24 / 53
24. 賊討伐
しおりを挟む薬師のヴェラは暫く勤めを休む事になった。
珍しい女性の薬師ということで、今後も同じようなことが起こらないとも限らず、その対策がきちんと為されるまではヴェラの処方した薬を使って凌ぐ事になった。
おかげでモフは、サビーヌとしてだけ生活すれば良いので、ある意味タイミングが良かったのかも知れない。
もうすぐサビーヌを含めた少数精鋭で、賊の討伐に行くという任務が与えられていたからだ。
サビーヌとして、モフは来る討伐の日に備えて訓練に勤しんだ。
あの事件の日、帰宅したユーゴは自分をひどく責めていた。
自分のせいでヴェラを傷つけたのだと、そう言って己を許せないとモフに吐露した。
モフは、そんなユーゴを優しく諭した。
己の全てを許せた訳ではないだろうが、モフと会話したユーゴは、少しだけ穏やかな顔に戻ったのだった。
そして翌日に討伐を控えた夜、ユーゴはいつもの通りモフに餌である天花粉を与えながら話しかける。
「モフ、明日は悪い奴らをやっつけに行くんだ。帰りは遅くなるか……または明日は帰れないかも知れない。餌はきちんと置いておくから、食べておくんだぞ」
「モキュウ……」
「そんなに心配しなくても、強い団員達を連れて行くから。それに、俺だってそれなりには強いんだからな」
モフはサビーヌとして騎士団で鍛錬をしているから、ユーゴの強さは良く知っていた。
今回、サビーヌであるモフも同行するとは夢にも思わぬユーゴは、モフに心配は要らないと熱心に話しかける。
そんなユーゴに、モフはそっと擦り寄って撫でてもらう。
「ユーゴは知らなくても良い、自分ががサビーヌとしてユーゴと共に戦いに赴く事は」そう思いながら、黙って撫でられていたのだろう。
翌日の賊の討伐には、ユーゴとサビーヌを含めて八人の騎士達が向かう事になった。
賊達の寝ぐらは既に調べてある。
山の中腹にある洞穴と、その近くにある狩猟小屋の二箇所をアジトとして潜伏しているらしい。
ユーゴとサビーヌ、そして二人の騎士は狩猟小屋の方へ。
残りの四人の騎士達は洞穴の方へと一気に向かうことになっていた。
「団長、いつもなら小屋の中の奴らは昼食を摂る時間帯のようです」
「のんびり食ってるところを突撃するか」
小屋の様子を窺っていた部下からの報告を受けて、ユーゴは突撃の指示を出す。
小屋の入り口は一つ、後は人が出られるくらいの窓が一つのみ。
入り口に屈強な騎士一人、窓際に足の速い一人を配置させた。
中へ飛び込むのは団長のユーゴと、柔軟な戦いが出来るサビーヌ。
「うぉらぁッ!」
扉を蹴り壊す大きな音と同時に突然飛び込んできた、三白眼を持った恐ろしい形相の屈強なユーゴと、あっという間に賊の脚に切りつけて逃げられなくする素早い身のこなしのサビーヌ。
「ぎゃっ!」
「イテテェ……ッ!」
「頭ぁ! 痛えよぉ!」
中に居たのは五人の賊で、食事の最中に突然乗り込まれては、突然の襲撃に対応する動きが遅れた。
四人の賊はすぐに脚を切りつけられた事で動きが制限された。
だが、残りの一人は大声で喚きながらユーゴとサビーヌを睨みつけた。
「お前ら、騎士団か⁉︎ くそっ! まさかこの寝ぐらを見つけられるとはな!」
「お前が頭領か。部下達は動くのも辛そうだぞ。大人しく投降しろ」
「そんな事言われて、大人しく投降する馬鹿がいるかよ!」
そう言って一番体格の良い賊は、動けるのが自分一人でも平気だと思っているのか、少しの隙に吹き矢を手に取りユーゴに向けて吹きつけた。
「な……っ!」
ユーゴは長剣で自分に向かって放たれた吹き矢をはたき落とした。
思わぬ飛び道具の存在に、ユーゴは一瞬怯んだものの、すぐに立ち直って長剣を構えたのだった。
「まだまだあるぜぇ!」
「お前、でかい図体しといて吹き矢とか似合わねえんだよ!」
そう叫んだユーゴは、頭領が繰り出す吹き矢をいくつも斬り捨てた。
頭領は持ち矢が無くなると、脇に刺したファルシオンを振り回してユーゴに向かって襲いかかる。
力を使って叩くように繰り出す頭領の攻撃を、ユーゴは冷静に躱しながら、確実に戦意を喪失させる為にファルシオンを持つ手、足を狙っていく。
サビーヌは先に子分達を縛り上げて、外にいる騎士達と共に小屋の外へと連れ出している。
その後もユーゴと頭領は暫くお互いの様子を見ながら切り結んでいた。
明確な殺意を持って襲いくる頭領と、捕縛の為に戦意を失わせる程度の傷を負わせようとするユーゴでは、なかなかすぐに決着はつかないようだ。
「くっそぉぉぉッ!」
段々と追い込まれていた頭領は手に持っていたファルシオンを投げ捨て、小屋の端に逃げ走る。
そして布に隠すようにして立て掛けていた小銃を手に取った。
「へへへ……っ! 俺、飛び道具が好きなんだけどよ。これなら流石に逃げれないだろ? 悪いけどさ、俺を逃がしてくれよ」
そう言いながら歪んだ笑みを見せた頭領は、手に持った小銃をユーゴに向けた。
「く……ッ!」
それでも、ユーゴは頭領の手に持った銃を払い落とす為に斬りかかる。
もし自分が撃たれたとしても、それでもこの頭領は捕らえなければならない。
銃を持つ頭領は、まさかそれでもユーゴが向かってくるとは思わず、脅しであったはずの銃を思わず発射した。
乾いた銃声があたりに鳴り響くのと、頭領が横から飛び出してきた何者かによって床に押し倒されるのとが同時になった。
11
お気に入りに追加
380
あなたにおすすめの小説
【完結】ハリントン男爵アレクシス・ハーヴェイの密かな悩み
ひなのさくらこ
恋愛
ハリントン男爵アレクシス・ハーヴェイ。低い爵位ながら巨万の富を持ち、その気になれば王族でさえ跪かせられるほどの力を持つ彼は、ひょんなことから路上生活をしていた美しい兄弟と知り合った。
どうやらその兄弟は、クーデターが起きた隣国の王族らしい。やむなく二人を引き取ることにしたアレクシスだが、兄のほうは性別を偽っているようだ。
亡国の王女などと深い関係を持ちたくない。そう思ったアレクシスは、二人の面倒を妹のジュリアナに任せようとする。しかし、妹はその兄(王女)をアレクシスの従者にすると言い張って――。
爵位以外すべてを手にしている男×健気系王女の恋の物語
※残酷描写は保険です。
※記載事項は全てファンタジーです。
※別サイトにも投稿しています。
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
有能なメイドは安らかに死にたい
鳥柄ささみ
恋愛
リーシェ16歳。
運がいいのか悪いのか、波瀾万丈な人生ではあるものの、どうにか無事に生きている。
ひょんなことから熊のような大男の領主の家に転がりこんだリーシェは、裁縫・調理・掃除と基本的なことから、薬学・天候・気功など幅広い知識と能力を兼ね備えた有能なメイドとして活躍する。
彼女の願いは安らかに死ぬこと。……つまり大往生。
リーシェは大往生するため、居場所を求めて奮闘する。
熊のようなイケメン年上領主×謎のツンデレメイドのラブコメ?ストーリー。
シリアス有り、アクション有り、イチャラブ有り、推理有りのお話です。
※基本は主人公リーシェの一人称で話が進みますが、たまに視点が変わります。
※同性愛を含む部分有り
※作者にイレギュラーなことがない限り、毎週月曜
※小説家になろうにも掲載しております。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる