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第一話 私とセックスをしてほしいんだけれど

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 なんか肌寒いな……

 そう思って目が覚める。その時は朝方の寒さのせいだろうかと思っていた。
 窓際に置いているベッドなので、冬場は冷えるのだ。
 寝た時に閉めたはずのカーテンは完全に開いており、角部屋ではあるが、隣家との距離の関係で若干弱めになっている朝日が目に刺さり、少し痛む。
 意識がはっきりしてくると、寒さとも、明るさとも別の違和感に気付いた。

「あら、ユウ。自発的に起きるなんて、珍しいこともあるものね」

 いつものように淡々と、それでいて冷静な声でそう言った。
 言葉遣いは丁寧であるし、長いセリフでもよく噛まないな、と感心するほど滑舌がいい。

 俺の目の前に当然のようにいたのは「四条サクヤ」。俺の幼馴染だ。
 俺に寄り添うような形でベッドの上に座っていた。
 見た目は眼鏡の似合う委員長タイプの美少女であり、既にキッチリと制服を着込んでいる。そろそろ秋のため冬服仕様であり、それは黒に近い紺色のブレザーである。学年が変わったことを意味する、黒い細いストライプの入った赤いネクタイに目が行く。彼女の眼鏡の色と同じ明るい赤色だ。

「ああ、そうね、朝はまず『おはよう』よね。ごめんなさい、うっかりしていたわ」

 当然のように、そして平然と謝罪し、挨拶する。
 優雅にすら見えるほど、その所作は自然だ。

 だが、サクヤがその柔らかい白い手に握っているものは────

 朝立ちなのか、それともサクヤによって元気になってしまっているのか、どちらかは分からないが完全に勃起してしまっている俺の大事な相棒、それが優しく握りしめられていた。
 布団は完全にまくり上げられ、足元でまとまっている。先ほど感じた寒さの原因はこれだったのだ。
 下半身は寝巻のズボンもパンツも膝のあたりまで下げられていた。

「ちょ、サクヤ何やってんだ!?」

「何って、ナニを握っているのだけれど?」

 何を言っているのかしら、と言わんばかりに、左手の人差し指を唇に着けて、少し首をかしげる。真っ白な肌を強調するように、赤い唇はプルン、と水っぽく震えていた
 赤いフレームの眼鏡から覗く黒い目は好奇心に満ちている。

「この状態で放置してもいいのかしら。一応言っておくけれど、私以外で射精することは固く禁じさせてもらうわ」

「い、いや、朝のは勝手に収まるからいいんだよ! 逆に触られたら収まらなくなるだろ!」

「ちなみに今はまだ六時前よ。つまりまだ時間的余裕はあるということなのだけれど、本当にいいのかしら」

 サクヤは悪戯っぽく、それでいて妙に蠱惑的というか、そんな表情をする。

「そ、そう言われるとしたくなるな……」

「どんなことをしてもいいのよ。多少変態的な趣向でも、私には理解する用意があるわ」

「お前がしたいだけなんじゃないのか? それは」

「一理あるわね。これでも優等生、予習は欠かさない方よ。ユウが好きそうなプレイは大体予習済みだし、もっと言えば私がしてほしいプレイも予習済みよ」

「お前がここまで変態だったとは思わなかったよ……」

 そうは言ってみても、サクヤの手の中で俺の相棒はビクビクと脈打っていた。

 シコシコシコ、と擦れるような音を立て、サクヤの手が俺のチンポをしごき始める。
 皮を上下させるものではなく、ただ手だけをさらさらと上下させていた。もどかしい刺激に思わず声を上げてしまう。

「う、サクヤ、ちょっとホントに……」

「手だけでは不満、ということね。確かに、私の未熟な技術では手だけで満足させるのは難しいとは思っていたの。それに、私も準備はできているわ」

 そう言うと、チンポから手を離し、ゆっくりと立ち上がる。そして寝たままの体勢である俺の顔の前までやってきて、スカートをゆっくり両手でまくり上げた。

 視界を占拠したのは真っ白な綿のパンツ。
 その下部分、股間部はねっとりとしているのであろう尿ではない液体で少し黒っぽく変色していて、サクヤの形をあらわにしている。
 良く見えるようにか、足はほんの少しだけ開いていた。

 全体的に細身ではある。だがお尻や太ももなどは細いながらも、むっちりとしていて、指が沈み込むような柔らかな肉が詰まっているのであろうことは容易に想像がつく。足の付け根の部分は丸みを帯びており、指で突っつきたい衝動に駆られてしまう。肌は水をはじきそうなほど瑞々しく、白い肌に軽く浮いた青い静脈が彼女のせいを証明していた。

 液体のせいでパンツがぴっちりと張り付き、全体がほんのり薄ピンク色をしたオマンコが透けているように浮かび上がり、ぷっくりとした双丘が、余分なものがはみ出ていない綺麗な縦筋を強調している。
 太ももの方まで垂れてきている透明な液体が、朝日に照らされ輝いていた。
 最下部、とろとろとした液体の発生源であるその穴が如何に気持ちいいものか、今の俺は知ってしまっていた。サクヤは見られて興奮しているのか、ぽたぽたと床に液体をこぼす。
 ごくり、と思わず生唾を飲み込んで、視線はから動かせなくなる。

「ねぇ、ユウ。私とセックスをしてほしいんだけれど」

 サクヤは三日前と全く同じセリフを、今回は色っぽく俺に言った。


 俺たちがになったのは三日前のことだった。



 その日の昼間は特に何もない日だったと記憶している。
 いつものように学校に行き、いつものように帰宅した。
 部活などには属しておらず、学校が終われば友人と少し話して帰るくらいの平和な学生生活だ。
 中学まではバスケ部だったのだが、身長が一番大事ということに気付き高校では断念した。
 技術を磨けばいいじゃない、と言われそうだが、それに至るほどの才能もないと自分では思う。

 それに一応は進学校であるため、勉強もそれなりにしないといけない。少しサボるだけで絶望的なほどついていけなくなるのだ。

 帰宅して少しした後。
 十九時頃、夕食の時間がやってくる。
 そしてその食卓には父と母、そして当然のようにサクヤがいた。
 学校が終わった後そのまま家に来たので、まだ制服を着たままだ。
 もはやそれには誰も突っ込みを入れない。それくらい馴染んでいる。

 サクヤとは学校に行くときは一緒だが、帰りはまちまちだ。
 クラスも同じではあるのだが、掃除当番や進路指導、その他いろいろな交友関係を考えると、週に一度一緒に帰るかどうか、というところである。

 サクヤは幼馴染であり、俺たちが物心つく前からのお隣さんだ。
 両親、父の方は大学の友人同士であり、会社も同期。そして母同士も古くからの友人であるという、完全に家族ぐるみでの付き合いだ。実際今でも父同士や母同士で出かけたりしているし、家族旅行も基本的に一緒である。

「サクヤちゃん、高校を卒業してからすぐに嫁に来てもいいんだぞ。ユウを婿にやってもいいんだが。不出来な息子だがよろしく頼むよ!」

「ちょ、父さん何言ってんだよ!」

「あらあら、照れちゃって」

 母親も意味ありげに笑う。うふふ、という表現がぴったりな下世話なおばさんの表情だ。

「まずは大学に入ることが優先ですね、今のところは」

 口元に笑みを浮かべ、サクヤはいつもこう返答する。それには同意だった。

「まぁいつでも大歓迎だ。あいつもそう言ってただろう?」

 父の言うあいつとはサクヤの父のことである。

 いつもこういう会話がある。高校生男子には少し恥ずかしいというか、イマイチ現実味のない話である。結婚というのはそもそもそう簡単なことではないのではないかと思う。好きだから、でするものではない。養っていくためには就職が必須だし、それはできることなら大学を卒業してからにしたい。せっかくの進学校なのだからそうするべきだろうに、両親はどちらでも構わないと思っているのかもしれない。
 確かに幼馴染ではあるのだが、それは兄妹に近い感覚とも言える。恐らくはサクヤもそう思っているのではないかと思う。そもそも俺とサクヤは釣り合わない。少なくとも俺はそう思っているのだ。

 サクヤは少し変わってはいるものの、基本的には美少女だ。
 トレードマークといってもいい赤いフレームの眼鏡、濡れているような真っ黒な長い髪。
 肌は真っ白で、文学少女というか、そう言った例えが似合う儚さを持っている。実際に本はたくさん読んでいる。
 制服はブレザータイプなので、シャツの上にベスト、その上にブレザーという少し重い恰好のせいか、胸は小さく見えるが、実は結構あることを俺はよく知っていた。
 比較的無表情なことが多いが、時折見せる笑顔は、これだけ付き合いのある俺でさえドキッとすることがあるほど魅力的だ。

 いわゆる真面目な委員長タイプであり、学校でも男子の中では人気なのだ。
 サクヤは積極的には人に関わらない。ビジュアルも相まって神秘的に見えるのだそうだ。
 だが、普通の女子のように意味のない、余計な話題こそあまりしゃべらないが、基本的には結構しゃべるタイプである。

 サクヤはモテる。三か月に一回くらいは告白されているようだ。だが誰かと付き合うということはしていないと思う。なにせほとんど毎日うちにやってきているのだから。
 自分のものでもないくせに、嫉妬や焦燥感を覚えているのは秘密だった。みっともなく、カッコ悪いからだ。

 どんな相手でも一刀両断するその姿勢で、女子からも嫌われてはいないようだった。かっこいい、というものさえいるくらいだ。
 サッカー部のエースであり、イケメンで成績優秀という完璧超人のような先輩までもがサクヤに切り捨てられたこともある。
 一見するといじめられそうな案件ではあるが、サクヤが芯の強い人間であることは知られているため、そうはならなかった。そういう姿勢がサクヤの価値をより高めているのを本人は知らない。
 そして俺の存在である。サクヤは俺と付き合っているのだと思われていて、だからこそ誰とも付き合わないのだろうという図式がみんなの中でできている。それはつまり、今もサクヤに告白している連中は俺を下に見ているということでもあるので、少しだけ悲しい。俺相手なら奪える、と思っているということなのだから。
 俺は尋ねられた時は濁した回答をし、付き合っているわけではないのに優越感を覚えていた。

 サクヤの両親は帰りが遅い。父と同期であるサクヤの父は部署が違うらしく、その部署は激務、夜中まで残業があることが多いのだという。
 毎日大変だよな、そんなに給料変わらんのに、と父は言っていた。
 母親の方はというとアパレル系のデザイナーをしており、それも時間など関係ない、というスタイルらしく、やはり帰りは遅い。

 そのためサクヤは小さいころからうちで夕食をとっている。当然了承済みのことで、食費も貰っているのだそうだ。別にいらない、と両親は固辞していたが、サクヤの父は「俺は残業ばっかりだからな、お前と違って残業代があるんだ……」と悲しい顔で言っていたらしい。
 そこまで言うなら、と貰っているらしいが、その分以上にサクヤに手をかけている。実質殆ど兄妹のようなものだった。

「これ上手いね!」

「ああ、それは出来合いのものだけどね」

 母さんは不満げに言う。

「あ、そうなんだ……」

 何とか会話をすり替え、サクヤの結婚に対する正確な返答を聞かないようにする。
 いつもこのようにする。怖いのだ。もし嫌だと言われてしまったら。そう思うと胸が苦しくなる。

 俺はサクヤのことがずっと好きなのだが、それでもこの関係性を壊そうとは思わない。
 サクヤは誰とも付き合ってはいないが、俺を好きだとは考えにくかった。単純に恋愛に興味がない、そんな気がしていた。
 俺は大した長所がない。凡百な容姿で、凡百な能力しか持っていない。
 それでも高校で離ればなれ、というのは嫌だったので、必死に勉強してサクヤと同じ高校には入った。恐らくは大学もそのようにするだろうと思う。俺ができる最大限のアプローチだった。


 サクヤは変わり者だ。今着ているのはパジャマだけであり、その格好のまま俺のベッドの上で無言で本を読んでいる。読んでいる本は小難しそうなタイトルだが、なんでわざわざ俺の部屋で。ちなみに俺は勉強机の方にいて、ちらちらとサクヤを見ている状態だ。パジャマの柄は十人に一人が可愛いというかどうかというような変なゆるキャラである。少なくとも俺は変だと思っているが、サクヤは可愛いと思っているらしい。

 食事を終え、一旦家に帰り着替えてまたやってきたのだ。
 それでも男の家にパジャマ一枚だけで来るのはどうなのだろうと常々思っている。
 兄妹のような関係であるため、今更意識などしていない、ということなのだろう。ただ俺は残念ながら意識しっぱなしだ。

 赤い眼鏡で、長い黒髪。風呂の後のため、少し湿っている。
 風呂は先ほど家で入ってきたようだ。そこだけは比較的自分の家を使っている。
 当然といえば当然である。サクヤだって思春期の女子なのだから。

 制服という拘束を解かれた胸はやはり大きく、Dカップくらいだろうか、俺の手では少々こぼれそうな気もするサイズだ。
 それに折れてしまいそうなほど細い肩や腰、それにお尻。キュッとしており、スタイルがいいことは知っているものの、座るときの形の変化などから相当柔らかそうに思える。
 見ているとやっぱり少しだけ、少しだけ、ムラムラしてくる。

 俺のベッドの上、今年新調したばかりの掛布団の上に、女の子座りでサクヤは本を読んでいる。

 学校でもひそかに人気なサクヤのこんな姿を知っているのは俺だけだ。だがそんなアドバンテージをもってしても進展がないのだから、俺はよっぽどヘタレなのだろう。

 昔からお互いにこうやって、特に何の用事もないというのに部屋を行き来していた。ただ窓から、などという漫画的なものではなく、普通に玄関からやってくる。合いカギを持っているのだ。これは俺の母親が提案したことで、特に誰も反対しなかった。ちなみに俺も合いカギは渡されているがそれを使ったことはない。
 来るのはもっぱらサクヤからのほうで、俺は高校に入ってからは一度も行っていない。やはり女子の部屋というのは気恥しさというものが強いのだ。これでも立派な思春期の男子なのである。
 頑張れば窓からの出入り自体は可能ではある。実際サクヤの家の猫は窓が開いていれば時折侵入してきたりする。名前は「ウニ」という前衛的なセンスであり、勿論名付け親はサクヤだ。

 それは突然のことだった。
 読んでいた本をパタン、と音を立て閉じ、こちらに向き直りサクヤはこう言ったのだ。

「ねぇ、ユウ。私とセックスをしてほしいんだけれど」

 いつもと同じようなテンションで、そこのコーヒーとって、みたいな軽い言い方で。
 一瞬、それってどんなものだっけ?と思うほどだった。

 だが言葉とは裏腹に、まっすぐに俺の顔を見るサクヤは少しだけ硬い、何かを覚悟しているような、そんな表情をしていた。
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