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101.
しおりを挟む主に喋っているのは1番背の高いワインレッドのピアスをした男。こいつが恐らくリーダー。
「そうですね。明日も良い結果が残せるよう頑張りましょう」
星渚が営業スマイルで言うと、BLACKの4人は控え室を出ていった。
「……今の、何」
「わざわざ挨拶しに来るって、真面目な奴らだな!」
「宣戦布告されたのかもねえ。俺達」
midnightとBLACKは何かと比べられることが多い。
だから今回のライブではBLACKがより観客の心を掴んでみせると、遠回しに伝えてきたのか。
「負けてらんねえな。言われっぱなしじゃ癪だ」
「皐月、気合いが空回りしないようにな」
「分かってるって、藍」
皐月はグーッと背筋を伸ばし、控え室のドアを開けようとする。
「どこ行くんだ?前半のライブ始まるけど」
「コンビニで飲み物買ってくるわ」
「あ、俺はミネラルウォーターがいいなぁお願い」
「へいへい」
皐月はライブハウスの近くにあるコンビニへ向かって行った。
自分達の出番までは時間がある。集中力を高めつつ時間が過ぎるのを待つ。
頭の中で曲を再生し、シミュレーション。
春に観てもらえる初のライブということもあって体に力が入ってしまうが、いつも通りにと自分に言い聞かせた。
ライブも始まり、1組目の演奏スタート。明日歌ちゃんと春、楽しんでるかな。
ここに来る前から緊張気味だった春を思い出すと笑えてしまう。
「ん?」
碧音が星渚のバッグを見て眉根を寄せた。
「あいつさっきコンビニ行った、よな」
「行ったね」
「それがどうかしたか?」
「財布、持ってたっけ?」
財布……数分前の皐月の姿を思い浮かべる。手に持っていたのはスマホと……、スマホだけだ。
「持ってなかったかも、皐月」
「財布忘れてったの?うっそー」
星渚が皐月のバッグから半分見えてる財布を引き抜く。
皐月、持ち物くらい確認しないと。ポッケに入れておいたとでも思い込んでいたのかも。
「放っとけば。忘れたことに気づいて戻ってくる」
方耳につけたコバルトブルーのピアスを指先で弄る碧音。
「そんなこと言わずさ、届けに行ってあげたら」
「どっかに財布落とした、って探してるかもしれないしな」
「は。何この俺が届けること決定みたいな空気」
「年上の頼みは聞かないとダメですよ」
星渚はヘラリ、気の抜けた顔。
俺も正直コンビニまで行って帰ってくるのは面倒くさいと思っていたから、話にのっかってみる。
ここのライブハウスの側には自販機はないのだ。
「碧音、頼むよ」
言えば口を結び、めんどくさって表情。でも。
「分かった。行ってくる」
「さんきゅー刹那」
「ありがと」
皐月の財布を手に取り、怠そうに出ていった。
「刹那は何だかんだ頼めばやってくれるよね」
「それを知ってて頼んだんだろ。俺もだけど」
口では嫌だと言いつつ結局は行動してくれる。でもそのことを分かってる人間は少ない。
ある程度親しい人じゃければ気づかない、きっと。
なにせ碧音も不器用だから。
「皐月、刹那に毒吐かれるよ絶対」
「散々言われるだろうね。けど皐月は言い返せないっていう」
「コンビニに行ったのに財布忘れてましたなんて恥ずかしくて俺無理」
2人が帰ってくる間、星渚と談笑して待っていた。
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