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4章

9.

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「どうしてほしいか、もっと教えてくれ」

 唇で肌をなぞりながら織之助が言った。
 今日はどうしても言わせたいらしい。

「ええと……」

 思い返してみれば、自分からなにかをおねがいすることなんてほぼ無い経験だった。
 部屋を掃除してほしい、とか、ちゃんとご飯を食べてほしい、とか、そういった織之助のためのおねがいはしても――自分のために、なんて。
 さっきは勢いで言ってしまったが、改めて訊かれると困る。
 逡巡した鈴を急かすように織之助が鎖骨に吸いついた。

「ひゃっ」

 その刺激で声が上擦る。
 赤くなったそこを舌で撫でながら、織之助は鈴の言葉を待った。
 
「あの、んぁ、う、……ァんっ」

 指でたくさんいじられて硬さをもった先端が織之助の口の中に消える。
 じゅる、と水音が部屋に響き、恥ずかしさも相まって体がどんどん熱くなった。

「……鈴」

 分厚い舌で敏感な尖りを舐りながら上目遣いで鈴を見た。
 その情欲の滲んだ瞳に下腹部が切なく疼いてしまう。
 恥ずかしい。淫らに求めてしまう自分の体が、恥ずかしい。
 
「ア、ん……はあ、んんっ」

 胸ばかり嬲られて、堪えられなかった嬌声がこぼれる。
 思わず腰が揺れてしまい、それに合わせてくちゅりと粘度の高い音が鳴った。
 どこから鳴っているかなんて言わなくてもわかる。
 羞恥心ともどかしさで太ももを擦り合わせた鈴が、ぎゅうっと織之助のシャツを掴んだ。

「ぬ、いで……ください」

 銀糸を引いて胸から顔を離した織之助が嬉しそうに目を細めた。
 
「わかった」

 鈴だけが全部脱いでいて、織之助はまだしっかり着込んだままだった。
 惜しむことなく鈴におねがいされたとおり一糸まとわぬ姿になった織之助に、鈴が目元を赤くしてそっと視線を逸らす。
 もう何度も体を重ねているとは言え、まだ直視できるほど慣れてもいない。
 特に――その、(たぶん平均より)大きな、欲望の塊は。

「……あとは、どうしてほしい」

 織之助も余裕はないんだろう。
 覆いかぶさりながら掠れた声で訊かれて、鈴はおそるおそる織之助の顔を見た。
 欲に濡れた瞳が鈴を映して捕らえて離さない。

「いっぱい……」

 もうここまで来たら、全部言ってしまおう。
 手を伸ばしてその胸板にそっと触れる。心臓の音は普段よりも大きくてはやいように思えた。
 
「いっぱい、触って……織之助さんと、くっつきたい……」
「うん」

 頷いた織之助が顔を近づけて、そのまま唇がくっつく。
 感触をたしかめるようにやわらかく触れ合わせ、それからゆっくり舌が入ってきた。
 舌を絡めて、擦って、吸って、甘い刺激が背中から腰に走る。

「んん、う、んぅ」

 気持ちよくて、でももっと欲しくて自ら舌を伸ばす。
 拙い動きで織之助の舌を追いかければ、織之助が小さく喉奥で唸った。

「くそ、かわいいな……」

 ほとんど独り言のように吐いた織之助がするりと下腹部に手を伸ばした。
 もうずっと疼きっぱなしだった熱い泥濘に指が触れる。

「――――ッ!」

 ぐち、と少し強い力で花芽を押されて、声を上げる間も無く目の前がばちんっと弾けた。
 体が熱くてしょうがない。甘い痺れが全身を震わせて、息がうまくできない。
 シーツの上でへたった鈴の腰を織之助が楽しそうに撫でた。
 
「……イった?」
「いじわる……!」
「ハハ」

 鈴の睨みを軽く笑い飛ばして、織之助は上半身を起こした。
 急に離れた体温にきゅっと唇を結ぶと、織之助が困ったように眉を下げる。

「そんなかわいい顔するな。……おまえのためなんだから」

 そう言って織之助が手を伸ばした先を確認して顔が熱くなった。
 見ていられなくて視線を逸らせば、パッケージを開ける音がやけに大きく耳に聞こえる。
 準備が終わったのか、再びお互いの体温がわかる距離に織之助が戻ってきた。
 
「……いつか、そのまま鈴を感じたい」

 額に、目元に、耳朶に唇が触れる。
 低い声でつぶやくように告げられた言葉の熱にきゅうっと心臓が跳ねた。
 
(それはつまり――……)

 想像して脳が変な悲鳴を上げる。
 違う。嫌とかじゃなくて。むしろ――

「は、はい! もちろんです……!」

 何か返さなきゃと思い慌てて返事をすると、織之助がぐっと眉を寄せた。

「……馬鹿」
「な、なんで……、ぁん!」

 急な悪口に疑問符が浮かんだ――のを問答無用でかき消すように大きくて硬い熱がナカに押し入ってきた。
 その質量に息が詰まる。
 
「あんまり煽るな。……たまらなくなる」
 
 限界まで腰を押し込んだ織之助が耳元で低く呻いた。
 
「あ、煽ってないです!」
「無自覚なら余計タチが悪い」
「そ、っあ、や、だめ……っ!」

 弁明しようとするも、いっそう難しい顔をした織之助が腰を動かし始めたことで消えてしまう。
 奥へ奥へと穿つ激しさに、思わず目の前の逞しい腰に足を絡めた。
 そうしないとどこに縋りついていいかわからなかっただけで、他意はない。
 なかったけれど、しがみついたことでより深くに織之助を感じてしまい、高い声が出る。

「やぁ、まっ、んん……っ、あ」
「自分からやっておいて……待ったもやだもないだろ」

 ぐちゅ、とか、ぱちゅ、とか酷い水音を鳴らして力強く奥を突き上げられた。
 その刺激の大きさに涙が浮かぶ。
 気持ち良くておかしくなりそうだった。

「おり、のすけさ……!」

 名前を呼べば応えるようにキスが降ってくる。
 必死に舌を伸ばして絡めると、おなかの奥をさらに押し上げるように抽送されて声にならない悲鳴が口の端から落ちた。
 上も下もぐちゃぐちゃに絡みついて、なにがなんだかわからない。

「鈴、どうしてほしい」
「んぇ、あっ……なんっ……」

 唇を重ねる合間に織之助が掠れた甘い声で訊いた。

「してほしいこと、言って」

 そんなの、と考える余裕もない鈴が喘ぎながらなんとか口を動かす。

「織之助さん、と、気持ちよくなりた――あ、ん!」

 最後まで言い終わる前に強く揺さぶられて声が上擦った。

「はあ……かわいいのも大概にしてくれ」

 堪えるような呟きが耳をくすぐる。
 けれど、鈴はもうそれどころじゃない。
 おなかの奥底を抉るような腰の動きに隘路がわななく。
 織之助が眉を寄せて荒く息を吐いた。

「鈴」

 甘く名前を呼ばれつつ、何度も唇が重なる。
 その間にも容赦なく責め立てられて、思わずぎゅううっとおなかの底に力を入れた。
 そうして締め付けた分だけしっかり気持ちいいところに熱い屹立が擦れ、鈴は高く啼いて大きく体をしならせた。

「ぐ……ッ」

 搾り取るようにうねるナカに織之助が低く唸りながら思い切り腰を打ちつけ、一番奥で欲を吐き出した。
 絡んだ視線が熱を生んで、どちらからともなく唇を寄せ合う。
 はっきりとしない思考のなかで、鈴はその唇の熱さにそっと目を閉じた。


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