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27. 母さんが話したがらないの回

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 ひどい頭痛と吐き気を自制しながら、勇気を出して尋ねてみる。まさか答えを聞いたからって死ぬ訳ではないだろうが、段々と酷くなる症状は本当に辛い。

「……話したく無い。それよりも、あんまり頭が痛いなら病院へ行かないと。脳外科でちゃんと診てもらわないと心配だわ」
「母さん!」
「光、とにかく今はその事について話したく無いの。それよりも、頭が痛いのなら今からでも病院へ行こう」

 母さんは俺の話をあまり聞きたく無いという風に拒絶の姿勢を見せる。だけど頭痛に関してはものすごく心配しているようだ。

「病院に行くほどじゃないよ。それよりも、明日の登山許してくれよ」
「何言ってるの? そんなに体調が悪いのに、登山なんてしてまた怪我でもしたら……」
「母さん! 怪我には絶対気をつけるから。体調が悪いのはきっと記憶が中途半端に戻ろうとしてるからだだよ。話してくれないなら、それを理由に反対するのは辞めてくれ」

 こういう言い方は卑怯だとは思ったけれど、どうしても明日の登山を楽しみにしていた。黙って行けばバレなかったのに、それでもやっぱり伝えなきゃと思ったのは母さんが登山を頑なに反対する理由を知りたかったから。

「分かったわ。けど光、怪我だけは気をつけてね」
「うん、ありがとう。頭痛ももう治ったから大丈夫」

 俺の頭痛の原因になる記憶について話すよりも、あれだけ反対していた登山を許可するなんて余程のことなのか。

(そもそも、母さんは俺が異世界から転生してきた元シャルロッテだと知ってるって事か? ますますよく分からなくなってきた)

 それ以上の事を聞ける雰囲気ではなくなり、母さんは無理して明るく振る舞って「美味しい、美味しい」って俺の作ったカレーを食べている。明日の登山を許してくれたのなら、あまり今日はこれ以上は深く掘り下げないでおこうと思った。

 カレーを食べ終えて、洗い物まで済ませたら部屋に戻って早速賢太郎にDMを送る。

「母さんにも許可貰ったから、明日行ける」

 母さんが登山をあまりよく思っていない事は賢太郎に伝えてあった。賢太郎は「ちゃんとヒカルのお母さんに許可を貰ってからな」って言ってたから、これで安心しただろう。

「許可貰えて良かったな。明日、楽しみにしてる」

 賢太郎からの返信を見て、明日の登山に向けて早速準備をする。姉ちゃんの買ってくれたフェルネのリュックやマウンテンパーカー、トレイルランニング用のシューズなど、山岳部で活躍するはずだった物がやっと日の目を見る事になる。

「明日、賢太郎もフェルネのマウンテンパーカー着てくるのかな?」

 俺がカーキで、賢太郎は黒を買ったあのパーカー。お揃いの物を身に付けるなんて、まさに恋人らしいじゃないかと一人でニヤついてしまう。それに明日登山が上手く行って下山したら、賢太郎に俺の記憶の事を少しでも聞いてみようと思った。

 俺と賢太郎に関する事なのにいつまでも逃げてる訳にはいかないし、何より俺自身が警告のような頭痛や失った記憶の事を知りたいと思ってる。母さんが何故そこまで話したがらないのかも気になるし。

 とにかく明日の登山は俺にとって節目だ。成功させる為に今日はさっさと風呂に入って早めに休む事にする。
 すぐに眠りにつき夢を見ていた。これは俺の記憶なのかそれともただの夢なのかは分からないけど、とてもリアルな映像で。

――「母さん! 何であんな事したの? ひどいよ! 母さんなんて大嫌いだ!」

 頭が痛くて胸も痛い。真っ白な空間で、小さな身体は包帯でぐるぐる巻きにされてた。今より細くて小さな腕にはチューブが繋がれて、檻みたいな柵のベッドの中から母さんに向かって叫んだ。母さんは高い柵の向こうから俺の方を見ている。確かにその目からは涙が零れ落ちていて、俺は大人が泣くところを初めて見た。

――「ごめんね、光」

 そう言って肩を震わせる母さんを見て、初めて大人を泣かせてしまったという罪悪感と衝撃を覚えた。

「は……ッ!」

 激しい胸の動悸と頭を鈍器で殴られたようなガツンとした衝撃で目が覚める。まだ部屋は真っ暗で、枕元のスマホに表示された時間は夜中の二時だった。

「……あれは胸を怪我した時の記憶か? 俺は何で母さんに詰め寄ったんだっけ?」

 未だ治らない動悸と頭痛で全身に脂汗をかいていた。あの夢を頼りにもう少しで詳細を思い出せそうなのに、時間が経つほどにまた夢の記憶は曖昧になっていく。やっぱり母さんから直接聞くのが一番早いんだろう。

「とりあえず今日の登山を無事終えることが出来たら、その時には母さんともしっかり話してみよう」

 節目になる予定の登山に向けてもう一度目を閉じ、そこから朝まで夢を見る事もなく眠った。

 

 

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