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魔力測定

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 あれから2日後、王宮に向かう日が来た。
 あの日、流石にすぐには趣くことは出来ないが、日はそれ程置かずに時間を取ってくれる、という話が魔術師のアデラン先生より伝わった。

 そして今日、私の魔力について王宮へアデラン先生と行くことになったのだ。
 てか、アデラン先生は何故そんなすんなりと王宮と連絡が取れスムーズに事が進んだのかと疑問に思っていたら、彼は王宮魔術師の一人だという。
 学園には将来、優秀だと見込みがありそうな子どもを見定め、スカウトするのだとか。

「魔術師は少ないのですか?」

「はい。魔力は誰しも持ってはおりますが、多く魔力を保持し優秀な人材はなかなかおりません」

 なるほど、人材確保が難しいと。
 しかし、戦争などは今は無く、争うような国も無い。
 何故、そんなに必要なのか?

「それは……明確な情報が入手出来ておりませんので、話すことは出来ません」

「そうですか。……いや、アデラン先生、そんなに気になさらくて大丈夫ですわ。私の単なる好奇心ですから。別に私も危険に首を突っ込む気はありません」

 あまりにも畏まるアデラン先生に一言そう伝える。
 別にさっきも言ったとおり、私は危険に身を費やしたいとか思っていないのだ。
 ただ、疑問に思ったら知りたくなる。
 単純な心理による物だ。
 そう、フォローして膝上にいるウサギをなでる。

「……本日も違うウサギを連れていらっしゃいますね」

 アデラン先生も膝上の可愛い物が気になったのか、膝上のウサギの話題を振る。
 そうです。
 何せ我が家には100匹のウサギがいますからね。
 連続で同じウサギを連れていくとウサギから大量のブーイングが殺到する。
 それも可愛くて息が乱れるほど悶える光景だが、いろいろと後処理が大変なのでしない。

 ……以前、それをやってしまったとき、屋敷中の柱を齧られたのだ。
 もう、ぐらぐらだった。
 まぁ、後で私がコソコソと魔法で修復させていったが、全てやりきったと思ったらまだ残っていたりした。
 あれは見付けるのが大変であった。

 又、ウサギたちが怒って床を足でダンダンッと鳴らすのだが、それが数十匹のウサギがすると軽く地響きが起こる。
 地震かと思ったぐらいだ。
 ……と、この子たちをいっせいに怒らせると、とても大変なので、私のウサギたちを怒らせるようなことはしないように気を付けている。
 小さい悪戯ならするけどね。
 とても可愛いし、癒されるからいくらジト目されても癒されるだけだ。
 あぁ……愛しい。

「本日の子は耳が垂れてるのですね」

 そうです。
 本日はウサギたちの中でも大人しい、垂れ耳で茶色と白の模様が素敵なロップイヤーという種類のウサギを連れてきた。
 名前はローちゃんだ。
 因みに女の子。
 耳が垂れていることにより、普通のウサギより音が遮断されおっとりとした性格の子だ。

 今も馬車の中で揺られ、時に馬車が石を踏んだりと音が鳴るも気にせず、プスプスと夢の中へまどろんでいる。
 可愛い。

「……あの、リンヴィーラさん? もしかして僕に何か不満があるのですか?」

 ?

 その質問の意味が分からず、私の前へ座っているアデラン先生の方へ顔を上げぶる。
 すると、不安そうに眉を下げ私を見つめる先生がいた。
 何故、そんなに不安そうに私を見るのか意味がやっぱり分からず、首を傾げる。

「どうして、そのように思われたのですか?」

「はい、先程より声を掛けているのですが反応が無いものですから……は! もしかして具合が悪いとかですか?! それならすぐに馬車を止めますよ!」

 私は、いきなりテンパりだしたアデラン先生を止め、落ち着かせる。

「アデラン先生、馬車は止めなくて良いです。具合は好調なので止めなくて大丈夫ですわ。そして、申し訳ありません。私は少々、先生を前にしながら思考に耽っていたようですわ。御心配お掛けして申し訳ありません」

「そ……そうですか。それなら良いですが、あまりにも眉間に皺を寄せていらっしゃったので」

 なんと、眉間に皺が寄っていたと?
 そういえば家にいるとき、よく本や何かに集中すると眉間に皺を寄せていたっけ。
 そしたらそれを見かける度に弟は、指摘してくれていたわね。
 ここでもその癖が出てしまったとわ……。
 失礼なことをしてしまった。

「あ、到着したようですね」

 ガタンと車輪が音を立てて停止した。
 すると馬車を御者した人が扉をコンコンコンと叩き着いたと合図してきた。
 アデラン先生がそれに反応し、扉を開け先に降りる。

「どうぞ、足元に気を付けてくださいませ」

 手を差し出しながら先生は笑みを浮かべた。
 こんなこと家でしてくれる人はいなかった。
 親と出かけることなど勿論無いし、私自身が引きこもりと言うこともありそもそも出掛けなかったが、腫れ物を扱うような対応を使用人にも受けていた。
 なので、その手を見てもすぐには反応できず戸惑った。

「どうも、ありがとう……」

 戸惑いつつも先生の手を取り、地面へ足を付ける。
 きっと王宮云々があってやってくれたんだと思うけど、自然と言葉が零れた。
 何気ないことだったけど、私には驚いた出来事だった。

 私と触れ合う人なんてもう、何年もいなかったのにー……。
 体の中がドクンドクンと私を落ち着かせなくした。

 これは、王宮の使いだから、私はお客だからしてくれただけ。
 王宮の名を汚さないためにしてくれただけに過ぎない。

 腕の中のウサギを撫でる。
 柔らかい毛並みが私の心も柔らかく包んでくれた。

「失礼します、ステアトローネ・リンヴィーラ嬢をお連れ致しました」

 アデラン先生がとある扉を叩き、中の反応を伺う。
 城へは庭には来たことがあっても、中は始めてであった。何処を見ても豪華絢爛。
 しかし、一つ一つの個性は強いアンティークも品良く映えるよう、配置してあった。
 白を基調とした造りにより、日が当たらずとも明るく広々とした造りだと印象受けた。

 そんな城の中の奥へアデラン先生の案内で足を進めると、どの扉よりも一際豪華な扉へ行き着いた。

「どうぞ」

 中より、低い声が応えた。
 それを聞くとアデラン先生は扉を開き私を導いた。
 案内された部屋はどうやら魔術室のようだ。
 壁は本棚に囲まれ、本のタイトルはどれも魔法に関する物であった。
 年代物を感じる。
 本棚を挟んだその先には、一人の男性が机に座って待ち構えていた。

「待っていた、リンヴィーラ嬢。私は王宮魔術師師長を勤める、ヴァーリオン・ファインと言う。宜しく」

 いきなり師長……?
 私、もしかして何か、やらかしてしまった?
 いきなり、上の重鎮の登場に警戒心が湧いてきた。
 確かに、あの水晶がどれ程の物か分からないが、割ってしまったことは確か。
 もしかしてそれでお咎め?
 でも、その場にいた先輩クラスの担任、グラウン先生はその件については大丈夫と言っていたから……。
 いや、やっぱり駄目だったのかもしれない。人はやっぱり信用しては駄目よね。
 と、思考に耽っているといつの間にか目の前に魔術師師長が立っていた。
 ビクッと体が思わず跳ね、顔を見上げる。

「そう、警戒しなくて大丈夫だ。リンヴィーラ嬢の魔力について調べるのに、私がたまたま適していたと言うだけだ。普段は事務ばかりしている男だ。気になさんな」

 と、無表情でありながらフォローしてくれた。
 あ……この人はこの表情がデフォルトなのね。
 本人は自覚が無いようだが、戦闘に適した大きな体つきと師長と言うだけあって迫力が違う。
 私もあまり表情に出ない方だが、彼はさらに上だわ。
 と、自分に似たところを感じ、少し警戒心が緩まった。
 ローちゃんは、彼の迫力に押されたのか、私の胸へ頭を押し付け、何かガジガジと手で齧る行動している。
 うん、恐いよねー。

「では、早速だがお前さんの魔力を調べよう。このテーブルの上にある水晶へ手をかざせてみたまえ」

 え? これって前、私が壊したのと似ているが大丈夫なのだろうか? 
 しかもここ執務室みたいで、グラウン先生と測定した場所と違って狭いのだが。

「あぁ、この測定器は以前学園で測定した物と違って、頑丈で割れることは無いので大丈夫ですよ。こちらは水の玉になっていまして、柔軟に対応しやすくなってるのです」

 なるほど、なら大丈夫か。
 と、意を決して手をかざした。
 すると、丸く浮いていた水の玉はキラキラと輝き、形が変動していった。
 サァアアァと下から霧状へ消えたと思ったら、何やら文字が浮かんできた。

「……!」
「なっ?!」

 目の前で見守っていた師長が、方眉を上げて反応する。
 キラキラと光が密集した文字を凝視し、固まっている。
 アデラン先生は驚いた声をあげ、口を押さえて師長と同じように凝視している。
 私も覗いて確認する。
 水晶は次のように表示されていた。



〈ランク〉S

〈属性〉闇・光・炎・水・地・風・無

〈HP〉8200
〈MP〉8550
〈攻撃〉4360
〈防御〉3070
〈スピード〉4100

〈スキル1〉
回復(強)・状態異常端正(中)・転移(強)・危機察知(中)・召喚(強)・マジックスペース(0/5000)

〈スキル2〉
相手の異常状態回復(中)・攻撃力UP(中)・防御力UP(中)・隠蔽(強)




 ……ふむ、これが私の結果か。
 ふむふむと確かに出来るなーと確認していると、師長が何か様子がおかしい。
 アデラン先生は既におかしかったのでスルーだ。

「リンヴィーラ嬢、この結果を見てどう思う?」

 師長の質問の意図が分からず、素直に答えた。

「そうですね……。確認したところ間違いは無いようです」

「そうだろう、この測定器に間違いは無いからな。では、質問を変えよう。リンヴィーラ嬢は通常の数値を把握しているだろうか?」

「いえ、存じあげませんわ」

 そう、素直に返すと頭を抱えなさった。
 オマケに溜息もつきなさった。
 何よ? と、怪訝な顔でちょっぴり不機嫌を含ませて先を促す。
 どうしてそんな態度を取られるのか意味が分からない。

「では、私から説明させて頂きます」

 アデラン先生が目元を抑えながら、説明に入った。
 今から、お勉強が始まるみたいです。

 一先ず、私は師長に頼んでペンと紙をお借りしたいことを伝えた。
 ローちゃんは、私とソファの間で丸くなってます。和みます。

「これだけは先にお伝えしますね」

 そんな和みながら師長が紙とペンを持ってきてくれている間に、アデラン先生は先に話を始めた。

「貴方の今の実力なら、通常400人体制で討伐するドラゴンを、1人で倒せる力をお持ちです」


 何やら、先行きが怪しいです。
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