18 / 44
第1章 目覚め
18
しおりを挟む形勢はゴブリン達に寄っていて、高校生達がゴブリンナイト1体を相手にしているうちに騎士がどんどん減っていく。
ゴブリンキングが加わってからは騎士達が死ぬ確率がかなり増えてきた。
ゴブリンナイト2体と騎士の攻撃をいなしながらの状態では決定打が決めれない。
マジであり得ない!
「ぐっ! ……くそ……が」
叫んでいた騎士が倒れてしまったために、他の騎士達の動きが鈍る。
「なにやってんだよ!」
騎士を仕留めたゴブリンナイトの首を切り、数を減らす。
この乱戦では気配を消そうにも見つかってしまうため効率良く攻撃ができない。
「きゃぁ!」
「グハハッ!」
ついには女勇者ちゃんがゴブリンキングに捕まってしまった。
「ニンゲンドモ、ウゴグナ!」
ゴブリンナイトを倒し終えたもののゴブリンキングに人質を取られてしまっては動くことができない。
「ヨグモ、同胞ダチヲ殺ッテクレタナ! ゴゴマデグルノニ大変ダッタンダゾ!!」
力任せに投擲された斧が騎士達を屠る。
このままじゃ全滅しちまうぞ!
ーーーパシャン
ゴブリンキングの後頭部に水球が当たるもダメージがなさそうだ。
ゴブリンキングの後ろにはルフルさんがいて、水魔法を後頭部に当てたようだ。
「ゴノ女がドウナッテモ良イヨウダナ!」
吠えた隙をついてエヴァンが枝の上から飛び込んで、女勇者ちゃんを掴む右腕を切り落とす。
俺は飛び出して女勇者ちゃんを抱えてルフルさんの前へ走る。
落ちた腕とエヴァンを見てゴブリンキングが吠えようとするが、男子高生達が腹に火を纏った剣と魔力を纏った刀を突き刺す。
一瞬遅れてエヴァンが足の腱を切ると、ゴブリンキングが倒れ込む。
騎士達が剣を体中に突き刺し、火口君がゴブリンキングの首を叩ききる。
しばらくビクビクしていたゴブリンキングが動かなくなって戦いは終わった。
夜が明けた王都にはゴブリン討伐の知らせが回り、襲撃の緊張から解かれ歓喜していた。
100体近いゴブリンの死体をギルド職員や冒険者達が数ヵ所にまとめて、火魔法で焼却していく。
20体近いホブゴブリンと5体のゴブリンナイトにゴブリンキングの死体は使える素材があるのでギルド職員達がきれいに剥ぎ取りしている。
俺はそれらを西門に背中を預けて座り、呆然と眺めていた。
炎上していた森は水の勇者が水魔法で鎮火させたらしい。
「……良くやったな」
隣に座ったエヴァンが無茶しやがってと肩を叩く。
「なんとかなってよかった」
震える手を押さえながらなんとかエヴァンに応える。
「……王様から召集がかかってる王城に行くぞ」
騎士や高校生達は既に王城に戻っていて、後始末をしているのは冒険者やギルド職員達だけだった。
「……行かないってのは無しか?」
「無しだな。首に紐付けてでも連れていくぞ?」
苦笑いの俺に爽やかに笑うエヴァン。
……目がマジだ。
「此度は襲撃を防いでくれて助かった」
謁見の間に通された俺とエヴァンは国王から報酬を貰った。
金貨100枚。
「ゴブリンキングを討ったのは勇者様と聞いたが?」
この場には高校生達と騎士団長のモルドレッド等、防衛に関わった人が集まっていた。
「……いや、俺が首を切ったときには既に7割方切れてたと思います」
「しかし、首への攻撃は勇者様だけであったのでは?」
「もしかして……」
火口君は手応えの軽さに疑問を抱いていたようだ。
首を傾げている王様に賢者ちゃんが割って入る。
「おじさん、……魔法が使えるでしょ?」
好奇な視線や冷やかな視線が俺に集まる。
「えっと、……はい。使えますよ?」
「「バカな!?」」
宰相と騎士団長が揃って声を上げるが王様が手で制止する。
「ポーターだと聞いていたが魔法が使えるのかね?」
「……はい。風魔法……が使えます」
真剣な表情の王様に素直に応える。
「……わかった。君は風魔法で首を攻撃していたのかね?」
「……はい。ギルドマスターのエヴァン……さんが攻撃した後に首を狙って魔法を使いました」
「そんなもの誰も見ていないだろうが!」
「モルドレッド、黙りなさい」
狼狽える騎士団長は俺をきつく睨み黙る。
「では、活躍の上乗せで金貨を50枚追加しよ……うっ」
急に王様が咳き込んだため、これで謁見が終了となった。
去り際の宰相の目はひどく濁った光を灯して俺を睨んでいた。
王様の居なくなった謁見の間で高校生達と自己紹介をして、火口君や如月君からは手合わせがしたいと言われ、森下さんからは魔法の事を聞かれ、清水さんからは助けて貰った礼を言われた。
少し賑やかになった俺の周りをエヴァンが嬉しそうに眺めていた。
無事にゴブリンの襲撃を防げてよかった。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる