30 / 55
29. レネ様に真心を伝えたい
しおりを挟む「あははは……っ! もしかして王女殿下は、私がアルフレートを愛しているのかどうか、そんな事をずっと気にしていたのですか?」
何故そんなに可笑しいのかが分からない。息が出来ないほど苦しそうに笑うレネ様に、きゅっと唇を噛んだ。
「はい。……だからこそ……私の事を……嫌っておいでなのかと」
レネ様は一通り笑うと目尻の涙を拭った。その様子はとても可憐で、可愛らしくて目が離せなくなる。こんな方がアルフ様の事を愛してらっしゃるのなら、やはり私のような者があの方の隣に立つのは、何かの間違いではないのかと思ってしまう。
「ふふっ……勿論。私はアルフレートの事を愛していますよ、それはもう昔からずっと。だからアルフレートが、貴女のような妖婦に騙されるのを見ていられない。心配して当然でしょう?」
やはり……、レネ様はアルフ様の事を愛してらっしゃる。こんなに可憐で、自分に正直な方がアルフ様の隣で笑っている。あの時、お二人が並んで歩いていた光景が思い出された。アルフ様の隣が似合うのは、私などよりレネ様の方が……。
「エリザベート様は妖婦などではありません! それに閣下は、エリザベート様を今更手放す事はない程に深く愛しておいでです! 何か言いたい事があるのなら、エリザベート様ではなく閣下へ申し上げたらどうですか!」
心の底から叫ぶようなレンカの言葉に、劣等感が生み出した、自らの心の闇から一気に引き上げられる。
そうよ、アルフ様は私の事を愛しているとおっしゃった。私もアルフ様の事を愛しているわ。だからここで、レネ様に自分の居場所を譲るような事はしてはならない。
「アルフレートは完全に妖婦によって騙されているから。私が悪者になるに決まってる」
そう口にしたレネ様本人も、痛々しげに眉を寄せた。この方だって、きっと苦しんでいるのだわ。
「私は……、呪われた声の……人形姫と……呼ばれていて……、王女としても……価値がなく……ただひっそりと生きて……参りました」
伝えるしか無い。私がアルフ様の事を心から愛しているのだと。自分の心の内を正直に。
「アルフ様が……私をあの場所から……、ずっと……閉じ込められていた……場所から……助け出してくれた。……私が……変わるきっかけを……くださったのです」
「エリザベート様……」
涙目になったレンカが心配そうに私の名を呼ぶ。あの別棟で、ずっと私に寄り添ってくれていたレンカ。
「劣等感に……覆い尽くされて……自信が持てなかった……私を……、それでも……愛してくださる……アルフ様に……お返しをしたい。……だから貴女に……分かってもらえるよう……これからも……努力します」
「だから、口では何とでも……!」
「アルフ様は……! レネ様の事を……大切に思っておいでです! 見ていたら……分かります。……だから私も……貴女に認めてもらえるよう……努めます! ゴホッ……コホッコホ……っ」
「エリザベート様! 大丈夫ですか⁉︎」
裏声で無理な声を出したから、むせこんでしまったけれどレネ様に伝わったかしら。
慌てて駆け寄ったレンカに背中をさすられながら、目の前がじわりと滲む涙目で見たレネ様の表情は、きっと咳き込む私と同じくらいにとても苦しそうだった。
「馬鹿みたい……」
たったそれだけ呟くと、レネ様はプラチナブロンドの髪を揺らして踵を返す。そのまま凛々しい軍服姿の背中は私達のそばから離れて行った。
「エリザベートさまぁ……、私まで泣いてしまって……」
「ごめんね……レンカ」
ポロポロと涙を流して私に抱きつくレンカを抱き返した。私の苦しみと辛さを、一番身近で知っているレンカ。
「あぁ、これ以上泣かないでください。また瞼が腫れてしまいます。ね、エリザベート様……」
「分かっているわ……。でも、レネ様のお気持ちを慮ると……アルフ様を私と同じくらいに。いいえ、きっと長い月日の分、もっと大切に思ってらっしゃる気持ちを考えると、涙が止まらないの。でも……引く訳にはいかなかった」
「ええ、ええ。きちんと伝える事ができましたよ、エリザベート様」
綺麗事でしか無かったかも知れないけれど、自分の正直な気持ちを伝える事は大切なのだと知ったから。アルフ様があのように優しい表情を向けるレネ様に、私の想いを認めていただきたい。アルフ様はきっとレネ様の事を大切に思っておいでだから。
「もう時間は過ぎたわよね? ワルターは無事去ったかしら?」
「いいえ! 諦めずに、一度行ってみましょう!」
私とレンカはとにかく約束の場所へと駆けた。ドレスの裾はかなり汚れたけれど、そんな事構わずに月夜の庭園をぐんぐん進む。
件の垣根の中へ身体を突っ込んだ拍子に思いっきり前につんのめってしまう。その身体を抱きとめてくれたのは、慌てた顔のワルターだった。
「ミーナ! お前……あぶねぇな!」
「良かった……っ、ワルター! 待たせてごめんなさい」
1
お気に入りに追加
308
あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~
sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。
ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。
そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる