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しおりを挟む太陽が沈み、街に明かりが灯され始めた頃ライブハウスに到着。
ライブ開始までには時間があるから、来ている人もそんなに多くはない。あと数十分もすれば入り口が人で溢れる。
プチ花火大会のときに皐月が言っていたライブが行われる日をどれだけ楽しみにしていたことか。それが今日。
ライブ自体も楽しみだけど、もしかしたら藍の大切な人、波江春さんに会えるからだ。
藍の話を聞く限り素敵な人なんだろうなとは思うけれど。
やはり実際会って色々話をしてみたい。はやる気持ちを抑えるために胸のあたりをトントン、叩く。
「よっ!変態」
「その挨拶の仕方を即刻止めるべきだ皐月!」
背後から耳に届いた何とも失礼な挨拶をしてくる野郎は皐月しかいない、と即座に判断し、皐月に持っていたバッグを投げつける。
「挨拶代わりにバッグ投げつけてくる女がいるかよ」
「くっ、取られた!」
渾身の力を込めて投げたつもりだったのにいともあっさりと片手でキャッチされてしまった。くそう!
「つーか菜流はいねえの?」
バッグをヒョイッと返される。丁寧に扱えと注意したくなったが、私も同じことをしたので出かかっていた言葉を飲み込む。
「それは――」
「菜流は可哀想に、風邪引いて熱出したから来られないんだよ」
私が言う前に答えたのは、駐車場の方から来た星渚さん。憂い気な表情でも様になっている。
「菜流は来たいって言ったんだけど、止めた。明日来ればいいよって」
「悪化させたらダメですしね」
「本番は明日みたいなもんだからな!」
そう、今回のライブは2デイズ。
今日は言わば前夜祭的なもので、明日のライブが本番。
明日の方が有名なインディーズバンドもゲストとして参加するし、出演するバンドのレベル自体もアマチュアとは言え高い。
だから今日は明日出演出来る程のレベルではないけどライブをやりたいバンド、星渚さん達みたいに本番の予行として出るバンドが主にやってくれる。
でも観客の数も多いし、知名度を上げるにはもってこいの場所だ。
「菜流、私に電話してきた時もずっと悔しがってたよ。風邪引いた自分を呪いたいって」
「こえーなおい」
「菜流がライブに来てくれるのも嬉しいけど、そのせいで風邪が悪化したら俺は立ち直れない」
額に手を当て至極真面目な表情で言う星渚さん。
大袈裟だとは口が裂けても言えないのは皐月も同じだと思う。
呆れつつ今日のライブで歌ってくれる曲のことを話していると、そこへ。
「皆、おまたせ」
頬を緩ませる藍の隣には。
「初めまして、波江春です」
白のバルーンスカートと対称的な黒髪を揺らし、恥ずかしそうにはにかむ線の細い女の人――波江さんがいた。
雰囲気が藍にそっくり。
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