39 / 155
【第7章 揺れる想い】
しおりを挟む「うわー、もうこんなに並んでる。皆何時に来てるんだろう」
「これでも早く来た方だけど」
遂にやってきた、ライブ当日。
早朝から準備してなるべく急いで来たものの、会場入り口には既に人集りが。
入場は約1時間後だというのに。私達も、列の最後尾に並んだ。
「どうしよう、楽しみ過ぎて心臓が口から出てきそう」
「バカなの?」
「そわそわする」
「落ち着いてね」
菜流はサラリとあしらって、周りに視線を泳がせる。
「はぁ。星渚、まだ来ない」
「ああ、一度ここに来るって言ってたんだよね」
皆はエントリーとか色々やることがあるから、と私達より先に会場に着いている。私も始まる前に、碧音君に会いたい。
「晴れてくれたのは良いけどさぁ、あっつい」
朝からジリジリと容赦なく照りつける太陽が、眩しくて仕方ない。
雨が降るよりかはマシなんだろうけど。体力が奪われそう。
「こんな暑い中ライブやるとさ、観る側よりも演奏する側の方が何かと大変じゃん?もし熱中症になっちゃったらどうしよう……」
ブラコン発動、と言いたいところだけどこれについてはブラコン関係なく心配になる。
「星渚、菜流のこと見たら絶対いつもの倍以上気合い出してくれるよ。だからその勢いで熱中症もぶっ飛ばせるんじゃないかな」
「ん?今何て言った?星渚って呼び捨てしたよね」
ヒヤリ、あの星渚と同じ笑ってるのに背筋が凍るような冷たい眼差しに早変わり。
愛する兄のことを思いしおらしい姿になっていたさっきまでの菜流はいずこへ。
あれ、私達の周りだけ気温が下がった気がするんだけど。
「呼び捨てにしていいの私だけだよ?分かってるはずだけど?」
ポン、肩に添えられた手に力が込められていく。
「いや、これはですね?合宿の時にさん付けで呼ばれるのは変な感じがするからって言われて。じゃあ、呼び捨てでっていう流れに」
「へーえ?」
地味に脇腹に団扇をのめり込ませようとするの止めて。
「で、でもやっぱり私星渚さんって呼ぼうかな?その方がしっくりくるしなあ!」
「うん!それが良いと思う」
一瞬にして、可愛らしい笑顔に戻った菜流。背後に漂わせていた暗黒のオーラが消え、ほっと胸を撫で下ろす。
危なかった。大切なライブの前に、生命の危機を回避できて良かった。
「なーに2人で騒いでんの」
「あ!星渚!」
ぎゅぅぅう、突然現れた星渚さんに菜流は熱い抱擁。私といる時より声が1トーン高くなってるよ。
「星渚ー、遅い」
「ごめん、エントリーに時間がかかって」
爽やかな王子様スマイルに、近くにいた女子が数名顔を赤らめた。
「おっすー、久しぶりだな菜流……と、変態」
「年上じゃなかったら殴ってる」
この口の悪い男に対しても目を輝かせる女性の方々がいることが、不思議でならない。
『あれ、midnightの高瀬さんじゃない?』『やったー。こんな近くで会えちゃった』と、コソコソ小声で話す声。
「碧音君はいないの?」
「てめえは俺が来てやったことに喜べ」
「碧音君は?」
「シバくぞ」
皐月が言うと現実味があり過ぎて怖い。
「碧音と藍は控え室にいんだよ」
何だかんだ律儀に答えてくれるよね皐月って。
『ねえあの子誰?皐月さんの知り合い?』『まさか彼女?』『ないない。つり合ってないじゃん』とクスクス笑いながら後方で話すお姉様方。
バッチリ聞こえてます。色々失礼だ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)
青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。
けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。
マルガレータ様は実家に帰られる際、
「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。
信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!!
でも、それは見事に裏切られて・・・・・・
ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。
エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。
元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。
夫の裏切りの果てに
鍋
恋愛
セイディは、ルーベス王国の第1王女として生まれ、政略結婚で隣国エレット王国に嫁いで来た。
夫となった王太子レオポルドは背が高く涼やかな碧眼をもつ美丈夫。文武両道で人当たりの良い性格から、彼は国民にとても人気が高かった。
王宮の奥で大切に育てられ男性に免疫の無かったセイディは、レオポルドに一目惚れ。二人は仲睦まじい夫婦となった。
結婚してすぐにセイディは女の子を授かり、今は二人目を妊娠中。
お腹の中の赤ちゃんと会えるのを楽しみに待つ日々。
美しい夫は、惜しみない甘い言葉で毎日愛情を伝えてくれる。臣下や国民からも慕われるレオポルドは理想的な夫。
けれど、レオポルドには秘密の愛妾がいるらしくて……?
※ハッピーエンドではありません。どちらかというとバッドエンド??
※浮気男にざまぁ!ってタイプのお話ではありません。
恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜
k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」
そう婚約者のグレイに言われたエミリア。
はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。
「恋より友情よね!」
そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。
本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。
【完結】離婚の危機!?ある日、妻が実家に帰ってしまった!!
つくも茄子
ライト文芸
イギリス人のロイドには国際結婚をした日本人の妻がいる。仕事の家庭生活も順調だった。なのに、妻が実家(日本)に戻ってしまい離婚の危機に陥ってしまう。美貌、頭脳明晰、家柄良しの完璧エリートのロイドは実は生活能力ゼロ男。友人のエリックから試作段階の家政婦ロボットを使わないかと提案され、頷いたのが運のツキ。ロイドと家政婦ロボットとの攻防戦が始まった。
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
どうぞご勝手になさってくださいまし
志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。
辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。
やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。
アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。
風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。
しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。
ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。
ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。
ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。
果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか……
他サイトでも公開しています。
R15は保険です。
表紙は写真ACより転載しています。
【完結】彼女が本当に得難い人だったなんて、後から気づいたってもう遅いんだよ。
すだもみぢ
現代文学
テーマは「本当のこと」
数年ぶりに再会した過去の恋人同士。お互いもういい大人になっている。
「昔、会社が倒産しそうだと言ったのを覚えているか? あれ、嘘だったんだよ」
そう過去の真実を告白した男に対して、女は静かに唇を開いた。
「知ってたわ。その上で別れを受け入れることに決めたの――」
何を思って男は女にその言葉を告げたのか。
そして女はどうしてその言葉の嘘を暴かなかったのか。
その裏にあったこととはなんだろうか。
過去の恋人たち二人のやりとりを、第三者視点綴っています。
2023/3/27 現代文学部門1位ありがとうございました<(_ _)>
2023/3/31 加筆修正いたしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる