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この世界の普通
しおりを挟む師長より紙とペンを用意して頂いて、アデラン先生による授業が再開された。
この世界には大きく分けて人間、魔力を持たない動物、魔獣、魔族、精霊の5種類が存在する。
そもそも魔力とは何か。
この世界では普通の動物以外は多いなり、少ないなり差はあれど、魔力を保持している。
そして動物界では、基本魔力を持たぬ生き物が多いが、持つ生き物も存在している。
・魔に浸食され、理性を持たぬ生き物〈魔物〉
・理性があり、人間と同等の能力を持つ〈魔獣〉
・何らかの特殊能力を持ち、人間よりも優れた能力を持つ〈聖獣〉
・この世に存在しているか知られぬ、神の力に近い能力を持つ〈幻獣〉
大きく分けて、4種類存在する。
そして、魔力は自然の力…地、水、炎、光、闇、無属性に分類されている。それぞれ生き物は持っている属性が一つか二つが一般的である。
そして闇は非常に少ない。人間界では稀にいるが、片手で数える程度しかいないと言う。動物界では、魔物に多く存在している。聖獣も人間同様稀にいる。幻獣は未知なことが多いが、持っている物もいたと歴史では記されている。又、属性を四つ以上持つと言う。
又、それぞれの属性の特徴を大まかに挙げると、地は防御力が高い。水は全体攻撃に優れている。火は攻撃力が高い。光は回復系が優れている。闇は攻撃力は高いが耐久力はない。又、無属性は特殊魔法…転移や別次元を一部に作る事等に分類される。そして、その無属性は聖獣、幻獣かほんの一部の人間、精霊が所持しているという。
「これが魔法の基本です」
ふむ、成る程。メモメモ、なでなで。
「質問はここまでで何かありますか?」
「今の所は大丈夫ですが、疑問を感じましたら質問させて頂きます」
「承知致しました。では、続けてリンヴィーラさんのステータスを使いながら、御説明させて頂きます」
まずはランク。
魔力の大きさや攻撃力、速さ等のトータルをランクで表した物。D、C、B、A、S、SS、SSSの7段階で分けられている。これは人間に限らず、魔物等にも同じようにラングがあるという。一般人なら平均でCである。そこから鍛えて騎士や冒険者はAランクの者が多い。Sランクから特殊な役に就けられるようになり、騎士隊長や団長等がそれに当たる。SSランクから滅多に存在する物が少ない。単体だとドラゴン等といった魔獣、聖獣に当たると言う。後は冒険者ギルドと言うクエストの中に、異常の数の魔物が発生した時の討伐依頼もこのランクに当たると言う。
「質問失礼します。では、ギルドでは他にDからといった他のランクのクエストがあると言うことですか?」
「そうです。DからBクエストまでは1人でこなせる内容が多いですね。薬草採取や、ポーションの材料採取依頼が主です」
ふーん。つまり普段は何でも屋か。
「冒険者ギルドでは普段はクエストの管理や、冒険者の管理をしております。非常の際にも住民の避難や、非常の対応にも協力して頂き、警備隊のような事もするのですよ」
「成る程、街の中心となっているのですね。では、最後のSSSはどのような物でしょう?」
「これは、魔王や幻獣等に当たります。又は、災害級の魔物もこれになりますね。これまで300年は災害級の魔物は勇者の封印により現れておりませんので、ご心配することはありません」
勇者…それは実家の書斎で確認したことあるが、そこにも300年前の魔物を封印したことが記されていた。
「勇者もSSSランクなのでしょうか?」
「そうらしいです。又、勇者はこの世界には存在しない人物らしいです。世界の危機の時、教会の者が異界から呼び寄せるとのことです」
「それは、異界の者もこちらに来ることを承知している上で成り立っていることでしょうか?」
「…そこまでの記が無いため、私には分かりません」
もしも、ここに来ることが突然のことだというなら、相手は理不尽極まり無いだろう。しかも呼び寄せていきなり危機的状況を好転させろなんて…。そうじゃないことを祈るしか出来ない。
「えっと、話が脱線してしまいましたね。失礼しました。次は攻撃力や防御力の平均等について御説明致します」
簡単にまとめると、人間の全ての数値の限界値は一万である。そして、平均の数値はこんな感じ。
〈一般〉
HP:3200 MP:2000 攻撃:1000 防御:1000 スピード:800
〈貴族〉
HP:4500 MP:4000 攻撃:2400 防御:2100 スピード:2000
〈それに対して私〉
HP:8200 MP:8550 攻撃:4360 防御:3070 スピード:4100
成る程。どれも倍位の差があるね。やっとここで自分の能力について理解した。ふーん。そーなのかー。へー。
「…リンヴィーラ嬢」
そこで、今まで黙ってこの場を見守っていた師長が声を掛けてきた。
「改めてこれを聞いて君はどう感じている?」
平均はさっきの通りだ。勿論、あくまで平均であり、多少優秀な者であれば高い数値が出る。しかし、それでも突飛して目立つ物があったとしても、全部が飛び抜けて優秀ということはあり得ない。だってそんな存在がいれば、何処からでも引っ張りだこで、下手すれば革命も起こせるだろう。ましてやそれが幼い幼児の時点で発覚すれば、懐柔しようと気持ち悪い輩が寄ってくるだろう。
つまりだ。
「…爆弾のような存在ですね」
国が世界が、壊れてしまう。
「まぁ、ある意味そうだ。しかし、そうではないだろう」
?
意味が分からず、師長さんの顔をまじまじと見つめて首を傾げる。はて、何を否定したんだ?
「リンヴィーラ嬢は、自分の身の心配は無いのか?」
否、勿論ある。私はそう返答した。それに対し、師長さんは目元を先程より、僅かだが柔らかく緩めたような気がした。
「…普通は先に自分の身の心配をする物だ。襲われてしまうとか、殺されるとかな。しかし、リンヴィーラ嬢は先に周囲の心配をした」
窓の外の小鳥が木から飛び立つのを見守り、私に再度目線を送る。
それは、やっぱり気のせいでは無かった。そして、彼の表情から、私はいつの日かに感じた、落ち着かない気持ちがぶわっと湧き出てきた。
「貴方はとても、この世界の人々が大好きなんだな」
絶対にあり得ない言葉を耳にした。
ガタンッ!
勢い良く、座っていたソファから立ち上がり、目の前の師長を睨む。違う。私はそんなんじゃない。人間が大好きだって?
「魔術師師長様」
裏切り、憎しみ、妬み、嫉妬、欲望の塊の生き物を。
「間違ってますわ」
そんなの…そんなモノ!
「私は大っっっ嫌いです!!全て…全ての人間が嫌いですわ!!」
愛する事なんて出来るわけが無い。
室内は静まりかえり、私の荒い呼吸だけ聞こえる。師長はそんな私を微動だにせず見つめていた。その目が何だか腹ただしかった。これは、否定している目だ。貴方が、私の何を理解しているというの?今日、会ったばかりの人間に。人間なんて、すぐに変わる。恋でも仕事でも何でもちょっとしたことで変わる。弱く脆い上に醜い生き物だ。
「今日はもう、気分が優れないのでこれにて失礼致しますわ。場を乱してしまい、申し訳ありません」
この人は人間の中でも嫌いだ。この感覚、身に覚えがある。落ち着かない。私の中でドクンドクンと何かが湧き出てくるような感覚だ。体が熱いのか寒いのか不安定になり、震えが走る。
私はこの目を最近見た。知っている。
記憶を辿る。ここに来てすぐにこの目を見た気がする。
ウサギを抱え、その場から早く立ち去りたくて、失礼と理性では理解しながら挨拶もそこそこにその場を後にする。ここまで付き合ってくれたアデラン先生は、私の癇癪に驚いているのか目を見開き固まっている。しかし、そんなことに今は気にする余裕は無い。ぐんぐんと出口へ向けて歩みを進める。周囲にこの王宮の使用人が何事かと目を驚かせながらも脇に避け、形式の礼を取る。
何だっけ?あの目。最近私はあの目を見ているの。凄く落ち着かなかった。自分が塔のような感覚になりかけた。
ガラガラに崩れ、もう立ち直れなくなりそうなあの感覚を呼び起こす目…。
「そうだ。緑の目…」
師長のあの目はここに来た初日だ。瞳の色は違えど、あの子と同じなんだ。
『いつでも何かあったら来て良いからね!!』
思い出した。
そう、学園初日に会ったグリアナ・ハウダーだ。
「っと!」
ドンッと、廊下の角に差し掛かったとき、誰かとぶつかった衝撃が襲う。咄嗟に目をつむり、後ろへの衝撃に備え、腕の中のウサギを守る。しかし、すぐに来るだろうと思った痛みは来ること無く、代わりに温もりが全身にフワッと覆う感覚が包まれた。
「お怪我はありませんか?レディ」
上から声が聞こえた。気付けば私は、星のような綺麗な目を持つ紳士に抱き締められていた。
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