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6. いかにも王様とはこのこと

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「ジャン、どう?似合ってる?」

 白のブラウスをインナーに、鮮やかな赤の布地に黒の縁取りと裾の刺繍がとても可愛いデザインのジャンパースカートを着てその場でクルクルと回って見せた。

「うん。ユリナ、すっご……グッ!!……うぅっ……か、……可愛いねー。」

 何故かものすごく苦しそうな顔をしているジャンは横腹を押さえている。

「なんか苦しそうだけど、大丈夫?」
「だ、大丈夫!ちょっと、腹が……。」

 横腹を押さえたままでチラチラと少し離れた位置に座っているアレクを見ているジャンはまだ苦悶の表情を浮かべている。
 大丈夫かな?

「アレク、どう?」
「良く似合っている。」
「これってジャンが選んでくれたの?それともアレク?」
「俺だ。」

 今日はちょっと仏頂面のアレクだけど、声は優しい。

「ありがとう。すごく嬉しい。他にも家事をする時用にエプロン付きのワンピースもあるんだね。どれも可愛い!」
「それは何よりだ。これから外に出る機会も増えるからな。服や宝飾品はいくつあっても困らないだろう。」

 アレクが柔らかに微笑んだから、不覚にもまたドキドキしてしまった。

 この世界に来てから、今まで見たことのない美形のアレクが傍にいるからか、胸が高鳴ることが増えた気がする。

 私が家の中のことに慣れてきたので、そろそろアレクの仕事のお手伝いの為に一緒に外出する機会も増えると言う。

「これからは本格的に秘書としてアレクのお手伝いしないとね!」

――そして早速午後から、このお邸のあるマルシャル王国の国王陛下からの呼び出しに、アレクとジャンと三人で王城へと向かうことになった。

「ようこそいらっしゃった。偉大なる魔法使いアレクサンドル殿。突然お呼びだてして申し訳ない。」

 肩や首から金の飾りを提げて豪奢な服を着た、いかにも人の良い王様って感じのふくよかな見た目の陛下がアレクに尊敬を持って挨拶をしているのに、アレクの方はというと実に飄々としていた。

「陛下、今日は何用ですか?」
「実は、また大雨でシュカ領の周辺が流されたんじゃ。アレクサンドル殿のお力でなんとかならんもんかと思ってな。」

 白くなった眉を下げて本当に困っているアピールをしている白髪の陛下に、アレクはなかなか返事をしない。

「シュカ領のあたりは大雨が降ると川が氾濫してしまう。だがあの辺りは元々、この国でも有数の穀物の産地で土地が豊かなところじゃから何とかしたいんじゃがのう。」
「陛下、魔法使いも万能ではありません。雨を調整することも、川の氾濫を止めることも俺一人がずっと行うことは無理です。魔法以外で何か策を考えないといけません。」

 確かに。アレク一人しか魔法使いがいない世界で、解決策を魔法だけに頼るのは難しいかも知れない。

 洪水を防ぐ方法…………。
 あ、もしかして……。

「ジャン、この国にはダムってある?」
「だむ?何?それ。」

 アレクと陛下が少し離れた場所で話しているから、小声でこそこそジャンと話していると、アレクがこちらを振り向いた。

「お前たち、何をコソコソ話しているんだ?」

 すっごく怪訝そうな顔をしたアレクに、恐る恐る話した。

「この国に、ダムはありますか?」
「だむ?それはどういうものだ?」
「川上にダムという堰き止めを作って大雨が降ればそこに貯めるようにするんです。それで、洪水が起きないように少しずつ調整しながら水を流していくんです。」

 …………沈黙が怖い。やっぱ高校生の知識くらいではダメかなあ。

「堰き止め……。確かにそれがあれば川の水が氾濫することも防げるかも知れん。ユリナ、邸に帰ってまた詳しく教えてくれ。」

 それまでずっと考える素振りをしていたアレクが、目を見張ってから私の意見を聞いてくれたのでとても嬉しかった。

 少しは秘書として役に立てたかな?

「アレクサンドル殿、先程から気にはなっていたが、そちらの黒髪の娘はどなたかな?」

 陛下が私の方を見てアレクに尋ねているのに、何故かアレクがなかなか返事をしないので、私が自ら挨拶をすることにした。

「高梨由莉奈です。アレクの秘書をしています。よろしくお願いします。」
「タカナシユリナ?ヒショ?」

 不思議そうに私の名前を繰り返す陛下に、やっとアレクが返事を返した。

「ユリナは俺と同じで異世界から来た者です。まだこちらに来たばかりで何も知らないので、俺のところで色々と手伝ってもらうことにしたんです。」

 え?アレクも異世界から来たの?初耳なんだけど。

「そうかそうか。異世界からの客人を二人も迎えられるとは、我がマルシャル王国の誉れじゃ。タカナシユリナ殿、どうかよろしく頼む。」
「は、はい!お役に立てるよう頑張ります。」













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