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しおりを挟む全ての音が止み雨宮先輩がマイクを下げたから終了したようだ。ふう、息を吐きやり切ったと顔が緩む先輩。
「どう?刹那君」
白石先輩に感想を求められ、碧音君はスッと教卓から離れる。
「取り敢えず」
碧音君、何て言うの?お母さん胃が痛くなってきたよ。
「全体的に雑」
「「「…………え?」」」
一斉にハモッた。勿論私もだ。
「各々が主張し過ぎ。特にサビになると声が聞こえ辛くなって歌詞が分からない」
碧音君の評価に先輩方が固まってしまっている。
しかし碧音君の毒舌辛口評価は止まらない。
「リズムも狂うんですよね。お互いの音聞き合うのは基本だろ。ドラム無しだったからとか、そういうレベルじゃない。俺がここに入ったら逆に浮く」
つまり、レベルが違って余計音がバラバラになってしまうかもしれない、と。
先輩の表情がみるみる雲っていく。
「た、橘さん!ねえ刹那君怖いよ!鬼だよ!先輩泣きそう」
吉野先輩に小声で訴えられる。
「すみませんこれが碧音君の通常運転なんです」
私の変態が通常運転なら、碧音君の場合は毒舌がそれなのだ。
「……言ってくれるじゃない」
雨宮先輩の額にピキッと青筋が浮き出ているように見えるのは、私の気のせいじゃないはず。
岡谷先輩は、呆然としている。憧れで好きなバンドの一員に言われたんだから、当然だ。
「碧音君、もう十分なんじゃないかな?この辺にしようよ。ね?」
これ以上続くとメンタルをズタボロにされかねないので、間に割って止める。
「お前だって、俺と同じこと考えただろ」
疑問系ではなく、確信的な言い方。
「………うーん。正直思いましたけども」
リズムに関して思っていたことは、碧音君と殆んど変わり無かったのは事実だ。
「橘さんも……?!」
電光石火の早さで吉野先輩に抱きつかれた。
「いや先輩の弾き方好きですよ?!下手って言ってるわけじゃないんですだから離してく、ください……っぐるじい」
抱きついて離れたと思ったら肩をガクガク揺さぶられ、そしたらまた抱きつくと繰り返す吉野先輩にギブだと伝える。
「あっ、ごめんねつい」
「肋骨折れたんじゃないかって心配しました」
吉野先輩が抱きついてくれるなんて、男子にとったら嬉しいことこの上ないだろうけどね。
「今日はドラム抜きの練習やりましょう。リズム合わせとその他諸々」
碧音君が白石先輩に渡された楽譜を指でパンッと弾く。
その他諸々と引っくるめているけど、そこの練習が最も大変そうだ。
「良いですよね、雨宮先輩?」
「はー、うん。刹那君に任せる」
こうして、碧音君の超スパルタ練習が始まったのだ。
――――――――――――
―――……
「岡谷先輩、今ズレました」
「まじで?ちゃんと刹那君に合わせたけど」
「1テンポ遅れました」
岡谷先輩がげ、と苦い顔をすると碧音君の冷たい目差しが射抜く。
「吉野先輩、感情的になるなってさっきも言いましたよね。サビになるとテンポが早くなる」
「わっ。ごめんね!」
碧音君のスパルタで吉野先輩は泣き出しそう。
「今の歌い方、アレンジですよね。だったらもっと強調しないと無駄」
「はーい。分かったわ」
リーダーの雨宮先輩にも容赦ない。
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