいがする。
 二人でドアを開けてみるとそんな空気があった。

「この部屋二つ風呂あるってことか……無駄に贅沢だな?」

 普通のユニットバスも付いているのだ。そっちは味気ない真っ白なもの。

「でもこっちの方があれば必要ないわね。あっちはトイレ用になりそう」

 部屋の中に戻り、改めて荷物を整理する。
 そして入ったときから気になっていたものに注目する。

「サクヤ……金庫っぽいのがある」

 少しワクワクする。何を入れるってわけではないが、男心がくすぐられるのだ。

「そりゃああるでしょう? こういうところは布団を敷きに来たり、色々従業員の方々が来るんだから」

「そっか、そう言えばそうか」

「今は貴重品を入れる必要もないから、見られたら恥ずかしいものだけしまうわ。楽しみにしているのよ。だからみちゃダメ」

 サクヤがいじりながら言うのは四桁の暗証番号を設定するタイプの金庫。ちょっとした冷蔵庫くらいの大きさだ。
 そこに小袋を入れている。夜に使うものなのだろう。楽しみだ。

「じゃあ水族館に行きましょう。ペンギンよペンギン」


 水族館は屋外も屋内もあって夕方まで二人で堪能した。
 イルカショーはいかなかった。俺たちはそれほど興味がなく、何より混んでいるというのがネックだった。
 そのかわり、ペンギンだけはこれ以上ないほど堪能した。
 よちよち歩きで歩くペンギンのパレードだ。
 興味津々で人間の方へやってくる姿は愛らしいなんてもんじゃない。
 わかっていたことではあるが、意外とてかてかしている。油が多いのだという。水をはじくためのものだ。

「ペンギンって飼うとしたらどれくらいするのかしらね?」

「そもそも個人で飼えるのか……?」

 プールも必要だし、餌も思ったよりかかりそう。その上、法律が許さない気がする。
 ペンギンを見るサクヤは輝いていた。普段以上に屈託のない笑顔だ。
 正直可愛いなんてものじゃない。残念ながらペンギンでは勝負にならない。
 写真を撮りまくった。母さんに元々取って来いとは言われていたが、俺個人が取りたくてたまらなかった。普段はそれほどの積極性はないが、その辺にいる人にも俺とサクヤのツーショットを撮ってもらった。
 先のことはわからないけど、今この瞬間は切り取っておきたい。

 しっかりとペンギンを堪能し、ちょっとしたグッズなども買った。
 小さなペンギンのガラス細工はサクヤとペアのもの。机の上に飾ろうと思う。──今日撮ったたくさんの写真と一緒に。

 夜の食事は宴会場の予定だ。他の人たちも含めて一緒に食べることになる。
 そのため途中ではあまり食べないようにする。
 本当は珍しい食べ物は食べてみたかった。ただ俺はともかくサクヤは今食べてしまうと夕飯は食べられないだろう。
 時間まで温泉街を二人でぶらつく。

「お土産どうしましょうかね?」

「そうだなぁ、家の分とあと何人分か買わないとな」

 俺は遠藤と他何人分かでいい。サクヤも似たようなものだろう。

「これ可愛いと思わない?」

「──思わない」

 温泉饅頭なのだが、包みが謎のゆるキャラだ。
 最近のブームに乗っかったのだろう。少なくとも俺は全然可愛いと思わない。というよりグロテスクにすら思う。なんというのだろう、不規則な感じ。ピカソの絵を見ているような不安な気持ちだ。
 そして何より、場所が違う。今いる場所とは無関係だ。別の温泉街のものなのだ。──お土産屋などだいたいこんな感じのイメージだ。
 どうにもセンスがわからない。昔からだが、こういうところだけはサクヤの素直にダメなところだ。

「ええー、可愛いと思うけれど。そこのぬいぐるみとか」

「本気で言ってる?」

「本気よ? 可愛いじゃない」

 これを可愛いと思うサクヤは可愛い。だがやはりこれそのものは可愛くない。

「──とりあえずそれはやめようぜ」

「もう、ユウはセンスがないわね」

「それは絶対に違う、サクヤの方だ!」

 結局無難なお土産をいくつか選び、ホテルに戻る。
 そして荷物を置いて、ついに温泉に入ることにした。食事の前に入っておきたい。なんやかんやで歩いたし、汗もかいているし、疲れた。
 そもそも一番の目玉はこの大浴場なのである。
 当然男女に分かれているので入り口で待ち合わせをすることにした。

「じゃあお風呂から上がったらここで待ち合わせね?」

「ああ、スマホは持ってけよ。なんかあったら連絡してくれ」

「ええ、じゃあまた後でね。──男相手でも浮気しちゃだめよ?」

「ひっ、怖いこと言うなよ!」

「ふふっ、流石に冗談よ」

 冗談でも想像したくない。
 掘っても掘られても嫌だ。

 俺の温泉シーンなど必要ないと思うので割愛しよう。
 いい湯だった。以上だ。

「あっ……」

 俺の方が早く出るので、売店でコーヒー牛乳とフルーツ牛乳を買って待つ。俺はコーヒー牛乳の方だ。
 せっかく温泉に来たのだから湯上りはこういうものを飲んでおきたい。そう、俺は大阪に行けばたこ焼きを食べるタイプだ。

 入り口で飲みながらぼーっとしているとサクヤが出てくる。
 ──浴衣。
 浴衣の上に甚兵衛のようなものを着ている。
 さっきまでは私服のままだったので、風呂に合わせて着替えた。
 空気は大事だとサクヤも言っていた。そう、サクヤも大阪に行けばたこ焼きを食べるタイプなのだ。
 初めて見る格好だ。思ってはいたが、サクヤは和装が似合う。
 長い黒髪はしっとりと濡れていて、火照ったように湯気を放っている。

「見とれた?」

「……うん」

「あら、素直。さぁ食事にしましょう?」

 素直に見とれていた。可愛いというより綺麗。だぼついた服装のせいか体のラインは隠れている。
 前を歩く姿を凝視するも、唯一見える腰のあたりを見てもパンツのラインなどは見えない。やはりガードは硬い。
 湯冷ましも兼ねて二人で飲み物を飲みながら少し歩く。
 卓球ができるスペースを見つけたけどサクヤは嫌がった。運動音痴なのを見られたくないのだという。──何回も見ているけど。
 リフティングをすればボールはあらぬ方向に飛んでいくし、走るのは女子にしても遅い。
 基本的に何でもできる分目立つ欠点だ。
 強要することでもないのでベンチで休んでから宴会場に向かうことにした。

 宴会場にはたくさんの人がいた。
 個室で食事する人を除けばほぼ全員なのだろう。
 食事は一般的なものだ。ホテルと言えば、といったもの。
 季節感もその場所の特産品もない、普通の食事。
 それでも豪華ではある。特に牛鍋のようなものはやはり豪華に見えるものだ。

「この固形燃料の鍋を見ると旅行に来た気がするわね」

「ああ、わかる。これちょっといいよな。家にも欲しい」

「いらないでしょう。全然使う機会がないわよ」

「現実的だな、ロマンがない」

「ロマンより実よ。かさばるし絶対邪魔。結婚してもこういうものは買わせないわよ? それにこういうところで使うからいいのよ」

「まぁそれはそうだな……結婚したら絶対尻に敷かれるな、これは」

「嫌?」

「そっちの方がいい。俺より向いてるだろうしな。小遣い制でいいし」

「小遣い制は導入しないわ。どっちみちそんなに無駄遣いしないじゃない、ユウ」

 俺は比較的物欲は少ない。ゲームもしないし、趣味と言えばサクヤの読んでいる本を読んだり、映画を見たり、猫と遊んだりすることくらい。後は図鑑を眺めるのが好きだ。これは小さな頃からである。
 なんやかんや勉強している時間はそれなりに長いのだ。
 最近はサクヤとのセックスが趣味と言えるかもしれない。時間も一番長い。

「欲しいものもないしな……でも高い本は欲しいかも。新しい図鑑とか」

 お土産ではないが、水族館でペンギンの図鑑を買った。ほとんど持っていると思っていたが新しいものが出ていたらしい。
 こんなところで買わなくても、とは思ったが、衝動は抑えられない。

「それくらい買えばいいわ。私も見るし。それより、──これどうしましょうか」

 サクヤが指さしたのは瓶のビール。
 こういうところでは年齢確認しないんだ……とザル具合に少し驚いた。ちなみに注文したわけではなく勝手に置かれていた。

「飲むわけにはいかないだろ?」

「真面目ね。──ちょっと気にならない?」

 ──悪い顔だ。実際今飲んでもバレないのは確か。
 サクヤは妙に好奇心が強い。だからこその知性でもあるのだが、それが悪い方向に働くこともある。これがその典型だ。

 興味はある。
 ただ、飲んだことがないので怖い。
 父さんズを見ていると楽しそうではあるがあまりいいイメージがないのだ。

 俺たちは良くも悪くも進学校の生徒だ。それがゆえにあまり悪いことをしたことがない。──最近はあれかもしれないけど。

「──少しだけ、少しだけ飲んでみよう」

「きゃー不良。いけない子ね」

 これ以上ないほど適当な言い方。──完全な棒読み。

「サクヤが言い出したんじゃないか!」

「気にはなるじゃない。──実はね、ここだけの話私は飲んだことがあったりするの。一口だけね」

「え、マジ?」

「お父さんの飲み残しだけれど。去年のことよ? 時効よ時効」

「ど、どうだった?」

「どうって……多分イメージ通りよ。苦い液体。──ユウの精液が苦いときと同じくらいかも。美味しいって飲んでいる人の気持ちはわからないでもないわ。癖になる味と言うか、飲みなれていれば美味しいと思うんでしょうね」

「あ、やっぱりいいや。俺は飲まなくても」

 精液と同じくらいの苦さと聞いて飲みたいとは思わない。
 一生のまなくてもいいかもしれない。

「美味しいわよ? ビールの方はイマイチだったけれど」

「そっちの方はもっと嫌だ! 残そう。やっぱりまだ早い」

「そうね。何か起きたら困るし」

「何かって酔っぱらったり?」

「ほら、酔うと理性がなくなったりするらしいじゃない。こんなところで襲われると困るし」

「確かにそれはやばい。──やっぱり酒はダメだな」

「ええ。飲むなら家ね」

「興味津々だな……」

「私がって言うより、ユウが飲んでいるところを見てみたいのよ。酔っぱらったらどうなるのかが見たいの」

「父さんを見てる感じだと笑いまくるのかな、やっぱり」

 うるさいくらい笑うのだ。何を言っても、何を見ても笑う。

 結局ビールには手をつけず残す。少しもったいない気もするが外では絶対にまずい。倒れでもしたら大変なことになる。
 サクヤが酔っぱらっているところは少し見たいけど。普段そんなに笑わないサクヤが大爆笑しているところなどはレアすぎるからぜひとも見たい。

 ホテルの売店で飲み物やお菓子などを買ってから部屋に戻る。
 部屋の冷蔵庫にも入っていたが値段が高かったのでやめた。

「あっ……」

「うわ……」

 部屋に戻ると中央にあったテーブルが部屋の隅に置かれ、布団が二組分敷かれていた。
 寝るということが現実味を帯び、空気が変わったのを察する。
 今日は一日そう言う空気にならないよう気を付けていた。下ネタになっても真面目に反応しなければ空気は変わらない。
 しかし、こう見せつけられてはそうもいかない。
 しかも当然二人きりだ。

 サクヤが部屋のドアの鍵をかけた音がする。
 その間、一言も発しなかった。俺は振り返ることができない。サクヤがどんな表情をしているのか、見なくてもわかってしまう。

「やっとこの時が来たわね」

 後ろからしがみ付かれ、背中に顔を押し付けられる。
 声はもうたまらないときの余裕のないかすれ声だ。

「うん……」

 酒を飲んでなくてよかった。飲んでいたらもう抑えられなかったかもしれない。

 くっついたままのサクヤを引きずるように歩き、テーブルの上に買ってきたものを袋ごとおく。

「サクヤ、タオル出さなきゃ……」

「んー、もうちょっとこうしてたい……」

 今自分がどんな顔をしているのか気になる。
 二人して立ったまま部屋の隅に立ちすくむ。
 温泉で火照った体は食事中に冷めたはずなのに、もう体が熱い。
 後ろに張り付いているサクヤもそうだ。

「ずっとこうしたかったの……平気な振りしているのが大変だったわ」

「俺もだよ」

 しがみ付いているサクヤの力が弱まったのを感じ、ほどき向き直る。
 正面に見えるサクヤの顔は予想通り赤く、温泉で出来たものではない火照りを持っているように見えた。
 背中に手を回され、そのままキスされる。いきなり舌をねじ込んでくるキスだ。性欲が自分に向けられていると思うと、否応なしに興奮させられる。
悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、そして恋のように甘い。
 タレーランだったか、そんな言葉が頭をよぎる。

 押し付けられている胸は柔らかく、ノーブラなのだということがわかる。さっきまであんなに人がいる場所にいたのに。
 立ったまま貪るようにキスしあう。これから交わるのだと思うと少し変な気分だ。昼間はあんなに普通に過ごしていたというのに、隔絶された空間に一歩踏み入れただけで理性を失ってしまう。
 誰にも見せることのできない姿だ。
 浴衣の下ではすでに勃起してしまっている。
 サクヤはわかっているからか自分の体で擦り付けるように押してきていた。

 ゆっくりとキスをしながら荷物の方へ移動する。
 ホテルの布団を汚すわけにはいかない。持ってきたバスタオルを敷かないといけないのだ。
 サクヤを一旦引きはがしてカバンを漁る。
 掛け布団をまくり上げ、三枚のバスタオルを重ねて敷く。そうしていると、後ろの方から声がかかる。声の主は当然サクヤだ。
 濡れたような、と言う表現がこれ以上ないほど似合う甘い声。
 俺は布団の上に膝をついたまま振り向く。

「ユウ、見て……」

 振り返ってみると、浴衣の帯を緩め、はだけさせていた姿のサクヤがいた。
 体の中央に肌色の線ができていて、すべては見えない。
 見えるのは膨らんだ胸の輪郭と股間の布だけ。
 パンツは黒で、てかてかしているものではない。
 俺があまり好きじゃないと言ったきりサテン生地のものは履いているところを見たことがない。黒もレアだ。普段サクヤが履いているのはどちらかと言えばエロいよりも可愛い色のものが多い。

「見て、これ普通のパンツじゃないのよ……?」

 腰の周りの布だけを後ろに流すようにしながら見せる。

「紐パン……」

 初めて見た。腰の横には二つリボン結びがついていて、靴紐と同じように引っ張ればほどけるのだということがわかる。

「どう? さっき履き替えておいたの。──少しは興奮する?」

 するに決まっている。それに、黒いパンツでもわかるほど股間が湿っているのがわかる。太もものほうまで少し垂れている。
 黒い布の股間部はもっと黒い。水気で変色しているのだ。黒より暗いとはまさにこういうこと。

「引っ張って……」

 ごくりとつばを飲み込む。普通に脱がすのとはまた違う。
 きっと紐を引けば床に落ちるのだ。プレゼントの包装を開けるのにも似たドキドキ感。
 近づけばサクヤの体温の膜に当たり、それがまた興奮を産む。
 顔の真ん前にサクヤの股間がある。ボディソープなのか、パンツからの匂いなのか甘い匂いもする。

 思い切って引っ張ってみると、抵抗感はほとんどなくするりと紐がほどける。
 ぱさりと落ちて見えたのはいつもの光景──ではなかった。

「サクヤこれって……」

「思い切って剃ってみたの。どうせ恥ずかしいなら同じかと思って」

 パイパン。目の前にあったのは完全に一本の毛もないサクヤのおまんこだった。
 パンツのせいで広がってしまったのか、全体がぬるぬるした液体で覆われていて、エロい。

「やっぱりきれいだ……」

「恥ずかしいけれど、もっと見て……ユウに見てもらいたくて綺麗にしたの……♡」

 少し足を開いて、自分でおまんこを広げ始める。
 ぐにゅぐにゅと形を変え、中のピンク色の構造を見せつけるように。
 ねとついた液体が指に絡まって、ぷるぷるした肉が戻ろうと反発していた。
 こういうのをくぱぁと言うのだろうか。そんな感じだ。
 不必要なほどエロい。
 性的な知識がなくてもわかる。ここに入れるのだと。目がひきつけられるし、股間は爆発しそうになる。 

 普段ならあまりやらないことだ。
 どうにも見られたりするのは恥ずかしいらしいのである。
 ──今日は積極的だ。たまりにたまった性欲が普段以上に積極的にしている。

「ユウ、舐めて……?♡ 恥ずかしいの、恥ずかしいけれど、本当は好きなの。ずっと想像していたの。おまんこぺろぺろされるの想像してオナニーしていたの。ユウに見られて味まで知られて、それでもすごくきもちぃの♡ 恥ずかしいのが好きなの、変態なの私♡」

 上を見ると本当に我慢できないと言った顔をしていた。
 口元が緩んでいて、泣きそうにも見える表情。

 サクヤは俺の頭を掴むと、自分の股間に誘導する。
 俺も我慢なんてできない。
 サクヤの下に潜り込むようにして、下からおまんこにむしゃぶりつく。
 風呂の後トイレに入っていなかったはずだから、これは純粋に愛液の味なのだろう。少し甘じょっぱい。
 興奮する。もっと舐めていたい。舌に触る感触が気持ちいい。
 サクヤのお尻を揉みながら舌を這わせる。膣口からはとろとろと愛液が流れ続け、いくら舐めても舐めとり切れない。
 俺の鼻がクリトリスに当たるらしく、舐めるたびに嬉しそうに喘ぐ。

「あっ♡ ユウ、きもちぃ♡ 舌あったかい……♡ もっと、もっとして♡」

 視界も感触も、味も匂いもサクヤでいっぱいだ。
 脳みそがとろける。チンポが破裂してしまいそうなほど膨らんで、痛みすらある。
 早く、早く入れたい。舌じゃなくてチンポを。
 思い切り中にいれて、思い切り射精したい。おまんこいっぱいにためにためた精液を出したい。
 そんなことを考えていると、思わず舌に力が入り、膣口に侵入させてしまう。
 中は締まりが強く、期待してしまう。

「あっ、あっ、イク、イクっ!♡ ぺろぺろ、おまんこの中ぁっ!♡」

 膝をがくがく震わせ、俺の頭を強くつかむ。
 もう立っていられないのだろう。
 イッてしまうと数秒硬直してしまうので、その時の為に酸素を補給しておく。サクヤ自身もどうしようもないことのようだ。俺も射精しているとき動けないので似たようなものなのだろう。
 死に方としては少し贅沢な気もするが、おまんこを舐めていて窒息と言うのは避けたい。

「ひ、い、んあっ!♡ んああっ!♡」

 甲高い切なげな声。本当にチンポに来る声だ。
 震えと声、噴き出す愛液でイッているのは明白だ。
 舌が締め付けられてしごかれている。

 サクヤはイッた後、ぺたんと力なく尻餅を着く。
 息も絶え絶えと言った様子で、肩で息をしていた。

「ごめんなさい、一人で気持ちよくなって……♡」

「いや、気持ちよかったならいいよ。あんまり自信ないしな」

「自信があったらいやよ……」

「──それもそうか」

「そう言うのは一緒に上手になりましょう? ──それより、続きを……♡」

 ゆっくりと立ち上がるとふらついた足取りで金庫の方へ向かう。
 暗証番号はサクヤが設定したので俺も知らない。
 はだけた浴衣の後姿は何ともいやらしいものだ。大奥ってこんな感じなのかなと考えてしまう。

「まずはこれ。いつぞやの猫耳。また拝借してきたわ」

 以前に一回使った猫耳だ。黒いもので、妙に出来がよくサクヤにはよく似合う。黒い髪と一体化するような見た目だ。

「それだけ?」

「そんなわけないでしょう。私がこの日をどれだけ楽しみにしていたと思っているの」

 もう回復したの? そう聞きたくなるくらいいつも通りに近いしゃべり方。それでも愛液はだらだらだし体が赤くなっている。余韻でもあるのか時折苦しそうな顔に変わったりもする。

「もしかして尻尾とか?」

「──やっぱり尻尾が欲しい? あれってその、お尻のほうに入れるものみたいなのよ。それでお尻はちょっと怖いというか、まだ早いと思うの」

 興味があるかないかで言われればある。サクヤの体ならどこでも知りたい。
 ただまぁ早いと言われればその通りだ。

「強要はしないよ。──いつかはちょっとやってみたい気もするけど」

「変態ね? アナルのほうはメジャー性癖っぽい顔をしているけれど、十分アブノーマルなものだと思うわ。でもまぁそうね、いつかは解禁しましょう。──お尻は二十歳になってから」

「お酒みたいに言うなよ……」

「成人式の日にでもそっちの処女もあげるわ。お酒でも飲みながらハメを外しましょう。──ハメはするんだけれど。ただ期待しすぎない方がいいわよ。おまんこはおちんちんを気持ちよくするための場所だけれど、お尻の方はそういう用途じゃないんだから」

「らしくなってきたな? ──それで、猫耳だけ?」

「これも」

 そう言ってサクヤが取り出したのは二本の黒い紐。少し太めで三センチくらいの薄いものだ。紐と言うより帯に近いかもしれない。

「ナニコレ?」

「片言になってるわよ? そうね、簡単に言うならば紐ね」

「紐なのはわかってるけど……どう使う?」

「そんなの簡単じゃない。──縛るのよ。後ろ手に縛って欲しいの。そして私をおもちゃみたいに使って欲しいわ」

「縛る……」

 M気質の強いサクヤにそういう願望があるのは知っていたがいざやれと言われると少し緊張する。
 悩んでいるうちに、サクヤは浴衣をするする下してしまう。
 完全に下まで落ちると綺麗な全身像があらわになった。
 迷わせはしないということか。

「自分では縛れないからお願い。あ、そうだ、こういうのはどうかしら?」

 言いながら眼鏡をはずし、たたんでテーブルに置く。
 そして床に落ちていた浴衣の帯を自分の目に当て、巻き付け始めた。

「目隠しか? それ」

「そうよ。あ、これちょっと興奮するわ。私は見えないのにユウからは見えているのよね?」

 ふらふらと手を前に出し、まるでゾンビのようにうろついている。
 この状況が面白いのか笑顔だ。
 俺からしてもちょっとシュール。猫耳をつけたまま、裸で目隠ししてうろついているのだから。

「サクヤ、あんまり動くな、危ないぞ」

 注意はするが、俺も興奮する。サクヤの視線を気にせずじろじろ見ることができるのだ。

「あ、場所がわからなくなってしまったわ。ユウ、助けてっ!」

 危ないと思ったのか停止して助けを求めてくる。
 どうして移動してからつけないのか。普段は用意周到なくせに、こういう時は無鉄砲もいいところだ。でも、その余裕のなさと言うかそういうところが可愛い。

「……じゃあ布団の方まで誘導するからゆっくり歩けよ」

「介護されてるみたい……ここまでの前借はしたくないわ」

 確かに見ようによっては介護のような感じだ。両手を掴んでゆっくり布団に誘導されているのだから。

「じゃあ縛って」

「いきなりだな……人を縛ったことなんてないからちょっと不安だぞ」

「両腕を肘の辺りで固定するだけよ。大丈夫、難しくないわ」

「そういうことじゃなくてだな……」

 単純に傷つかないかが心配なのだ。跡が残ってしまったり痛かったり。そう言うのが嫌だ。

「心配してくれるのは嬉しいけれど、私がしてみたいの。ほら、今日の旅行ってプレゼントなのでしょう? なら私のしてみたいことをしてくれるかなって。家だと大声を出しちゃいそうだし、見られたら本当に立ち直れないかもしれないもの」

 家で緊縛目隠しプレイ。──見られたら死にたくなる。いくらなんでも進み過ぎだ。一応高校生なのに。

「──痛かったら言えよ?」

「ちょっと痛くして欲しいくらいよ。縛ってお尻叩かれたり、言葉攻めされたいわ」

「──変態だな?」

「あら、今更? ユウの幼馴染は隣ですました顔をしながらこんなことばかり考えていたのよ?」

 そんなにあっけらかんと言われても。
 まぁ変態だということは今更かもしれない。

 とりあえず緩めに縛ってみる。幸いにして紐は柔らかい素材だ。感覚としてはタオルに近い。
 両肘の辺りに二か所結び目を作る。いざという時すぐ外せるように。

「あ、縛られてみると怖いわ。なんて言うんでしょう、処刑されそうな感じ」

「しないよ……」

 後ろ手で縛られ、布団の上に少し足を開いて正座をしているような形。
 目隠しをされているので確かに処刑前のような姿だ。

 サクヤが見ていないうちにパンツを脱いでおく。浴衣もついでに脱いで全裸になっておくのだ。脱いでいる姿は間抜けに思えるから見られたくない。

「ユウ、そこにいるのよね?」

「いるよ。どうかした?」

「良かった、結構不安よ、これ。知らない人に囲まれているかもしれないじゃない。──誰もいないわよね?」

「いるわけないだろ。俺が誰かに見せると思うか?」

「思わないけれど……」

 そわそわした感じだ。口元を見るに本当に緊張しているようだ。
 自分からしろと言っておいて不安になるのはどうなのだろう。

 さすがに見ているだけは辛い。
 俺はさっきから勃起しっぱなしだし、はっきりいって限界だ。
 動くたびに胸は揺れるし、邪魔するもののない股間は正座の状態でも割れ目が見える。
 腰や背中のラインは悩ましいほど綺麗だ。

 そっと、触らない程度に手を近づけてみる。サクヤの周囲の体温の膜に触れるような感じだ。

「あっ、ユウ、触ろうとしてる?」

「……」

 あえて答えない。
 背中のほうまで手を回して、触れないようにゆっくり上下させる。
 気配なのか、それとも俺が感じている体温の膜でわかるのか、サクヤは手の動きに合わせて背中をそらす。

「なんか、なんか変な感じっ! ぞわぞわする、返事して、触ろうとしてるっ!?」

「……」

 これにも答えず、今度は胸の方へ手を回す。
 本当は揉みしだきたいが、予想外に良い反応をするのでもっと続けたい。ニヤニヤしてしまう。

 見えないから感度が上がっているのかもしれない。
 五感の一つである視界を奪われた分、他に集中できているのかも。

「あああっ、感じる、ユウ、これなんかきもちぃっ!♡ 全身が変にぞわぞわするっ!♡」

 本当のことなのか、全身をくねらせていた。
 股間の方を見ると愛液が再びぽたぽたと落ち始めている。

「全身を触られてるみたい、ああっ、イッちゃうかも、イッちゃうかもっ♡」

 なぜかハンドパワーなんていう言葉が頭をよぎる。
 触っていないのにイカせるという、ある意味では絶技。
 多分サクヤが想像力を働かせて勝手に感じているのが真相だがなんだか楽しい。

 サクヤがびくびくしているので、耳に息を吹きかけてみる。
 すると──

「ぃひっ!?♡」

 と変な声を上げて、正座のままびくんと上に跳ね上がった。
 そして背中をぴんと伸ばし、硬直する。

「あ、触られていないのに、イッちゃった……♡ 目隠しすごい……♡」

 目隠しもそうだが、サクヤそのものがすごい。
 心からよかったと思う。サクヤはいわゆるマグロなんじゃないだろうかと思っていた時期があった。
 何分、普段は性の匂いを出さない優等生なのだ。色気そのものはあっても行為に興味があるように思えなかった。それでも結婚したいと思っていたのだが、それはそれで寂しい気持ちもあった。
 しかし現実は違う。サクヤは隠していただけで変態とも言えるほど性欲が強いし、マグロなんていうものとは真逆だ。
 抱き着きたい。そう思った時、体は自然に動いていた。

「あああっ♡ イッてるのに、またイクっ!♡ ユウ、体がおかしいっ、ずっときもちぃっ!♡」

 俺に抱き着かれただけで再び絶頂していた。触っていると小刻みに震えていて、それは行為中と同じだった。
 顔の方を見ると口を閉じることができないようで、よだれが口の端から流れている。
 思わず舐めとってしまう。サクヤから出るものはすべて汚いとは思えない。

「ひぃんっ!♡ だめ、だめ♡ イッてるからぁっ!♡」

 口をふさぐようにキスをする。無性に愛おしい。

「ん、んん♡」

 キスだけでまたイッてしまったのか、荒い鼻息が俺の顔に断続的にあたる。
 俺を相手にしてイッてくれているのが心から嬉しい。
 やっぱりサクヤが好きなんだと行為のたびに思う。サクヤがどんな醜態をさらそうとも愛おしいとしか思えない。
 腕の中で震える体が愛おしい。俺を求めてくれている心が愛おしい。

 唇を離すと、小さく水音が響く。

「サクヤ、好きだ。愛してる。絶対離さないから」

「そういうこと言われると……♡」

 びくんっと大きく体を震わせ、もう一度イッてしまったのがわかる。体はしっとり汗ばんでいた。
 ああ、好きだ。どうしようもないほど。
 どうしたら伝えられるのだろう。伝えきるには、俺にはあまりにも語彙力が足りない。
 もっと本を読んでおけばよかった。もっともっと、サクヤへ思いを伝える努力をすればよかった。
 どんな風に言えば伝えられるのだろう。どうすれば俺の気持ちを全部伝えられるのか。

「本気なんだ。本気で好きなんだ。サクヤだけでいい。サクヤだけいればもう他に何もいらないんだ。親には悪いけど、サクヤだけで幸せなんだ」

「──っ!♡ ──幸せっ♡ 一番大切な人にっ、そんなにっ!♡ あああっ、ずっと、ずっとイッてるっ!♡ あたまへんになりそうっ!♡」

 目隠しの下から涙がこぼれていた。どういう意味の涙なのかわからない。が、きっと悪い意味ではないのだろう。

 そのまま抱き合ってキスを続ける。
 サクヤはキスが好きだ。関係ないタイミングでも求めてくることが多い。こういうときならいざ知らず、普段は恥ずかしい。
 それでもなるべくは対応する。流石に誰かに見えるところで、と言うのは恥ずかしいけど。言葉で思いを伝えることができない俺は、少しでも行動で示さなければならないのだ。
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