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13. エミールの本性?
しおりを挟む今日の他家で開かれたパーティーでも、マルクはリュシエンヌを連れて参加した。
そしてミカエルを見つけるなり、親しげに声をかけた。
「ミカエル団長。ここにいらっしゃったのですね。あちらのバルコニーへ参りませんか?」
そう言っていつもリュシエンヌとミカエルを二人っきりにするのだ。
ミカエルはもうそろそろこのろくでなしに本題を言っても良いかと考えていた。
時間は十分にかけた。
何度もリュシエンヌと会話をして楽しんだ。
リュシエンヌのことを気に入っているとマルクに話したし、騎士団では特に便宜を図ることはしていないが、勝手にマルクは自分の昇進が決まっているかのように振る舞うようになってきた。
そろそろ『リュシエンヌを欲しいからお前はさっさと婚約破棄をしてくれ』と話す頃合いかとミカエルは思ったのだ。
そうすれば、リュシエンヌはこのように惨めな思いをすることもなくなり、また新たな婚約者を迎えて幸せな花嫁となれるであろうと。
しかし、そう考えたところでミカエルは違和感を感じたのだ。
リュシエンヌが他の男と婚姻を結び花嫁となる、それをとても想像できない自分がいる。
「ミカエル様! ご機嫌よう!」
そう思案していたミカエルだったが、バルコニーにポーレットが現れその腕に擦り寄り、ドレスからはみ出しそうな胸を押し付けてきたことで我に返った。
「ポーレット! ミカエル団長から離れろ。団長、申し訳ありません。すぐに追い払いますので……」
慌てたマルクはポーレットの腕を掴み引き剥がそうとしたが、令嬢の割に何故か力のあるポーレットはミカエルから意地でも離れようとしなかった。
ミカエルはその紫目で鋭利な刃物のように恐ろしい視線をポーレットに向け、それを見たマルクは尚更のこと顔を青くしてポーレットを掴んだ。
「こら! ポーレット!」
「煩いわね! マルク様は私のミカエル様を奪った泥棒猫のお姉様を連れて、さっさと休憩室にでも行ってなさいよ!」
ポーレットが過激な言葉を投げかけた途端、突如現れた幼い少年の幽霊エミールがポーレットに向けて赤ワインのグラスを投げつけた。
――ガシャーン……ッ
「何なの? このワイン、一体どこから? ひどい!」
ポーレットのドレスはみるみるうちに赤ワインのシミだらけになり、泣きそうな表情の彼女をマルクが引きずってバルコニーから出て行った。
「ミカエル様、お怪我はないですか?」
「ああ、私は大丈夫だよ」
リュシエンヌはガラスの破片が飛んでいないかと心配したが、ミカエルは穏やかに笑って答えた。
「エミール、物を飛ばすなどして大丈夫か? 疲れるだろう?」
「だって、またあの女がリュシエンヌのことを虐めていると思って。ミカエルも困っていたでしょ?」
「まあ確かに困っていたが、少し溜飲が下がったな。ありがとう」
エミールに向けてミカエルはフッと笑った。
エミールはリュシエンヌの手を握り、リュシエンヌはエミールを心配そうに見つめた。
「エミール、物を飛ばすと疲れるの? 大丈夫?」
「まあね。僕らは幽霊だからこうやってリュシエンヌに軽く触れることはできても、物を持ち上げたり動かしたりすることは力を使うから少し疲れるんだ」
「無理したらダメよ。エミールが辛くなったら困るわ」
「分かったよ。リュシエンヌは優しいなぁ」
そう言ってエミールはリュシエンヌにそっと抱きついた。
エミールは周囲からは見えないから、リュシエンヌのドレスがフワッとそこだけへこんだように見えている。
幼い容貌のエミールをリュシエンヌはまるで可愛らしい弟のように思っていたのだった。
「ねえ、あの二人今どこに行ったと思う?」
そのうち笑いを堪えるような表情のマリアが現れてリュシエンヌとミカエル、エミールに向けて問うた。
「さあ?」
「休憩室に二人で入って、あの屑が汚れたドレスを脱がせているうちに燃え上がったみたいで、結局二人でよろしくやってるわよ」
「最低だね。大人って」
マリアの言葉にエミールが答える。
まだ幼い子どものはずなのに、このような不埒な事を聞かせて良いものかとリュシエンヌが慌てた。
「フフッ……エミールはこう見えてもう百年以上も幽霊だからね。リュシエンヌより大人よ」
「え……」
「マリア! そんなこと言ったらリュシエンヌが警戒して僕を抱っこしたり添い寝してスリスリしたりしてくれなくなるだろう!」
頬を膨らませてエミールはマリアに抗議した。
「エミール、そのようなことをしていたのか? いつの間に」
「だって伯爵家でリュシエンヌが時々寂しそうにしていたからさ。慰めてあげようと思って」
確かに時々伯爵家にエミールは現れて自室で過ごすリュシエンヌの膝の上に乗ったり、くっついて一緒に眠ったりすることもあった。
「リュシエンヌ! 僕はまだ子どもだよ。どう見ても子どもでしょ? だから心配しないでね。」
「エミール、今後はリュシエンヌ嬢に不埒な真似をするな」
「ミカエル。ひどいよ……。僕だって寂しいのに……」
エミールが泣き出したので、急いでリュシエンヌは抱きしめて頭を撫でてやった。
「リュシエンヌ、その子泣いてないわよ。嘘泣きよ嘘泣き。中身はいいおっさんみたいなものだからね。気をつけなさいよ」
「マリア! そういうこと言うのやめてよ! リュシエンヌ。そんなことないよ。僕泣いてたよ?」
エミールの中身が成熟した大人と同じだと分かったリュシエンヌは、これからは態度に気をつけようと心に誓った。
その時ミカエルは、リュシエンヌの部屋に忍び込んで不埒なことをしていたというエミールをまるで射殺すかのような視線で睨んでいたことをリュシエンヌは知らない。
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