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第一章 逆行したレティシア(幼少期)
24. レティシアは、リュシアンの幸せを願って
しおりを挟むけれど回帰したレティシアは知っているのだ。
リュシアンとイリナは過去でも親密な空気を醸し出していたし、二人が並んでいる姿はとてもお似合いだと思った。
レティシアに愛想をつかせた理由は分からないが、過去と同じようにリュシアンがイリナの事を特別に想い始めたのかも知れない。
そうなると、皇帝からの新たな婚約の打診に返事をしていない理由は不明だが。
婚約破棄がジェラン侯爵による何らかの謀事がきっかけであったとしても、過去で一度リュシアンから見捨てられた経験のあるレティシアには、どこか納得できる事柄でもあった。
リュシアンから冷たく避けられていたのは過去もこの時期からであったし、過去には無かった婚約破棄という事柄が追加されただけである。
そもそも回帰してから変わった事柄など多くあったでは無いか。
目の前でレティシアを労るような表情を浮かべる優しいソフィー皇后の死を免れた事。
パトリックに対する父親の疑念を知った事。
過去と違って愚かな令嬢となるまいとするレティシアは、幼い頃からの自身の振る舞いすら変えた。
勉学に励み、今の時点で父親や母親の言いなりになるような人間では無くなっている。
それに、これから先に乳母のマヤが病で死んでしまう事だって、何とかして防ぐつもりだ。
レティシアが時を逆行したせいで、というよりも、この回帰はレティシアがやり直す機会を与えられた二度目の人生。
過去ではリュシアンの気持ちなど考えずに、自分の気持ちだけを押し付けて生きたせいでイリナに生命を奪われた。
「ソフィー様、私……リュシアン様の幸せを一番に祈ります」
レティシアは決心した。もう悲しんでばかりいる事はやめると。リュシアンが望むのなら、婚約破棄だって承諾しよう。
父親であるベリル侯爵はきっと怒るだろうが、リュシアンにはもう二度と自分の事で苦しんで貰いたく無いのだ。
「あぁ、レティシア……っ! 貴女は私の娘。可愛い娘なの。リュシアンと万が一正式に婚約破棄をする事になっても、それだけは忘れないで。ごめんなさいね、何も出来ない、形ばかりの皇后で……」
「そんな、ソフィー様……。そのお言葉だけで心強いです。それに、ソフィー様はこの帝国フォレスティエの母です。民達も私も、ソフィー様が誰よりもこの国の事を考えている方なのだと知っています」
心から民に寄り添う帝国フォレスティエ皇后ソフィー。それは過去も今も変わらない。
二度目の人生を迎えたレティシアにも、きっとやるべき事があるはずだ。
「この帝国の太陽、皇族の方々に心からの祝福を」
最後にレティシアは非常に美しい所作でカーテシーをして、皇后の居室を出る。
その時の表情は凛としていて、驚くほど大人びていた事を皇后も皇后宮の侍女達も感じ、その小さな後ろ姿を、皆が瞬きも忘れて見送ったのだった。
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