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しおりを挟む「俺達だって藍を心配してないんじゃない。けど藍の性格を理解してるからお前みたいな行動はとらない」
「――――私は」
歪む青みがかった灰色の双眸と、しっかり目を合わせる。
「やっぱり、藍が悩んでるって、苦しんでるって知ってるのに見てるだけなんて出来ない。1人で答えを出せないなら、誰かが手を伸ばしてあげないと」
手遅れになる前に。
「もし、この瞬間にも自分を犠牲にする答えを作り上げちゃったらどうするの?」
藍なら、やりそうでしょう。
「人に助けて欲しいって思ってる確率もゼロじゃない。お節介だと疎まれてもいいから踏み込んで、もし許してもらえたら全力で答えを一緒に探す。今何も行動しないよりかは、よっぽどこっちの方が価値がある」
碧音君は私の前に立ち塞がって、道を開けてくれない。
早く、早く藍に会わなきゃいけないのに。どうして退いてくれないの碧音君。
お互いが主張を譲らない、続く沈黙を破ったのはこの場に似つかわしくないのほほんとした声だった。
「2人共、そこまでー。落ち着こうか」
「星渚さん!」
全く気配を感じられなかった。この人怖いんだけど。
「刹那、行かせてあげて」
「は?」
「道、開けてやりな」
星渚さんがそう言ってくれるとは予想外だった。てっきり碧音君側の考えだと。
「星渚、何言ってんの」
碧音君は私に『うざい変態』だとか冗談を言う時も目を細めて冷たい顔をするけど、それとは別の。
こんなの、初めてで。
でも、ミルクティー色の髪をふわりと揺らし唇で弧を描く彼は動じないのだ。
「明日歌ちゃんに任せようよ、藍のこと。今の話聞いててね、明日歌ちゃんなら適任かもーって」
今の話を聞いて?まさか私と碧音君のやり取りを全部聞いていたとでも?
星渚さんは王子様スマイルを崩さないまま。飄々としているというか、読めない人だ。
「明日歌ちゃん、行って。藍なら、そうだなあ。近くに川岸あるよね?そこにいるか、もしくは家にいるよ多分」
「迂闊に行動してもそんなの」
「刹那」
「――……っ」
星渚さんが宥めると、碧音君は嫌々といった感じで退いてくれた。
それと同時に私はすぐ様スタジオを飛び出したのだった。
藍、今行くよ。
―――――――――
―――………
あいつが出ていった玄関を訳もなく眺める。
「何で、行かせたの」
「適任だと思ったからって、言ったじゃん」
「だからその理由を答えろ」
星渚の意図が俺には分からない。
口ぶりからすると、俺達の会話は影に隠れて聞いていたはず。なら、俺の言ったことも十分理解してるよな。
何で。
「今回は、刹那。感情的になっちゃったねぇ。得意のポーカーフェイスが崩れてるよ」
「なってない」
「嘘。あれは明日歌ちゃんに対して言った台詞じゃないでしょ?『相手を知った気になって助けようとする』って、さ」
「それは、どうでもいいだろ」
これ以上深く掘り下げるなと目で訴える。
星渚には『まあまあ、カッカしない』と肩を叩かれた。
「あれだけ藍のために動きたいって言ってんだから任せようよ。それに、俺は明日歌ちゃんに何とかしてもらうのがいいって直感で思った」
「直感とか」
「俺の勘は当たるじゃん」
否定はしない。むしろ星渚の場合は直感と言いつつ、実はちゃんとした考えや理由があったりするから。
「納得した?」
「納得はしてない」
「んじゃ“分かって”はくれたんだ。なら早く練習戻らないと。皐月怒ってるよ」
「…………」
まんまと星渚に言いくるめられてしまった。
いつまで経っても、この人には勝てる気がしない。
廊下で派手に言い合っていた様子を見たであろう人達からは、俺が通る度にビクッと怖がられたのだった。
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