上 下
24 / 91
第一章 逆行したレティシア(幼少期)

24. レティシアは、リュシアンの幸せを願って

しおりを挟む

 けれど回帰したレティシアは知っているのだ。
 
 リュシアンとイリナは過去でも親密な空気を醸し出していたし、二人が並んでいる姿はとてもお似合いだと思った。
 レティシアに愛想をつかせた理由は分からないが、過去と同じようにリュシアンがイリナの事を特別に想い始めたのかも知れない。
 そうなると、皇帝からの新たな婚約の打診に返事をしていない理由は不明だが。

 婚約破棄がジェラン侯爵による何らかの謀事がきっかけであったとしても、過去で一度リュシアンから見捨てられた経験のあるレティシアには、どこか納得できる事柄でもあった。

 リュシアンから冷たく避けられていたのは過去もこの時期からであったし、過去には無かった婚約破棄という事柄が追加されただけである。
 そもそも回帰してから変わった事柄など多くあったでは無いか。
 目の前でレティシアを労るような表情を浮かべる優しいソフィー皇后の死を免れた事。
 パトリックに対する父親の疑念を知った事。
 過去と違って愚かな令嬢となるまいとするレティシアは、幼い頃からの自身の振る舞いすら変えた。
 勉学に励み、今の時点で父親や母親の言いなりになるような人間では無くなっている。

 それに、これから先に乳母のマヤが病で死んでしまう事だって、何とかして防ぐつもりだ。

 レティシアが時を逆行したせいで、というよりも、この回帰はレティシアがやり直す機会を与えられた二度目の人生。
 過去ではリュシアンの気持ちなど考えずに、自分の気持ちだけを押し付けて生きたせいでイリナに生命を奪われた。

「ソフィー様、私……リュシアン様の幸せを一番に祈ります」

 レティシアは決心した。もう悲しんでばかりいる事はやめると。リュシアンが望むのなら、婚約破棄だって承諾しよう。
 父親であるベリル侯爵はきっと怒るだろうが、リュシアンにはもう二度と自分の事で苦しんで貰いたく無いのだ。

「あぁ、レティシア……っ! 貴女は私の娘。可愛い娘なの。リュシアンと万が一正式に婚約破棄をする事になっても、それだけは忘れないで。ごめんなさいね、何も出来ない、形ばかりの皇后で……」
「そんな、ソフィー様……。そのお言葉だけで心強いです。それに、ソフィー様はこの帝国フォレスティエの母です。民達も私も、ソフィー様が誰よりもこの国の事を考えている方なのだと知っています」

 心から民に寄り添う帝国フォレスティエ皇后ソフィー。それは過去も今も変わらない。
 二度目の人生を迎えたレティシアにも、きっとやるべき事があるはずだ。

「この帝国の太陽、皇族の方々に心からの祝福を」

 最後にレティシアは非常に美しい所作でカーテシーをして、皇后の居室を出る。
 その時の表情は凛としていて、驚くほど大人びていた事を皇后も皇后宮の侍女達も感じ、その小さな後ろ姿を、皆が瞬きも忘れて見送ったのだった。

 
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

自滅王子はやり直しでも自滅するようです(完)

みかん畑
恋愛
侯爵令嬢リリナ・カフテルには、道具のようにリリナを利用しながら身体ばかり求めてくる婚約者がいた。 貞操を守りつつ常々別れたいと思っていたリリナだが、両親の反対もあり、婚約破棄のチャンスもなく卒業記念パーティの日を迎える。 しかし、運命の日、パーティの場で突然リリナへの不満をぶちまけた婚約者の王子は、あろうことか一方的な婚約破棄を告げてきた。 王子の予想に反してあっさりと婚約破棄を了承したリリナは、自分を庇ってくれた辺境伯と共に、新天地で領地の運営に関わっていく。 そうして辺境の開発が進み、リリナの名声が高まって幸福な暮らしが続いていた矢先、今度は別れたはずの王子がリリナを求めて実力行使に訴えてきた。 けれど、それは彼にとって破滅の序曲に過ぎず―― ※8/11完結しました。 読んでくださった方に感謝。 ありがとうございます。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

【完結】ハリントン男爵アレクシス・ハーヴェイの密かな悩み

ひなのさくらこ
恋愛
ハリントン男爵アレクシス・ハーヴェイ。低い爵位ながら巨万の富を持ち、その気になれば王族でさえ跪かせられるほどの力を持つ彼は、ひょんなことから路上生活をしていた美しい兄弟と知り合った。 どうやらその兄弟は、クーデターが起きた隣国の王族らしい。やむなく二人を引き取ることにしたアレクシスだが、兄のほうは性別を偽っているようだ。 亡国の王女などと深い関係を持ちたくない。そう思ったアレクシスは、二人の面倒を妹のジュリアナに任せようとする。しかし、妹はその兄(王女)をアレクシスの従者にすると言い張って――。 爵位以外すべてを手にしている男×健気系王女の恋の物語 ※残酷描写は保険です。 ※記載事項は全てファンタジーです。 ※別サイトにも投稿しています。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...