62 / 66
62. マカロニと毛糸の人の回
しおりを挟む「それ、俺だから。マカロニと毛糸で作ったヘンテコな写真立ての中の人」
流れ出る鼻水と涙をその綺麗な顔の上でぐっちゃぐちゃにした相川は、面白いほどにフリーズしている。
「俺、昔事情があってヒラヒラの服着てたんだよ。女の子みたいにな」
「まさか……。あれが宗岡?」
「うん。俺」
相川の気持ちも分からないではない。ずっと女の子だと思っていた賢太郎の相手が、男だったなんて。もしかしたら、相手は女の子だからと無理に納得して賢太郎への気持ちを抑えてきたのかも知れない。
「そっか。はは……ッ」
辛そうに、でも相川は泣きながらも笑った。両手で顔を覆って肩を震わせている。
「だから相川、俺の事を認めてくれないか」
そんな相川に俺は、さらに辛いであろう言葉を重ねる。ひどい事をしている自覚はあった。だけどこれだけは譲れなかった。
「何で俺が」
両手で顔を覆ったまま、相川は掠れた声で答える。
「相川は賢太郎の大切な友達だから。俺は相川と仲良くしたい。賢太郎は、相川の事を本当に大切な友達なんだと俺に話したから」
「宗岡。お前、ひどい奴だな」
「うん、ごめん。でも、賢太郎の為なら。ひどくても、何度だって相川に頼むよ。俺と相川が仲良くなれないと、賢太郎はきっと辛いだろうから」
集中すると、段々と身体の痛みは遠のいて行く。じっと顔を覆った相川の指と指の間をじぃっと見つめた。そこから発せられる返事をただひたすら待った。
「……分かったよ」
俺が聞き取れるギリギリの声で返事をしたのだろうか。そこに相川の悔しい気持ち、無念な気持ちが表れている気がした。俺よりも長い期間ずっと賢太郎の事を好きだったんだから、本当にひどい事をしたと思う。
「あんなヘンテコな写真立てと女装男を何より大事にするダサイ男なんか、もう好きじゃない。友達としてならこれからも付き合ってやるのはいいけど」
そう言って、相川はズズズっと鼻を啜った。涙と鼻水を拭くものが有ればよかったが、相川の背負ったリュックにはタオルしか入ってなかったらしく、仕方なくそれで鼻をかんでいた。
「ありがとう、相川」
「それにしても、お前何で小さい頃から女装なんかしてるんだよ? 文化祭もそうだったけど、趣味か?」
「違うよ、俺は別に……」
時々どこか遠いところで俺のスマホの着信音が鳴るのを聞きながら、俺は相川に子どもの頃からの事情を全て話した。家庭環境も、賢太郎との事も。
相川はこう見えて涙脆いのか、話の途中で何度か再び涙と鼻水を流しては、タオルで拭き取っていた。背中をさすってやりたかったけど、動けないから「泣くなよ」と言うのが精一杯だ。
「……カル……! ヒカル!」
そのうち陽が落ちて寒さが身に染みてきた頃、賢太郎が俺を呼ぶ声が聞こえた。アプリで探しに来てくれたんだろう。痛む身体を叱咤しながら、精一杯声を張り上げた。
「賢太郎!」
俺をここに連れて来た相川は、今になって気まずいと思っているのか声を出そうとしない。
「相川、お前も声を出せよ。お前が俺をここに連れて来たんだろ。責任取ってちゃんと賢太郎を呼んでくれよ」
「……分かったよ」
そこから二人で何度も「賢太郎!」と叫んだ。声が掠れて思わず咳込んだって、何度も呼び続ける。咳込むと身体中がバキバキ痛む、声を張り上げるだけでも打撲しまくった身体は軋んだけど、それでも「賢太郎」という名前だけは何度でも呼べる気がしたから。
「お前ら何やってんだよ! ヒカル! まさかまた怪我したのか⁉︎ 待ってろ!」
大の字で寝転がった俺の視界に、斜面からこちらを覗き込む賢太郎の姿が入った。ホッとして返事も出来ずに思わず涙が零れたけど、それを拭うよりも先に近くに座り込む相川の方を見た。相川は眩しそうに目を眇めて上方の賢太郎を見つめている。
「ちょっと恋人と連絡が取れないからってGPSを使って探しに来るなんて、そんな束縛の激しい奴なんかこっちから願い下げだ」
「相川……」
相川の言いぶりは自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
「俺、もうすぐ海外に行くんだ。だからこれから賢太郎とどうこうなるなんて考えてない」
「海外? それ本当か?」
「本当だ。ITエンジニアの親父がカナダに転勤になって。だから最後に宗岡に嫌がらせしてやろうって、そう思って連れ出したのに」
そう言うと相川は赤く腫らした瞼をタオルでゴシゴシ擦ってから鼻の下も拭った。つられて俺も服の袖で顔を擦る。
「あんなに心配そうな賢太郎の顔を見たら、完全に俺が悪者だよな。あとで謝らないと」
「相川は悪くないし、誰も悪くないだろ。お陰でカナダに行っちゃう前にこうして腹割って話せたんだからむしろ良かったよ」
「そっか……」
聞けば賢太郎にもまだカナダに行く事は伝えてないと言う。絶対にすぐ伝えるように言ったけど、相川は悩んでいるようだった。
「ヒカル! 悠也! お前ら何でこんなとこに居るんだよ⁉︎ 大丈夫か⁉︎」
あの斜面をどうやって降りて来たのか、それとも迂回して来たのかは分からないけど、いつの間にか賢太郎がすぐそばまで走り寄って来ていた。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ
雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。
浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。
攻め:浅宮(16)
高校二年生。ビジュアル最強男。
どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。
受け:三倉(16)
高校二年生。平凡。
自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる