【完結・短編】game

七瀬おむ

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それからも浅木が俺へ面倒な客の押し付けをすることが日に日に酷くなっていった。

断ろうにも、店長にも「お前が対応しろ」という目線を向けられ、やらざるを得ない状況になる。

当然俺が通常の新規のお客さんの対応をする時間は減り、あと数件まで迫ったノルマが達成できそうにないことは火を見るより明らかだった。

「高井さーん、すいませーん」

アルバイトの若い女の子が俺の元に駆け寄る。

「あのお客さん、使い方がわかんないってすごい言ってきてー。対応お願いしてもいいですかあ?」
「いや、でもそれって……」
「お願いしますねー!」

今では、アルバイトの子や派遣の人達も俺に何かと面倒事を押しつけるようになっている。

浅木の俺に対する態度を見て、「そうやっていいんだ」と思うようになったのだろう。



午前の対応も終わり、昼休憩を取ろうとバックヤードのドアノブに手をかける。

その時、浅木と店長の声がドア越しに聞こえてきた。

「浅木くん、もう今月のノルマも余裕で達成しそうだな!」
「店長、ありがとうございます。店長のご指導のおかげですよ」
「いやいや、君の実力だよ。さすが慶合大学の卒業生だねー。
毎月大幅に達成しているから、これで次の副店長に君を気兼ねなく推薦できるよ」

なんの配慮もなく話す二人とその内容に、はらわたが煮えくりかえるような気持ちになる。

そうか、浅木が俺に対して面倒事の押しつけが最近酷くなったのは、副店長の座がかかっていたからか。

しかも、店長までいいとこ取りをしていることをわかっていて見て見ぬふりをしている。
おそらくそれも、店長が自分の店舗で優秀な若手を育てられているというアピールのためだろう。

俺は彼らの自己中心的な考え方に付き合わされ、切り捨てられていただけだったのだ。

この店に、もうどこにも俺の居場所はないような気がした。


**


「直樹? 大丈夫か?」

一汁三菜が並んだテーブル越しに、大和が呼びかけてくれていたことに気がつく。

どうやら今日の出来事を思い出して、ぼーっとしてしまっていたらしい。

「あ、いや……。大丈夫」
「本当か? すげー顔色悪いよ。職場で何かあった?」

大和にも一目でわかるほど酷い顔色をしているんだろうか。

正直きりきりとした胃の痛みに襲われ、せっかく大和が作ってくれたご飯も先ほどから箸が進んでいない。

「あー……、実はさ……」

今日の出来事を大和に話そうと、口を開く。

今日のことをとりとめもなく話すと、大和が眉間にしわを寄せ、真剣なまなざしで言った。

「直樹、それ会社辞めた方が良いと思う」

まさかそこまで言われると思っていなかった俺は、目を丸くした。
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