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88.
しおりを挟む「……明日歌」
「何でしょうか!」
「ちょっと、こっち来て」
碧音君が休憩室から出ていくので、私も後を追う。
「明日歌ちゃん連れて、碧音はどこ行くんだ?」
「実はさぁ、藍が俺達に暫く練習に出られないって言いに来た日に2人ケンカしちゃって」
「碧音も不器用だからなー」
「なるほど。なんとなく予想がついた」
年上組がこんな会話をしていたことは、知る由もない。
―――――――――――
――――……
連れられて辿り着いたのはスタジオの外。
廊下で話してると特に皐月が聞き耳をたてるかも知れないからだそう。
「碧音君、話って」
疑問系で聞いておいて何だけど、恐らく内容はケンカした日のことだ。
意を決して数日前、碧音君に話しかけてみたらさっきのようにいつもの毒舌で返事してくれたから、もう気にしていないのかと思っていたけれど。
どうやら違うらしい。
「藍を追いかけようとしたお前を止めた時、キツい言い方した。ごめん」
まさか謝られるとは予想していなかったから、思わず言葉に詰まる。
「あ、謝らないで。碧音君も藍を思って言ったんだし」
「でも実際、今日吹っ切れた藍の顔を見てお前が行って正解だったって分かった」
藍を任せてくれた碧音君のためにも、って気持ちもあったから。
「俺が、感情的になり過ぎてた」
「碧音君……」
碧音君の歪んだ瞳が、頭に浮かぶ。鋭くて、鈍い光を放っていた。
でも、感情を表に出すことは悪くない。
「お互い、藍を思ってぶつかっちゃったんだから、仕方ないね」
大切な人の助け方、守り方は人それぞれ。正解はたくさんある。
どれがその時正解で結果はどうなるかなんて、正確には分からないものだ。
私達は超能力者でも神様でもない。
碧音君は思い詰めた表情で視線を逸らし、何を言うのかと思えば。
「お前に慰められるって何か癪に障る」
「あっれ私良いこと言ったはずなんだけどなー。シリアスな空気だったんだけどなあ」
「感傷に浸る暇があるならお前は1年中お花畑な頭を治してもらえ」
「1年中お花畑なわけないよね」
「1年の3分の2は実際そうだろ」
「実際そうだろって真顔で言わないでもらえます?」
碧音君の中で私の立ち位置はどうなってるんだ。解せぬ。
結局外でワーワー騒いでいたら、荷物を持った星渚さん達がスタジオから出てきてしまった。
「練習室の利用時間過ぎたから、出てきちゃった。誰かさん達が戻ってこないから」
「お前ら仲直りして早々別のケンカすんなや」
正論に刃向かう術はない。すみません。
「はい。2人の荷物」
「藍、持たせてごめん!」
休憩室に置きっぱなしにしていた荷物を藍に持たせてしまっていた。急いでバッグを受け取る。
「藍も復活したことだし、またみっちり練習開始するからねー」
星渚さんが不敵に口角を上げた。
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