竜皇女と呼ばれた娘

Aoi

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開拓編

自分の正体

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カエデの父親は刑事で正義感の強い人だった
カエデもそれに影響されて始めはシオリを庇おうとしていたのかもしれない
しかし運の悪い事に虐めグループの主犯の女性の祖父が警視総監だった。主犯の女はそれを利用して自分がカエデに脅されているなどあることないことを吹き込んでカエデの父親にありもしない罪を被せて辞職へと追い込んだ
母親は自分の夫を信じることができず離婚、カエデを置いて出ていってしまった
それだけでもカエデにとっては辛い出来事だったと思う
しかし主犯格の女はそれだけでは飽き足らず、カエデを呼び出しては高校で知り合った不良グループを使って口にするのも憚られるような事をしていたらしい
その影響でカエデは心を閉ざしてしまった
これらの事実を知ったのはカエデが父親と共に何処かへと引っ越してしまった後だった


『なんで私ばかりこんな目に遭わなきゃならないの?私が何をしたっていうの?ただ普通に生きたいだけなのに……』


母親は自分の生活の為に無理をして。親友だったカエデは自分を庇ったばかりに家族と心を壊された
自分がもっと早く気づいていれば、自分がもっと人の様子を気にすることが出来ていれば、自分にもっと立ち向かう勇気かあれば、自分が生まれてこなければ……自分が自分が自分が自分が自分が自分が
考えれば考える程虐めの主犯格であった女性よりも自分の存在が嫌で嫌でたまらなくなっていった


『こんな人生なんか過ごしてても希望なんてなにもない……もし次の人生があるんだったら今度は沢山の友達と笑い合えるような世界がいいな……』


この世界で生きている意味を見出すことができなくなってしまったシオリはその言葉を最後に柱に縄を巻いて自らの命を絶ってしまった
そこでシオリの記憶が見れなくなり、真っ暗な空間の中にヴァイオレットとシオリの二人だけとなった
シオリの記憶全てを覗き終えるとヴァイオレットの頭に存在しなかった記憶が次々と流れ込んできた
この記憶はもう一つの人格などではなく自分の前世の記憶だったんだ
何故こんなことを今まで忘れていたのか。その理由は前世の自分が亡くなった時、神を名乗る人物が現れてもう一度人生をやり直す機会をくれ、その時に前世の記憶を消してもらったからだ
ミーシャに言われたあの言葉が消したはずの記憶を蘇らせる原因となり、何度も夢だと思って見せられていたあれはきっと目を覚ます前兆だったと思い出した
ヴァイオレットは先程からずっと俯いている前世の自分、シオリに声をかけた


『シオリでいいんだよね?ようやく話すことができたね』
『……』
『今まで忘れててごめんね。けどこれからは一緒にいてあげられるから』
『……』


対話を試みるもまるで反応がない。もう一つの人格が前世の自分だったと気がついた今、シオリを自分の中から消して目的を達成するという選択肢はヴァイオレットの中にはなかった
どうすればシオリを説得することができるだろうと考えていると、今まで口を閉ざしていたシオリから沈黙を破ってきた


『……心配しなくても私は消えてあげるわ』
『えっ?』
『ずっとぼんやりしているような状態だったけど話だけは聞こえていたの。私は今の私の邪魔をするつもりはないし身体を乗っ取ろうなんて考えてもいない……私が消えることであなたの為になるのなら喜んで消えるわ』
『どうして?沢山友達を作りたいって言ってたじゃん』
『今更あなたが築いた関係を奪い取ったところでそれは偽りのもの。あなたの仲間はあなただからついていこうと思った。私じゃそんな事到底無理よ。だからもういいの。少しだけど話せて良かったわ』


シオリはそう告げるとヴァイオレットの前から消えようとした
このままでは本当にもう二度と会うことができなくなると思ったヴァイオレットは、消えようとするシオリの腕を目一杯引っ張った


『ちょっと!何考えてるの!?あなたまでこっちに来たら二人共消えちゃうでしょ!』
『そんな事今はどうでもいい!せっかくこうして話せるようになったのにすぐバイバイなんて寂しいじゃん!』
『何子供みたいなこと言ってるのよ!空気読みなさいよ!』
『まだ子供だからそんなの知らないもん!』
『あーもーなんなのよ!』


先程までの雰囲気などまるで無かったかのように二人は押し問答し合った
やがて埒が明かないと分かると二人してその場に倒れた


『はぁはぁ……精神世界のはずなのになんで疲れるの……そもそも自分同士で争ったって決着つくわけないのに何やってたんだろ私……』
『でも楽しかったね』
『……馬鹿じゃないの。こんな事してあなたに何の得があるのよ』
『得とか損とかじゃないよ。私はただあなたと友達になってもっと話したいって思っただけ。前世の自分とか関係ない、私は私でシオリはシオリ。一緒なようで一緒じゃないんだから』
『なにそれ、意味が分からない……』


シオリは背を向けて対話するのを止めてしまう
やはり説得するのは難しいかと諦めかけるヴァイオレットだったが、少ししてシオリから答えが返ってきた


『分かったわ……一先ずこの件は保留ってことにしましょう』
『えっ!本当!?』
『保留って言ってるでしょ。このまま続けても埒が明かないしさっきも言ったけどあなたの邪魔をするつもりはないの。だから当初の目的を達成させることを優先させるのよ』
『分かった、それでもいいよ。ありがとうシオリ!』

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