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24. 賊討伐

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 薬師のヴェラは暫く勤めを休む事になった。

 珍しい女性の薬師ということで、今後も同じようなことが起こらないとも限らず、その対策がきちんと為されるまではヴェラの処方した薬を使ってしのぐ事になった。

 おかげでモフは、サビーヌとしてだけ生活すれば良いので、ある意味タイミングが良かったのかも知れない。
 もうすぐサビーヌを含めた少数精鋭で、賊の討伐に行くという任務が与えられていたからだ。

 サビーヌとして、モフはきたる討伐の日に備えて訓練に勤しんだ。

 あの事件の日、帰宅したユーゴは自分をひどく責めていた。
 自分のせいでヴェラを傷つけたのだと、そう言って己を許せないとモフに吐露した。

 モフは、そんなユーゴを優しく諭した。
 己の全てを許せた訳ではないだろうが、モフと会話したユーゴは、少しだけ穏やかな顔に戻ったのだった。

 そして翌日に討伐を控えた夜、ユーゴはいつもの通りモフに餌である天花粉てんかふんを与えながら話しかける。

「モフ、明日は悪い奴らをやっつけに行くんだ。帰りは遅くなるか……または明日は帰れないかも知れない。餌はきちんと置いておくから、食べておくんだぞ」
「モキュウ……」
「そんなに心配しなくても、強い団員達を連れて行くから。それに、俺だってそれなりには強いんだからな」

 モフはサビーヌとして騎士団で鍛錬をしているから、ユーゴの強さは良く知っていた。

 今回、サビーヌであるモフも同行するとは夢にも思わぬユーゴは、モフに心配は要らないと熱心に話しかける。

 そんなユーゴに、モフはそっと擦り寄って撫でてもらう。
「ユーゴは知らなくても良い、自分ががサビーヌとしてユーゴと共に戦いに赴く事は」そう思いながら、黙って撫でられていたのだろう。

 翌日の賊の討伐には、ユーゴとサビーヌを含めて八人の騎士達が向かう事になった。

 賊達の寝ぐらは既に調べてある。
 山の中腹にある洞穴と、その近くにある狩猟小屋の二箇所をアジトとして潜伏しているらしい。

 ユーゴとサビーヌ、そして二人の騎士は狩猟小屋の方へ。
 残りの四人の騎士達は洞穴の方へと一気に向かうことになっていた。

「団長、いつもなら小屋の中の奴らは昼食を摂る時間帯のようです」
「のんびり食ってるところを突撃するか」

 小屋の様子を窺っていた部下からの報告を受けて、ユーゴは突撃の指示を出す。

 小屋の入り口は一つ、後は人が出られるくらいの窓が一つのみ。
 入り口に屈強な騎士一人、窓際に足の速い一人を配置させた。
 中へ飛び込むのは団長のユーゴと、柔軟な戦いが出来るサビーヌ。

「うぉらぁッ!」

 扉を蹴り壊す大きな音と同時に突然飛び込んできた、三白眼を持った恐ろしい形相の屈強なユーゴと、あっという間に賊の脚に切りつけて逃げられなくする素早い身のこなしのサビーヌ。

「ぎゃっ!」
「イテテェ……ッ!」
かしらぁ! 痛えよぉ!」

 中に居たのは五人の賊で、食事の最中に突然乗り込まれては、突然の襲撃に対応する動きが遅れた。

 四人の賊はすぐに脚を切りつけられた事で動きが制限された。
 だが、残りの一人は大声で喚きながらユーゴとサビーヌを睨みつけた。

「お前ら、騎士団か⁉︎    くそっ! まさかこの寝ぐらを見つけられるとはな!」
「お前が頭領か。部下達は動くのも辛そうだぞ。大人しく投降しろ」
「そんな事言われて、大人しく投降する馬鹿がいるかよ!」

 そう言って一番体格の良い賊は、動けるのが自分一人でも平気だと思っているのか、少しの隙に吹き矢を手に取りユーゴに向けて吹きつけた。

「な……っ!」

 ユーゴは長剣で自分に向かって放たれた吹き矢をはたき落とした。
 思わぬ飛び道具の存在に、ユーゴは一瞬怯んだものの、すぐに立ち直って長剣を構えたのだった。

「まだまだあるぜぇ!」
「お前、でかい図体しといて吹き矢とか似合わねえんだよ!」

 そう叫んだユーゴは、頭領が繰り出す吹き矢をいくつも斬り捨てた。
 頭領は持ち矢が無くなると、脇に刺したファルシオンを振り回してユーゴに向かって襲いかかる。

 力を使って叩くように繰り出す頭領の攻撃を、ユーゴは冷静にかわしながら、確実に戦意を喪失させる為にファルシオンを持つ手、足を狙っていく。

 サビーヌは先に子分達を縛り上げて、外にいる騎士達と共に小屋の外へと連れ出している。

 その後もユーゴと頭領は暫くお互いの様子を見ながら切り結んでいた。

 明確な殺意を持って襲いくる頭領と、捕縛の為に戦意を失わせる程度の傷を負わせようとするユーゴでは、なかなかすぐに決着はつかないようだ。

「くっそぉぉぉッ!」

 段々と追い込まれていた頭領は手に持っていたファルシオンを投げ捨て、小屋の端に逃げ走る。
 そして布に隠すようにして立て掛けていた小銃を手に取った。

「へへへ……っ! 俺、飛び道具が好きなんだけどよ。これなら流石に逃げれないだろ? 悪いけどさ、俺を逃がしてくれよ」

 そう言いながら歪んだ笑みを見せた頭領は、手に持った小銃をユーゴに向けた。
 
「く……ッ!」

 それでも、ユーゴは頭領の手に持った銃を払い落とす為に斬りかかる。 
 もし自分が撃たれたとしても、それでもこの頭領は捕らえなければならない。

 銃を持つ頭領は、まさかそれでもユーゴが向かってくるとは思わず、脅しであったはずの銃を思わず発射した。

 乾いた銃声があたりに鳴り響くのと、頭領が横から飛び出してきた床に押し倒されるのとが同時になった。
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