上 下
3 / 66

3. 親友の成田大輝の回

しおりを挟む

 部活見学の期間も終わり本格的に入部出来るようになると、俺はすぐに山岳部の顧問へ入部届を出しに行った。

 昼休みに職員室で話をした顧問は、新卒の頼りなさそうな雰囲気の女教師と、優しそうな中年のおばちゃん教師、それとゴリラみたいな筋肉のおっちゃん教師の三人だった。

「なかなか部員が増えなくて寂しかったから嬉しいわ! キツイと思うけど、頑張ろうね!」
「はじめは基礎練習ばかりで大変だけどね、頑張りましょう」
「新入部員が毎年ごっそり辞めるくらいにはハードだからな。頑張れよ」

 初っ端から三人の教師によって口々に脅されたら、運動があまり得意ではない俺は何だか少し怖くなる。
 
(いや、それでもきっと楽しいはずだ)

 山道をみんなでワイワイ登って景色の移り変わりと絶景を楽しめる部活。仲間と励まし合って山頂に辿り着いた時の達成感は、きっと得難いものに違いない。

 そう自分を奮い立たせつつ浮かんだ不安を打ち消す。笑顔で元気よく教師達に向かって返事をしたら、引き戸をガラガラっと閉めて職員室を後にした。

「なぁヒカル、マジで山岳部入ったの?」

 俺が教室に帰るなり席に近付いて来るのは、茶髪のツーブロックショートにフープピアス、ブレザータイプの制服を着崩した一見近づき難そうに見える幼馴染。

「うん、ダイは?」
「俺が部活なんか入ると思うか?」
「思わない」
「だろ?」

 保育園からはじまり、小中学校も一緒だった幼馴染の成田なりた 大輝だいきは、高校も同じでクラスも同じ。

 保育園と小学校まではお互いの存在を知ってる程度の浅い付き合いだったが、中学の時に同じクラスになってからというもの、見た目はチャラいが話上手で根が優しいダイは俺の親友だ。

「そういやヒカル、佐々木ささき 賢太郎けんたろうって奴知ってる?」
「……佐々木、……賢太郎?」
「いや、知らないならいいよ。そいつもさ、山岳部に入るらしくて」
「へぇ……。さすが顔が広いな、ダイは」

 俺が心底感心してそう言うと、ダイは一瞬眉間に皺を寄せ、薄い唇をへの字にして何かを堪えるような表情になる。気に触ることを言ったつもりはなかったけれど、ダイがそんな顔をする事は珍しいから少し気になった。

「まあな」

 だけどそう答えた後にはいつもの飄々とした表情に戻っていたから、さっきのは俺の見間違いだったのかも知れない。

 ダイは一緒に漫画を読んだり、ゲームをしたりする仲間でもある。
 女子と遊ばない日はしょっちゅう自宅のアパートにも遊びに来るから、うちの母さんや姉ちゃんとも仲が良い。
 生粋のだから、顔も広いしすぐに誰とでも仲良くなる。

「それにしてもヒカル、お前すっげぇ鈍臭いのに、山岳部なんかに入って本当に大丈夫か? スポーツは全滅だろ? 良くあのお母さんが許したな。特に、山登りなんて……」

 心配そうに俺の顔を覗き込むダイは、やっぱり優しい奴だ。俺は先日の嬉しい買い物を思い出して思わず笑みが漏れた。

「姉ちゃんが、母さんを説得してくれたみたいだ。この前は、入学祝いにってマウンテンパーカーも買ってくれたし」
「そっか……。それなら良かったな」

 ダイは不安そうな顔色を少し明るくした。考えている事が分かりやすい表情は、裏表が無くて安心できる。

「他のスポーツと違ってボールも使わなければ全力で走ったりもしないから大丈夫だよ。それに、山登って景色のいいところで活動するとか最高だろ」
「ふぅん……、そんな時間あったら俺は女と遊んでる方が楽しいけど。まぁ気をつけて頑張れよ!」
「おう」

 右手を上げてニカッと明るい笑顔を俺に向けたダイは、またクラスの男女が八人ほど集まる騒がしい輪の中へと戻っていった。

 入学してすぐから髪型や制服の着こなしがちょっと目立つダイは、特に女子に人気だった。
 女子ってやつは真面目で面白みのない奴よりも、話し上手でちょっとヤンチャな奴の方が、どうしてもかっこよく見えるらしい。
 そこに些細なところに気付いて優しいところのあるダイの性格も相まって、前からダイの周りには常に男女の友達が絶えない。

 俺はダイみたいにたくさんの女子に囲まれたりはしないけど、それなりに気の合う友達も増えて、始まったばかりの高校生活を十分に楽しんでいた。

 今日は新入生がそれぞれ希望する部活に本格的に参加出来る日。
 
(山岳部には、俺以外に新入部員が何人か入ったかな?)

「佐々木 賢太郎……か。どんな奴なんだろう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

今日くらい泣けばいい。

亜衣藍
BL
ファッション部からBL編集部に転属された尾上は、因縁の男の担当編集になってしまう!お仕事がテーマのBLです☆('ω')☆

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

「誕生日前日に世界が始まる」

悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です) 凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^ ほっこり読んでいただけたら♡ 幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡ →書きたくなって番外編に少し続けました。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

多分前世から続いているふたりの追いかけっこ

雨宮里玖
BL
執着ヤバめの美形攻め×絆されノンケ受け 《あらすじ》 高校に入って初日から桐野がやたらと蒼井に迫ってくる。うわ、こいつヤバい奴だ。関わってはいけないと蒼井は逃げる——。 桐野柊(17)高校三年生。風紀委員。芸能人。 蒼井(15)高校一年生。あだ名『アオ』。

処理中です...