上 下
3 / 155

3.

しおりを挟む
メンバーがステージ上で合わせしている間にも『藍!らーん』『皐月さん!』『紀藤君!』と黄色い声が聞こえてくる。全員服装はネクタイを統一したスタイルで格好いい。

「星渚、せなー!頑張ってね」

菜流も、周りの人の邪魔にならない程度に手を振っているのはいいけど、声の大きさは抑えられなかった。

しょうがないか。

菜流に気づいたお兄さんはちらっとこちらに視線を寄越し、ニコッと完璧な王子様スマイル。

「イケメン……菜流のお兄さん王子様」

しかし微笑みをすぐに真剣な表情に一変させ、ドラムスティックでカウントをとるよう促す。メンバー全員の目が、ギラリと光る。

「You say don't leave me here――」

瞬間、鳥肌がたった。ベースとギターのテクニックの巧さと力強いのに耳障りじゃない、全身の細胞が反応するような歌声。

会場の雰囲気が、この人達により一瞬で支配された。ずっと聴いていたい、終わらないで、吸い込まれそう――そんな感覚に陥ってしまう。

そして何より心を鷲掴みにされたのは、ドラムの人。

外見は艶のある黒髪に日焼けというものを知らないような色白の肌、少し華奢な身体つきで、バンドは似合わないんじゃないかと違和感を感じる程“綺麗”な男の子。

なのにドラムはとても力強くて、芯が通っていて。ミスマッチなところが独特の雰囲気を醸し出している。

しかも時折伏し目がちになったときの表情や首筋、ドラムスティックを持っている手、頭の先からつま先まで全身から色気を放っている。

打ち鳴らす細い指も綺麗で、堪らない。

「ね、菜流。あのドラマーの名前は?」

耳元で小声で聞く。

「あれ言ってなかったっけ?私たちと同じ年で高1だよ。名前は刹那」

「え!初耳。そっか、刹那君か」

「気になる?」

「うん、ものっすごく」

「じゃあ帰りに会おうよ。星渚に言っておく」

このチャンスを逃すわけにはいかない。

「ぜひお願いします」

「おっけ」

早口で会話してまたライブに聞き入る。こんな出会い、そうそうないよね。

「――burned down……」

ビブラートが効いた声が小さくなり、全ての音が止み演奏終了。

皆も興奮冷めきらぬ様子で感想を口にしている。私も例に溺れず耳に余韻が残り、心臓の高鳴りが収まってくれない。この感覚、好きだなあ。

ライブはノンストップで進行され、次から次へと演奏が続き途中休憩を挟み後半開始。

ラストは、インディーズで名の知れたバンドの演奏があり、皆のボルテージは最高潮で幕を閉じたのだった。



――――――――

―――……


「ここで待ち合わせしてるんだ。もうすぐ来るって」

「本当ライブ楽しかった!誘ってくれてありがとう」

「いえいえ」

どっぷり闇に浸かった夜空を仰ぎ、22時過ぎに外にいるっていつぶりだろうか、ふと思う。

バンドの人達はライブハウスの裏口から出てくるんだけど、そこで待っているのはダメだから近くの公園で待ち合わせ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

愛を知ってしまった君は

梅雨の人
恋愛
愛妻家で有名な夫ノアが、夫婦の寝室で妻の親友カミラと交わっているのを目の当たりにした妻ルビー。 実家に戻ったルビーはノアに離縁を迫る。 離縁をどうにか回避したいノアは、ある誓約書にサインすることに。 妻を誰よりも愛している夫ノアと愛を教えてほしいという妻ルビー。 二人の行きつく先はーーーー。

王妃の手習い

桃井すもも
恋愛
オフィーリアは王太子の婚約者候補である。しかしそれは、国内貴族の勢力バランスを鑑みて、解消が前提の予定調和のものであった。 真の婚約者は既に内定している。 近い将来、オフィーリアは候補から外される。 ❇妄想の産物につき史実と100%異なります。 ❇知らない事は書けないをモットーに完結まで頑張ります。 ❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

処理中です...