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31.
しおりを挟む「星渚がこの髪型好きって言ってたから」
「菜流、似合ってる」
セミロングでエアパーマのかかった髪を、慈しむような動作で 梳く姿はまるで何処かの王子様。
甘い雰囲気で赤い薔薇の花びらでも舞ってるんじゃないかとさえ思えてくるが、カップルではないのだ。
「いつまでやってんだよ。練習すんぞ、練習!」
「菜流、ごめん」
「いいよ。星渚に会えて良かった。練習頑張ってね?」
皐月の現実的な台詞に、2人が舌打ちしたのを私は見逃さなかった。
「皆ー、ファイト」
リビングを出ていく4人に向かい、菜流は投げキッスにプラスサービスでウィンク。
それに対し、皆の反応はバラバラで。
「ませてんじゃねえぞガキ」
「菜流。それ、他の男にやらないで」
「冗談きつ」
「ははは、ありがとね菜流。頑張るよ」
また皐月と星渚さんのケンカが勃発しそうになったので、素早く藍さんが止めに入り、碧音君は『早く歩け』と先を進むよう促して行ってしまったのだった。
途端に静まり返るリビング。
「菜流。星渚さんが大好きなのは分かるけど、もし星渚さんに彼女ができたらどうするの?」
ガタン、お互い椅子を引いて座る。
「結婚しちゃうかもよ?」
そしたら今みたいに甘えることが出来なくなると思う。
親離れじゃないけど、星渚さん離れはいつするのかな?
「分かってる。甘えるのは、星渚が大学卒業するまでだってちゃんと決めてるよ」
放たれた言葉に、意外性しか感じられなかった。
「勿論、星渚の彼女になるなら私より美人で可愛くて、性格も良くなきゃ認めないけど」
「星渚さん、急に菜流が甘えてこなくなったら落ち込むんじゃない?」
案外、星渚さんの方が離れられないのかも。
「そんな星渚を振り向かせられるくらい、良い女じゃないとダメってこと!」
芝居がかった仕草で、人差し指を左右に振ってみせる。
「菜流より良い女が現れるの、当分先かもね」
「あははっ。何それ嬉しい」
笑う度、上下する肩に合わせてふわりと髪が揺れて可愛い。
「それより、明日歌はどう?刹那と仲良くなれた?」
「うーん……どんなことを思い出しても碧音君に避けられる記憶が多すぎて」
私のアピールがまだまだ足りないってこと?
「それ、明日歌が攻めすぎてるだけだから。伝え方間違ってるでしょ絶対」
冷ややかな目線を向けられる。おかしいな。温もりのある、優しい視線を向けられたのいつだっけ。
「刹那は手強いよ。直ぐに自分の気持ちに応えてもらおうなんて、無理だから」
「や、やっぱり?」
「私のことも、ただの星渚の妹としか思ってないよ刹那は」
あっけらかんと言われた割に、内容は軽いものではなく。
菜流は本当は冷静で、いつでも客観的な視点を忘れないのだ。ただ、星渚さんが関わると話は別だが。
「距離感を間違えたらアウトって感じか」
甘かった、私の考え。
ちょっと心配してくれたこともあるし、多少仲良くなったのかな、とか思い上がってた自分にビンタしてやりたい。
「まあ、気長に焦らずやってくのが大切ってことだわ」
『あ、でも』と少し慌てたように付け加える。
「星渚達には懐いてるし、ちゃんと信頼してるみたいだから、心配しないで」
「それは、一緒にいたら伝わってきたよ」
碧音君、言うことは毒舌で鬼畜だけど行動で皆を好きなんだろうなって分かる。
「刹那のことでまた何かあったら、話聞いてあげる」
「そうしようかな」
焦ることじゃないよね。これからゆっくりお互いのことを知っていければいい。
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