政略結婚だと思っていたのに、将軍閣下は歌姫兼業王女を溺愛してきます

蓮恭

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29. レネ様に真心を伝えたい

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「あははは……っ! もしかして王女殿下は、私がアルフレートを愛しているのかどうか、そんな事をずっと気にしていたのですか?」

 何故そんなに可笑しいのかが分からない。息が出来ないほど苦しそうに笑うレネ様に、きゅっと唇を噛んだ。

「はい。……だからこそ……私の事を……嫌っておいでなのかと」

 レネ様は一通り笑うと目尻の涙を拭った。その様子はとても可憐で、可愛らしくて目が離せなくなる。こんな方がアルフ様の事を愛してらっしゃるのなら、やはり私のような者があの方の隣に立つのは、何かの間違いではないのかと思ってしまう。

「ふふっ……勿論。私はアルフレートの事を愛していますよ、それはもう昔からずっと。だからアルフレートが、貴女のような妖婦に騙されるのを見ていられない。心配して当然でしょう?」

 やはり……、レネ様はアルフ様の事を愛してらっしゃる。こんなに可憐で、自分に正直な方がアルフ様の隣で笑っている。あの時、お二人が並んで歩いていた光景が思い出された。アルフ様の隣が似合うのは、私などよりレネ様の方が……。

「エリザベート様は妖婦などではありません! それに閣下は、エリザベート様を今更手放す事はない程に深く愛しておいでです! 何か言いたい事があるのなら、エリザベート様ではなく閣下へ申し上げたらどうですか!」

 心の底から叫ぶようなレンカの言葉に、劣等感が生み出した、自らの心の闇から一気に引き上げられる。

 そうよ、アルフ様は私の事を愛しているとおっしゃった。私もアルフ様の事を愛しているわ。だからここで、レネ様に自分の居場所を譲るような事はしてはならない。

「アルフレートは完全に妖婦によって騙されているから。私が悪者になるに決まってる」

 そう口にしたレネ様本人も、痛々しげに眉を寄せた。この方だって、きっと苦しんでいるのだわ。

「私は……、呪われた声の……人形姫と……呼ばれていて……、王女としても……価値がなく……ただひっそりと生きて……参りました」

 伝えるしか無い。私がアルフ様の事を心から愛しているのだと。自分の心の内を正直に。

「アルフ様が……私をあの場所から……、ずっと……閉じ込められていた……場所から……助け出してくれた。……私が……変わるきっかけを……くださったのです」
「エリザベート様……」

 涙目になったレンカが心配そうに私の名を呼ぶ。あの別棟で、ずっと私に寄り添ってくれていたレンカ。

「劣等感に……覆い尽くされて……自信が持てなかった……私を……、それでも……愛してくださる……アルフ様に……お返しをしたい。……だから貴女に……分かってもらえるよう……これからも……努力します」
「だから、口では何とでも……!」
「アルフ様は……! レネ様の事を……大切に思っておいでです! 見ていたら……分かります。……だから私も……貴女に認めてもらえるよう……努めます! ゴホッ……コホッコホ……っ」
「エリザベート様! 大丈夫ですか⁉︎」

 裏声で無理な声を出したから、むせこんでしまったけれどレネ様に伝わったかしら。

 慌てて駆け寄ったレンカに背中をさすられながら、目の前がじわりと滲む涙目で見たレネ様の表情は、きっと咳き込む私と同じくらいにとても苦しそうだった。

「馬鹿みたい……」

 たったそれだけ呟くと、レネ様はプラチナブロンドの髪を揺らして踵を返す。そのまま凛々しい軍服姿の背中は私達のそばから離れて行った。

「エリザベートさまぁ……、私まで泣いてしまって……」
「ごめんね……レンカ」

 ポロポロと涙を流して私に抱きつくレンカを抱き返した。私の苦しみと辛さを、一番身近で知っているレンカ。

「あぁ、これ以上泣かないでください。また瞼が腫れてしまいます。ね、エリザベート様……」
「分かっているわ……。でも、レネ様のお気持ちを慮ると……アルフ様を私と同じくらいに。いいえ、きっと長い月日の分、もっと大切に思ってらっしゃる気持ちを考えると、涙が止まらないの。でも……引く訳にはいかなかった」
「ええ、ええ。きちんと伝える事ができましたよ、エリザベート様」

 綺麗事でしか無かったかも知れないけれど、自分の正直な気持ちを伝える事は大切なのだと知ったから。アルフ様があのように優しい表情を向けるレネ様に、私の想いを認めていただきたい。アルフ様はきっとレネ様の事を大切に思っておいでだから。

「もう時間は過ぎたわよね? ワルターは無事去ったかしら?」
「いいえ! 諦めずに、一度行ってみましょう!」

 私とレンカはとにかく約束の場所へと駆けた。ドレスの裾はかなり汚れたけれど、そんな事構わずに月夜の庭園をぐんぐん進む。

 件の垣根の中へ身体を突っ込んだ拍子に思いっきり前につんのめってしまう。その身体を抱きとめてくれたのは、慌てた顔のワルターだった。

「ミーナ! お前……あぶねぇな!」
「良かった……っ、ワルター! 待たせてごめんなさい」



 

 

 

 
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