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47. 女神アフロディーテとの罰当たりなお茶会

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 あの日から数日間、また騎士団長ユーゴは休暇を取った。

 しかし今度は妻が誘拐された事に合わせて、世間を賑わせていた盗賊タンジーを一掃した事により、当然の権利だということで、おかしな噂になることは無かった。

「ユーゴ、今日はアフロディーテ様の神殿に行きたいんだけど……大丈夫?」
「ああ、じゃあ行くか」
「ありがとう、ユーゴ!」

 この夫婦は休暇の間、朝から晩までずうっと一緒に過ごしていた。
 
 一度妻を失いかけたユーゴは以前にも増して過保護になり、外を歩く時にはひとときも妻を手放す事をしなかった。

 神殿に向かう二人の左手薬指には、指輪がキラリと光っている。
 サラの指輪はあの業火の中を、たまたま落ちていた場所が良かったのか、変色も変形もなく綺麗なままで戻ってきたのだ。

 アフロディーテの神殿に到着すると、その荘厳な空気は二人を特別な空間へと迎えた。

「アフロディーテ様!」

 神殿の奥に到着するやいなや、サラは美しい白髪を長く垂らしたアフロディーテの後ろ姿に声を掛けた。

「あら、思ったより早く来たのね。元気だった? 私の可愛い愛し子」
「はい。アフロディーテ様のおかげで、手の傷も無くなっていたので……。ありがとうございます」

 サラの薄紅色の長い髪を優しく撫でながら、アフロディーテは後方からゆっくりと歩んで来るユーゴに声を掛けた。

「あなたの事だからもっと長く愛し子を独占して、外に出さないのかと思っていたわ。意外と早く来たのね」
「サラが来たいと言えば連れてくる。サラがしたい事を、俺は反対しない」
「ふうん……。まあいいわ、さあこちらへいらっしゃい」

 アフロディーテは、神殿の奥のまた奥にある空間へと二人を誘った。
 祭壇のようなものが見えるこの場所に、二人が入るのは初めてであった。

「アフロディーテ様、ここは何ですか? 初めて来ました」
「そうでしょうね。ここは本来神しか入れない聖なる場所だから」
「えっ! そんなところに、私たちが入っても大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。ここしかテーブルみたいなものがないのよ。ほら、そこに腰掛けなさい」

 アフロディーテが指差したのは、どう見ても祭壇の前にある装飾である。

「あの、このような場所で一体何を?」
「あら、お茶をしようと思ったのよ。だけど、表にはテーブルも椅子もないじゃない? ここなら祭壇がテーブル代わりになるかと思って……」

 そう言ってアフロディーテが笑うと、大理石の祭壇にはいつの間にかお茶とお菓子の準備がされていた。

 神への祈りと供物を捧げる祭壇で、お茶会をするなど罰当たりかと思ったが、当の女神が良いと言うのだから良いのだろう。

「ほら、ユーゴも召し上がって」
「何だか罰当たりだな……」
「もう、相変わらず硬いこと言うのね。大丈夫よ、私がこの神殿の女神なんですから」

 そう言って何故か始まった祭壇でのお茶会。
 しかしサラがとても嬉しそうにアフロディーテと会話する姿を見て、ユーゴはホッと胸を撫で下ろしたのである。

 あの誘拐事件の後、サラはしばらく慣れない人間を怖がった。
 特に知らない男を極度に怖がったが、ユーゴはヒイロと何があったのか、無理に問い詰めることはしなかった。

 だがある夜、ユーゴと抱き締めあって眠る際にサラは全てを話したのだった。

 ヒイロにされた事と、あの家で何があったのか。

 ユーゴは正直なところ、ヒイロはやはり自分の手で罰するべきだったかと思うほどには嫉妬した。
 しかし、それでも全てを話してくれた誠実で心優しい妻に免じて忘れることにした。

 祭壇での罰当たりなお茶会はお開きとなり、サラは何故か強い睡魔に襲われてウトウトと眠ってしまった。

 こんな時には、アフロディーテがユーゴに話したいことがあるのだと、流石に鈍いユーゴも察する。

 アフロディーテによって祭壇の上に寝かされた妻に、上着を掛けてやりながらユーゴは口を開く。

「祭壇の上に寝かせるなんて、まるでサラが女神への供物のようではないか」
「あら、いちいち細かい男ねぇ。そんなこと思ってなかったわ」
「それで? 話したいことがあるのだろう?」

 さっさと話せとばかりにせっつく人間の男に、麗しい女神は大きくため息を吐いた。

「あなたね、私はこう見えても女神様よ。もっと敬意を払いなさい」
「そんな事を言う為に、わざわざサラを眠らせたのか?」
「ふふっ……、違うわよ。サラはヒイロとの事をあなたに話したかしら?」

 さも可笑しそうに女神が切り出したのは、ユーゴが蒸し返して欲しくない話であった。

「何が言いたい?」

 不機嫌に尋ねるユーゴに、女神はとても上機嫌で歌うように話しかけた。

「ヒイロはこの子の事を心から愛していたわ。愛し方はあなたとは違っていたけれど、それでも彼なりにはとても愛していたのよ」
「だから、何だ?」

 サラからの話でもユーゴが感じていた事ではあったが、改めて言われると面白くなかった。

「この子も分かっていたわ。ヒイロからの大きな愛をしっかりと感じていたの」

 女神はやはり人とは違う。
 特にユーゴに対しては意地悪な言い方をする。

「私は愛の女神。様々な愛を見るのが好きなの。そして観察していたのよ。この子があなたを選ぶのか、それとも……」







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