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11. はじめてのサボりは不安がいっぱいの回
しおりを挟む熟睡が出来ずに朝を迎えた俺は、どうせならと早めに学校に行く事にして支度を整える。
あれから結局賢太郎からの通知音が鳴ることがないスマホを眺めては、今までの出来事を思い起こしてみた。
どう考えても賢太郎の言動は俺に対して好意があるように見えたのに、拒否される事なんか考えてもいなかった。
恋愛偏差値の低い俺があんな風に気持ちを伝えられたのは、賢太郎は俺のことを好きなんだという今思えば妙な自信からだった。
あんまり返信が無いもんだから、賢太郎の反応を見る為に続けて何か送ってみようかとも考えてみたりする。
だけどそれをしたところで何にもならないと思って、虚しくてやめた。
いつもより早く到着した教室には既に何人か生徒がいて、それぞれ思い思いに過ごしている。
おはようの挨拶もそこそこに、俺は急に襲ってきた睡魔に抗う事を諦めて、机に突っ伏しホームルームまで眠る事にした。
(先生が入って来たら気付くだろう。少しだけ……)
「ヒーカールー!」
どのくらい経ったのか、一瞬で深い眠りについた俺はダイが名を呼ぶ声で目を覚ます。
机から顔を上げると、ダイが目の前で口の周りを両手で囲いメガホンのようにしてじっと俺の方を見ていた。
頬に冷たい感触があって、垂れた涎をさりげなく手のひらで拭う。
「あ、起きた? とっくにホームルーム終わってんぞ」
ダイの言葉に驚いて、すぐに教室の前方にある時計に目をやる。確かに一時間目がもうすぐ始まる時刻だった。
どうやら、思いっきりホームルームの時間に爆睡してしまっていたらしい。
「次、移動じゃ無くて良かったな。どうしたー? 寝不足か?」
目と口を細め横に伸ばすようにして笑うダイは、まるで元気な子犬のようでついつい気を許して何でも話したくなってしまう。
この陽気で人懐っこい雰囲気がダイの人気の秘密なんだろう。
「うん、実は賢太郎のことで……」
「賢太郎? 何だよ、記憶が戻ってメデタシメデタシかと思ったのに。何かあったのか?」
「うん……、まあ」
そこまで言ってから俺が周囲を気にしてキョロキョロしていると、ダイは少し離れたところにいるグループに向かって声を張り上げた。
「なあ! ヒカルが体調悪いみたいだから保健室連れて行って来る! 先生に言っといて!」
ダイと仲の良いグループの面々は「おう」と返事をして、それから何人かは心配そうな顔でこちらを見ていた。
何だかクラスの奴らを騙すのは悪いと思ったけど、俺は少し体調が悪いフリをした。
ガッチリと腕を絡ませたダイに、脇から支られた姿勢で教室を出る。
「ははっ。ヒカル、お前初サボりになったなー」
「そんなに笑い事じゃないけど、助かったよ。あのままじゃモヤモヤしてどうせ授業どころじゃなかったし」
人気のない外階段の陰でダイと二人並んで座った俺は、初めて授業をサボった事でちょっとした冒険をしているような高揚感に浸った。
だが、今はそれよりも大切なことがある。俺はダイの目を見つめてから、ゆっくりと口を開いた。
「記憶が戻ったのは賢太郎から聞いて知ってるんだろ?」
「おお。賢太郎はずっと悩んでたからな、やっと解決して良かったなーって昨日通話してたんだ。それなのに、何でヒカルがモヤモヤするんだ?」
ダイは心底不思議だという顔で首を傾げ、俺の方を見ている。
俺と賢太郎の事情を知っているダイなら、賢太郎から色々な話を聞いているダイなら、きっと良いアドバイスがもらえると思った。
「俺、昨日の夜賢太郎に『好きだ』ってDMを送ったんだよ。そしたらさ、今もずっと既読スルーされてる……」
「へ……?」
ただそれきり、俺とダイの間にこんなに長い時間沈黙が存在したことが今まであっただろうか。
その後しばらく、チクチクと痛みを伴う程の気まずい空気が流れた。
「悪い、ちゃんと聞こえなくてさー。もう一回言ってくれない?」
やっと口を開いたと思ったら、ダイには聞こえていなかったみたいだ。
俺は今度はゆっくりと聞こえやすいように、再び同じ事を告げる。
「だから、昨日の夜賢太郎に『好きだ』ってDMを送った。でも、ずっと既読スルーされてるって言ったんだよ」
今度はちゃんと耳に届いたみたいで、少し尖り気味の顎に手をやったダイはうーんと低く唸った。
そうしてしばらくすると、真剣な眼差しをこちらに向ける。
「ヒカルの好きって、恋愛でいう好き? 友情とか親愛じゃなくて」
「そりゃ、勿論そうだよ」
「……ヒカルはさー、賢太郎のどこが好きなの?」
どこ⁉︎ どこが好きって……⁉︎
「ちょっとした仕草とか、笑った顔とか見てるだけで胸がドキドキするんだよ」
「それで?」
「それで? それで……、一日何回も賢太郎の事考えたりするけど。やっぱりあの目が好きだ。俺と正反対の切長の目が」
自分の口にしている言葉が恥ずかしくて、顔だけカッカカッカと火照る。
俺はこんなに気恥ずかしい思いをしているのに、目の前のダイは何故かクソ真面目な顔をして考え込んでいる。
それが逆に俺の羞恥心を煽って、そして何故か漠然と不安になってきた。
俺は、おかしなことを言ったのか?
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